弓取りと雨女   作:hirag

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4話

ギギギと弓を振り絞る音と矢音の音だけが静かな道場に響き渡る

 

今日は約束していた千聖の弓道練習日

 

「どうかしら?」

 

かれこれ1時間やっているが命中率はともかく、恰好だけは完璧に近づいている

 

「うん、形は出来てきてる慣れてきたな」

 

「ずっと貴方を見ていると嫌でも覚えてしまうわ」

 

「そ、そうか・・・後は弓を引き絞るときに腕がプルプルしているが・・・ところであれは?」

 

俺は壁の一角にいる変わった人を見る

 

道場には俺と千聖以外に1人の観客が来てる

 

しかもその人は、トロフィー棚と壁の隙間に挟まっている

 

「ああ!お気になさらず」

 

メガネをかけた少女・・・確か名前は・・・大和麻弥

 

彼女は狭いところが好きらしい・・・

 

めっちゃ気になる!

 

「気にしたら負けよ」

 

なににだよ

 

「まぁ、もう少し筋力をつけたらマシになるだろう・・・最悪の場合は・・・」

 

的を射るシーンを差し替える・・・って言ったら怒るだろうな

 

「最悪の場合は・・・何かしら?」

 

「いや、なんでもない。よく見てろ」

 

千聖の弓を取り、構えながら矢を一本つがえる

 

呼吸を整え、引き絞る

 

そして、的を見据え矢から手を放す

 

静まり返った道場内に矢音が響き渡る

 

「お見事!ど真ん中に命中です!」

 

「どうも・・・さぁ、やってみろ」

 

「やってみろって・・・無茶を言うわね」

 

千聖の言葉を無視して、弓を返す

 

「事前に言っただろう?”厳しくやらせてもらう”って・・・」

 

「もう少し、具体的に教えて欲しいわ」

 

具体的にか・・・

 

「そうだなー・・・まずは、筋力だな。確かベースやってんだろ?」

 

「えぇ」

 

「それならその内、筋力はどうにかなるだろう。後は集中力」

 

「集中力っすか?」

 

「ああ、いまの千聖は仕事やバンドで焦っているだろう?だから、一回落ち着いてやってみろ」

 

「わかったわ」

 

そう言うと千聖は深呼吸をしてから矢をつがえる

 

「肩の力を抜いて的を見る」

 

矢を放つ

 

スパーン!

 

的を見てみると中央から少し右上に矢が刺さっていた

 

「惜しいかったですね・・・」

 

「ああ、だがいい感じになったな。さて、少し休憩にしようか」

 

「えぇ、弓道って意外と疲れるわね・・・改めて貴方がどれほど努力しているか分ったわ」

 

 

_________________

 

~リビング~

 

「すまないな粗茶しかなくて」

 

「いえいえ、見学だけではなくお茶まで・・・」

 

「それより聞いたわよ。貴方、紗夜ちゃんに告白したって」

 

「ええー!?」

 

「げほげほ!!」

 

千聖が思ってもいないことを言いだし、驚いた俺は咳き込む

 

「お、お前!何処でそれを!?」

 

「ある人が教えてくれたのよ」

 

ある人?誰だ・・・いや、よく考えれば弓道部の連中しかこの事は知らないはず

 

もし、裕太なら頭にリンゴを乗せて射貫いてやる

 

「ちなみに、結果の方は?」

 

「大和さん。聞かなくても分かるでしょう?」

 

「あー・・・ど、ドンマイです」

 

察してくれたのか大和さんはそこから何も言わなかった

 

「それより、貴方はもう練習しなくていいの?もうすぐ秋祭りでしょう?」

 

秋祭り、商店街の繁盛祈願として代々伊丹家が弓を射る決まりがある

 

「あぁ、弓の方は大丈夫だ。後は舞の練習だな」

 

「せっかくだから少し舞ってみたら?」

 

「そうだな。気晴らしにはいいかもな」

 

「そうと決まれば行きましょうか」

 

「行くって何処にだよ?」

 

「広い場所よ」

_________________

 

~河川敷 高架下~

 

「本当にここでやるのか?」

 

「あそこでやるより広くていいでしょう?」

 

確かに広いが・・・人目が気になる

 

大和さんは仕事の都合途中からいなくなっていた

 

「人目を気にしているようだと、まだまだ未熟ね」

 

千聖の言葉に苛立ち反論する

 

「やってやろうじゃねーか!!」

 

扇子を構え、舞の準備をする

 

「単純ね」

 

何か聞こえた気がしたが気にせず狐の面を付ける

 

♪♪♪♪

 

カセットテープから曲が流れ始めた。

 

俺は曲に合わせて体を動かす

 

■■■■■■■■■■■■■

 

「うぅ~ん・・・今日もいい練習が出来たね」

 

練習を終えた私と今井さんは河川敷沿いに歩いていた

 

「今井さん、今日はありがとうございます」

 

「ううん。アタシも丁度練習したかったし・・・」

 

♪♪♪♪

 

「この音色は・・・」

 

何処かで聞き覚えがあるどこか懐かしい音色が聞こえてくる

 

「何処から聞こえてくるんだろう?」

 

「行ってみましょう」

 

「え?ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

私達は音を頼りに歩き出す。

 

そして、河川敷の高架下にたどり着いた

 

「あれって?千聖じゃない?」

 

「えぇ、白鷺さんと誰かいますね」

 

狐の面に白装束を身に着けた人物が白鷺さんの前で軽やかに踊っている

 

「すごい滑らかな動きだね」

 

そういえば、今井さんはダンス部だったわね

 

「えぇ、そうですね」

 

私達が魅入っていると白鷺さんが私達に気がつき、手招きをしてきた

 

「もっと近くで見に行ってみようよ」

 

「わ、私は・・・」

 

「いいからいいから~♪」

 

今井さんに腕を引っ張られ、白鷺さんの元に向かう

 

「いらっしゃい。リサちゃん、紗夜ちゃん」

 

「こんにちは、白鷺さん」

 

「何をやっているの?」

 

「見ての通り、舞の稽古を付けているのよ」

 

「舞ですか?」

 

「えぇ、私の従弟のね」

 

「へぇー千聖に従弟がいたんだね」

 

そんな会話をしていると曲はクライマックスに近づいていた

 

白装束の人は扇を上空に投げ、手を伸ばしながらその場で回りだした

 

そして、落ちてきた扇子受け止め動きを止めた

 

 

「中々良かったわよ。一矢」

 

「え!?」

 

一矢?もしかしてこの舞を踊っていたのは伊丹さん?

 

「まさか、あなた方が来るとは思っていませんでしたよ」

 

白装束の人は面を外す。

 

「やはり、伊丹さんだったのですね」

 

「はい。そうですよ氷川さん。あなたはRoseliaの今井さんですね」

 

「え、は、はい」

 

「で、どうだった千聖?」

 

「そうね。あと2ヶ月あれば十分だと思うわ」

 

「そうか」

 

「2ヶ月先に何かあったけ?」

 

「秋祭りですよ今井さん。その催しで舞と弓を披露することになっているのですよ」

 

「去年人が多かったのはそれがあったからなんだね」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・ッ!!」

 

今井さんの言葉に白鷺さんは顔を暗くし、伊丹さんは唇を噛み締めた

 

「あれ?二人共どうかしたの?」

 

「いえ・・・悪い千聖。先に帰るよ」

 

「えぇ、お疲れ様」

 

伊丹さんは河川敷から姿を消した。

 

「ごめんなさいね。あの子、去年の秋祭りにいい思い出がないのよ」

 

「そうだったんだ・・・アタシ、悪いこと言っちゃった・・・」

 

「気にしなくていいのよ。あの子は強い子だから」

 

白鷺さんはそう言っているけど、伊丹さんのあんな辛そうな顔は今まで見たことがなかった

 

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