この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」   作:庫磨鳥

93 / 101
ちょっと遅れました。

紅葉崎もみじさんに支援絵を頂きました。本当にありがとうございます!
[九重ハジメ]
格好いいギャップ可愛い。
[外出中。いい感じの棒を見つけ、はしゃぐ4人]
鉄骨を軽々持てるのに、木の枝ではしゃぐの可愛い。


第六十二話

 北陸聖女学園・第七分校。第1荷役施設アルカイドにて荷物の出し入れをする四脚の作業用ロボットが、『(すずり)夜稀(よき)』へと勢いよく迫る。いくら『ペガサス』と言えど、総重量数百キロはあろう金属の塊であるロボットに轢き潰されてしまえば、ただでは済まない。

 

「あ……あ!」

 

 迎撃は出来なくても、回避するなり動かなければならない。だが、夜稀は頭が真っ白になって硬直してしまう。

 

「──夜稀っ!!」

「ぐっ!?」

 

 夜稀は、真横から飛びかかってきた『ペガサス』に抱きしめられて、その場から強引に離脱する。誰も居なくなった地点を作業用ロボットが通過する。

 

「馬鹿っ! なんで、ひとりで外に出たのよ!?」

「うっ、ゲホ……よ、咲也先輩」

 

 夜稀を救った『ペガサス』は、『篠木(ささき)さや(さや)』。彼女だけなのは自分の専用ALISである大鎌型専用ALIS【バーダック】の本体内部に取り込んだ空気を圧縮して噴出させる事で加速する推進機能を使い、誰よりも早く夜稀が居る地点へと辿り着いたからだ。

 

 ──『後輩の失敗がそんなに嬉しい?』『いびっている場合じゃないよ?』『来てる』『きてるよ』『周りが見えてないの?』

 

「っ! 話は後よ……あいつは何?」

 

 『幻聴(妖精)』に指摘された咲也は、自分たちを通り過ぎた作業用ロボットを見る。すると上半身を回転させて、こちらに正面を向けている最中であった。

 

「ゲホ……チョウ型プレデターが操作している。無線遠隔操作ができる運搬作業用ロボットだと思う」

「体に張り付いている、あの光っている小さいひらひらなのが本体って事?」

「うん、そう」

「厄介ね……あのロボットを止められる方法って分かる?」

「ごめん、分からない……ただ、多分だけど【バーダック】の刃だと、通せる箇所がないかも」

 

 所有者を加速させるために極限な軽量化を施されている【バーダック】であるが、製造元の械刃重工の技術力によって、日本刀並の切れ味が保証されている。しかし、流石に金属を切断する事は想定されておらず。生物部位が存在しない作業用ロボットとの相性は最悪であった。

 

 ──『来てるよ』

 

「わかってる……!」

 

 再び作業用ロボットが四足ローラーを高速回転して走り出す。咲也は迫りくる作業用ロボットに対して跳躍、【バーダック】に溜め込まれた空気を噴出して急加速した。

 

「あの張り付いている、『プレデター』に操られてるなら──!」

 

 滑空の最中、体を倒して縦軸に回転、作業用ロボットの上空を通過する。大鎌の形をしている【バーダック】の刃が振り子ギロチンの如く、本体には触れず、肩あたりに纏わりついていた蝶形プレデターを何匹か切り裂く。

 

 ──『無駄』『数が多すぎる』『見れば分かるでしょ?』

 

「だから、分かってるわよ!!」

 

 運搬用ロボットに変化はない。蝶型プレデターはまだ百匹以上はおり、全てを切り刻むとなれば、途方の作業となる。

 

「咲也先輩!」

「この隙に逃げなさい!」

 

 攻撃を加えられたためか、作業用ロボットは咲也に標的を移したようで再び上半身のみを反転、咲也をカメラの視点を合わせて動き出す。咲也は反転して真横に跳躍、パレットラックの棚の部分を蹴り、反対側のパレットラックへと映る。さらに同じように蹴って反対側へと映るを繰り返し、三角飛びの要領で天井付近まで登り、棚を掴んだ。

 

「なっ!?」

 

 自分が狙われているなら囮となり、作業用ロボットが手の届かない場所まで来て時間を稼ぐ。そういう算段だったのだが、真下を見ると作業用ロボットの胴体が勢いよく伸びて、自分の方に向かっていた。

 

 天井付近の高さにある棚にも荷物の出し入れができる作業用ロボット、その上半身は360度回転するだけではなく、フォークリフトの刃と同じように上下に伸ばす事が出来た。咲也が居る高さまで辿り着いた上半身は、即座に咲也に殴りかかる。

 

「くっ!」

 

 咲也は咄嗟に手を離して自由落下。作業用ロボットの拳は荷物が詰まったコンテナが当たり陥没する。落下途中に【バーダック】の内部に溜め込まれた空気を地面に向かって噴出。落下速度を落としつつ着地する。

 

「ほんっとに厄介!」

 

 愚痴を零す咲也であるが焦りはない。時間稼ぎはちょうど済んでいた。

 

「真嘉!」

「──【ダチュラ】!」

 

 追いついた『土峰(つちみね)真嘉(まか)』が、作業用ロボットの背後から盾型専用ALIS【ダチュラ】の杭で四脚の一本をぶん殴り、へし折った。これにより作業用ロボットは重たい上半身を支えるだけのバランスが保てなくなり、転倒。足のローラーが床から離れてしまう。

 

「遅くなった!」

「まだ終わってないわ!」

 

 咲也が真嘉の下へと駆け寄る。そのあいだ作業用ロボットは両腕を使い、まるで人間のように起き上がろうとしていた。

 

「これ、『プレデター』なのか?」

「違う、ロボット。あの肩とか頭に沢山付いている青白いのが『プレデター』」

「『プレデター』がロボットを操っているのか?」

「そうみたい。でも倒そうにも数が多くて……」

「──だったら話が早いわ先輩たち。まとめて吹き飛ばせばいいのよ」

「ルビー!?」

 

 会話に入ってきたのは、同じく到着したアイアンホースのルビー。彼女はショットガン型ALIS、

KG4-SG/t3(ケージーフォー・エスジー・タイプスリー)】の銃口を作業用ロボットに向けていた。

 

「衝撃注意よ!」

 

 言い切る前に、真嘉が咲也の前に立ち【ダチュラ】を構える。ルビーは引き金(トリガー)を引くと、ポンっと聞こえかたによってはコミカルな音と共に発射された“炸裂弾”は、作業用ロボットの肩に当たり爆破、外装とチョウ型プレデターを爆風で吹き飛ばす。

 

「全部じゃなくても、ある程度減らせれば動けなくなるみたいね」

 

 位置的に爆風を受けずに生き残ったチョウ型プレデターは、作業用ロボットから離れると何処かへと飛んでいく、ルビーは何発かの散弾で撃ち落とすが、全てとは行かず、弾の無駄だとして構えを解いた。

 

 作業用ロボットは、チョウ型プレデターが離れた事で完全に機能を停止させた。

 

「真嘉……それとルビー……その……助かったわ」

「どういたしまして」

 

 こんな近くで炸裂弾を使うなんて、飛ぶ破片の当たり所とか考えなかったのと、文句のほうが先に出かけた咲也は必死に飲み込み、感謝を口にする、そんな先輩を面白いと思っているルビーは素直に受け入れた。

 

「それにしても、早かったわね」

「ハジメの『魔眼』で、飛ばしてもらったんだ。もう少ししたら、アイツらも来てくれる」

 

 夜稀が外へと出た時、誰よりも早く咲也が外へと出て追いかけた。その時、真嘉たちは、まだ車内で準備をしていたぐらいであったが『九重(ここのえ)ハジメ』の『魔眼』、視界内の対象を瞬間移動させる事のできる〈監那(かんな)〉によって、真嘉とルビーをなるべく、目的地に近い場所へと瞬間移動。これによって真嘉とルビーは、いち早く追いつく事ができた。

 

「夜稀は?」

「あっちだ。夜稀!」

 

 真嘉が呼ぶと、夜稀は明らかに落ち込んでいる様子で先輩たちの側による。

 

「私はハジメたちに連絡入れておくから、話を聞いておいてちょうだい」

「頼む」

 

 ここは、アルテミス女学園流に任せたほうがいいだろうと、ルビーは距離を離して、通信を始める。

 

「……夜稀、どうしてひとりで行動した」

「まだ確証を持てなかったから……考えすぎだと思って……ごめんなさい……」

 

 戦闘が終わり、冷静になった夜稀は感情的に行動し、“卒業”の危機に陥って、みんなに迷惑を掛けてしまった事を深く反省しており、心から気落ちしている。

 

「本当に気をつけて、夜稀に何かあったら、私たちもお終いなのよ?」

「うん……ごめん」

「そ、そんなに落ち込まなくても……〜〜っ! わ、私も言い過ぎたわ」

「とにかくだ。次からは確証が無くても、思いついたなら遠慮なく言ってくれ」

「うん……分かった」

「咲也もあまり気にするな」

「……別に、大丈夫よ」

「それで夜稀、いったい何があったんだ?」

 

 既に反省している後輩に追い討ちを掛けてしまったと、『幻聴(妖精)』に責められている咲也。これ以上はお互い傷つくだけだとして、真嘉は早々に話を終わらせて、話を次に進める。

 

「……理由は分からないけど。ここ北陸女学園、第七分校は内部にチョウ型プレデターが侵入している異常事態に見舞われている」

「プレデターが……だったらもう、この学園は……」

「──すでに壊滅しているのかもね」

「ルビー……」

「ハジメたち、もうすぐ合流するわ」

 

 口ごもる真嘉たちに、連絡が終わったルビーがハッキリと告げる。軽い口調とは裏腹に、その予想はあまりにも重たいもので、真嘉たちの気分を沈ませた。先程まで大人たち相手に、上手く立ち回れるのか、秘密を守れるのかばかり考えていた真嘉は、気持ちを上手く切り替えられない。

 

「それにしても、あれがチョウ型プレデターなのね。実物は初めてみたわ」

「知っていたのか?」

「ええ、視認したら報告必須の『プレデター』。『アイアンホース』なら全員が、そう教わるものよ」

「それほど恐ろしいものなの?」

「うん……無線による遠隔操作が出来る機械なら、なんだって乗っ取ってしまう『プレデター』。現代において機械の操縦技術を人間が直接操作する完全なアナログ式にするか、AIによる完全自立型にするか両極端にしなければならなくなった元凶。それが、最先端の技術が集結しているとされる北陸女学園に居るなんて……」

 

 旧時代、兵器の無人化が進んでいた事もあって、軍用無人機の反乱を引き起こした歴史は、技術を嗜んでいる夜稀として想像が容易く。だからこそ、どの『プレデター』よりも考えるだけ恐ろしく感じてしまう。

 

「……逆にって言ったらおかしいかもだけど、なんで最先端の技術を扱っている学園内に、チョウ型プレデターが操れるロボットが居るの?」

 

 咲也は機械について、あまり分からないが、夜稀の口ぶりからして人間はチョウ型プレデターの対策を行うのが常識なのに、どうして北陸女学園で使われている作業用ロボットは乗っ取られていたのか、純粋に疑問に思った。

 

「……その……たぶんだけど閉鎖環境だからこその作業の効率化による思想の違いというか……AI機器は非常に便利だけど、結局はどの時代でも人の手は必要な部分があって、ちょっと……状況によっては煩わしくなる部分があったりする可能性が……」

「なんで夜稀が申し訳なさそうにするのよ」

 

 確かにAIは賢く、データさえあれば大抵の事は何でも出来るようになる。だけど、人間に準ずる機械の限界というべきか、自己判断にはどうしたって限界があった。そのため細かな指示を出すよりも、自身の手で作業したほうが早いという場面は意外と多い。さらにいえば無線ネットワークを使えないということは、一々指示出しは指示を出すための機械に繋げて命令を送る必要があるということ。それが複数同時に稼働且つ別々に作業を行わせるとなると、専門的な微調整技術が必要となり、夜稀にとっては、そちらのほうが難しい。

 

 なので、完全自立AI任せの作業は思いの外面倒で煩わしい部分があり、北陸聖女学園に無線通信による遠隔操作形式の作業用ロボットが導入されているのは、なんとなく物臭な理由なんだろうなと夜稀は察してしまい、本当は駄目なんだろうけど気持ちは分かってしまうものであった。

 

「──真嘉先輩、状況は?」

「全員無事だ」

「夜稀先輩、無事ですか!? なんていうかこう、本当に意外とアグレッシブですよね!? 流石に駄目だと思いますよ!?」

「うん、本当にごめん……」

 

 そうこうしていると、ハジメ、それに『穂紫香火』、『白銀響生』、『(ミツ)』と、前衛かつ戦闘に適した三名、そして全員の位置が分かる案内役の『鈔前亜寅』の計五名が、各々の『ALIS』を装備して合流した。三年も違う後輩である亜寅に対して、夜稀は改めて自分の身勝手な行動を猛省する。その間に真嘉はハジメに、自分たちの身に起きた事を説明する。

 

「──つまり、この北陸女学園・第七分校は『プレデター』の襲撃にあって、すでに壊滅状態になっている可能性が高いと?」

「『プレデター』が居た事は確か、でも、学園の事は分からない。もしかしたら、ここだけで皆奥の方に避難しているかもしれない」

「迎えひとつ来ない理由には適しているけどね。先生たち忙しそうにしているのも、その対応に追われているからじゃない?」

 

 夜稀との応答にハジメは思案する。まだそうと決まったわけじゃないが、少なくともただならぬ異常事態が発生しているのは確かだ。

 

「少なくとも、これだけの規模の学園なら大量の『プレデターパーツ』が外壁に埋め込まれているのは確か。それなのに『プレデター』が侵入している。これだけでも余程の事態だよ」

 

 『プレデター』は、人間を殺傷する事に特化している。そのため、人間を発見する事にも長けている。それこそ有名な話では小型種であるカブトガニ型の索敵能力は、数キロ先の人間を探知するほどだ。それほどまでの索敵能力を有している『プレデター』から、如何にして人類は未だに地区を設けて生活出来ているのは、ひとえに『プレデター・パーツ』の副次恩恵によるものだった。

 

 プレデターの外殻を加工した『プレデター・パーツ』は『プレデター』のセンサーから人間を隠す事ができる。これによって大量に『プレデター・パーツ』が使用されている地区は『プレデター』に発見されにくくなり、集団で生活する事が可能となっている。とはいえ、あくまでも誤魔化す事ができるのはセンサー機器であるため、目視発見されてしまえば問答無用で襲撃されてしまうものだが。

 

 ちなみに人類側は、どうして発見しづらくなるのか理由は諸説あるが、まだ完全証明されておらず。レガリア型たち曰く、『ペガサス』と同じように人間の反応がパーツ内に残留する『P細胞』の反応に重なって認識しづらくなるからだと推察されている。

 

「……どうやら話が盛り上がり過ぎちゃったみたいね」

「え? ……あ」

 

 機械の駆動音とローラーが入り交じる音が、段々と近づいてくる。気づいて何かしらの反応を露わにする前に、先程と同じチョウ型プレデターに操られている複数の作業用ロボットが、真嘉たちを前後挟む形で現れた。

 

「さっき逃がしたやつが、仲間と合流して復讐しに来たって事かしら?」

「言ってる場合!?」

 

 驚きの超えを上げる真嘉に、あくまで余裕に振る舞うルビー。それに抗議を上げる咲也と一瞬で状況が混沌とする。作業用ロボット二十機は逃げ道を塞ぐために二列になって、ゆっくりと真嘉たちに近づいてくる。

 

「き、来てますけど、どうするんですか!?」

「対処します。真嘉先輩たちは、そちらをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「分かった、そっちは任せたぜ」

 

 戦闘経験が少ない亜寅が狼狽えるなか、ハジメと真嘉は細い縦道で銃型の前に戦うのは危険であるとして、即座に『ペガサス』と『アイアンホース』に分かれて、背中合わせで戦う事を決める。

 

「夜稀、やつらの急所、および防御力がどれくらいか分かるか?」

「多分、見る限り上半身に大事なパーツが詰まっていると思うから、胴体のどこかしらにダメージを与えれば……」

 

 夜稀は作業用ロボットを〈真透(しんとう)〉で透過して内部を見る。それが実際なんのパーツであるかは形で予想するしかないが、上半身にはバッテリーやアクチュエーター。エンジンに制御盤と機械が動くために必要なものが全て搭載されていた。

 

「外装は、あくまで荷物を運搬するためのロボットだから、そこまで固くはないと思う……でも、貫通力ない弾だと部品の中には『プレデター』の外殻以上に頑丈なのもあると思うから、それに当たると跳弾しちゃう可能性も低くはないと思う」

「了解した。ルビー」

「言われなくても、分かってるわよ」

 

 ルビーは散弾では跳弾の危険性があるとして【KG4-SG/t3】を肩の、片手剣型専用ALIS【ナズナ】に持ち替えた。

 

(ミツ)は【303号教室列車】に戻って、増援を呼んできて下さい」

「分かった!」

 

 ハジメの指示に(ミツ)は瞳を光らせて、視界内の物体をすり抜ける事ができる〈通家(つうか)〉を発動。パレットラックのほうへと走る。(ミツ)の小さな体は荷物に接触すると、まるで実体のない幻であるかのようにすり抜けていき、最短距離で【303号教室列車】へと戻る。

 

「──真嘉は、夜稀と亜寅の側に居て」

「分かった」

「響生と香火。やる事は分かってるわよね?」

「分かって曼荼羅!」

「ん……」

 

 アルテミス女学園ペガサス側は、いつものように咲也がポジションの指示を出す。最低限であるが準備が完了したところで、最前列の作業用ロボット前後二列、計四機は十分に近づいたと判断したのか、脚ローラーの回転を上げて一気に距離を詰めてきた。

 

「攻撃開始!」

 

 ハジメは自分の相棒であるマークスマンライフル型ALIS【KG9-MR/《ナイン》】を構えて、狙いを付けて、引き金(トリガー)を引いた。それだけで銃口から音速の弾丸が放たれる。

 

 ダンダンダンと三度の発砲と共に、ハジメの正面に居た作業用ロボットの胴体部分に三つの穴が開くが、動きが止められない。どうやら急所には当たらなかったようだ。

 

「行ける?」

「貫通するなら、どうとでもなる」

 

 ハジメは冷静に狙う箇所を変えて撃っていく、八発目にて急所に当たったのだろうか作業用ロボットは急停止。内部から爆発音が響いたと思えば、煙が上がり、張り付いていたチョウ型プレデター群が何処かへと飛んでいく。

 

「見た目だけで言えば、可愛いんだけどね!」

 

 続けてルビーが動き出す。【ナズナ】を両手にしっかりと握りしめて、迫りくる作業用ロボットへと、こちらから距離を詰めると、前足に斬り掛かった。

 

 作業用ロボットに触れた【ナズナ】の刀身は、持ち手であるルビーの押し付ける力に寄って竹のように(しな)る。

 

 ルビーは、このまま斬りかかれば、外装に傷を付けるだけで終わってしまうと判断。思念操作を行い【ナズナ】の刀身の硬度を変化させる機能を使い、簡単に曲がるまで柔軟にした。刀身を限界まで曲げたルビーは受け身の態勢をとると、再び【ナズナ】の硬度を変化させる。今度は真逆、曲がるほど柔らかかった刀身を、真っ直ぐに戻す。

 

「戻りなさい!」

 

 形状復元によって生まれた弾力を全て、作業用ロボットに加えるように【ナズナ】を振り抜く、その結果、脚の外装が粉々に砕かれる。中身の部品が周囲に飛び散り、人間で言う骨に分類する金属の軸は、折れる事は無かったもののひどく歪み、ローラーの回転が止まる。

 

「これ、刃の付いた鈍器の間違いじゃないの?」

 

 ロボットの脚を軸ごと砕ける威力が出るとは思わなかったと心配になり、刀身を確認するが傷ひとつ付いておらず、想像以上の頑丈さにドン引きする。

 

「でもやっぱり、あなたは本当に最高ね。【ナズナ】」

 

 本来、【ナズナ】が撓るのは、片手で振るっても強固な防御力を誇る『プレデター』を相手に通用する攻撃力を確保するためのものである。そのためルビーが使ったように弾性を相手に押し付けて破壊するというのは、想定外の使い方であるものの【ナズナ】は耐えきった。械刃重工脅威の技術力である。

 

 とはいえ、作業用ロボットの脚を破壊した衝撃力は、込めた力、曲げた角度、タイミング、体制の完璧具合、全てに置いて最大理論値と叩き出した結果であるが、ルビーは人外としての腕力と体幹、そして『アイアンホース』になる前から培ってきた戦闘技術があってこそ、初めて“技”として成り立つものであった。

 

「貴女も先輩の相棒を継承したらどう?」

「考えておきます」

 

 ハジメは返事をしつつ、ルビーが脚を壊した作業用ロボットの【KG9-MR/《ナイン》】で風穴を開けてトドメを刺す。その位置は先程動作が停止させたさいに撃った所で、同じように内部爆発が起きて、煙が吹きだし、沈黙する。

 

「リロードします」

「ハジメ、残りの弾は?」

「急いでいたから、残り二個」

「あまり余裕はないわね。間違ってもルビーの頭を撃たないでよ?」

「善処するよ……二列目が来ます」

 

 二列目に居た作業用ロボットは、両腕で胴体を守りつつ、前列を押しのけて前に出てきた。

 

「学習能力有りか、面倒ですね」

「にしては脚下が留守ね。対応するにも限界はあるって事かしら?」

「自分がトドメを刺します、ルビーは隙を作ってくれ」

「了解、でもあんまり【ナズナ】に無理をさせないでよ。こう見えても繊細かもしれないんだから」

「きっとルビーと同じように強い子ですよ」

 

 ハジメとルビーのアイアンホースコンビは、何時もの調子で軽口を叩きながら、戦闘を再開する。

 

 +++

 

 ハジメが一体目を倒したあたりで、アルテミス女学園ペガサスたちも戦闘を開始する。

 

 まず初めに動いたのは咲也、自身の【バーダック】では刃を通すのが難しいならと、即座に囮役になる事を決めて真っ先に前を出た。最前列の作業用ロボット二機は咲也に向けて直前まで迫る、すると咲也は【バーダック】の加速機能を用いて、真横に緊急離脱。

 

「今よ!」

「ダラランダダだー!」

「ふぁ……」

 

 標的の咲也を追うためにカメラが、正面から横に逸れたのを見計らい。その隙に響生と香火が前列二機に向かって距離を詰める。

 

「イッテヨー!」

 

 小柄の響生は、作業用ロボットの目前まで迫ると跳躍。三日月斧型専用ALIS【アジサイ】を振るい、肩に直撃させる。しかし、斜めに“深めの切れ込み”こそ入ったものの、作業用ロボットは問題なく稼働を続けており、響生に殴りかかる。

 

「おっとっと、トトト!」

「無事か!?」

平平(ひらたいら)気気(きき)だよ!」

 

 響生は作業用ロボットを蹴って後ろへと跳躍、拳を回避しつつ、真嘉の所へと戻る。初撃の成果は“切り込み”を入れただけで終わったが、響生の戦いにおいて深めの切れ込み、すなわち“溝”を作るというのは、勝敗の決定権を彼女に与える事を意味する。

 

「──創哭(きずな)

 

 無感情な宣告と共に、響生は己の『魔眼』を発動する。その対象は装甲に付いた切り傷()

 

 ──べき……べきべき……ベキベキベキベキベキ!!

 

 無慈悲で絶対的な力によって“切り傷”が斜めに割れ裂けはじめる。破片が飛び散り、中に詰まっていた機械の体を動かすための大事な部品が露わになり、外へと零れ落ちる、コードがブチブチという音を奏でながら引きちぎられていき、首が落ちる。

 

 〈創哭(きずな)〉は視界内にある物体の溝を広げる能力であり、これを用いて短期決戦するのが白銀響生の戦い方であった。そのため彼女の専用ALISである【アジサイ】も、『魔眼』を使用する事を前提に作られている。

 

「ひえ……」

 

 斜め上下に体が引き裂かれ、首が取れて動かなくなる。ロボットとはいえ、惨たらしい姿に亜寅が、顔を真っ青にして怯えた声を漏らす。

 

「響生、活性化率は?」

「高め~、連発はできないかな」

「そう……気をつけてよね」

「分かってるよー」

 

 咲也は、気にした素振りを見せずに響生に話しかける。〈創哭(きずな)〉は対象によって活性化率を上げる、作業用ロボットは固く巨体であるため、その分、活性化率が上昇する数値も高くなってしまった。“血清”がある限り、下げられるとはいえ、戦闘中は難しく、アスクが居ないとなれば念入りに気にしなければならない。

 

「……香火の方は……問題なさそうね」

 

 続いて咲也は香火の方に目を向けると、想像通りの光景が目に入り安心する。

 

「ん……ふぁ……」

 

 大きな欠伸をする香火、大規模侵攻のさいに襲われた、量産型である【第三世代ALIS・槍】を握りしめる。その側には脚が切断されており、胴体に穴が開いて、すでにチョウ型プレデターが飛び立っていた作業用ロボットが横たわっていた。

 

 穂紫は脚を斬って動きを止めたと思えば、ハジメが撃って停止させた急所と同じ部分を突き刺した。それをあっと言う間に行っただけである。ずっと寝て起きてを繰り返す穂紫香火、アルテミス女学園ペガサス“最強”と呼ばれるだけあり、その実力は健在である。

 

「これなら行けそうか?」

「──いいえ、真嘉先輩、このままではジリ貧です」

 

 二列目が防御姿勢を取った事で倒すのに時間が掛かった、これによって距離が徐々に縮まっている。ハジメの場合は【KG9-MR/《ナイン》】の弾数も心許ないため持久戦に持ち込まれたら危険だと判断する。

 

「だったら速攻で倒さないとな。オレも攻撃に加わる」

「……!? ちょっと真嘉、こいつら増えてる!」

「なんだって? まだ居たのか!?」

「いや、いくらなんでも多すぎる気が……」

 

 二十騎だったロボットたちの列が、いつの間にか増えている事に咲也が気づく、確かに広大な施設であるが、流石に多すぎるのではと夜稀は疑問に思い、増援を見るとフォルムが多少違ったり、腕が無かったりしているのが混じっている事から、仕舞われて放置されていた旧式や故障品を起動したのだと当たりを付ける。

 

 また、夜稀は知り得ない事であるが、この作業用ロボットが無線通信による遠隔操作なのは、ここ第一施設のみならず、第七施設全域で個人使用を想定されたからでもある。自分が欲しい荷物を、その場所からロボットを遠隔操作を行い運ぶためのもの。だから数は夜稀がイメージするよりも多くが稼働できるように用意されていた。

 

「こっちの応援は……来なさそうね。あっちも襲われてるって事かしら?」

「れ、冷静に言うことですか?」

「あくまで、仮定の話しだし。本当に起きていたとしても慌てたって仕方ないでしょ?」

 

 高等部先輩たちの戦いぶりを見て、自分は邪魔にしかならないなと悟り、夜稀の隣で大人しくしていた亜寅の問いかけに、ルビーは平然と答える。仕方ないのは確かであるが、余裕なのは【303号教室列車】には、【606号教室列車】と腕っぷしだけは本物のアイアンホースたちが残っているからであった。

 

「真嘉先輩、片方に攻撃を集中して、数を減らしつつ、そちらに向かって進行しませんか?」

「あ、ああ、わか──あぶねぇ!」

 

 真嘉はハジメの前に立ち【ダチュラ】を構える。曲線状に落ちてきた四角い物体、中身が詰まったコンテナを受け止める。

 

「ぐっ!? ──〈壊時(かいじ)・弐〉!」

 

 腕から伝わった負荷から、このままでは押しつぶされると判断した真嘉は、咄嗟に『魔眼』を発動。コンテナを空中て二秒間停止させた後、ハジメと共に離脱する。

 

 コンテナが動きだし、地面へと打つかる。その重さから跳ねることなく、鈍い音を響かせる。

 

「真嘉、どうしたの!?」

「荷物が飛んできた! ……アイツか!」

 

 ハジメたちと対面しているほうの後列に位置する、作業用ロボットが胴体を伸ばしていた。パレットラックからコンテナを取り出して、そのままハジメに向かって放り投げた事が分かる。再びコンテナを掴んで持ち上げる。それに随従して他の作業用ロボットも同じように荷物を取り出し始めた。

 

「ほんとに不味いわね……」

 

 前列が盾役に接して逃げ場所を防ぎ、後列がコンテナを投げてくる。ルビーたちが位置する場所は、そこまで広くはなく逃げ場所は少ない。其処に連続して重さが百を超えている物体を連続的に投げるのは原始的であるが、かなり効果的である。

 

「ハジメ、どうする!?」

「……仕方ありません、正面突破をします! 各自絶対に離れずに先頭に付いてきて下さい!」

 

 失敗してしまえば一気に窮地に陥る。もしかしたら取り返しの付かない事態になるかもしれない。しかし、考えている暇は無いとハジメはリスク覚悟で、その場を強行突破する事を決めた。

 

「──え? あ、ちょ、ちょっと待って!」

「亜寅?」

 

 待ったを掛けたのは、こめかみに両手を当てて目を瞑っていた亜寅。

 

「どうした、何かあったのか!?」

「なにかあったというか──アスクがめちゃくちゃ早い速度で、こっち来てます!」

「アスクが……来てる?」

 

 ──黒い巨体が、作業用ロボットを軽々と飛び越えて、夜稀の側へと降り立った。

 

「アスク!?」

「ばか、なんで来たのよ!?」

 

 北陸聖女学園・第七分校の外に居る筈のレガリア型プレデター、自分たちにとって何よりも大切にするべき彼である、アスクヒドラの登場に真嘉は驚きの声を上げて、咲也が怒る。しかし、本人たちは気づいてないが、そのどちらにも喜びが混じっていた。

 

「アスク……何か、この状況を打破する手段があるのか?」

 

 ハジメの質問に、アスクは親指を立てて、かと思えば下げて、また上げた。

 

「どっちよ!」

「た、たぶん。策はあるんだけど、自信が無いみたい」

 

 夜稀の翻訳に正解といいたいのか、指で丸を作ると、アスクは両肩甲骨と背中にある、合計八本の蛇筒を作業用ロボットがいる方向の上空へと向けた。

 

 蛇筒の口から無色透明の液体が勢いよく放出され、空中で霧散し、作業用ロボットたちに降り注ぐ。

 

「いったい何を……?」

「見て、チョウ型プレデターたちが落ちていく」

 

 変化は直ぐにあらわれて、作業用ロボットに張り付いていたチョウ型プレデターたちが、次々と地面に落ちていく、数が少なくなった事でロボットたちも停止していき、落ちたチョウ型プレデターは液体化して跡形もなく消えていく。

 

「この霧は、毒なのか?」

「たぶん、でもあたしたちに無害な所を見ると、チョウ型プレデターに特化した殺虫剤みたい」

「殺虫剤って……」

「あ、違う、殺プレデター剤だね」

 

 違う、そこじゃないと亜寅は思ったが口にはせず、とにかく無事に戦闘が終わった事にホッとする。

 

「それにしても……凄い」

 

 ──もし、アスクが本気で危害を加えるなら、こんなに一方的になるのか。

 

『P細胞』は体内に影響がある物質を無力化してしまう性質を持つ。そのため『ペガサス』は毒も薬も効かない。それは同じく『P細胞』を持つ『プレデター』だって同じである。それなのにチョウ型プレデターの群れは、アスクが発生させている霧に、為す術なく朽ちていく。

 

 初めて見る、アスクの攻撃的な〈固有性質(スペシャル)〉の使い方に、夜稀は背筋が寒くなるが、同時に目が離せないほど夢中になる。

 

「こんな使い方も出来るんだね」

「夜稀先輩?」

「あ、ううん、なんでもない……」

 

 興味深く、いろんな考えが頭を巡らせるが、それを無理やり外に追い出す。アスクは戦うことも、相手に危害を加える事も嫌いなのは知っている。だから、それを有効活用したいとか、他にもどんな風に出来るのか、考える事すらいけないことだと、湧いた好奇心を心の奥底に押し込める。

 

「──アスク、助けてくれてありがとな」

「……ちょっとタイミングが良すぎるんじゃない?」

 

 チョウ型プレデターを全て駆逐し終わり、作業用ロボットを全て停止させた後、全員がアスクに感謝を伝える。そのさい咲也が文句を立てるが、それが彼女なりの甘え方であり、内心では同じように感謝していると皆が知っているため、誰も指摘する事は無かった。

 

「それにしても、どうして学園内にいるんだ?」

「真嘉先輩。先ずは【303号教室列車】に戻りましょう」

「あ、そうか。分かった。アスクも来てくれ!」

 

 もしかしたら【303号教室列車】と【606号教室列車】が、同じように襲われているかもしれないとして、真嘉たちは元居た場所へと戻る。




──全ての前哨戦。

感想、お気に入り登録、評価、ここすき、誤字報告、本当にありがとうございます。

年末は(仕事で)忙しく、今年最後の更新になると思います。
よいお年を迎える事を願っております。
来年もまた、自作を楽しんでいただければ幸いです( ̄▽ ̄)b!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。