自室に戻り、井波さんから受け取ったUSBをパソコンに挿入する。
USBにはパスワードもかかっておらず、中には主に理矢さん達三姉弟妹の写真ばかりが入っており、主に入学式や誕生日など行事ごとに名前入りの写真と動画が複数ほど入っていた。
なかでも二人が写っている写真は理矢さんが撮影しただろうか。同じ写真の隣には必ずと言っていいほどブレた写真もあった。
名前順に並び変えて、フォルダ内一番下までスクロールすると名前のない動画と音声ファイルがあった。動画は十二年前に保存されたものと音声ファイルの方は12月1日と1週間前のものが保存されていた。
先に音声ファイルを再生する。初めはノイズ音が酷いが段々と声が拾えるようになってきた。
『例の計画は上手くいっているのか?』
『ええ、事は順調に進んでいますとも』
住職と知らない男性の話し声が聞こえてきた。環境音が聞こえることから隠し撮りをしているのだろう。音量を少し上げて耳を澄ませる。
『これが無事に終わったら自由にしていいと一言囁いただけで、あの間抜け本気にしましたよ』
『本当にそのつもりなのか?』
『そんな訳ないでしょう。こちらとしてもあの手駒が手放す訳にはいかないですから。あの間抜けにはまだ利用価値があるのでね。それより、そちらの仕掛けの方はどうですか?』
『問題ない。こちらとしても、成功されては困るので。仕掛けるタイミングは──が────です』
『なるほど……しかし、その仕掛けが上手くいくのかね。仮に奴が姿を現さなかったら……』
『仮にそうなったとしても、監督不届きとして伊丹家とあの老いぼれに責任転嫁すれば問題なかろう』
『それでは、其方も巻き込まれるのではないか?』
『まぁ、その点は貰い事故だと思っている。私よりもあなたにも多少なりとも責められるかもしれませんがそれは覚悟しておいてください』
『うぅっ……言われてみればそうだな』
『それにこれで念願の彼を手に入れる事を考えれば、そちらの利益が大きいですね』
『最初は其方から話が来るとは思ってもいませんでしたよ。しかし、其方も悪い事を考えていますね』
『ふん。私からしても、奴が邪魔だと思いましたので、そろそろ退場していただきましょうかね』
『少しだけあの間抜けに同情しますよ……うん?』
『どうかしましたか?』
『いや、待て。──!! そこ! 何者だ⁉』
『やっば! バレた!』
最後に理矢さん声で録音は終わっていた。
肝心なところが聞き取れなかったが、住職と誰かが良くない事を考えている事が分かった。
この音声でいくつか気になることを言っていたが、住職の『其方も巻き込まれる』と云っていた。もしかしたら話し相手は伊丹さんに近い人物の可能性もある。
「こうなってくると香矢さんの事故も口封じの為に仕向けられた可能性が…」
嫌な考えを振り切り、もう1つの動画ファイルをクリックする。動画時間は10分。そこにはとある一室の映像が残っていた。部屋中は暗くて見えにくかったが鉄の柵の向こうにその人物は膝を抱えて座っていた。私にはその部屋に見覚えがあった。彼が作業場所としていたあの部屋にそっくりだった。
そして、この映像には少し違和感を感じた。何度も繰り返して見ている内にその違和感の正体に気がついた。それと同時に確証をを得た。それは……
──伊丹香矢は生きている。
三田牧場から少し離れた誰もいない山小屋。目を覚ますと私達は冷たい床で横になっていた。身体を起こして真っ先に目に入った囲炉裏。そこには消えかかっていた余燼が燻ぶっていた。
上衣を羽織りながら、木製の扉を開ける。昼間の間に降っていた雨が止んでおり、数多の星空が顔を覗かせていた。
「綺麗だな。できればもう一度だけ、彼女達と…みんなで星空を見たかったなぁ」
しかし、それはもう叶わないのだろう。
私は彼女……氷川紗夜を突き放した。彼女は危険すぎる。私の本能がそう告げていた。とある重鎮が家の事を嗅ぎ回っている人物がいると聞いた。
恐らく、その人物は彼女だろうと考えた。私は家の秘密と彼女を護る為に彼女を突き放した。
それに最近になっては、演武会が成功しようが失敗しようがどうでもよくなってきた。
どうせ私の人生には変わりがない。敷かれたレールを歩む人生。どの道、彼女とも短い付き合いになる。あの時、突き放さなくても時間の問題。
「すうーはぁー」
山の香りと冷たい空気を肺一杯に取り込る。その時、少し左肺の辺りがちくっと少し痛んだ。
「寒い。そろそろ中に戻ろう」
電波が通っていないスマホに電源を入れて時間を確認する。時刻は21時で気温は3℃。道理で寒いはずだ。囲炉裏に薪をくべて、マッチをこすり囲炉裏の中に放り込む。少しするとゆらゆらと燃える。
この炎を小屋に放てば楽になれるだろうか?
「ダメだ。良くない考えが頭に過る。明日には三田さんの所に戻らないと、あとは……あの場所に行かないと……」
火を眺めていると眠気に誘われゆっくりと目を瞑った。