この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」   作:庫磨鳥

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お待たせしました。

紅葉崎もみじさんが、漫画版くるがいの第二話を清書してくれました!
よろしければ見て下さい。
[くるがい 二話]
本当にすごい、ありがとうございます!

またJKのタメガイ連盟員さんが、新しく自作の二次小説を書いてくれています。
[TSサイボーグ戦士になって人類の敵と戦う事になった]
ぜひ見てください。



第五十九話 

 『鉄道アイアンホース教育校』が保有する『アイアンホース』を管理および現場へと移動させるための運行列車であり、法律の都合で学校教室として扱われている『教室列車』には番号が割り振られており、それらには意味がある。

 

 ゼロが車掌教室を務める【303号教室列車】は、第一世代の防御力を重視させた車両。ルビーが搭乗していた【504号教室列車】は第二世代の速度を重視させた車両。A(エー)が乗っていた【703号教室列車】は生活を重視させた車両を表す。

 

「──そしてこれから合流する600番台は、攻撃能力に特化した第二世代教室列車です。よって他の教室列車よりも遥かに多くの『武装(ALIS)』と弾薬、それ以外の装備が積み込まれています」

「あと教室列車の中では唯一、列車本体にも攻撃能力があるのが特徴ね。三両目が大きな砲台になっているわ」

 

 【303号教室列車】、後部車両最後尾扉前、『九重(ここのえ)ハジメ』と『ルビー』から、『土峰(つちみね)真嘉(まか)』は、これから合流するという600番台教室列車について話を聞いていた。

 

「“ほうだい”って……あのでっかい銃みたいなやつか?」

「そうよ。88ミリ口径のバカでっかい弾を打ち出すための、バカでっかい銃のこと」

「マジか……」

 

 真嘉は砲台を実物で見たことないが、レミから勧められた映像作品で何度か見たことがある。あんなものが直撃すれば己の盾型専用ALIS【ダチュラ】を構えていても木っ端微塵になる事は避けられない。そんなものを積んでいる教室列車がやってくるのは、単純に恐ろしかった。

 

「といっても、けっきょく厄介なのは乗っている『アイアンホース』だけどね」

「強いのか?」

「装備がいいのよ。私たちのなんて600番台に乗っている『アイアンホース』と比べると豆鉄砲みたいなものよ」

「その装備を扱い切れるほどの実力者揃いであるのは間違いありません。戦闘になったら容易に勝てる相手ではないでしょう」

「……戦うんだな?」

 

 ハジメとルビーは、己の銃型ALISを手に持ち、そんなふたりに指示を受けて真嘉は【ダチュラ】を狭い廊下に持ってきており、いつでも掴んで構えられるように裏面を向けて壁に立て掛けてある。

 

「分かりません……ですが単なる転校、鉄道アイアンホース教育校からすれば、良くある“輸送任務”でしかないのにも拘らず600番台を合流させるのは、極めて過剰な戦力です」

「武器庫が必要になる場所って言ったら戦場。つまり何かしらの戦闘を想定して来るって事よ」

「問題は、その想定された戦闘対象が何なのかですが……この【303号教室列車】が対象である可能性も考えられます」

「なんでだ、味方なんだろ?」

 

 同じ教室列車である【303号教室列車】が攻撃対象になっているかもしれない。そう口にするハジメに真嘉は戸惑い、ルビーはからかうような笑みを浮かべた。

 

「【303号教室列車(あんたたち)】好きなやつと、嫌いなやつ結構両極端に居るからねー。でもないんじゃない? じゃなきゃ連絡も入れずに奇襲掛けてくるでしょ?」

 

 マニュアルを守らずに成果を上げているゼロ車掌教師に、英雄と大々的に宣伝される事となったハジメが乗った【303号教室列車】の立場は非常に複雑である。だから狙われる理由は思い当たるが、ルビーは直感的に今回は違うと思った。

 

「もしかして……オレたちの“秘密”がバレたのか?」

 

 そんな中で真嘉はふと思い当たり、口にする。アスクヒドラのこと、“血清”のこと、ほんの僅かでも気づかれてしまえば狙われるには十分な理由だ。

 

「それでもどうかしらね。もし“秘密”を知っていたら、下手したら木っ端微塵にしかねない600番を向かわせるよりも、400番の数を揃えて捕まえに来る気がするわ」

「理由はどうであれ、敵にすれば極めて危険な相手がやってきます……警戒はしておいたほうがいいでしょう」

「──戦うの?」

 

 部屋から話を聞いていた『篠木(ささき)咲也(さや)』が部屋から顔を出して尋ねる。顔色が悪く、明らかに脅えている。

 

「あくまで全て可能性の話ですが、“秘密”を守らなければならない以上、穏やかに済ませるのは難しいと言わざるを得ない」

 

 ハジメは帽子を深く被り、なるべく淡々とした口調で話す。明確な表現こそ避けたものの、自分たちの境遇的に時と場合、相手によっては戦闘もありうる。また最悪、自衛のためではなく、秘密を守るために“卒業”させるつもりである事を、全員に伝えた。

 

「それってっ!」

「バレたらまずいでしょ」

「──っ!」

「別に“戦え(しろ)”って言っているわけじゃないわ。急に覚悟を決めてって言われても出来ないものだと思うし、アルテミス女学園の戦闘スタイルじゃ、閉鎖空間での銃撃戦に対応できないでしょ?」

「それは……」

 

 ──物言わぬ、意思があるのかも分からない、こちらを殺しにくるだけの『プレデター』とは違う。意思があり、自我があり、自分たちと同じように言葉も話せる『アイアンホース』たちと殺し合わなければならない。まだ可能性の話であるが、可能性で十分だった。

 

「……2人は経験あるのか?」

「無いわね。でもルビーの場合はアイアンホースになる前から訓練を受けているから、まあ……多分やれるわ」

「だったら……」

「気にしないで下さい。そのための自分たちです」

 

 ハジメとルビーの覚悟を決めている姿を目の当たりにした真嘉は言葉を失う。空気が合っていたと思っていた彼女たちと自分は違う、自分は所詮アルテミス女学園ペガサスでしかない事を突きつけられた気がした。

 

「……オレは」

「──きょうちゃんは、一緒に戦うね!」

「な、響生!」

「小振りな【アジサイ】なら廊下でも、ぶんぶんできるし行ける行ける!」

 

 重たい空気を読めていない元気な声が響く。自身の斧型専用ALIS【アジサイ】を持っている『白銀(しろがね)響生(ひびき)』に真嘉は思わず強く名前を呼ぶが、気にする様子は無く話を続ける。

 

「ありがとうございます。ですが戦闘はあくまで可能性の1つです。なんにしても、こちらから奇襲を掛ける事はできないので最初は様子見に徹します」

「一番は、何事もなく600番の用事が終わって解散することよ」

「おっケー!!」

「言っておくけど、ルビーたちの戦いは銃撃戦だから。正面から突撃とかしないでよね」

「それぐらい分かってますがな~」

 

 ハジメたちと響生が話を進める中、真嘉はこの間の事を思い出す。

 

 ──響生先輩は“鬱病”の可能性があります。

 

 今は先頭車両の見張り台から、外を警戒している(フタ)に言われた響生の病状。気分障害の一種。活力に関わる感情は消失していき、ずっと暗い事ばかりを考えてしまう。それはやがて思考や肉体にも作用し、ついには“卒業”したいという気持ちばかりが強まっていく、そんな病気。

 

 だから、おかしいと思う部分はあるけども、常に明るく振る舞っている友達が“鬱病”であると言われたとき、真嘉は本当かと疑った。

 

 確かに『ペガサス』は肉体こそ『P細胞』によって常時最適化が行われており、健康状態を維持されているが、一方で脳などの神経系に関しては『P細胞』は徹底して不干渉である。そのため単身で『プレデター』と戦える十代の少女たちは何かと心が原因の病気を患いやすい。

 

 例えば『(すずり)夜稀(よき)』はストレスに比例して喉が乾いてしまう『飲料中毒(ドリンカー)』。咲也は『妖精』と呼ぶ自分を責め続ける幻聴に悩まされており、『穂紫(ほむら)香火(かび)』の、不眠症で過眠症なのもそうだ。『アイアンホース』の方で言えばハジメは待って待って病と呼ばれるものがある。

 

 ──『ペガサス』が心に何かしらの問題を抱える事は当たり前と呼べるものなのかもしれない。だけどいつも元気な姿を見せてくれていた友達が、元気を無くしてしまう病気だという、今でも信じられなかった。

 

「でも、もしもの時は頑張るよ、あちょちょとととととちょあー!! って感じで!」

「全然分からないけど、その時は頼りにしているわ」

 

 だけど、もしそれが正しいのなら、響生の振る舞いは人を笑わせたいという願いから来るものではなく、自分の本当を偽るためのものだったとしたら──。

 

「どうしたの、まかまか?」

「──っ!? ……いや、なんでもない」

 

 響生に声を掛けられた真嘉は思考の渦から抜け出せす事ができた。響生に関する問題は、もはや短期間にどうこうできるものではないと発覚した。よって、(フタ)からの助言もあって改めて落ち着いてからと結論を出しており、今は目前の600番台教室列車の事を考えるのが最優先である。

 

「……ハジメ、もし戦うってなったら、オレはどうすればいい?」

 

 だから真嘉が響生の事を後回しにするのは間違っていない。それでも、何処かでホッとしている自分が居て、そんな自分に嫌気を指しつつ、ハジメに自分の役割を尋ねる。

 

「もしも、相手車両が【303号教室列車(サンマルサン)】が乗り込んで制圧してくるつもりで、ここの扉が破壊された場合盾で塞ぎ、盾越しに〈壊時(かいじ)〉を使用して侵攻を防いでください」

 

 【ダチュラ】の内部には正面を映す小型カメラが搭載されており、使用者の思考操作によって盾を構えながらカメラ越しに正面を見ることができ、またカメラを通して〈魔眼〉を発動する事ができる。これを用いて、ハジメは真嘉に【303号教室列車】の扉を防ぐ壁役を頼んだ。

 

「でも間違っても弾を、率先して受け止めようとはしないでよね。いくら先輩の盾が頑丈だとしても耐久テストができないから、どれぐらい防げるか分からないし、弾丸次第では簡単に貫通するかもしれないわ」

「防げない弾って分かるのか?」

「見て明らかにゴツい銃を構えたら警戒して、撃とうとしてくるって事は跳弾せずに貫通できると判断したからだと思ったほうがいいわね」

「あと、そうですね。アスクたちに一緒に戦ってくれるか意思を確認して下さい。もし可能であるならば、もしもの場合、合図したら救援に来てくれるように要請のほうお願いします」

「分かった、この話が終わったらすぐに連絡する」

 

 既に通信機を通して、600番台が合流する事はアスクに伝えられており、気づかれないように距離を数キロ離して付いてきてもらっている。本人は『アイアンホース』と戦いたくないこと、相手の前に現れて本校に気づかれるリスクは承知しているが、劣勢となれば鉄道アイアンホース教育校に気づかれるリスクを承知で、一緒に戦ってもらなければならないとハジメは判断し、真嘉も反対しなかった。

 

「それで、アスクたちに合図を送るタイミングなのですが……真嘉先輩が判断して行って下さい」

「お、俺が?」

「はい、お願いします」

「……わかった、任せてくれ」

 

 そんな大事な判断をする自信がなくてハジメに委ねようとしかけたのを堪える。このままじゃ行けない、変わらないと行けないと通信機を握りしめて、不安な気持ちを誤魔化しながら承諾する。

 

「自分は真嘉先輩の後ろに付きます、ルビーは(ミツ)、響生先輩、香火先輩で前衛(フロント)チームを結成。三名で先頭車両から天井へと上がり、相手車両へと奇襲を仕掛けて下さい。その後ろを(フタ)後衛(バック)に付き支援する。亜寅は常に意識してレーダーを確認して、アスクと『プレデター』の動きをチェック、他の先輩たちは──」

 

 ハジメは手慣れているように、キビキビと戦闘になった際の配置を決めていった。彼女をリーダーとして認めているアイアンホース勢は元からであるが、アルテミス女学園ペガサス勢にも『街林調査』にて編成や戦い方に関して助言を行っている彼女に異議を唱えるものは居なかった。

 

「了解……まっ、何事も起きない事を祈りましょう」

「はい、そうである事を望むばかりです」

 

 ハジメたちのぼやきに、このままスルーするのは違うだろうと真嘉は、無知を承知で話しかける。

 

「なんとかして、戦わずに解決できないか?」

「分かりません。可能性が無いわけではないが、『アイアンホース』たちは車掌教師の命令に忠実な子が多いです。そうしなければ命に関わるので」

 

 ハジメは首輪に触る。それには己を“卒業”させるための毒針が仕込まれており、車掌教師の判断でいうでも起動させる事ができる。つまり『アイアンホース』たちに戦意がなくても、相手側の車掌教師の意思次第で戦闘になる。

 

「車掌教師の説得は難しいでしょう。何かしらの任務を帯びて敵対行動を取っているのならばなおさらです。もしかしたら、その車掌教師は【303号教室列車】に敵意があるのかもしれない、そうすれば、どうしたって戦闘は避けられ──」

〈──こちら【606号教室列車】の『ザクリ』、【303号教室列車】応答されたしぃ〉

 

 ハジメの言葉を遮って、知らない男性の声がスピーカーから発せられる。男性にしては高めであるが、何処か詰まっているダミ声で、『雁水(みずかり)レミ』はアニメで見た、喉に脂肪を蓄えている太っている男性キャラを連想させた。

 

「…………先輩たち」

 

 これからやってくる600番台の教室列車。もしかしたら戦わなければならない相手、初めての人間と同胞たちと戦わければならなくなる相手、その車掌教師かと真嘉は一気に緊張し、ハジメは帽子を深く被って視線を隠し、重々しく口を開いた

 

「──今までの話は、いったん全部無かった事にしてください」

「わか……は? うん? ……うん??」

 

 何を言っているのか分からなかった。よく見ればハジメとルビーから感じられていた緊張感は何処かへと行ってしまっており、非常に渋い顔をしていた。

 

「もしかしてと望んでいた事はありますが……いざ、本当にそうだと変な気分になってしまった」

「あーもう、無駄な時間を過ごしたわ! 下の数字言わないから違うと思ったじゃない!」

「自分たちが勝手に勘違いしただけではありますが……。まあ警戒体制は維持……いや、どうだろうな」

「別にいいでしょ、間違いなくアイツの声だったんだし、なんか変な命令受けたらハッキリ言うわよ……ほら、あんた達も気を抜いていいわよ。解散解散」

「いや、いやいや、説明してくれ!?」

 

 何が起きているか分からないと真嘉が尋ねると、完全に警戒を解いたハジメが申し訳無さそうに話し始める。

 

「600番台の脅威は言ったとおりです、車掌教師がどのような指示を受けて合流するかは分かりません……ですがその、大丈夫です!」

「いや、なんで? なにが大丈夫なんだ?」

「なんといいますか……幾らでも融通が利くことが分かったといいますか……」

 

 どう説明すればいいのか分かないと言った具合に、ハジメは言葉を探す。それにルビーは呆れた様子で溜息を吐いた。

 

「簡単に言うと、【606号教室列車】の車掌教師はね」

≪ゼロ先生ぇ、久しぶりぃ、いやぁ、こうやって再会できて嬉しいよぉ!≫

「──ゼロ先生の支持者なのよ……あと馬鹿」

「そして【606号教室列車】は、戦友が乗る教室列車でもあります」

 

+++

 

 【606号教室列車】は大群で襲撃してきた『プレデター』を想定した攻撃能力、またその現場へと武装を運搬する事を目的に設計された攻撃能力特化教室列車である。装備積載量は第2世代型の標準である400番台と比較して5.2倍とされており、これによって呼ばれるようになったあだ名が“動く火薬庫”。また三車両目には大型砲台が設置されており、唯一教室列車そのものに攻撃能力を保有している。

 

 そんな【606号教室列車】は後ろ向きに走行しながら、【303号教室列車】へと合流を果たした。

 

≪【606号教室列車(ロクマルロク)】、これより後部連結を開始するよぉ≫

≪了解、【303号教室列車(サンマルサン)】減速を開始、速度を調整せよ≫

≪了解ぃ、速度調整を開始ぃ、【606号教室列車(ロクマルロク)】減速ぅ≫

 

 耐久性と防御力を重視し、煙突のない機関車と呼ばれる重厚な【303号教室列車】。それよりも遥かに頑強で重々しく大きい、まさに装甲列車と呼ぶに相応しい外見の【606号教室列車】が後方うしろ向きに接近。二両の教室列車は走行状態を維持しつつ接近し、互いの後部車両に取り付けられている連結器を無事に連結させた。

 

≪連結成功、【303号教室列車(サンマルサン)】に操縦権限を要請(アイハブ)

権限承諾(ユーハブ)、よしよし、上手く行ったぁ。それじゃあいつもどおり、ゼロ先生の好きなようにしてねぇ≫

≪…………権限受諾、これより目的地、『北陸聖女学園第七分校』へと移動する。速度を上げる≫

≪了解ぃ、速度上げる≫

 

 一体となった【303号教室列車】と【606号教室列車】はゼロ先生の管制操舵によって、北陸聖女学園第七分校へと向かい速度を上げた。

 

≪──というわけで、このまま目的地へ直行するからねぇ……ふいぃ、今日はものすごく仕事をしたなぁ≫

「……ナー」

 

 気の抜けた自身の車掌教師の声を聞いて、【606号教室列車】に在籍する『アイアンホース』が1名、不機嫌そうに声を発した。

 

 その『アイアンホース』はブルーグレーの癖っ毛、ハスキーな声に気だるそうな半目から覗き込む鋭い動向。それに相反して、やや小柄な体型の童顔と可愛らしい。制服の上からフード付きのジャケットを着用しており、さらに細々とした道具が全身に取り付けられている。さらにリュックを背負い、自分向けにサイズを調整したものとはいえ、比較して大きな銃型ALISを握っていた。

 

 【303号教室列車】のアイアンホースと比較して、見て分かるほどの重装備であるが、これは【606号教室列車】のアイアンホースにとって、当たり前の格好であった。

 

≪いやぁ、やっぱりゼロ先生最高だねぇ、何時も僕の仕事をしてくれるから、とても有り難いよぉ。今回だって本当は僕が先導しろって言われてたんだけどぉ、どっちが操作してもいいでしょって閃いてさぁ、思い切ってお願いして良かったぁ≫

 

 【606号教室列車】の車掌教師であるザクリは、ぼんやりとした感じで楽できた事を嬉しそうに話し始める。別に会話をしているつもりはなく、単にマイクを細かくOFFにするのが面倒で独り言を呟いているだけである。

 

──ガン!! っとアイアンホースは側の壁を力強く蹴飛ばす。

 

≪うぁ!? もぅびっくりしたなぁ。急に大きな音出さないでよねぇ≫

「やかましい阿呆(トンマ)! 怠けたこと行ってねぇで、ちったぁ自分で仕事しろ!」

≪えぇ、『二個(ニャーコ)』だって、何時もは僕より安心するって言ってるじゃぁん≫

 

 フードを被ったアイアンホース──二個(ニャーコ)の怒鳴り声に対して、ザクリは普通に文句を垂れる。

 

≪も~、最近ほんとうに機嫌が悪いよねぇ。砂丘での作戦もそうだったしぃ、もしかしてずっと、お腹空いているの?≫

 

 本来であれば、アイアンホースが車掌教師に暴言、大きな音を鳴らして車掌教師を驚かせるというのは、即座に“退学処分”や“卒業”があり得るほどの危険行為であるが、ザクリは文句こそ言うものの、気にした様子は無かった。

 

「いい加減黙れ、阿呆(トンマ)

≪分かったから、そんなに怒鳴らないでよねぇ。もう本当にカリカリしてるなぁ──甘いもの食べたら機嫌直るかな?≫

 

 心が広いとも、アイアンホースに脅えているという事ではなく、処分をするというまで考えが至らないのだ。明確に反乱されたってなら、流石に首輪のボタンを押すぐらいの発想はあるものの、これぐらいなら“なんだか機嫌が悪いな”というだけしか思わない。だから二個(ニャーコ)がなんで怒っているのか思い当たらないし、まるで自分の言葉が通じない猫を相手しているように独り言も口にする。

 

「──でもほんと、最近の二個(ニャーコ)は、まじで面白いぜ~。落鳥作戦の事まだ気にしているのか? それとも“活性化率”のことか? ほんと身長に似合うぐらい心が縮んじまっているな? ギャハハハハ!!」

 

 からかい言葉を浴びせ、さらには汚らしく爆笑しながら二個(ニャーコ)に寄ってきたのは、髪を雑に括っている事で黒と白が二重螺旋状になっているアンダーヘアー。むき出しに見せる歯、小柄な二個(ニャーコ)とは真逆と言ってもいい、高身長でグラマラスな体型なアイアンホース。弾倉をセットできるタイプの防弾チョッキを身に着けており、吊り具(スリング)の付いたマシンガン型ALISを肩に掛けていた。

 

「ナー、お前も黙れ一個(ワンコ)、“アイツ”の面倒はどうした?」

「飽きちまったから部屋に転がしておいたぜ。まあ丸裸にしておいたから、なんも出来ねぇだろ」

「ナー……おい、丸裸って装備の話か?」

「いや、衣服も全部だぜ。ああ、なんも出来ないって間違ってたな、自分の穴に指突っ込むぐらいならできぐほっ!?」

 

 小柄な見た目からは想像できない威力を秘めている二個(ニャーコ)の右ストレートが、一個(ワンコ)の腹に減り込む。防弾チョッキ越しである筈なのに衝撃が内臓に伝わり、巨体がくの字に曲がる。

 

「あー痛てぇ……くくっ、何だよ、元気じゃねぇか」

「お前の、うんざりな馬鹿(おつむ)加減ぐらいにはな」

「んで、実際どうするよ? 最後まで隠居するつったって介護はうんざりだぜ?」

「知るか、あのままなら蹴り飛ばすだけだ。この列車に乗った以上は、自分の指示に従ってもらう、例えどんなものでもな」

 

 ふんっと鼻を鳴らして、そっぽを向く二個(ニャーコ)に、一個(ワンコ)はどこまでも汚く笑う。

 

「ギャハハ、ほんと変わんねぇな。お前も、自分も、案外【303号教室列車(サンマルサン)】の連中もなにひとつ変わってねぇんじゃねぇか?」

「……ナー、ふざけた妄言をいうんじゃねぇ」

 

 声色は変わらず刺々しく、だけど長年の付き合いである一個(ワンコ)は言葉に乗っている感情が、先程までとは違う事を機敏に感じ取っている。なんならひと殴りしてこないだけで、だいぶ刺さった事は確かだ。

 

「だって(ハジメ)とルビーだぜ? そいつらと一緒に、何度だって全員で生き延びてきたのが自分らだろ? 奇跡があってもおかしくねぇさ」

「ナー、その奇跡っていうのは、みんな仲良く“卒業”って意味か?」

「いいじゃねぇか。別にそれで、自分らは『アイアンホース』だろ?」

 

 銃型ALISに表示された【84%】と表示される己の活性化率を見せつけながら睨みつけてくる二個(ニャーコ)に、【87%】の一個(ワンコ)が二カッと犬歯をむき出しに笑いながら答える。

 

「まっ、なにしたってこれで最後なのは間違いねぇ、だったらせめて、会いに行こうぜ。鳥取砂丘での作戦生き残ったご褒美だって事でよ」

「……お前はほんと、バカ犬だよ」

「賢すぎてすぐに余計な事を考えてナーバスになっちまうチビ猫様にはお似合いだろ? ぎゃはは痛てぇ!?」

 

 一個(ワンコ)は頭が悪い。難しい事を考えられない。だからこそか、どんな状況であれ決して動揺せず、脅えず、変わらず、いつもの調子で汚らしく笑う。なるほど、アイアンホースの癖に余計な事を考える自分のような馬鹿猫には確かに、お似合いだ。二個(ニャーコ)は、張り詰めていた心が少しだけ軽くなった気がして、いつも通り肘蹴りを食らわせる。

 

「まあいい、とっとと【303号教室列車】に行くぞ。北陸聖女学園へ仲良しこよしで向かう理由も気になる。何か知ってるなら到着する前に情報を共有する」

「へいへい」

「こちら二個(ニャーコ)、ザクリ車掌教師へ。ただいまより【303号教室列車】へと移動する」

≪分かったぁ、でも何時も言ってるけど、そんな細かい事、いちいち報告しなくていいからねぇ≫

 

 ──ドガッ! っと二個(ニャーコ)は側の壁を殴りつける。

 

≪うわっ! だから大きな音出さないでってばぁ!≫

「やかましい! ちゃんと報告を聞け、だからお前は阿呆(トンマ)なんだよ!」

「くくっ、このやりとり何千回目か数えておけばよかったか? なんだっけ? ガメス、ギネス、グネス……まあいいや、上司に暴言を吐いたアイアンホースって世界記録狙えたかもな!」

「知るか」

 

二個(ニャーコ)は【303号教室列車】へと移動するため後部車両の後ろ扉へと向かう。

 

 ──【303号教室列車】には(ハジメ)という『アイアンホース』が居た。そいつと組んだ作戦は、どれだけ苦しくとも、難しくとも最後には成功して生き延びる事ができた。だが、そいつはもう居ないという。本当の英雄になってしまったという。

 

 それでも、アイツの奇跡を目の当たりにしてきた二個(ニャーコ)は、心の奥底に僅かながら燻ってしまうものがあった。だけど、そんなものは希望の残りカスにしか過ぎない。【303号教室列車】の扉を開いたら、教室列車同士の間から車内へと入り込む風に、いとも簡単に沈下されてしまうのだろう。

 

「……ナー」

 

 扉を開こうとした腕が止まってしまう。そんならしくな自分に鳴き、改めて扉を開き、車両を繋ぐ連結器をまたぎ【303号教室列車】へと移動した。

 

「あん? おい立ち止まってどうし──おいおい」

 

 ──懐かしい【303号教室列車】の後部車両廊下にて二個(ニャーコ)が前を向いて立ち止まり、その理由を見た一個(ワンコ)は、思わず片手を頭に乗せて目を見開く。

 

「……久しぶり……ですね。一個(ワンコ)二個(ニャーコ)

 

 【303号教室列車】の後部車両廊下に入ると、先程まで頭に思い浮かべていた英雄が代わり映え無く立っていて、少し気まずそうに帽子を弄りながら声を掛けてきた。

 

「……ハジメ?」

「こうして、再び会えて、本当に嬉しく思います……よく、生き残ってくれました」

 

 我慢しようと思っていたハジメで合ったが、いつ“卒業”してもおかしくなかったのは相手だってそうだ。この奇跡的な再会に、今にも泣きそうな声色を出してしまい、それを誤魔化すために帽子を深く被る。

 

「………………」

「………………」

「………………二個(ニャーコ)?」

 

 冗談みたいな沈黙が廊下に流れて、教室列車の走行音がひどく耳の中に入ってくる。驚いているとはいえ、もうそろそろ何か反応があってもいいのではと、ハジメは二個(ニャーコ)の顔を見て──青ざめる。

 

「ばーか、二個(ニャーコ)相手に平和的に終わる筈ないでしょ」

「……謀りましたね、ルビー」

「元を辿れば、全部あんたが原因なんだから、責任を取りなさい」

 

 部屋の隙間から、聞き覚えのある小さな声がしたが、二個(ニャーコ)は気がついてない。何故ならハジメを鋭い瞳で睨みつけながら、脳内で暴れる激情を整理することに必死であったからだ。

 

 生きていたのか、誤報だったのか、てめぇなんで平然と出てきてやがる、なに隠してやがる。言いたい事が頭から思い浮かんでは消えて、そうやって最後に残ったのは、このフザけた再会に対する苛つきである。

 

「──ナァー。ふざけんよてめぇ……ただで済むと思うな」

「おっと、やべやべぇ」

 

 二個(ニャーコ)は銃型ALISを床に置いて、フードに取り付けてある細々とした装備品を次々と外していく、それを見た一個(ワンコ)は危険を察知して即座に離れる。

 

「待ってくれ二個(ニャーコ)、先ずは話し合いましょう」

「黙れ」

 

 顔を真っ青にしながらハジメが静止の声を上げるが、もう手遅れだ。

 

「シネェ!!」

「本当に待って下さい! こんな狭い廊下で二個(ニャーコ)と格闘戦をしたら流石にただじゃすまうおおおおおおお!!??」

「ぎゃははははははははははははは!!!!」

 

 フード付きのコート以外の装備を外して身軽になった二個(ニャーコ)は躊躇いなく、ハジメに拳を突き出した。その様子に一個(ワンコ)が、腹の其処から爆笑し、【303号教室列車】の廊下に笑い声が響き渡る。

 

「……止めたほうがいいか?」

「いいわよ、気が済むまでさせておきなさい。担任も不器用なら、アイツも不器用なのよ……だから、こっちのほうが色々と手っ取り早いってわけ」

 

 不安そうに尋ねる真嘉に、ルビーは素っ気なく答える。ハジメを二個(ニャーコ)に差し出した事に罪悪感を抱いていない様子に、ペガサスたちは内心で鬼だと思った。

 

 ──このあとハジメは対抗こそするも、格闘戦において圧倒的実力差を持つ二個(ニャーコ)相手では、気が済むまで殴られ続けるサンドバックになるのは時間の問題だった。




英雄集団再結集。


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