弓取りと雨女   作:hirag

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7話

 時刻は12時

 

 俺たちは合宿場から少し離れたところにあるキャンプ場に集合していた

 

 他の生徒たちはそれぞれ調理に掛かっていたが……

 

「豊中さんは……どうしたの……でしょうか?」

「伊丹さんなにか知っていますか?」

 

 俺たちは裕太が来るのを待っていた

 

「いえ、なにも……」

 

 裕太1人仲間外れにするのは気が引ける

 

「おーい! 悪い悪い遅くなった」

「と、豊中さん……顔が……」

 

 裕太の顔を見ると頬が少し脹れていた

 

「大丈夫なのですか?」

「心配無用だ氷川、俺より相手の方が重傷だがな! ハハハ……」

 

 裕太は俺に近づき耳打ちをしてきた

 

「氷川が悪く言われているの許せなかったんだろう? お前、あいつの事をすごい睨んでいたぞ」

「え?」

 

 俺がそんな顔をしていたとは気が付かなかった

 

「さて、そんなことよりカレー作るぞ!」

 

 裕太の両手には料理器具が握られていた

 

「あ、ああ……」

「豊中さんもやってきたことですので、私達も作り始めましょう」

 

 取り敢えず、食材を受け取りに行くとしよう

 

「確か……食材はニンジン、玉ねぎ、後はジャガイモか?」

「カレーのルーは……あれ?」

 

 食材は一式机の上にあるのだが、肝心のカレーのルーがなかった

 

「参りましたね……」

「おいおい! 先生! 俺たちの分のルーは何処にやったんだ?」

「おかしいなぁー。人数分用意したはずだが……」

 

 先生は人数分用意したと言っていたが……実際問題、目の前にカレーのルーは一つもなかった

 

 流石にルー抜きはキツイ。確かこの近くに小川があったはず……めんどくさいが現地調達するか

 

「先生。近くに小川があるのですが食材調達に向かっていいですか?」

 

 _________________

 

 ~小川~

 

 

「よっしゃー! 捕まえたぜー!」

 

 裕太は高らかに鮎を掲げる

 

「はいはい……内臓抜きするから早くよこせ」

 

 教頭に話してみると担任が同行することを条件に小川に行く事になった

 

「伊丹くん! 火はこれくらいでいいかな?」

 

 担任と白金さんが火を焚いている

 

「それぐらいで後は……火が消えないように気を付けてください」

「伊丹さん、調味料を持ってきました」

 

「ありがとうございます。氷川さん、そこの机に置いてください」

 

 鮎の内臓を取り、割り箸を口から入れて腹部と尾に目掛けて差し込む

 

「氷川さんはこの鮎に塩を振って焚火の周りを囲むように置いてください」

「わかりました」

 

「よし、こっちも準備するか! 裕太! 鮎を後ニ匹捕まえてくれ!」

「おう! 任せとけ!」

 

 裕太が鮎とじゃれ合っている間に炊き込みご飯の用意をしよう

 

 米を3合と水、みりん·醤油·酒を大さじ3杯を鍋に入れる

 

「後は鮎を入れるだけっと……」

「伊丹さんは料理も出来るのですね」

 

 何を作っているのか気になったのか氷川さんが鍋を覗きに来た

 

「料理って……ただ調味料と食材を鍋に入れて煮ているだけですよ」

「それでも立派な料理です。塩焼きの方はあと少しで出来そうです」

 

「わかりました。では──」

「おーい! 一矢! 二匹捕まえたぞ!」

 

 裕太が鮎を二匹両手に掴んでやって来た

 

「ありがとう。調理台の上に置いといてくれ。氷川さんは俺の手伝いをお願いします。裕太はもう少し川で頬を冷やしてこい」

 

「ひゃっほー!」

 

 裕太は叫びながら小川に飛び込んでいった

 

「何をすればいいのですか?」

「野菜を刻んで鍋に入れてください。俺は鮎を下処理しますので……」

 

 まな板と包丁、ニンジンを氷川さんの前に置いた

 

「わ、わかりました……」

 

 氷川さんは包丁を手に取るが少し震えているように見えた

 

「あれ? 氷川さん……包丁あまり持ったないのですか?」

「い、いえ……そう言うわけでは……」

 

「うん?」

「実はニンジンが苦手で……」

 

「ああ、そういう事でしたか。でも大丈夫ですよ! 炊き込みご飯にするので気にならないと思いますよ」

 

「そ、そうですか……」

 

 そう言いながら氷川さんは黙々とニンジンを刻む

 

 ご飯が入った鍋にしょうが、鮎を入れる

 

「さてと、塩焼きの方は……うん! いい感じだ!」

「伊丹さん、細切り出来ました」

 

「了解です。塩焼きも出来ましたので白金さん達を呼んできてくれますか?」

「わかりました」

 

 氷川さんは小川近くで会話している白金さん達を呼びに行った

 

 その間に、ニンジンを鍋にいれ蓋をする

 

「裕太! そろそろ食べるぞ!」

「おう! 今そっちに行く!」

 

「お! いい感じに焼けてるね!」

「とても……おいしそうです」

 

 白金さんと担任がやって来た。紙皿に塩焼きを乗せて渡す

 

「熱いので気を付けて食べてくださいね」

「いただきまーす」

「い、いただきます」

 

「氷川さんも食べてください」

「はい。いただきます」

 

 サクッといい音が聞こえて来た

 

「ちゃんと火は通っていますか?」

「はい。とても美味しいです」

「先生も初めて鮎を食べたけど美味しいね!」

 

 四人とも美味しそうに塩焼きを食べている。

 

「少し手を洗ってきますね」

 

 俺は少し離れた場所にある大きな岩に腰を掛けて小川を見つめる

 

 

『お兄ちゃん! こっちこっち!』

『待てよ! 香矢!』

 

 幼い頃の光景が蘇る。昔は香矢とこの川でよく遊んだ……お互いに水を掛合い、夏風邪をひいたものだ

 

「ほい! お前の分」

 

 横を見るといつの間にか裕太が腰かけていた

 

「ありがとう……」

 

 塩焼きにかぶりつく。程よい塩気と鮎の脂がいい味を出してる。旨い

 

「にしてもこの川の魚勝手にとって良かったのか?」

 

「問題はないと思う。この山の持ち主とは知り合いだから」

「知り合いって……流石名家。顔が広いな」

 

 裕太の言葉を聞き流し、食べ続ける

 

「それより、どうしてカレーのルーはなかったんだろうな?」

「さぁ? 誰かが余分に持って行ったんじゃないか」

 

「かもな。まぁ、それはそれでこうして旨いもん食えるし良かったかもな!」

「だな。さて、締めの炊き込みご飯の様子でも見に行くか」

 

 裕太と共に鍋を覗き込む、ほくほくのごはんに箸で軽く混ぜると鮎の身が崩れる

 

「問題は味だな……」

 

 炊き込みご飯を一口含む……

 

 ──! 身がしっかり引きしまっててごはんもふっくらと炊けてる。おこげもしっかりできているし大成功だ! 

 

 有咲に食わせてやりたいもんだ

 

「旨いのか?」

「あぁ、我ながら上出来だ。そこの紙皿を取ってくれ」

 

 本当なら茶碗に刻みネギを入れてかき込みたい……

 

 _________________

 

 ~1時間後 合宿場~

 

「は~食った食った!」

「鮎の炊き込みご飯……とても美味しかったです……」

 

「思いもよらないトラブルがありましたが、豪華な昼食になりました」

「ご、豪華なんて……そんなことないですよ」

 

「謙遜すんなよ。本当に旨かったんだから。それにしてもお前が料理できるとは驚いた」

 

「めんどくさいのもそうだが……で別に出来ない訳ではない。ただ、時間も掛るからその分練習の邪魔になると感じたからしないだけ」

 

「伊丹さんの言っている事にも一理あります。ですが……それが原因で体調を崩したら元も子もないです」

 

「ぐぅ……言い返す言葉もありません」

 

 

 チッ! 

 

 後方から舌打ちが聞こえた。

 

 振り向いてみるが人が多くて誰したのか分からなかった

 

「どうか……しましたか……?」

「えっと、いま誰か舌打ちしました?」

 

「俺はしてないぞ。氷川か?」

「どうして私なのですか!?」

「いや、男性だと思うのですが……裕太じゃないなら誰だ?」

 

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