この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」   作:庫磨鳥

100 / 101
支援絵を頂きました!

タツキチさん
[本人様のアカウント]
[アスクと愛奈]

【挿絵表示】

とても格好いい
※投稿先のURLを貼るとハーメルンの規約に触れる恐れがあるため、直接貼らせて頂きました。

紅葉崎もみじさん
[例の扉絵]
とても似合っている。



第六十九話

6742:アスクヒドラ

なんか夜稀ちゃんって後輩に懐かれるなーって遠目で見てたら、俺の事に気づいた『聖女(シスター)』にメドゥーサ様って呼ばれてビックリしちゃって、とっさに否定しちゃった。

 

6743:識別番号04

安易な否定をして良かったのか?

 

6744:アスクヒドラ

じゃあ誰? って不安にさせちゃったみたいだけど、何も分からないのに、そうだよって言っても、ゼロツーが言うように後で違うってなった時のショックの方が大きいかもだし、否定するなら最初のうちが良かったとは思っている。

 

6745:識別番号02

確信→『聖女(シスター)』たちに、メドゥーサという存在が認知されているところを考えるに、自身やアスクなどの外見的な特徴が一致する存在である。

 

6746:アスクヒドラ

特徴……人型のプレデターとかかな?

いやでも、そうなると目が見えていないクリオネちゃんが、ゼロツーの事をメドゥーサって呼んだのは、ちょっとおかしい話か?

 

6747:識別番号02

指摘→『聖女(シスター)』のクリオネの場合、最初は当てずっぽうであったと思われる。

結論→そのあと接触した事で偶発的に『聖女(シスター)』に伝わっているメドゥーサの特徴と一致した事で、自身をメドゥーサであると確信を抱いた。

 

6748:アスクヒドラ

その触れたものっていうのが、俺の蛇筒やゼロツーの蛇の手って事かなぁ。

 

6749:識別番号02

考察→それを加えて、人間的特徴を持っていることが挙げられる。

 

6750:アスクヒドラ

あー、確か元ネタっていうか、メドゥーサって、そうだもんね……完全に『ゴルゴン』とは違う何かって話じゃなくなってきたな。

 

6751:識別番号02

不変→なんにせよメドゥーサではないと判断されて、不和が生じることは避けるべきである。

 

6752:アスクヒドラ

そうだね。だとやっぱり申し訳ないけど、俺がメドゥーサだってのは否定して良かったと思う。

……お、ヨキちゃんたちがメドゥーサについて聞いてくれるみたい。これで何か分かりそう。

 

6753:識別番号04

──待て、上空から飛来物が接近している。

 

6754:アスクヒドラ

え?

 

6755:識別番号04

目標は複数、こちらに落下──これはミサイル存在だ! 学園に命中する!!

 

6756:アスクヒドラ

まっ──くそっ!! 当たった、第二施設のほうか!?

 

6757:プテラリオス

みんな無事ですか!?

 

6758:識別番号04

学園外にも複数命中、自身は被害なし。

しかし森林に引火、燃え広がっており、プレデターたちが活発的に動き出した。

このままでは学園内に侵入する可能性が高い、対処する。

 

6759:識別番号02

報告→こちらも問題ないが、付近に被弾した可能性あり。

質問→いったい何処からの攻撃だ?

 

6760:アスクヒドラ

自衛隊の攻撃か!? え、違うの!?

なんかハジメちゃんたちが言うから違うって!?

 

6761:識別番号04

冷静になれ!

 

6762:識別番号02

質問→識別番号04、ミサイル物が落ちてきたさいに周辺に戦闘機は無かったか?

 

6763:識別番号04

──存在しなかった。はるか上空からミサイル物のみが複数落下してきた。

 

6764:識別番号02

質問→ミサイル物は、どの方角から来た。

 

6765:識別番号04

ほぼ垂直であったため確証はないが、僅かな傾きと方向から、海側であると推測する。

 

6766:アスクヒドラ

海……海!?

てことは、これって他の国からの攻撃ってこと!?

長距離弾道ミサイルってこと!?

 

6767:識別番号02

不明→人間の都合で北陸聖女学園・第七分校を物理的に隠滅しようという事も考えられるが、現時点において違和感がある。

提案→アスク。現時点を持ってプテラリオスを発進させてくれ。ミサイル物が来たとされる海へと向かってもらい正体を突き止める。

 

6768:アスクヒドラ

それは……いいのか……!?

 

6769:識別番号02

事態→今の着弾で誰も死ななかったのは幸運でしかない。

私情→もしこれが北陸聖女学園・第七分校を狙っただけなら逃げるだけでいいが、どうにも気になる事がある。

懇願→プテラリオスに偵察、もしもの場合は対策を願う。

 

6770:アスクヒドラ

……分かった。プテラ、発進してくれ!

 

6771:プテラリオス

了解しました。これより発進します。

 

 

 +++

 

「──はぁ~」

 

 ──真嘉たちが北陸聖女学園・第七分校にて未曾有の危機に瀕しているころ、アルテミス女学園では生徒会長である『蝶番(ちょうつがい)野花(のはな)』が、なんとなく雰囲気で飲み始めて、今では作業をお供となっている禄茶をすすって一息ついていた。

 

「──全然、心が休まりませ~ん!」

 

 最初こそ真嘉たち主力の大半が居なくなることで『街林調査』が行えなくなり、作業は停滞。やる事が無くなってしまうかと思いきや、できる事をやろうということで、『東海道ペガサス』や『勉強会』から上がってくる作業報告の処理。今後どうするかの詳細は取り決め。または忙しくて手が回らなかった細かい所の改善や修復。イベントなどの企画整理などなど、様々な事を処理しなければならない。

 

 最初こそ戦力の要である高等部二年勢とアイアンホース勢が転校に着いていく、しばらくの間、製造関係がストップするかと思われたが、事前に『東海道ペガサス』たちと段取りを話し合っていたようで現場は変わらず忙しくしており、それを統括する生徒会は連日連夜、処理しなければならない事務が増え続けている。

 

「──でも、休まらないほうがいい──本当にいい、あ~~」

 

 とはいえ、野花は忙しい事に救われていた。すっかり自分の身体に馴染んだ生徒会長の椅子に体重を預けて、友達でも聞かせたくない声を発しながら背伸びを行う。

 

 プテラリオスのおかげで全員が無事であることは、常に確認できるけど、それでも一秒あとに何が起こるか分からないのが現実だ。もしアスクに何かあったら、夜稀に何かあったら、先輩やハジメたちに何かあったら、という不安と恐怖は増えるこそ、減ることは無かった。

 

 そんなわけで、野花は転校組の事が心配になりすぎて、ものすごくメンタルにきていた。そのため精神疲労度合いに限らず、夜は全然眠れておらず。なにか作業をしなければ、さらに症状は悪化。定めた休む時間にも休む事ができず。常に野花の側にいるアイアンホースのA(エー)と一緒にゲームをやって夜を越す。おかげで心が休まる事はなく、ミスも多いけど、なんとか心が参らずに過ごせていた。

 

「──みんな本当に早く帰ってきてほしい、愛奈先輩のために!」

 

 野花は、これぽっちも期待していない神様に両手を合わせて拝む。

 

 高等部三年ペガサス『喜渡(きわたり)愛奈(えな)』。自分たちの“優しい方の先輩”。彼女を慕う後輩は多く、意味分からない弓捌きと、相手の気持ちを察する事に長けており、野花も直接的なり、間接的なり、多くの部分で助けられている。

 

 そんな愛奈であるが、ひと言で表すならヤバいに尽きる。

 

 アルテミス女学園を離れるさいに周囲に構わずに大泣きして後輩たちに宥められてからは、至って平常な様子を見せていた、プテラリオスにアスクたちの様子を聞く頻度は多くはあったものの、それも仕方ないと思える範疇で収まっていた。

 

 だけど、今日の朝。『勉強会』の後輩たちと訓練を行っていた際。急に涙を流した。それは本人も自覚が持てないもので、止められずに悪化。ついには赤子のように泣きじゃくり、親友である久佐薙月世が抱きしめて落ち着かせるまで続いた。

 

 アルテミス女学園高等部ペガサスたちは、みな心に何かしらの傷を負っている。愛奈は過去の出来事から、普通のご飯を食べようとすると辛くなり、いつも缶詰などの保存食を食べている。他にも1人になる事を強く恐れて、常に誰かが──アスクが側にいないと不安になってしまう。

 

 それは野花も知っている愛奈先輩の心の事情。しかし、今は落ち着いており軽度であると勘違いしていた。何だったのなら、自分たちとは全く別の方向性で“手遅れ”と思ってしまうほどであり、アスクが側に居てくれたからこそ、今まで落ち着いていられたのだと理解する事となった。

 

 ──あまり、悠長にはしてほしくないですね。

 

 愛奈の頭を撫でながら、落ち着かせる“優しくない方の先輩”、『久佐薙(くさなぎ)月世(つくよ)』は底冷えするような声色で放ち。それを聞いていた野花と『勉強会』メンバー一同は、背筋が寒くなって身震いする。

 

「──みんな無事に帰ってきてください、でないと月世先輩にころさ──いや普通に無事に帰ってきてほしいです──それはそうと、ボクの身も持ちませんので、なるはやで!!」

 

 今日は月世先輩と丸一日会議。愛奈先輩の側に居てくださいと遠回しに言ったのだが、今日中に絶対に詰めておきたいものがあると、きっぱりと言われてしまった。その時の先輩の微笑みを思い出して身震いをした野花は、お茶を一気に飲み干し──

 

「──ぶほっ!?」

 

 ──寝ていても、絶対に跳ね起きてしまえるほどのけたたましいアラートが生徒会室に鳴り響き、野花は含んだお茶を全部吹き出した。

 

「な……な! こ、これってプテラリオスの……!」

 

 数秒ほど呆然とした野花だったが、何が起きたのか理解した野花は、あらかじめ決めておいた、これから発生する轟音の言い訳を学園長に語るために、受話器を取った。

 

 +++

 

 ──プテラリオスは、『アイアンホース』と『東海道ペガサス』が居住している寮の屋上にて、側に設置されてあった箱を真上から拳で殴った。

 

 ガラスが割れて、その中にあった大きめの丸いボタンが押される。

 

 寮、校舎、生徒会室、食堂など高等部区画内にある幾つかの施設のアラートが鳴った。これは夜稀が設置したプテラリオスが発進するのを知らせるための発報装置である。

 

 ──これが押されるとき、アスクたちからプテラリオスの発進要請があったという事だ。学園内が一気に慌ただしくなる。

 

「恐竜さん!」

 

 ちょうど休みで寮の中に居たムツミたち数名の『東海道ペガサス』が、ヘルメットを被って屋上へとやってきて、プテラとの遊び場となっている雨避けの屋根に、家具や遊び道具などをテキパキと片付けたあと、床が熱で焼けないように耐熱シートを敷いて固定。その上にプテラリオスが乗って戦闘機形態へと切り替わる。

 

 ──〈発熱粒子〉の塊である、結晶部位が青白く発光を始める。独特な甲高い音が、徐々に大きく周辺の空気を切るように広がっていく。

 

「周辺の安全、チェック完了」

「下に誰もなし~」

「頑張ってきて! みんなを助けてね!」

 

 東海道ペガサスたちが飛行に邪魔になるようなものが無いことを目視確認。ムツミが安全な範囲からサムズアップを行い、プテラは腕を伸ばして、同じように親指を立てる。

 

「カウントダウン開始、3、2、1──テイクオフ〜!」

 

 〈発熱粒子〉の輝きが一気に増幅すると、プテラリオスは急加速し、浮上。轟音をかき鳴らし、屋上から飛び立つと即座に音速へと至り、空の彼方へと飛び立った。

 

「──無事で居て」

 

 ──後輩たちと共に、プテラリオスを見送った喜渡愛奈は、遠くにいる大切なものたちを思い、両手を合わせて祈った。

 

 +++

 

 音速で空を切るプテラリオスは、自身がアルテミス女学園との関係性を疑われる要素をできるだけ最小にするために、識別番号02が提案したルートを通って飛行する。

 

 そのルートとは、人類の全てが駆逐されて、『プレデター』の侵略地帯となった北海道本島上空である。遥か上空、いまは通り過ぎるだけの土地であるが、プテラのレーダー機能は取ったルート真下に存在する『プレデター』を捉える。

 

 ──星を数えるのに等しいほどの無数のマーカーによって大地が染め上げられる。通り過ぎた範囲だけで、これほどの数が存在するのであれば、この島には何十億といたっておかしくない。大きさからしてプラント型プレデターが何十ともある。

 

 これは、もはや人間が、どれだけ集まっていても、殲滅するのは決して不可能だ。そんな現実が真下に存在する。

 

 大規模侵攻にてアルテミス女学園に迫りくる『プレデター』は、本当に端っこの掛けた欠片のような数でしかなかった。そして、この数が日本を上から下へと、いっせいに移動していないことこそが、月のブレイン型によって人類が1%生き残るための調整が施されている証明となっていた。

 

 ──そんな絶望という言葉を表す光景であるが、プテラリオスは意識を向けない。いま彼が考えていることは、コンマ一秒でも速く、海から飛んできたというミサイル物と、それを発射した存在の対処である。

 

 あっというまに到達した特徴がなく延々と続く海水の大地。海の広大さからして、ミサイル物に関係のあるものを発見するのは、いくらプテラとはいえ困難である。しかし、識別番号02は自身の抱いている違和感の正体が、予想と正しいものであるならば、“正体”は、あちらからやってくると言う。

 

 ──識別番号02の予想は、直ぐに現実のものとなった。

 

 識別番号02が持った違和感。これが人間による攻撃であるならば、学園を攻撃する理由は“襲撃しているプレデターの殲滅”、“北陸聖女学園・第七分校の消滅”などが考えられるが、このどちら、あるいは類似した理由だったとしても、最初の攻撃で跡形もなく破壊するほどの火力を叩き込むべきである。それなのに最初のミサイル物の攻撃は狙いが甘く、火力も半端、偶然もあるだろうが巨大な校舎は識別番号04が見る範囲では、殆ど無事である。

 

 だから識別番号02は、これは人類の攻撃ではないのではと、仮説を立てた。

 

 ──プテラは戦闘機でいうところの噴射口を真下へと向けて、自身を上空へと押し上げる。その直後、元いた場所に音速の物体。アスクたちを襲った同じミサイル物と思われるものが通り過ぎた。

 

 間違いなく自身を狙ったものであると、プテラはミサイルが飛んできたペーリング海方面へと向かう。すると再びミサイル物が飛来してきた。

 

 数にして百以上、最初通り過ぎたものよりも小型で、誘導性能が高く、戦闘機などの飛行物体を撃墜するための対空ミサイルである事がわかる。

 

 プテラは腕と足のみを展開した翼竜形態に変形。足のスラスターを前方下へと向けて急バック上昇。向かってくる対空ミサイルへと向けて手甲からパルス弾を連射し、迎撃する。

 

 G負荷を気にする事なく加速する事ができるプテラにとって、誘導ミサイルは単調で遅く、処理が簡単なもので、大規模侵攻で戦った『ギアルス・ダルウィノ』の爆弾羽のほうが遥に厄介だった。

 

 あっという間に対空ミサイルを撃ち落としたあと、プテラはミサイルがきた方向へと向かい──発射源である“それ”を視認する。

 

 ──“それ”は全長200メートル級の超弩級戦艦と呼べる戦艦であった。“それら”は60ノットの速度で進み、丸みを帯びている甲板には巨大な砲台に機関銃、ミサイル発射口などの兵器が詰め込まれていた三十隻の艦隊だった。

 

 ただし、人間の船とは明らかに形状の違う、海中に使っている船底ににある大きなジグザグの口と瞳は、機械的でありながらも間違いなく生物のそれ。

 

 ──『クジラ型深海プレデター』。海中、海面、海上、海上空、海域全てに対する最大射程2000キロメートルのミサイル攻撃能力を持った、生きた超弩級戦艦である。

 

 本来であれば、北アメリカ大陸周辺の太平洋にのみ生息している深海プレデターだが。何かに呼ばれるように日本海側、正確にいえば北陸聖女学園・第七分校へと向かっていた。

 

 そして、射程範囲内である2000キロメートル以内に入った瞬間、一斉にプレデターたちが北陸聖女学園へと向かってミサイルを発射する、狙いが甘かったのは特に目標物を定めていなかったからだろう。

 

 そんなクジラ型深海プレデターを、プテラは見て思う。

 

 ──駄目だ。

 

 やつらは存在してはならない。

 ここで倒さなければならない。

 でなければ、大切な物が壊される。

 

 ──あれらは、あってはならない。

 

 プテラはアスクたちにクジラ型深海プレデターの情報を伝え終えると、指示を待たずに動き出した。

 

 遥か上空からクジラ型深海プレデター艦隊へ向かって、人が乗っていればブラックアウトは確実の、音速の壁を突き抜けた急加速降下(ダイブ)

 

 クジラ型深海プレデターたちは、自身に向かってくる機関砲台(ファランクス)で弾をバラマキ弾幕を張るが、あまりにも遅い。プテラリオスは海面を切り割くほどの高さまで降りて接近。

 

 腕を真横へと伸ばして青白い結晶の剣。『手光剣』を最大出力で展開。通り過ぎるクジラ型深海プレデターの側面を横一文字に切断する。

 

 手光剣によって溶け斬られた傷口内部は、付着した〈発熱粒子〉によって炎上。『P細胞』によって生成されて、内部に保管されていたミサイルや弾薬などの爆発物に引火。大爆発を引き起こす。

 

 しかし、急所にダメージは入っていないのか、クジラ型深海プレデターは炎上によって傷の再生はできていないが、今だに健在。

 

 プテラリオスは急上昇、反転。胴体を切断したクジラ型深海プレデターの頭上へと到着すると人型形態へと変形。甲板へと降り立つと、そのまま手当たり次第にパルス弾や手光剣で武装を破壊していく。

 

 味方を攻撃できないようで、他のクジラ型深海プレデターからの攻撃は止んでおり、乗り込むのはかなり有効的な手段であると、プテラは判断する。

 

 そうして甲板の武装を破壊して安全を確保したプテラは、抵抗力を無くすと頭上と思われる位置にて『手光剣』を真下へと突き刺して、刀身を伸ばし、脳を燃やした。

 

 ──反応が消えない? ──!

 

 レーダー上のマーカーが消えずに死んでいないのかと思ったが、クジラ型深海プレデター既に液体化が始まって、自分たちの真下に別の深海プレデターが居るとして咄嗟に反応。その場で戦闘機形態となり、一気に急上昇する。

 

 その瞬間、潜水艦を容易く飲み込んでしまいそうなほどの大きな“口”が、海から溶けていくクジラ型深海プレデターを突き抜けて、プテラリオスへと向かって伸びる。

 

 一度は細長い口の中に入るも、閉じる前に離脱。100メートルが限界だったようで、その口の正体を上空にて確認する。

 

 それは、細長い口と丸い瞳を持った異形と呼ぶに値する顔付き。海上に出ているだけでも100メートルはあろう細長く平らな胴体が、ヒラヒラと波打っており、不気味さを増長させる。

 

 本来深海の奥深くに潜み、やってきた潜水艦を飲み込で中に入った人間ごと圧縮粉砕する生物兵器。『ウツボ型深海プレデター』の巨大な丸眼がプテラリオスを捉える。

 

 ──これは当たり前の話。ここは海域、深海プレデターの領域である。海の上で戦うということは、クジラ型深海プレデターだけではなく、プテラリオスは海中から迫り来る他の深海プレデターたちも相手にしなければならない。

 

 海の水に塞がれた底に、化け物共が潜み、こちらを狙っている。

 

 ──速やかに全てを排除します。

 

 クジラ型深海プレデターは、変わらずに北陸聖女学園・第七分校に接近しており、すでに射程圏内に収めている。今はプテラリオスという海域内の敵対存在に狙いを定めているが、遠洋から陸地を攻撃するという異常事態、なにが起きてもおかしくない。

 

 ──速やかに排除します!

 

 プテラは、そんなことは絶対にさせないと、人型形態となり手光剣を展開。上空からウツボ型深海プレデターへと斬りかかった。

 

 

 +++

 

 

「プテラリオスが出たのか!?」

 

 アスクが立てた三本指の意味を知る真嘉は、それほどの自体なのかと驚愕する。

 

 プテラリオスが援軍に来てくれることは、非常に頼もしい。だが気付かれてはならない大人たちに自分達の関係性のヒントを与えてしまうとして、非常にリスクが伴うものであると真嘉は聞かされている。

 

 だから、プテラリオスが助けに来るのは、もう自分たちだけでは、どうにもならない事態に陥ったとき、今がその時であると真嘉たちアルテミス女学園のメンバーは理解させられる。

 

「ナー、おい。なんだプテラリオスって?」

「アスクの仲間で同じレガリア型、飛行能力を持っていて、あー、三番(トロワ)が超好きそうな見た目しているわ」

「なに!? もう一体いるだとぉ!? ……アルテミス女学園、いったいどれ程の力を秘めている!?」

「クハッ、聞いてる感じ秘蔵っ子を出したっぽいな……こりゃあ色々とマジでヤバいらしい」

 

 いつもの調子、されど事態の深刻さを、正確に認識。ミサイル攻撃によって騒がしくなった第2居住施設ミザール跡のプレデターたちの警戒を強める。

 

「ゲホ……ケホ……あ、アスク! いったい今の攻撃は……正体が分かってるの?」

 

 ペットボトルの水を飲みつつ、夜稀が話しかけると。アスクは第2居住施設ミザールの奥側を指で示しつつ、もう片方の腕を水平に伸ばして、ゆっくりと波打つように動かす。

 

「学園の奥……じゃない、外? ……合ってる、もしかして海? ……ということは深海プレデターの攻撃で、その深海プレデターを対処するためにプテラリオスを出撃させた……!」

 

 研究や検証のためにアスクと何度も話している夜稀は、素早く正確に言いたいことを読み取る。

 

「さっきのは深海プレデターの攻撃っていうの!? それも海から!?」

「さやさや、おちつきなよー」

 

 半狂乱に叫ぶ咲也を、隣にいた響生がなだめる。彼女だけではなく『聖女(シスター)』たちにも混乱が発生しており、そちらは『鈔前(しょうぜん)亜寅(アトラ)』とレミが落ち着かせている。

 

「……アスク、ミサイルを撃ってきた深海プレデターって、距離にしたら、どれくらい離れているの?」

 

 考察を重ねているうちに、夜稀は嫌な予感を抱き、問いかけると、アスクは指を二本建てた。

 

「2……メートルだと二千……二万、二十万……え、メートルだよね? ちょ、ちょっとキロメートルに変えて、指1本を0で表してみて……2000? ……2000キロ!? ……ゲホ」

 

 四本立てられた指を見た夜稀は信じたくないと、ペットボトルの中の水を飲み干したあと、まとめに入る。

 

「だからえっと……二千キロ先以上の海の果てにいる深海プレデターがミサイルを陸地に向かって撃ってきたから、プテラリオスが、それを止めに行ったってことでいい? ……そういうことみたい」

「どういうことだ……」

 

 言っている意味は分かるが、イメージ出来る範囲を超えてしまった真嘉は聞き返してしまう。

 

「とにかく、この学園から離れたほうがいいのは間違いないんだよな……けど、アスクの仲間は……アスク」

 

 出来るなら助けにいきたいが、どう考えたって危険過ぎる。もらってばかりなのに返せないままでいいのかと悩んでいると、アスクが気にするなと肩を叩く。

 

「……いいのか?」

「──駄目だ」

「夜稀?」

 

 夜稀は否定の声を上げる。自分の持ち得る知識から、彼女は絶望的な答えを導いてしまっていた。

 

「深海プレデターが陸上を攻撃している。それも間違いなく、今の日本だと、どうにも出来ない距離から……ゲホ……今はプテラが止めてくれているけど……撤退したらッ! 時間を与える事になる……ゲホゲホ……! それだけは駄目だ!」

「おい、いいから、水を飲め!」

「──こちらに来ていて、陸地を攻撃している原因が、オルカの言った深海プレデターを呼ぶプレデターなら……いま倒さないと!」

 

 喉が渇き、咳が出て苦しくなりながらも、夜稀は撤退ではなく、オルカが語る深海プレデターの撃破を挙げて、真嘉たちは驚きのあまり唖然とする。

 

 このまま、深海プレデターが呼び寄せられ続ければ、いずれプテラリオスだけでは手に余り、再び日本列島はミサイル攻撃に晒されるだろう。あるいはもっと恐ろしいものが、陸に上がってくる。なにせ既にウミウシ型プレデターが学園の内部に侵入していたのだ、決して杞憂ではないだろう。

 

 ──そうなってしまえば日本はおしまいだ。そうなればアルテミス女学園だってお終いになる。東京地区だとか、久佐薙財閥だとか言ってられなくなって、自分たちは生き残りを賭けて何を犠牲にしても、陸に上がってきた深海プレデターを相手取りながら進み、深海プレデターを呼ぶプレデターを倒さないと行けなくなってしまう。

 

「このまま帰ったら、アルテミス女学園での安定した生活は失われる。それだけじゃない、どうしたって、あたしたちの中から確実に犠牲者がでる戦いになるんだ」

「だ、だからって……! 私たちだけじゃどうにも……!」

「……むしろ、あたしたちが居るから、まだどうにか出来ると……思う……オルカ」

 

 先輩である咲也の真っ当な意見を、ないがしろにして、強い喉の渇きによって、呼吸が止まってしまいそうなほど苦しくなりながらも、夜稀は意を決してオルカに声をかける。

 

「オルカは、そのプレデターのところへと向かうんだよね?」

「ああ、絶対に殺さないと行けないからな……止めても行くぞ」

「止めない」

 

 これが最善だとは思わない。だけど、やるしかないことだってあるんだと、夜稀は自分に言い聞かせながら、学園に居て心配しているだろう友達に言った時と同じことを口にする。

 

「──止めない代わりに、ボクも一緒に連れて行って」




──失う恐怖に負けるというのならば、進め。

お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告、本当にありがとうございます!
相変わらず不定期投稿ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。