弓取りと雨女   作:hirag

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3話

 氷川さんに告白したあと、2日間俺は山に隠っていた

 

「行くぞー!」

 

 俺の掛け声が山の中に響き渡る

 

 同時に視界が上下に揺れ、向かい風が体に伝わってくる

 

「スー……」

 

 呼吸を整え弓を構える。推定50メートル先にある的に向かって緋色の矢を放つ

 

 ストン……

 

 矢は的の近くの木に刺さった

 

「クソ……外れたか」

 

 やはり流鏑馬は難しい。上下に揺れる中で風の事も考慮して矢を放つ

 

「どうどう……よしよし、いい走りだったぞカゲ」

 

 的から少し離れたところで馬上から黒鹿毛の馬、カゲの頭を撫でる

 

 カゲは気持ちよさそうに目を軽く閉じている

 

「さて、カゲ。あともう一回だけ付き合ってくれよ」

 

 そう言うとカゲは軽くいななき、先ほどと同じコースを駆け始める

 

 急に走りだしたせいで、矢を一本落としてしまった

 

「あ! もういいや次の矢」

 

 カゲの動きと呼吸を意識する

 

 心を研ぎ澄ませ射る

 

 スパーン

 

 大きな音が山中に響く

 

 確認のため的のもとに行くと、矢は中心から左上に刺さっていた

 

「まだまだ練習しないとだな」

 

 そろそろカゲを休ませないと

 

「行こうか、カゲ」

 

 手綱を左方向に引き、来た道を引き返した。

 

 

 

 一方その頃山道では……

 

 

「なんだろうこの赤い矢?」

 

 ある少女が矢を拾いっていた

 

「るんっ♪ ってきた! おねえちゃんに見せてあげよう」

 

 

 _________________

 

 ~小川~

 

 ザーザー

 

 運動をした後の火照った体に山から流れる小川からマイナスイオンが体に染み渡る

 

 カゲに小川の水を飲ませ、俺は地下足袋を脱ぎ川に足を入れる

 

「──っ! 冷たいな!」

 

 今日は祝日を含め三連休、向こう岸では家族が楽しそうにテントを張っている。

 

「家族か……」

 

 親父たちは島根、姉は大学の学生寮……

 

「あの家族みたいにキャンプしたり、最後にどこか出かけに行ったのは何時だったっけ……」

 

 ブルルル……

 

 水を飲み終えたカゲが俺の背中を小突いた

 

「なんだ? カゲ。励ましてくれてんのか?」

 

 カゲの頭をゆっくり優しくなでる

 

「あ! おうまさんだ~!」

 

 向こう岸の小さい女の子がカゲに指を指し、両親に向かって話していた

 

「そうだね! お馬さんだね~大きいねぇ~」

 

 父親が女の子に向けてそう話しているのが聞こえた

 

 微笑ましいな

 

「カゲ……すこしいいか?」

 

 俺は手綱を引っ張り、親子の元に向かった

 

「こんにちは! 今日は家族でキャンプですか?」

 

「えぇ、今日は天気がいいので家族五人でキャンプに来ました」

 

 五人か……だから大きなテントを建てているんだな

 

「そうでしたか。見たところ後二人いませんが……」

 

「すこし探検に……って走っていきましたけど……おかしいわね? 何処まで行ったのかしら? 純と沙綾は」

 

 嫌な予感がする。ここは探しに行った方がいいか

 

「探してきましょうか?」

 

「いいえ、もう少ししたら帰って来ると思うので別にいいですよ」

 

「そうですか……では、俺たちはこれで、じゃあね。えっと……」

 

「わたし山吹紗南!」

 

「そうか! じゃあね、紗南ちゃん。行くぞカゲ」

 

 カゲを山道に向かって走らせる

 

 確かこの先は急な坂が多いから気を付けないと

 

 それに最近はよく虫が獲れるって噂の所為で迷子になる子が多い

 

 純と沙綾……

 

「名前からして男の子と女の子か……」

 

 

 ~数分後~

 

 

 かなり下ってきたが誰も見かけないな……

 

 

「だ、誰か~!」

 

 近くで男の子の声が聞こえた。俺は急いでカゲから降り、手綱を木の幹に括りつける

 

 そして声がする方向に足を進めた

 

「誰か~助けて~!」

 

 また男の子の声が聞こえた

 

「おーい! 誰かいるのか!」

 

 俺が声を張り上げると──

 

「あ! おねぇちゃん! 誰か来たよ」

 

「た、助かった……イタタ」

 

 小さな男の子と女子高生ぐらいの女の子がいた

 

「君達が沙綾さんと純君だね?」

 

「え? は、はい。そうです……」

 

「どうして? ぼくたちの名前を?」

 

「両親と妹さんが心配していたからね。少し失礼……」

 

 沙綾さんは足を挫いたらしく踝が赤くなっていた

 

「これは大変だ! 急いで冷やさないと……失礼!」

 

「え⁉ちょっと!」

 

 沙綾さんを背負いカゲの元に向かう

 

「え⁉う、馬?」

 

「わぁ~!! お馬さんだ!」

 

 やはりこの二人もあまりカゲに……馬に馴れていないようだ

 

 沙綾さんを鞍に跨がされる

 

「しっかりと手綱を握ってください。純君はお姉ちゃんの後ろに……っと」

 

 二人を鞍に乗せ、家族の元を目指す

 

 

 ~数分後~

 

 

「あの……」

 

「なに?」

 

 沙綾さんが馬上から声を掛けられる

 

「助けていただきありがとうございます。伊丹先輩」

 

「どうして俺の名前を?」

 

「この弓と矢。あり……友達が話していた特徴と先輩の特徴が似ているので……」

 

 あり……ああ、有咲か……てことはこの子は有咲の友達か

 

「そっか……あ! もうすぐ森を抜けますよ」

 

「沙綾! 純! よかった!」

 

 両親が駆け寄って来た。カゲの歩みを止め二人をカゲから降ろす

 

 家族5人が再開を喜んでいる。でもどうしてだろう? 

 

 なんだか心がもやもやする……

 

 この場に居づらく感じた俺はカゲに跨り急いで馬場に戻ることにした……

 

 _________________

 

 ~三田牧場~

 

「どうどう……よしよし。お疲れ様カゲ」

 

 カゲを厩舎に戻し、小屋に向かとすると白髪の老人が小屋から出てきた

 

「ああ、若。お疲れ様です」

 

「お疲れ様です。三田(みた)さん、どこか出かけるのですか?」

 

 三田さんの手には鞍と手綱が握られていた

 

「帰りが遅かったので探しに行こうとしてました」

 

「練習に熱心になっていただけなのでお気になさらず……」

 

 宿に戻り帰り支度をする。

 

「弓に矢筒……矢は6本消費……あ! 落とした矢を回収し忘れた……」

 

 あれ? 引き返した時にはもうなかったような……

 

 まぁ、いいか。一本ぐらい後で三田さんが回収してくれるだろう

 

 _________________

 

 ~1時間後 伊丹邸前~

 

「じゃあ若、次の練習は来週の土曜日でいいですね」

 

「はい。お願いします」

 

 三田さんを見送り、門をくぐろうとした瞬間──

 

「伊丹さん!」

 

 名前を呼ばれたのに気が付き、振り返ると氷川さんが走って来た

 

「氷川さん。何かようですか?」

 

「これ……忘れ物です」

 

 氷川さんの手には流鏑馬の時に落とした矢が握られていた

 

「これは何処で拾ったのですか?」

 

「私の妹が拾って帰ってきましたので……」

 

「そうですか……どうしてその矢が俺の物だと思ったのですか?」

 

「今年の正月、貴方がこの矢で弓の儀を行っていたのを見ましたので……」

 

 弓の儀……神社で行うお祓いの儀式

 

「そうですか。あれを見ていたのですね。その矢を持ってどう思いますか?」

 

 氷川さんは矢を両手で持ち、こう述べた

 

「普段使っている矢より軽く、手触りもとても良くしっかりしていると思います」

 

「それは竹矢。いつも部活で使っているカーボン矢に比べて手入れには手間がかかりますが、矢が真っ直ぐに飛びやすいです。よかったらその矢あげます」

 

「いいのですか?」

 

「えぇ、俺は一度その矢を手放しました。だからその矢は氷川さんに譲ります。あ、保存には気負付けてください。では」

 

 俺は屋敷の中に入り、ソファーに身体を預ける

 

「はぁ~疲れた……」

 

 音楽プレーヤーからお気に入りの曲を聴きながら、水を飲む。

 

 ウトウトしてきた……

 

「軽く横になるか……」

 

 こんな所、有咲に見られたら怒られるな……

 

 _________________

 

「うぁ!」

 

 目を覚ました俺は時計を見た

 

「げ、もう8時かよ! 飯食わねぇと……」

 

「晩御飯ならもう出来てんぞー」

 

 キッチンを見てみると有咲がそこにはいた

 

「有咲! どうしてここに?」

 

「戸締りしろよ。玄関が開いてたし、入ってみたら横になっているし心配したんだぞ」

 

「す、すまない……」

 

「あと……その……沙綾を助けてくれてありがとう……」

 

「クスッ。有咲の貴重な友達だからな」

 

「な、どういう意味だよ!」

 

「ハハハ、悪い悪い」

 

「ったく……そういうところは変わねな」

 

「うん? なんか言ったか?」

 

「な、なんでもない!」

 

 

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