「観測会の参加者は20名ぐらいですか。そこそこ集まったものですね」
放課後の生徒会室。彼は私の対面の席で缶コーヒーを開けながら呟いた。
「えぇ、これだけの人数が参加すれば観測会は成功でしょう。そちらの方はどうですか?」
演武会の進捗について問うと、目つきを鋭くし彼はノートをペラペラと捲る。その姿は、一昨日見た姿とは違って見えた。
「えっと……あ、あった。練習場所は花咲川学園の道場です。向こうの学校もそれなりの道場を持っていましたが、的までの飛距離と備品の多さが決定打になり、こっちになりました」
「練習はいつからですか?」
彼はノートを捲るとメモ書きを指さす。
練習期間は一ヶ月間。時間は16:30~18:30。雨天決行と2週間後に仕掛けを導入予定。と記されていた。
「本番は神社の境内。先ずはお祓いを受けてから準備を……」
「お祓いですか?」
「神様を射抜いた物語です。下手したら神様の祟りを受ける可能性もありますし、それにこれは神儀。自分自身の心の不浄を清め、災害や悪疫が身に降りかからないようにと神様に祈願します」
神様を射抜いた物語を題材にしたものだというのに、その神様に祈願するなんて……おかしな話だと思った。
「皮肉な話ですね。神殺しの物語なのにその神様に自身の安全を祈るとは……」
彼は吐き捨てるように呟く。神職に関わっているがそんなことを言って大丈夫なのか。
「白蛇弓人物語についてですが……」
私があの物語について問いかけると彼はノートを閉じて、缶コーヒーを一気に飲み干す。
「氷川さんは
「インターネットであらすじは読みました」
「そうですか……実は俺もあらすじまでしか知らないです。噂では恐ろしい怪奇物語だと聞いています。ところで、氷川さんは呪いとか信じますか?」
「え?」
しばらく考え込む様子を見せた彼はおかしなことを聞いてきた。質問の意図が解らず、私は戸惑いを隠せなかった。
「の、呪いなんて迷信です。そんなものあるはずがありません」
「それもそうですね。神職に関わる俺が言うのもあれですが、普段テレビとか普段から言っている呪いなんて単なるデマだと思っています。お世話になっている住職が言うのは”呪い”とは報いだと……」
「報いですか」
彼曰く、元々は呪いと祝いは元は同じ意味を持っているという。違いがあるとすれば、人の捉え方によって意味が変わると──
善の心を持って良き行いをすれば、祝福。
邪の心を持って悪しき行いをすれば、呪詛。
自身が今までやってきた事に対して、結末を迎えると──
「あぁ、すみません。不快な思いをさせましたね。それより、今日の天体観測会の準備の方は大丈夫ですか?」
「今頃、日菜と鶴巻さんが道具を用意しているはずです。伊丹さんは時間までどうしますか?」
「あれ? 言っていませんでしたか? 俺は参加しないって……」
「え? でも、参加名簿には貴方の名前が……」
彼と一緒に名簿を確認すると、確かに彼の名前が書かれており、彼は頭を抱えていた。
「参加するとは言ってはいないのですが、誰が書いたんですか?」
「この字は……」
参加名簿には、参加者の自筆で記載するようにお願いをした。もちろん、彼の名前も彼自身が記入したものだと思っていた。
しかし、良く見てみるとその字には見覚えがあった。
「これは日菜の字です」
「日菜さんか……はぁ~仕方ない。こっちは早く用事を済ませれば間に合うはず……では、また後で」
そう言い残すと彼は早急に生徒会室を出ていった。
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時間は18時過ぎた頃。羽丘学園の屋上には20名以上の生徒がみんな空を見上げていた。
「あ、紗夜さん」
「羽沢さん。お疲れ様です」
「みんな、楽しそうに観測しているみたいですね」
「両校合わせて20名以上集まったので会としては十分すぎる規模だわ。みんなさんが力を貸してくれたおかげね」
「みんな! 聞いて聞いて! 今生徒会の人が来てたの! 観測会の様子を見に来てくれたみたいなんだけど、反応も良くて参加者が楽しんでて、いい会だって言ってくれたんだ! 天文部、このまま続けていいって!」
日菜が嬉しそうに話す。天文部が無事に存続することが出来る。本来の目的を達成することが出来た。
「あぁ、どうやら何とかなったみたいですね」
声が聞こえ、屋上の入り口を見ると急いで駆け上がってきたのか。肩で息をする彼の姿があった。
「あ! カズ君! 用事があったんじゃなかったの?」
「ありましたよ。ですが、急いで引き上げて来ました」
「いやー間に合ってよかったじゃん」
「ー? あれ? 誰だっけ?」
今井さんに声を掛けられて驚いた顔を見せた彼はそう言葉を漏らした。
「ちょ、ちょっとリサだよ。リサ」
「ははは……冗談ですよ。今井さん。さてと」
彼が空を見上げる。私達もつられて空を見ると上空にはおおいぬ座のプロキオン、オリオン座、ベテルギウスの冬の大三角を輝いていた。
「綺麗な星ですね」
「えぇ、そうですね」
「ねぇ、おねーちゃん。カズ君。一緒に星を見ようよ! あたしが教えてあげる」
「そうね。それじゃあ、お願いしようかしら」
「俺は遠慮しておきます。俺は1人静かに見たいので……」
彼は私達から離れて端で空を見上げていた。
「げッ! あいつもいるのかよ」
そう言葉を漏らしたのは、同じバンドに所属しているドラマー宇田川さんの姉。巴さんだった。
「巴さん。彼とは知り合いですか?」
「え、まぁ……知り合いですけど……あまり関わりたくない人で……」
「巴がそういうなんて珍しい。それはどうして?」
「それは……」
巴さんは一度口籠るが、意を決した様子を見せるとこう述べた。
「それはあいつが酷く変わってしまったからです」