弓取りと雨女   作:hirag

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33話

 

「氷川さん……っ! ようやく見つけたぁ……」

 

 バンド練習を終えた私は一人。日が落ちて暗い公園付近を歩いていると後ろから声を掛けられた。振り帰るとそこには井波さんの姿があった。彼女は全速力で走ったのだろうか肩で息をしていた。

 

「井波さん。お疲れ様です」

「いま……一人ですか?」

「えぇ、そうですが……どうかしましたか」

「少し待ってください……」

 

 井波さんは息を整えながらペットボトルに入った水を一口だけ口に含んだ。

 

「あの物語と彼の秘密が分かった気がします」

「それは本当ですか?」

「はい。全部とまではいきませんが……なぜあの住職が彼に固執していたのか。何を隠しているのかわかりました。取り合えず場所を変えましょう」

 

 時刻は18時を過ぎていた。演武会までは時間がないのだが、この時間帯に井波さんの家に押し掛けると親御さんに迷惑が掛かるのではないか。と考えていると「今日は両親がいないので大丈夫です」と井波さんはそう言いながら私の手を取った。

 

 私達は来た方向から反対に向かって歩く。道中、日菜に帰りが遅くなることをメッセージで伝える。10分ぐらい彼女の後を追うように付いて行くと一軒家に辿り着いた。

 

「二階に上がって、すぐ右の部屋が私の部屋だからそこで待って……」

「分かりました」

 

 彼女の指示通りに二階に上がり、右手の部屋に入る。部屋の中には無数の本と本棚と勉強机があった。個人の部屋というよりも書斎に近かった。

 

 勉強机には、弓道着に身を包まれた子供が6人が移った写真が飾っていた。その中には巴さんがら送ってもらった写真の少女が写っていた。

 

「麦茶しかないけどいい?」

「えぇ、大丈夫です」

 

 二つのカップをテーブルに置くと一番奥の本棚から一冊の古めかしい本を取り出した。その本には見覚えがあった。

 

「それは理矢さんが持っていた本……どうして、井波さんが持っているのですか?」

「実は理矢さんが事故に遭う前日、私はあの喫茶店に行って彼女から借りました」

「その本は古文で書かれていましたが、あなたはそれが読めたのですか?」

「はい。私は古文が好きなので偶に図書館で古典を読んでいます。幸いにもこの本は完璧に近い形で複製が出来ていました」

 

 この本は彼女が独自で物語(オリジナル)を書き写した本。白線矢(リメイク)と比べるとより詳細な内容が記されている。古典を読んでいる彼女にとっては興味深い物だったに違いない。

 

「そういえば、最近、彼の姿を見ていませんが……」

「この4日間。彼は学校を休んでいます。このままの状態で演舞会に出たとしても満足がいく結果は得られないと思います」

「そうですか……彼にはなんとか調子を取り戻してほしいのですが……彼以外に適任者はいないのに……」

「それはどういう事ですか?」

「この演武会の中心人物は彼以外いないという事です。その理由はこの物語と一枚の紙が語っていました。それをこれから話します」

 

 本を後ろからゆっくりと捲ると、とあるページを開く。

 

「一部、欠けていて読めないところもありますが……物語の始まり、青年がイノシシ狩りをに向かった道中に神様の使いだった白蛇を射抜いた。その後、青年を初め、村人の首には蛇に噛まれた遺体が増える奇怪な事件が起きた。それを解決する為に6人の稀人が村に訪れる。基本的な内容はリメイクと同じ内容なので割愛します。肝心なのはこの後です」

 

『ヘビガミを退治した者達は村人から感謝された。その後、村を去った』白線矢はここで終わっていたのだがその時点で文章が違っていた。

 

 井波さんはメモ帳を片手に文字をなぞりながら読み上げ始めた。

 ______________________

 

 ヘビガミを鎮めた稀人達は村人に祝福されることもなく村を去っていった。

 

 次の村に着いた稀人達は次から次へと病で床にふさぐようなった。そして一人。また一人と完治することなく命を落としていった。亡くなった稀人全員には、首筋に蛇に噛まれたような傷があった。あの村で倒れた村人と同じように。

 

 最後に生き残ったのは清興一人だけだった。

 

 清興は原因を究明する為にもう一度あの村に戻った。そこには一度訪れた時よりも衰退した村人が目に入った。村人に話を聞けば、清興が立ち去ってからも村人全員の首筋に蛇に噛まれたような痣が見つかった。問題なのが痣が見つかった人物は三日の内に息絶えたことだった。

 

 清興は村人達の姿を尻目にヘビガミが消えた湖に向かうとそこには一人の女性が佇んでいた。女性の肌は白く、青みのかかった瞳をしていた。

 

『そは何者か』問いかけるがその女性は『わからぬ』と答えた。女を村の役場に送った後に湖の調査を始めた。

 

 翌日、女は清興の元を訪れ、一緒に調査をしたいと提案をしてきた。清興は始めは悩んだが収穫がない事に焦りを感じていた。清興は女を調査に加わることを許可した。

 

 □の□□□□で□□た□□□□

 

 調査を進めていく内に二人は互いに思いを寄せるようになった。

 

 そして、やがて二人は結ばれ、子供が一人産まれた。子供は女性譲りで青みのかかった瞳をしていた。めでたい事もあったが清興達は思ったように結果を得る事はなかった。

 

 そんなある日。女性に異変が起こり始めた。朝一に湖の中で祈るような姿勢を見せたと思えば、急に高笑いを上げた。極めつけて異様だったのは生きた鼠を丸呑みしていたところだった。

 

 その日夜、清興は寝苦しさを覚えた人物は目を覚ますと、首元に白いモノが巻き付いていた。人物は近くにあった矢で首に巻き付いたモノを切りつけた。首の巻き付けが緩くなると同時にその人物は気を失った。

 

 次に目を覚ました時、清興は目を見開いた。そこには血まみれで息絶えた女性の姿があった。何より驚いたのは女性の下半身は蛇のような尾が生えていたことだった。

 

 その清興は供養の為に、湖に石碑を築いた。その日以降、村では死者が出ることはなかった。

 ______________________

 

「物語はこれで終わっています。一部、文字書かれていないのは剥げていて流石に理矢さんも書き写せなかったのでしょう。すこし調べてみましたが、この石碑があるとされる場所。現在は神社になっているみたいです」

 

 神社と聞き、ある神社の名前が浮かび上がった。蛇と彼と関わる神社といえば……

 

「矢蛇神社……」

「そう。演武会の舞台となっているあの神社。あそこにはヘビガミを奉っているみたいです」

「よりによってそんな場所で……」

「いえ、その場所だから家の権力を証明できるのでしょう。この演武会は知らない人からしたら見世物にしか思えないでしょう。しかし、一部の人物には違う目線で見ているはずです」

 

 話を聞いていると一つの疑問を思い浮かんだ。

 

「しかし、どうしてこの物語と彼になにか関係があるのですか?」

 

 これは昔に作られた物語。本当に事実を元に作られているとは限らない。空想で作られた作品の可能性もあり得る。

 

「その答えはこれを見てください」

 

 井波さんから一枚の丸めた紙とSDカードを机の上に置く。

 

「これら二つは彼女のノートに挟まっていました。この紙を広げるのでそっちを持っていただけますか」

 

 巻かれた紙の端を持ち、床に広げる。紙の非常に長く1.5m位あった。紙には複数の名前が並んでおり、その間には線が引いていた。

 

「これは家系図ですか?」

「そうです。一番上に書いている人物と一番下の方を見ていただくと……」

 

 言われた通り紙の一番上には、物語で出てきた人物と同じ名前が書かれており、下部を見ると理矢さんを含めて三姉弟妹の名前があった。しかし、不思議な事に三姉弟妹一矢さんの横には上の人と同様に()()()()()()()()()()()()()()()

 

「この数字は?」

「恐らく、この数字は亡くなった時の歳だと思います。三姉弟妹の二つ上に書かれている人物。彼の祖父は69歳で亡くなっています」

 

 それを聞き、再び家系図に目を通すと彼の祖父にあたる人物の横には六十九と書かれていた。

 この数字が彼女の言う通りに亡くなった時の歳ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そんなまさか!」

「そのまさかです。本物の彼はこの世にいない事になります。誰かが成りすましている事になります」

 

 誰かが成りすましている。真っ先に思い浮かんだのは実妹の伊丹香矢。しかし、あの写真の中の人物と彼とでは姿が違いすぎる。背丈の事を考えると親戚の誰かが化けている方が自然的。それならば、香矢さんは何処にいるとか。疑問点が増えてきた。

 

「このUSBは氷川さん。あなたが見てください。私はパソコンを持っていないので中身を見ていないです」

 

 最後の頼りになるのはこのUSBをこれにはどんな情報が眠っているのか。その時、ふと理矢さんの言葉が頭に思い浮かんだ。

 

『人にはそれぞれ明かせない秘密がある。秘密というものは、人を惑わす。誘惑に負けて深いところまで行くと、いつかその人を殺すかもしれないよ』

 

 秘密が人を殺す。彼女がこれを持っていたのはその秘密を守るためだったのだろう。しかし、そんな大切なものをこんな無造作に扱うのだろうか。

 

 理矢さんは意図的にノートに挟んだ可能性が高い。そう考えながら私は帰路に着いた。

 

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