某所にて大きな会合が行われた。初老の老人が5,6人。40代ぐらいの男女が数人が私と姉を囲むように座っていた。
主な議題は一連の事件とその後について話し合いが行われた。
私は彼と違って、こういった大きな場は苦手だった。
話し合いに一区切りがつき、私は姉と二人で外に出た。
「では、あとはお願い」
「はぁ、これでわたしは自由とおさらばね」
ため息をつくように嘆く姉。あの日から順調に回復をし、無事に退院することが出来た。しかし、海外に行くことはなく。今は私と二人で屋敷で生活を送っている。
「でもまぁ退院と同時に両親に捕まった時点でこうなることはなんとなく察していたけど……」
「私にはまだ姉さんの力がいる。道場を無事に開くことが出来たらお祝いで何処か、海外にでも旅行に行こう」
「その時が来たらいいけどね。はぁ……そろそろ時間じゃなかった?」
「あ、そうだった。ちょっと行ってくる」
「紗夜ちゃんによろしくね」
今日は朝から紗夜と出かける話だったが、運が悪く会合の日と重なった。紗夜には申し訳なく、お昼から出かけるようになった。
少し離れた駐車場に向かうと車を背に缶コーヒーを飲んでいる紗夜の姿があった。
「伊丹さん。こっちです。何か進展がありましたか?」
「まぁね。それについては車の中で話そうか」
演武会から2年が経った5月。
あの日以降、記者の父と私は姉を轢いた人物と一連の計画に加担した人物を探した。
そして、豊中が少し前に言っていた私を探している老人と伯父。他6名を殺人未遂と演武会での人々に危害を加えた件で警察に突き出すまでに至った。
姉を轢いた老人は、金髪男の……須藤の祖父だと分かった。話を聞くと伯父がその人物を唆した。
これは今日聞いた話。伯父の犯行目的は次期当主の座を狙っての犯行だった。その取り巻きも甘い汁を啜る為にあの仕掛けの開発に協力していた。
驚くべきなのは兄を殺した熊を差し向けたのも伯父だと分かった事だった。
当時、伯父は仲間内の間に兄が流鏑馬に成功をするのか賭けをしていた。しかし、兄は絶好調の為に滅多な事がない限り外すことはなかった。
伯父は外す方に賭けており、負けることを危惧していた。
あの時期は熊が冬眠に向けて食料を探し回っていた。それに目を付けた伯父は私達二人に練習場所を教えた。
姉妹がクマに襲われたと聞けば、兄は戦意が下がることになる事は避けられない事が容易に想像ができる。
しかし、想定外の事に兄はクマに襲われて亡くなった。その事により、流鏑馬は行われることはなかった。
その数年後、私達の流鏑馬にも伯父は仲間内で賭けをしていた。そして──
「賭けに負けて、香矢さんの……伊丹家の財産を狙って犯行に及んだ。狡猾な人ですね」
姉が消え、私達が山にいけばあの屋敷は無人になる。そうなれば、あの屋敷と土地は売る以外使い道はない。
「正直、私もこの話を聞いた時はぞっとした。しかし、目の前の欲にくらんだ人間の末路といえるだろう。おかげで不穏分子一掃出来た。これでいい方向に進めばいいが……」
「そういえば住職の方はどうなりましたか?」
「彼は許すことにしました。彼は伯父の計画に唆されて動いていたと分かりました。あわよくば私達を寺に引き入れる腹積もりだったようです」
「どうして許したのですか? 経緯はともあれ、計画に加わった一因として罰を受けるべきでは?」
確かに、あの人も罰を受ける必要がある。しかし……
「彼が運営している寺は孤児院の役割も果たしています。演武会の後日、寺に行って子供たちに住職について、評価を聞いてきました。その結果──」
「その結果、彼を許すことにしたのですね」
「その気になれば立場を奪う事は簡単。でも、有能な人間を辞めさせるとそこに綻びが生じる。ならば今回の件は身内の一人で留めておけば、面倒事は避けれる」
「地盤が固まっていない以上、住職を罷免すれば反感を買う。理に適っている。考えましたね。香矢さん」
「そういう事。悪い事ばかりじゃないしね。それより何処に向かっているのですか?」
「それは着いてからのお楽しみです」
高速道路に入ると紗夜は運転に集中する為に会話が少なくなった。
朝早くから彼女は同じ車を乗って送り迎えに来ているのだが、この車のダッシュボードには彼女の私物らしきものは一切なく、契約書らしきものが入っていた。
(この車はレンタカーみたいだ。免許を取ったとは話を聞いていたがそこまで遠出するとは何が目的なんだろうな)
ここ最近になって彼は表に出てくる時間が短くなり、頭の中で囁くようになっていた。
時間が進むにつれて、見知らない西洋の街並みが目の前に広がってきた。
「ここはなんですか?」
「ここはイタリア街です。日本に居ながら海外に来たような気分を味わえる場所として、週刊誌に書いていました。それでは行きましょうか」
「あ、ちょっと待って……」
紗夜はマップらしきものを片手に迷うことなくすたすたと町の中に進んで行く。遅れないように彼女の後を追った。
西洋風の建物と石畳。おしゃれな街並み。理由もなしで彼女がレンタカーを借りてまで、こんな所を連れてくるなんて考えつかなかった。
「ここは見た通り街並みで、よくドラマとか映画の撮影場所として使われています」
「へぇ~確かにテレビとかで見たような気がする」
「香矢さん。お腹空いていませんか?」
彼女に聞かれ、少しだけ空腹感があった。腕時間を見てみれば針は13時近くを指示していた。
「言われてみれば腹減りました」
「そういうと思い場所は取っています。こちらです」
辿り着いたのはイタリア料理店。彼女が事前に予約を入れていたいたのか。中に入ると奥の席に通された。
「そういえば、2年の付き合いになりますが二人で食事に来たのは初めてでしたね」
慣れない雰囲気に店の内装を見渡していると、彼女は軽く咳ばらいをすると話を切り出した。
「言われてみればそうだね。そっちから誘いがあるなんて思わなかったよ」
「その事ですが……実は……」
紗夜の話では、少し前のミーティング中に私達の関係の話になった。
演武会以降、騒動の沈静化や学業や弓道に集中するがあまり遠出をしたりする時間があまりなかった。
それに紗夜の事も考えて、接触を控えていた。だから、特に進展も何もなかった。
「それでどこか出かけた方がいいと言われた。そういう事ね」
「そういうことです。しかし、意外でした。香矢さんが大学に進学するとは……」
「あぁ、その事。将来の事を考えると大学を出ていた方が働き口も多くなるって聞いたから嫌々だけど進学した」
流石に弓一筋で食っていける程、世の中は甘くはない。一握りの人間でしか、そんな生活を送れない。祖父と父も仕事の片手間に家業をやっていた。私の世代になると、もっと厳しくなっていくだろう。
「将来は何をするのか考えているのですか?」
「まだ、何も考えていない。4年もあれば適当な会社に入ればいいかなって感じ……」
そんな会話をしていると、私達の前にワインボトルに入った水とピザとパスタ等々。料理が続きとテーブルの上に置かれた。
「話は後にして、先に食べようか」
「そうしましょうか。時間はまだまだありますから」
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レストランを後に徒歩10分ぐらい歩いたところにある。神社の近くに着いた。
「こんなところに何があるの?」
「ここには覗いた人の心を写す水鏡があるらしいです」
「へぇー面白そうだ」
鳥居を潜って右手側にそれはあった。二人揃ってどっちが先に覗き込むのか少し揉めたがじゃんけんに負けた私が先に覗くことになった。
「どうですか?」
「顔以外何も写っていない」
続いて紗夜も水鏡を覗いたが結果は同じだった様子。
「これは人の心を写すって本当なのか?」
「本当だと思います。昔、この水鏡を覗いた人は黒く濁って見えたと言っていました。その人はその日以降、自分の身の振り方を改めたと聞いています。せっかくですし、お参りをしていきましょう」
誰の事を言っているのか。聞いてみると紗夜は「あなたがよく知る人物です」と答えた。そして、彼女は水鏡から離れて本殿のほうに歩みを進めた。私も遅れないように彼女の後を追った。
お参りを済ませてから私達はオランダ風の風車が回っている公園に足を運んだ。そこはほかの観光客の姿もあるが、人数は少なく。ゆっくりとできる最高の場所だった。
「今日はどうしてここに連れて来てくれた。何かのお祝い?」
「少し前に海外に行きたいと理矢さんから話を聞きました」
「もしかして、そのためだけにランチの予約やレンタカーを借りたのかい?」
「それもありますが、ここ最近は忙しかったではないですか。それにあなた達は二人で一人。その分だけストレスが溜まっているはずです。偶には息抜きも必要です」
ここ最近では大学の勉強に家業と中々休まる時間がなかった。彼は彼で私の体を使って祭りや大会などのイベントに参加したり等々。正直なところ身体は限界に近づいていた。
「ありがとう。それならお言葉に甘えて今を楽しまないとね。そういえば、この前にある人物から大学では弓道はやらないって聞いたけど」
「その事ですか。元々は誰かと競うためでもなく、ただ己を磨くために始めた。でも、その教えはしっかり学んだと思っています」
「あの門は何時でも開放していますので、気が向いたらいつでも自由な時に来てください。私達は歓迎するので」
「えぇ、その時が来たらまたお邪魔します」
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黒い雲が空を覆っていた。
的を射る音と風切り音が静かな道場内に響き始める。矢を回収していると冷たいものが首すじにあたる。空を見上げると一粒、また一粒。顔にあたる。
中央に中った矢以外を抜き所定の位置に戻ろうとした瞬間、雨に気が付いた門下生達がざわつきだした。
「落ちていて下さい。各自、自分が射た矢の回収を優先に。手が空いている人は的に袋をかぶせて下さい」
何名かは買ったばかりの新品の的を一つ残して袋をかぶせる。その間、残った数名と一緒に回収した矢の水気と土を拭き取る。
ふと、顔を上げるとみんなが片づけをしている中、一人の女性だけが矢を構えていた。その人物は的をジッと見据えていた。
雨足が強くなり、的が見えにくくなっていたが彼女それでも構えを解かなかった。そして、雨の音だけが道場内で響く。そして……
彼女の手から放たれた矢は風を切りながら真っ直ぐと的に向かって飛んでいった。
そして的には、既に的の中央に中った矢の横並びになるように中っていた。
弓取りと雨女。これにて完結になります。
当初は高校卒業まで書こうと思っていましたが、ネタが思い浮かばず切りのいい所で終わらせることにしました。
では、また何処かで