弓取りと雨女   作:hirag

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26話

 

 

 

 

「あれ……紗夜じゃん?」

 

 ある日の正午。音楽スタジオCiRCLEの前で偶然にも今井さんと遭遇した。

 

「今井さん? 今日は個人練習ですか?」

 

「うん。次のライブまでまだ時間があるし、ちょっとやってみたいことがあるからね。あれ? 紗夜。今日は弓道の練習じゃなかった?」

 

「その予定でしたが……色々あって今日の練習は休みになりました」

 

 本当は演武会の出場メンバーは神社の境内の中にある道場で練習をする話になっており、今週がその1回目になる予定だったが、神社の都合が合わず急遽、今日の練習は中止になった。

 

「ふーん。そうだったんだ。あ、せっかくだから紗夜。練習に付き合ってくれる?」

 

「えぇ、構いません。それならば中に入りましょうか。予約の時間も迫っていますので……」

 

 

 

 ______________________

 

 

 

 ギターを弾く手が疲れてきた頃。時計を確認すると練習を始めて二時間が経った。

 

「今井さん。そろそろ休憩にしませんか?」

 

「うわぁ、もうこんなに時間が経ったんだ! あっという間だね~」

 

 ギターをスタンドに置き、鞄の中から水を取り出すと今井さんが子袋を取り出した。

 

「じゃ~ん。クッキーを焼いてきたんだよね。食べるでしょう?」

 

「えぇ、いただきます」

 

 子袋から星の形をしたクッキーを一口含む。口の中でバニラの風味とほのかに甘みが広がる。

 

「彼とはどんな感じ?」

 

「──ッ⁉ゲホゲホ‼」

 

 予想もしていなかった質問をされて噎せ返ってしまった。

 

「大丈夫⁉」

 

「だ、大丈夫です。変なところに入っただけです。その質問の意図が解りませんが彼とは良好な関係ですが……」

 

「いやいや……そうじゃなくて、彼と付き合っているのかなぁ~なんて……」

 

「な、なにをいっているのですか⁉」

 

「この前、二人で手をつないでバスに乗っていなかった?」

 

「あ、あれは……」

 

「まぁまぁ、誰にも言わないから~実際のところ彼の事をどう思っているの?」

 

「どう……っと言われましても……彼は真面目ですが……」

 

 思い付く言葉を言っていくと、今井さんは何故か苦笑いをしていた。

 

「今井さんから見て彼はどう見えますか?」

 

「え? あたし? う~ん……顔は割と整っているし、名家の出だから礼儀ただしい……いいと思うよ。あれ?そういえば伊丹家ってどういう家系なの?」

 

「”代々神事を執り行う名家”と聞いています。禊やお祓いを行っているのですが、彼の一族は神楽舞や弓術を主流に神意を伺う行為であることが多いみたいです」

 

「てことは彼は一番、神様と結びが強い事になるよね?」

 

「そうなりますね」

 

「でも、それって大丈夫なの? 今度、紗夜達が出る演武会ってその神様を諫めた物語でしょう」

 

「はい。ですが、伊丹さんは当日にお祓いをすると云っていました。しかし、本当にそれだけでも大丈夫なのか……不安なところもあります」

 

「う~ん……辞退とかできないのかな? もし、紗夜に何かあったら……」

 

「辞退……出来ない事もないとは思いますが、私は今の所辞退するつもりはないです」

 

「やっぱり、彼が気になるの?」

 

「はい。先ほども言いましたが彼はしっかりものですが、少し危ない側面を持っています」

 

 彼の話していると、あの夜の違和感を思い出した。どうして、あの時……彼が消えてしまうような感覚があったのだろうか……ただ、偶然にも彼のコートが暗い森と同じ色だっただけなのに──

 

「危ない側面?」

 

「はい。天体観測会の少し前に二人でプラネタリウムを見に行ったのですが……」

 

 今井さんにあの日の夜に私が彼から感じ取った事を伝えた。そうすると彼女は真剣な眼差しで考え込んだ。

 

「う~ん……別人に見えるねぇ~」

 

「未だに、わからないのです。それに……」

 

 天体観測会の時、巴さんが云っていた『変わってしまった』とは……それが、あの夜の彼の事を知てしているのだろうか? 

 

「そういえば、巴があの時に言っていた言葉……観測の後に本人に聞いてみようと思ったけど、いつの間にか姿を消していたし……」

 

 今井さんの云う通り、観測会が始まり30分位経った後、彼を探したが何処にも姿が見当たらなかった。

 

 翌日、何故姿を急に消したか聞いてみたが、”眠たくなったから帰った”と云っていた。

 

「直接本人に聞くって、それはちょっとやめた方がいいかな?」

 

「それは避けた方がいいと思います。もし、それが事実なら何か辛い経験があったのでしょう。それは彼が一番思い出したくない事だと思います」

 

「だよねー それなら、巴に聞いてみない?」

 

「そうですね。時間があれば聞いてみましょう。それより、そろそろ練習を再開しましょうか」

 

「そうだねーぼちぼち再開しようか」

 

 ______________________

 

 

 

 今井さんと練習を終え、CiRCLEを外を出た頃には辺りは暗くなりつつあった。

 

「今日はありがとうね。紗夜」

 

「はい。今日はいい練習が出来ました」

 

 今井さんと今日の練習の振り返りをしていると、どこからか笛の音が聞こえてきた。

 

「この音は……」

 

「どこかで聞いたことある音だね」

 

 二人で音が聞こえた方向に進むと、音の発生源は神社内の境内だと分かった。

 

 今井さんと入るかどうか悩んだ末、見に行くことになった。

 

 境内の石畳を進んでいくと開けた場所に辿り着いた。そこには大きな池の中心に神楽殿があり、一人の女性が神楽舞を行っていた。

 

 能面を付けた演者の右手に扇に左手に鈴を手にゆっくりとした曲調に合わせるように動く。しかし、曲のテンポが上がると演者の舞にも熱が篭り激しく体を動かせる。

 

 その動きに見ている内に、自然的に目が釘付けになる。

 

 二人で舞を見続ける末に、舞が終えると能面を付けた演者は丁寧なお辞儀をした。

 

 その人物は退く時は右足から運びをした。その足運びにはどこか見覚えがあった。そして、演者の左親指に見覚えのある傷があった。

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