結局、あの後矢筒を回収することは出来た。
だがその際、受付の人に奇異の目で見られた。あれはかなりキツかった……
それはさておき
秋祭りまで残り2ヶ月半、少しでも練習時間を増やさないと……
「よぉ! 朝練か? 精が出ているな」
同じのクラスの豊中裕太(とよなか ゆうた)が弓道場には入ってきた
「何のようだ裕太? 朝練をしないお前がここに来るとは」
「そんな怖い顔するなよ。ほら! 一昨日の事を謝りたくて……」
一昨日の事? あぁ……あの事か
「別に……気にしてない」
「お、おう……そうか。でも、これは受け取ってくれるか?」
裕太は一枚の封筒を差し出してきた
「なんだ? これは……」
「開けてみろよ」
封筒を開けてみると一枚のチケットが入っていた
「ガールズバンドフェス? なんだこれは?」
「今人気中のガールズバンドを生で観に行けるんだよ!」
「は、はぁ~でもこれって2ヶ月以上も先じゃないか? 11月29日って」
「それは特別なチケットなんだぞ! ほらハシッコの方よく観ろ」
端の方を見ると、特別席っと書かれていた
う~ん……胡散臭い
「失礼します」
あ! この声は
振り向いて見ると氷川さんが後ろに立っていた
「ど、どうかしましたか?」
「すみませんが今日の部活動お休みをいただいてもよろしいでしょうか?」
……まぁ、氷川さんは程々命中するようになってきたし
「い、いいですよ。代わりにこれやって来てください」
俺は風速関係の問題集を氷川さんに渡す
「分かりました。期限は?」
「えっと……期限は……目安として10ページを2日で出きると思いますがそれでいいですか?」
「はい、分かりました」
氷川さんは一礼して部室を出ていった
き、緊張した……
「じゃあ、部長俺も今日休んでいいかな?」
「別にいいが……お前これ解けるか?」
「余裕余裕……何なら全部出来るレベル」
「そこまで言うなら……もし出来なかったら毎日ノルマ30本な」
「うッく……中々キツイ罰だな。やっぱお前根に持ってんだろう!?」
「さて? なんの事やら」
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風速の求め方は時速÷3.6(m/s)
台風の時に時速30キロ……これは風速約7メートル。これは砂埃がたったり、洗濯物が飛んだり
これを参照して風速2mは風速×3.6=7.2㎞
これで時速200mで進む矢が影響するのは……
「……さん……みさん……伊丹さん」
「ふぇ?」
休み時間に計算問題を黙々と解答していると、声をかけられた事に気が付き、顔を上げると氷川さんが俺の席の前に立っていた
「えっと……氷川さん? どうかしましたか」
「伊丹さん、次移動教室ですよ」
「え?」
周りを見渡すと大半の生徒が教室からいなくなっていた
「あ、ありがとうございます。今すぐ移動します~!!」
「あ、あのー」
早口気味に答え、氷川さんの言葉を遮り急ぎ早に教科書を抱えて教室を後にした
はぁーまた適当にごまかして逃げてしまった……
これだと罰ゲームも無理に思えてきた
「あ! 筆箱……まぁいいか」
何かあった時にすぐにメモを取れるように胸ポケットにペンは常に携帯している
「備えあれば憂いなし……っと」
「一矢くん」
振り向くとちーちゃんが教科書を抱えて居た
「ちーちゃん、何のようだ?」
「学校でその呼び方はしないでっていつも言っているでしょう? かずくん」
イタズラ気味に千聖はそう言った
「すまない……この前の件か?」
「話が早くて助かるわ。それで、引き受けてくれるかしら?」
断ったら叔父様にくどくど言われそうだし、千聖には色々と世話になっているし……仕方ない
「俺は厳しく教えるぞ。それでいいなら家に来ればいい……」
「えぇ、喜んでお邪魔するわ」
「念のために言っておくが衣装は……」
「袴でしょう? 分かっているわ」
いくらドラマの撮影の為に、和装なんてされたら危険だ
「いや、衣装の下に胸当てを着けるのは……なしだな。怪我をしないようにするためだからな」
「それもそうね。そろそろ時間ね」
「仕事か?」
「えぇ、最近は色々と忙しくなってきたのよ」
「大変だな。まぁ、その……身体には気を付けろよ」
「……」
千聖は何故か鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた
「貴方がそんな事言うなんて……何か裏が……」
「あるわけないだろ!」
人が心配しているのに失礼だな
キーンコーンカーンコーン
授業開始のチャイムが鳴り響く
「じゃあ、頑張れよ千聖」
「ありがとう。一矢」
千聖の後姿を見送り、俺は教室に向かった
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時間は流れ放課後、俺は裕太に呼ばれ屋上に向かう
ギーッ!!
錆び付いた扉が鈍い音を響かせながら開く
周囲を見渡すとそこに居たのは裕太じゃなかった
「氷川さん?」
呼び掛けると彼女は少し驚きつつこっちに振り向いた
「伊丹さん、話って何ですか?」
話? あぁ、成程……そういう事か。野郎ハメやがったな!
「えっと……この前の演奏すごく素敵でした! 特に二曲目のえっと……」
「「Determination Symphony」ですね。ありがとうございます。あの曲はあの子との約束の曲です」
「あの子?」
「いえ! 何でもありません。話はそれだけですか?」
「えっと……その……俺はギターを弾いている氷川さんの姿に目を奪われました。だから……」
俺は意を決して言葉を発した
「氷川さん! 俺とちゅき会ってください!」
か、噛んでしまった……あぁ! もう! どうして肝心な時に俺はミスをするんだ!
「…………」
氷川さんは一瞬驚いた顔をしたが……
「伊丹さんの気持ちは嬉しいですが……ごめんなさい。私は音楽に集中したいので……」
「そ、そうですよね。すみません……大切な練習時間を奪ってしまって」
「それでは私はこれで……」
氷川さんは屋上から姿を消そうとした瞬間に俺は彼女を呼び止めた
「何度もすみません。氷川さん……次のライブも見に行っていいですか?」
「えぇ、構いません。ただし、今度はしっかりチケットを用意してください」
そう言い残すと彼女は屋上から姿を消した
数分後に氷川さんが校門からギターケースを背負って出て行く姿を見届けた
「ハハハ……フラれちまったな……」
あれ? どうして俺は悲嘆しているんだ? 初めからフラれることは分かっていたのに……
「残念だったな」
何処に隠れていたのか分からないが、裕太は物陰からは急に出てきた
「これでいいんだろう? ちゃんと告白したし、罰ゲームは終了だ」
「そうだな。この後はどうする? 飯でも行くか? 奢るぞ」
慰めているつもりだろうが、その情が余計に傷つくから勘弁してほしい……
「遠慮しとく……帰って弓の練習でもする」
これで俺の告白は失敗で終わった