この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」   作:庫磨鳥

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あけましておめでとうございます。もう一月終わります()
今年もマイペースに投稿していきたいと思うので、よろしくおねがいします。

支援絵を頂きました。本当にありがとうございます!
紅葉崎もみじさん
[緊急離脱]
[キャッチ&プッシュ]
識別番号02は伊達じゃない!

[悪魔03と天使02と小柳ヒドラ]
(((さあ、どうする!)))

らむの牛肉さん
[喜渡愛奈ちゃん(ドット)]
動く! 可愛い!! 本当にゲームみたい!




第六十三話

2995:アスクヒドラ

いくら『プレデター』とは言ってもね。ひらひら舞う蝶の大群が地面にボトボト落ちていくのは、めっちゃ絵面が悪い。

無差別に殺虫剤振り撒いて環境破壊している気分。なんだか今までで一番、ちゃんとした毒攻撃をした気がするよ。

 

2996:識別番号02

実際→『プレデター』には環境を修復する機能が備わっているため強ち間違ってはいない。

 

2997:識別番号04

敵対して危害を加えてくる以上、必要な処置だ。

 

2998:アスクヒドラ

それはそう。うちの可愛い子たちを傷つけるとあっちゃあ、どんな相手でも許しておけんねぇ。

 

2999:識別番号02

要望→アスクの毒攻撃の結果を詳しく教えてくれ。

 

3000:アスクヒドラ

ゼロツーに言われた通りに意識して外に出したら、空中で霧状になって広がったよ。こんな事も出来たんだね。なんでこうなっているのかは、まるで分かんないけど。

 

3001:識別番号02

原理→空気中に含まれている物質と何かしらの化学反応を起こして霧状化したと思われる。

補足→アスクの〈固有性質(スペシャル)〉が、どのような成分を生成したかは不明。

 

3002:アスクヒドラ

つまりいつも通り!

 

3003:識別番号04

自信満々に発言することではない。

 

3004:アスクヒドラ

まあ、そんでチョウ型プレデターに効いたけど、皆には影響は無かったよ。本当に良かった。

 

3005:識別番号02

実証→チョウ型プレデターなど極小サイズであれば、『P細胞』の数も少ないため毒の抵抗力が弱い。

結果→『ペガサス』、あるいは『アイアンホース』たちに影響を受けない濃度の毒でも、十分に効果が発揮される。

 

3006:アスクヒドラ

いちおう、種類的にはみんなに使っている“血清”と似たやつだから、なにか影響があっても活性化率が下がるぐらいだったとは思うけど……でも、マジで良かったぁ。

 

3007:識別番号02

謝罪→事態は急を要してはいたものの検証もしてない事をさせた。

 

3008:アスクヒドラ

気にしないでくれ、おかげで皆んな助かったよ。さすがゼロツー、こういう方面で本当に頼りになるよ。

 

3009:識別番号02

自慢→それほどでもない。

 

3010:識別番号04

謙虚になっていない。

 

3011:アスクヒドラ

さて、時間も無いし本題だけど、北陸女学園・第七分校の中に『プレデター』が居たって事は、だいぶヤバい事態だよね?

 

3012:識別番号02

肯定→壊滅状態である可能性も考えるべきだろう。

 

3013:アスクヒドラ

マジでビビりまくった。夜稀ちゃんが急に皆んなから離れたかと思って、合流できたと思ったら『プレデター』の反応が出て来るんだもん。

これは中に入るしかねぇって、入ったらチョウ型プレデターがそこら中飛んでいて、そんでヨキちゃんたちがロボットに囲まれていて、マジで焦った。

 

3014:識別番号04

質問がある。『プレデター』の反応が表示されたのは、アトラが合流して対象を目視したからか?

 

3015:識別番号02

回答→そうである可能性が高い。『キメラ』のアトラは自身たちレガリア型のネットワークに擬似的にであるが接続している状態である。

状況→『キメラ』になった事で『プレデター』を区別するレーダー機能が本人には自覚せずに備わっており、彼女が視覚したものは自分らとも共有されている。

余談→本人が意識すればプテラが登録した対象以外にも、自分らが感知した存在を把握できるかもしれない。

 

3016:アスクヒドラ

アトラちゃんに、そんな能力が備わっているなんて気が付かなかった。

 

3017:識別番号02

当然→『キメラ』の肉体は未知数だからと活動は制限されていたため、発見には至らなかった。

質問→アスク、建物内の様子はどうなっている?

 

3018:アスクヒドラ

荒らされているって感じはしないけど、こんなに騒いでも人が誰も来ない。生き残りは……居ないのかもしれないね。

 

3019:識別番号02

質問→識別番号04、外から回ってこちら側へと来てくれているが、様子はどうだ?

 

3020:識別番号04

アスクヒドラが居ると思われる建物と、奥に似た形状の建物を複数確認。その周辺には森が形成されており『プレデター』が多数存在する。

 

3021:アスクヒドラ

その『プレデター』って、学園に集まって来ている?

 

3022:識別番号04

集合している様子はない。生態系を構築している痕跡を確認。元より北陸女学園・第七分校周辺に生息している群体だと思われる。

 

3023:アスクヒドラ

あー、うちで言うところの『街林』みたいになっているのか。

 

3024:識別番号02

質問→北陸女学園に破壊されている、もしくは外から『プレデター』が侵入できる箇所は見られるか?

 

3025:識別番号04

まだ不明。少なくともアスクたちが居ると思われる建物からは、破壊された痕跡は見当たらない。

 

3026:アスクヒドラ

となると、チョウ型プレデターが入ってきたのは別の場所?

 

3027:識別番号02

不明→しかしその可能性が高い。

要望→アスク、北陸女学園・第七分校の全体が見れる地図を探してくれ。

理由→おおよその建物の構造、そして自分の居場所を知りたい。

 

3028:アスクヒドラ

分かったよ。後で探してみる。

 

3029:プテラリオス

自身は、どうしますか?

 

3030:識別番号02

待機→北陸女学園・第七分校に起きた事の全容を知るまでは、合流しないほうがいい。

理由→人間の目が完全に潰えたとは限らない。

 

3031:プテラリオス

分かりました。変わらず寮の屋上で待機します。

ですが、自身が屋上で待機を始めた事で、何かあったのではないかと不安になっている様子です。

 

3032:アスクヒドラ

あー、今は念の為の待機って伝えて欲しいんだけど、どうしようか……指で半端な丸を作って見せて、もしかしたらマヒルちゃんなら分かってくれるかも。

 

3033:プテラリオス

分かりました、やってみます。

 

3034:アスクヒドラ

うし、とにかく皆んなと合流するから、また後で……っと、あら?

 

3035:識別番号04

どうした? 『ペガサス』たちの反応に変化はないが、何か起きていたのか?

 

3036:アスクヒドラ

いや、何かあったって訳じゃないし、なんなら戦いが終わってるんだけど……知らない子たちが居るから、ちょっと遠巻きに見るわ。

 

 

「──! あれは……レミの【Achillea 0,7】の音か」

「急ぎましょう!」

 

教室列車が停車した地点へと戻る最中、真嘉たちアルテミス女学園高等部二年にとって、聞き覚えのある独特の発砲音が断続的に複数回聞こえてきた。それはハジメたち『アイアンホース』たちが使う銃型アリスとは全く違う音。雁水レミの狙撃型専用アリス【Achillea 0,7】が電磁加速によって弾丸を発射した音であった。

 

そんな【Achillea 0,7】の音が聞こえるという事は、戦う事が苦手である雁水レミが戦闘に参加しているほど状況は切羽詰まっているのかと、不安を抱える。

 

──しかし、そんな気持ちとは裏腹に戻ってきた真嘉たちが目にしたものは、見て明らかに無事な【303号教室列車】と【606号教室列車】の二台。そして完全に無力化されて動き出す様子がない作業用ロボットであった。

 

「終わっているのか?」

「どうやらそのようですね」

「ナー、随分と遅かったな」

 

位置的に戻ってきた真嘉たちにいち早く気づいた二個(ニャーコ)が話しかける。

 

「こちらも襲われていました。通信が繋がらなかったから心配したぞ」

「呼ぶ程ではなかったからな、テンション上がって一人で先に行っちまうような、やんちゃな奴を優先度が高いと判断したまでだ」

「ご、ごめん」

 

ギラリと睨まれた夜稀は、反省の念も合わさって縮こまる。

 

二個(ニャーコ)、ルビーたちとは文化が違うんだから、あんまり強気に言わないでやって」

「ナー……まあいい、後で話を聞かせろ」

「状況は?」

「敵性沈黙、オールクリア、一個(ワンコ)(フタ)(ミツ)三人編成(スリーマンセル)にて、周辺の探索に出てもらっている、お前たちが離れて直ぐに──」

 

ハジメと二個(ニャーコ)は各々の経験した事を簡潔に話し合う。

 

「おーい、レミ、何処だ!」

「──あ、こ、ここです……」

 

そのあいだ、真嘉はレミを探したが見当たらなかったため大声で呼びかける。すると教室列車の中にいたらしく、天井から顔を出して遠慮がちに手を上げた。

 

「レミ! 無事で良かった……だけど、どうして中に居たんだ、外で戦っていたんじゃないのか?」

「あ、はい、平気と言いますか、そもそも戦ってないといいますか、正確には最初の一発だけ撃って、あとはずっと教室列車の中に居ました、はい」

「じゃあ、あの音は? レミの専用ALISの音が何度も聞こえたから、てっきり戦っているかと……」

 

レミが言うには【Achillea 0,7】を撃ったのは1回だけだと言う。しかし、真嘉の耳に届いた発射音は片手で数えられる回数を超えており、アレは何だったのだと首を傾げた。

 

「それなんですが、最初の一発は私なんですが、それ以降はその……急に現れた香火と比べて深い紫色の片目を眼帯掛けている『アイアンホース』に、少年のような無邪気な顔で壁ドン並の勢いで迫られまして、よくわからない内にジャイアニズムを発揮されました」

「待て、情報量が多いし、意味が分からない」

 

なるべく詳しく話そうとして、逆に意味が分からくなった様子のレミの説明に、真嘉は混乱をきたす。レミはどう説明しようかと口を何度か開いて閉じて、最終的に諦めたらしく、とある方向に指で示した。

 

──その先には倒れ伏す作業用ロボットの上に立ち、煙を吹いている【Achillea 0,7】を片手に握りしめて、遠くを見つめる眼帯のアイアンホースが居た。

 

そういえばと真嘉は【606号教室列車】には、もうひとり『アイアンホース』が乗っていると聞いていたのを思い出した。それが彼女なのだろうかと真嘉は声を掛けようと近づく。

 

「──この出会いは運命だ」

「え?」

 

中性的と言えばいいのか、低めの声から発せられた意味深な言葉に、真嘉は思わず足を止める。

 

「この隔離された秘境にて……我、終焉へと至る友を見つけたり……!」

「黙れ」

「は? ちょ!?」

 

真嘉が言葉の意味を考えていると、二個(ニャーコ)が足元にあった作業用ロボットの残骸を眼帯のアイアンホースへと投げつけて、頭に直撃させる。

 

「ぐえ!」

「大丈夫か!?」

「うごご……お、おまえーー!!? 流石に危ないだろうがー!!?」

 

眼帯のアイアンホースはバランスを崩して、作業用ロボットの上から転落、聞くからに痛そうな声が聞こえたと真嘉が心配になって駆け寄るが、即座に起き上がり、【Achillea 0,7】を大事そうに抱えながら二個(ニャーコ)に詰め寄る。

 

「我が『ALIS(相棒)』が壊れたらどうする!」

「ふざけた事を言うからだろうが、あとそれはお前のじゃねぇ……おい、さっきから煙が吹きっぱなしだが、もしかして壊したのか──三番(トロワ)

「……え?」

 

眼帯のアイアンホース──『三番(トロワ)』は【Achillea 0,7】から煙が出ている事に、指摘されて初めて気づいたらしく、片目をまん丸にする。

 

「……ふ、ふっははは~、我が相棒は故障しているのではない、これはそう……戦いの余韻に浸っているのだ!!」

「ナーおい、話しに聞く、黒い注射を寄越せ」

「いやいやいや……」

 

二個(ニャーコ)は眉間に皺を寄せながら、活性化率を6%下げられる代わりに、しばらくのあいだ行動不能にする方の“血清”を真嘉に求める。

 

「煙って……貸して!」

「あ、相棒ぅ!」

「だから、お前のじゃねぇだろうが!」

 

【Achillea 0,7】の様子を耳にした夜稀が前に出てきて、強引に奪うと自身の工具型ALIS【プラナタス】を展開、緊急用の有線コードを差し込んでチェックを行う。

 

「な、なんだそれは!? 『ALIS』なのか? 変形したぞ! ……か、格好いい……」

「……ハジメ」

「彼女は三番(トロワ)二個(ニャーコ)たちと同じくチームを組んだ事がある『アイアンホース』です。実力は高く、自分たちの中でも前衛(フロント)能力は頭一つ抜けており、頼りになります。まあ、後は見ての通りですね」

「見ての通り……見ての通り……?」

 

やたらテンションが高く、難しい言葉を使う三番(トロワ)。見ての通りと言われても、どう言えばいいんだと微妙な顔をする。

 

「……厨二病」

「レミ? いま何か言った?」

「なんでもありません、はい」

 

意識を反らしていた事もあって『篠木(ささき)咲也(さや)』が、隣にいるレミが何かを呟いたが聞こえなかった。

 

「それはそうと、あれいいの?」

「えっと……はい、というのもおかしいのは分かっていますけど、まあ……」

「……そう」

 

自分の専用ALISを壊されたにしては冷静に様子を見守っているレミ。咲也は問いかけるも反応が薄く、その態度に少しムッとしてしまったからこそ、それ以上は追求しなかった。

 

「えっと……」

「ど、どうだ! 相棒は無事なのか!?」

「ナー、1回大人しくさせといたほうがいいか?」

「いえ、とりあえずこのままで……二個(ニャーコ)、聞きそびれてましたが、どうして三番(トロワ)が居る? 彼女の所属するのは【409号教室列車(ヨンマルキュウ)】だった筈だ」

「ふん、見てのとおりだ。こいつは【606号教室列車(ロクマルロク)】の所属になった」

「……三番(トロワ)に、いえ、【409号教室列車】に何があった?」

 

ハジメは確信を持って尋ねる。教室列車の乗り換えは多くはないが、無いわけではない。現にハジメはパニック症状を引き起こした事で、当時の車掌教師に不要だと判断されて本校へと返品され、【303号教室列車】へと所属へとなった経歴を持つ。だが、あの【409号教室列車】の車掌教師が三番(トロワ)を所属から外すとは到底思えなかったからだ。

 

「後で話す……というかお前、三番(トロワ)とはまだ──」

「……さっきから何か聞き覚えのある声が、ってなんだハジメか……ハジメ?」

「……あ」

 

目的地に到着してからと決めていたが、騒動もあって忘れていた事をハジメは今になって思い出す。そういえば自分はまだ三番(トロワ)とは顔合わせしていなかったと。

 

二個(ニャーコ)たちはハジメが“卒業”しているという情報を得ていた、それはつまり三番(トロワ)もハジメが“卒業”していると思っているという事だ。現に三番(トロワ)は口をあんぐりと開けて動揺しており、震える指先をハジメへと突きつけた。

 

「その……三番(トロワ)、久しぶりだな」

「お、お、お前ー!!!? なんで生きているんだ!!? 地獄から蘇りし赤き英雄だとでも言うんのか!!?」

「ほんと、迂闊なところは、とことん迂闊よね、あんた」

「お前が、ちゃんと管理してないからだぞルビー」

「流石に面倒見きれないわよ」

「ま、まさか北陸聖女学園が秘密裏にクローンを作っているのは本当だったのか!? という事は……お前はここで作られたハジメのクローンとでも言うのか!?」

「洒落にならない冗談を言うの止めなさい」

「おーっす、偵察してたらよ。(フタ)(ミツ)に煩くて邪魔って言われて帰ってきたぜ! そんで、ギャハハ! なんか面白い事になってんなぁ!」

「タイミング悪く帰って来るんじゃねぇ、サボり犬! てめぇら全員、静かにさせてやろうか!」

「ああもう、いいからあっち行って話すわよ、先輩たち、後はよろしく!」

 

一気に騒がしくなった『アイアンホース』たち。声を掛ける暇もなく、そそくさと離れていってしまった。

 

「……あ、アスクのこと言い忘れた」

「立て込んでいたみたいだし、後で良いと思うわ

「……それもそうだな」

 

あの混乱の最中に火にガソリンをぶち撒けるのは、避けたほうが良かっただろうと真嘉と咲也は納得する。

 

「というかアスクは?」

「ん? ってあっちに居るな……仲間と話しているのか?」

「そうみたい」

 

アスクは少し遠くの方で腕を組んで立っており、時々頭を動かして感情を露わにしている。他者から見れば不審に見える挙動は、三体居るとされる味方のプレデターたちと何かしら会話を行っている時の仕草だと発覚しており、真嘉たちはなるべく邪魔しないように決めていた。

 

「もしかしたら、知らない『アイアンホース』が居るから待っていてくれたのかしら?」

「アスクなら有り得そうだな……咲也は行かなくていいのか?」

「今はいいわ。こっちのほうが気になるし」

「そうか……それで夜稀、レミの『ALIS』はどうだ?」

 

その側には、護衛として香火と響生、そして亜寅がなんとか会話を聞けないかと難しい顔で集中している亜寅がおり、あれなら多少何があっても大丈夫だと真嘉は、【Achillea 0,7】を診ている夜稀に声を掛ける。

 

「結論だけ言うと、修理は難しい」

「壊れたのか?」

「正しく表現すると壊れたというよりも“限界”かな。撃てはするけど……撃っちゃだめって感じ」

「あー、撃ったらどうなるんだ?」

 

夜稀は【プラナタス】のモニターに表示される、【Achillea 0,7】のステータスを見て気難しい顔をする。真嘉がモニターを覗き込めば、漢字と数字の羅列が表示されており、まったく分からないと直ぐに問い掛ける。

 

「撃ったら爆発する」

「爆発!?」

「というか、本体の熱が冷えない。このままだと、何もしなくても爆発する」

「……マジか」

 

銃型専用ALISから爆発物に変わってしまっている事に、真嘉は思わず体を仰け反らせる。

 

「恐らく、何度もチャージして直ぐに撃つを繰り返していたから、内部パーツの消耗が進み過ぎたんだ。こうなるともう無理、元から幾つも欠点があるのは分かっていたけど、まさか放熱処理能力が、こんなに半端なものだったなんて……ひどい」

 

夜稀は静かに不機嫌になる。専用ALISは高等部ペガサス各々の個性に合わせて設計されている。しかしながら【Achillea 0,7】に関しては根本的に全く違っており、所有者であるレミに合っていない、それに付け加えて性能や名前からして明らかな試験品、それも欠陥品と評価されてもおかしくない。

 

「……後でアスクに冷却水を掛けてもらわないと」

 

高等部ペガサスにとって、専用ALISは自分の生きてきた証となるものだ。少しでも長く生きて欲しいという願いが込められており、花の名前を付けられているのだって、何かしらの想いが込められていると夜稀は確信している。その中で紛れ込んでいる、自己中心的で自分たちのことを一切、考えていないのが【Achillea 0,7】であると、夜稀は良い感情を持っていなかった。

 

「しかし、そうなるとレミの『ALIS』をどうするかだな」

「というか、勝手に使って、勝手に壊されたのよ。流石に抗議しないと!」

「あ、いや……その、使えないなら別にいいと言いますか、私は特に何も思っていないといいますか……どうせ、私だと当てられないし、逆に三番(トロワ)さんは、全弾命中させるぐらい使いこなしていて、なんなら三番(トロワ)の方が愛着持っていて、つらそうだったので、言いたいことはないです、はい」

「それでいいのか?」

「──はい」

 

レミは何時もの調子で長々と話す。その内容は自分の専用ALISに対して冷めており、真嘉たちは自分たちと違うからこその反応だと分かりつつも、複雑な心境になる。

 

「分かった、ならレミの専用ALISに関しては何も言わない事にする、咲也もそれでいいな?」

「真嘉がそれでいいなら……それと真嘉、これからどうするの?」

「……まだ考え中だ」

 

北陸聖女学園・第七分校は『プレデター』が校舎内部に侵入するだけのトラブルに見舞われており、これだけ時間が経っても人が来ていない。

 

何かトラブルがあれば、直ぐにでもアルテミス女学園へと帰路に付くと決めていたが、アスクや夜稀の安全が第一だ。だが、人が居ないのなら『街林調査』のように物資を探せるんじゃないのか、そんな考えが頭を過って悩んでしまう。

 

「……ちょっと待って、アスクたちが居ないわ!」

「なんだって……って、あそこに居るぞ」

「あ……本当ね」

 

気がつけば、先ほど見た位置にアスクが立っていないと咲也が焦るが、よく見れば移動しているものの目の見える範囲に居た。

 

「……? 何を見ているんだ?」

「これ以上、離れるのも危ないし、合流しましょう」

「そうだな」

 

どうやらアスクは何かをじっと見ているようだが、ここからは角度的に見えないとして、真嘉たちは合流する事にした。

 

+++

 

少し離れた場所で、『アイアンホース』たちは話し合いをする事となった。まずはこれをしなければ始まらないとして、二個(ニャーコ)による現状の説明から行われる。

 

「いいかよく聞け、三番(トロワ)。なんやかんやあってハジメはアルテミス女学園所属になっており、“卒業”を免れた。なぜなら自分たちの活性化率を下げられる薬があるかららしい」

「因みに、それは人形プレデターが出す液らしいぜ、なんか卑猥だな! ぎゃははごへぇ!!」

「んでだ、これらは久佐薙にバレるとマジでヤバイから大人たちには絶対秘密だし、自分と一個(ワンコ)はハジメに着いていく満々だから、お前も一緒に来る……分かったな?」

「なるほど、委細承知した! もう一度初めから日本語で話してもらおうか!」

「委細承知って言葉の意味知ってる?」

 

全く理解してなさそうな三番(トロワ)に、思わずルビーがツッコミを入れるが、同時にあんな説明で理解しろって言うほうが酷である事も分かっている。

 

「とにかくだ三番(トロワ)。自分はアルテミス女学園へと転校し、活性化率を下げた事で“卒業”せずに済み……貴方と再会する事ができた。これだけは揺るぎのない事実です」

「……本当なのか?」

 

“卒業”したのは誤情報だったとして、それ以外は信じられないと疑う三番(トロワ)に、ハジメは言葉ではなく、【KG9-MR/《ナイン》】のディスプレイに表示されている、己の活性化率の数値を見せる。

 

「なっ……なっ!?」

「やっぱり、これが一番話が早いわよね」

「ククッ、言っておくが故障だろって下りは、二個(ニャーコ)がやったからもう要らなごほっ!」

「黙れ一個(ワンコ)

 

最後に見た時よりも下がっている数値に、三番(トロワ)は絶句して何も話さない。

 

「…………」

「……三番(トロワ)?」

 

顔を俯かせて静かになる三番(トロワ)、気になってハジメが声を掛けると、頬が吊り上がった。

 

「──く、くくく……ふーあっはっはっはっはっはっはっは!!」

 

腹から高笑いをする三番(トロワ)は、目を見開き、自分なりに恐ろしく見える笑顔を浮かべ、独特なポーズを決める。それを見てルビーは、こういう奴だったわと呆れたため息を吐いた。

 

「なんということ……なんということだ! 正に奇跡、正に神秘、これぞ世界から受けし祝福! やはり汝は英雄の名に相応しき鉄の馬だったというわけか──ハジメ!」

「ちっ、単純馬鹿が」

「ギャハハ! いいじゃねぇか、話が早くて」

「そうね。一個(ワンコ)が裸にひん剥いて部屋に放り投げてなかったら、説明もあの時の1回で済んだのに」

「お前ー!! なぜそれを知っている!!? あとそれはそこの駄犬の仕業……ってよく見たら、貴様ルビーか!?」

「そうよ、いま気づいたの?」

「だが髪が短いぞ!!? ……まさか、クローンは貴様だったのか!?」

「いい加減にしないと、その首締めるわよ?」

「まあまあ」

 

元気になった三番(トロワ)の言動にイラッとするルビーをハジメが宥める。その傍らで爆笑している一個(ワンコ)二個(ニャーコ)がボディブローで黙らせる。きっとここに(フタ)が居れば、鋭利な一言を口にしていたかもしれない。逆に(ミツ)は自分たちに圧倒されて静かになるのだろうと、ハジメは小さく吹いてしまう。

 

「んんっ、それで三番(トロワ)、どうしてレミ先輩の『ALIS』を勝手に使用した?」

「レミ先輩……ああ、相棒の持ち主か! それには長く深い理由がある! ……一目見て、気がついたら我の手にあった」

「短くて浅いシンプルなクソだな」

 

三番(トロワ)が作業用ロボットたちの襲撃音に反応して外を見た時、偶然にもレミが【Achillea 0,7】を発射している姿を目撃。【Achillea 0,7】の近未来的なデザインの虜になった三番(トロワ)は、迷う事なく奪取して、戦ったというのが事の経歴だった。

 

「ハッ! 活性化ギリギリの癖に、クソみたいな事してよ。これで抑制限界値こえて『ゴルゴン』になっていたら、ダサくて笑い死ぬ所だったぜ!」

「それは……我が終末を飾るのに相応しい運命の出会いと思ったのだ」

「……この戦闘で“卒業”するつもりだったのか?」

 

ハジメの問い掛けに、三番(トロワ)は気まずそうに顔を逸らす。三番(トロワ)が強引に【Achillea 0,7】を奪って使ったのは、もう抑制限界値近いという事もあり、最後、有終の美を飾るつもりでの行動だった事が発覚する。

 

「──迫り来る窮地を前に、生涯の相棒と出会い共に戦う。拾われた命の使い道としても、良いと思ったんだ」 

「……【409号教室列車】と、ユウネ車掌教師はどうした?」

「ナー、先の鳥取砂丘の作戦で【409号教室列車】がミミズ型プレデターの大群に飲まれた事で大破、そのさいユウネ車掌教師も死亡したと思われる。直前に三番(トロワ)の所属を変えて【606号教室列車】へと移動させたことで無事に済んだ」

「……そうだったのか」

 

教室列車が運行不可能までに大破した場合、乗車している『アイアンホース』は安全のために一斉に首輪の毒針が発動する。しかし、三番(トロワ)の場合は彼女を管理していた車掌教師が直前に管理者を【606号教室列車】の車掌教師であるザクリに管理者を移行していた。これによって三番(トロワ)は命を救われた事となる。

 

「……最後まで理想を掲げるだけの、非才な先生だった」

 

【409号教室列車】の車掌教師ユウネは、『アイアンホース』は人間として扱うべきだという理想を持っていた。しかし、能力的に高くはなく、また立ち回りも上手くはなかったため、理想を掲げるだけの非才の身として、所属していたアイアンホースの怒りを買うことも少なくなかった。

 

ただ三番(トロワ)にとって、ありのままの自分で生きる事ができたのは、ユウネ車掌教師の優しさによるものだと理解しており、皮肉のように聞こえる言葉に、どのような感情が混じってあるかは、ここに居る全員が察している。

 

「……三番(トロワ)……君が生き残ってくれて良かった。“卒業”せずにいてくれて良かった」

「……それはこちらの台詞だ。英雄の友よ」

 

ハジメの純粋な喜びの声に、三番(トロワ)は眼帯が掛かっている方を手で覆い隠し、ニヒルに笑った。

 

「ギャハハ! しっかしまあ、本当に全員集められるとはな。本当に持ってるやつだぜお前はよ……まさか、幸運の玉とかマジで股間についてごほぉ!!」

「やめろ」

「普通に下ネタ言ってるんじゃないわよ」

「ナー、珍しく黙ったと思ったら、てめぇがよ」

 

こうして全員が再結集できた、こんなに嬉しい事はない。ハジメは己の幸運に恐怖すら覚えてきた所で、一個(ワンコ)の台無しの発言にルビーと二個(ニャーコ)共々、蹴りを加える。

 

「ナー……おい、あっちのほうで動きがあったようだぞ」

「そろそろ戻るか」

 

二個(ニャーコ)が、アルテミス女学園ペガサス側での動きを察知し、それならとハジメが戻ろうと即決する。

 

三番(トロワ)は、『ALIS』を壊したこと、きちんと謝罪するように」

「ふっ……ちなみに我らが鉄の馬とは似て異なる同胞たちの中に、修羅とかは居ないだろうか?」

「あー、ここに居る先輩たちは皆んないい人だから安心しなさい」

「そうだな。ここには居ませんので安心してください」

「ナー、まるでここじゃない何処かに居るような物言いだな」

「……一個(ワンコ)、短い間だったけど、またあえて良かったわ」

「おいおい! なんでいずれ別れるやつみたいな扱いするんだよ、普通に怖ぇじゃねぇか!」

 

アルテミス女学園に残っている、よくない先輩を思い出し、一個(ワンコ)と合わせたくないなと思いつつ、真嘉たちの所へと戻る。

 

+++

 

 

 

3267:アスクヒドラ

やっぱり、これ全体の地図で合ってるみたい。

見た限りだと、北陸聖女学園・第七分校は円形ドームの建物7つで構成されていて、大体が一本道で繋がっているっぽいね。

 

3268:識別番号02

質問→自身が何処に居るのか分かるか?

 

3269:アスクヒドラ

どうだろう、位置的には第七っぽいかな? なんにしても完全に真反対だと思う。

 

3270:識別番号04

識別番号02、現在の位置を特定できるものはないか?

 

3271:識別番号02

回答→この部屋の位置を特定できるものはない。

 

3272:アスクヒドラ

どうするゼロツー? さっき言ったように外に出るのか?

 

3273:識別番号02

肯定→このままでは識別番号04との合流も困難であるため、自身の方で北陸聖女学園・第七分校を探索し、外に出られる場所を調べる。

 

3274:識別番号04

海側からクリオネを運び移動する事は可能か?

 

3275:識別番号02

可能→『P細胞』が酸素を生成するため長時間の海中移動も可能ではあるが、聖女(シスター)のクリオネは目が見えない。そして、この『人器(じんき)』では戦闘は難しいため海中移動はしないほうがいいだろう.

 

3276:識別番号04

戦闘能力は如何ほどだ?

 

3277:アスクヒドラ

クリオネちゃんの様子を考えると、少しの間だけでも置いては行けないと思うしね。

 

3278:識別番号02

判断→動きを試したが、見て明らかに戦闘には不向きである。

 

3279:アスクヒドラ

できれば、俺も迎えに行きたいんだけど……。

 

3280:識別番号02

拒否→北陸聖女学園・第七分校は『プレデター』の襲撃に遭ったと見て間違いなく、危険度は高い。アルテミス女学園ペガサスたちの安全を保証できない以上、即刻アルテミス女学園へと戻るべきである。

補足→自分たちだけであるなら、識別番号04と合流すれば十分であると判断する。

 

3281:識別番号04

同意する。アスクヒドラは即刻、帰還の準備に入れ。

 

3282:アスクヒドラ

分かってるよ。でもマカちゃんたちが探索するにしても、帰るにしても従う。

ただ、クリオネちゃんの活性化率が抑制限界値近いのが心配なんだ。

 

3283:識別番号02

指摘→アスクが気にすることではない。

断言→自身がどうにかする。アスクは自身の優先するべきことのみ考えろ。

 

3284:識別番号04

既に状況は危険である。即刻プテラリオスを急行させるべきではないか? 今なら速度を落として飛行しても十分に間に合うと進言する。

 

3285:識別番号02

待機→移動するならば、むしろ最大加速を持って飛行をなるべく短時間にさせたほうがいいと考えている。

懇願→なので呼んださいは、最大速度で来てくれ。

 

3286:プテラリオス

分かりました。呼ばれたら直ぐに向かいます。

 

3287:識別番号02

指摘→加速するのはアルテミス女学園から離れてやる事だ。

 

3288:アスクヒドラ

悪い、やらかした。

 

3289:識別番号04

アスクヒドラ?

 

アスクは識別番号02の居場所を特定するために、偶然見かけた北陸聖女学園・第七分校の案内図を見ていた。

そのさい、話しながら色々と考えていた。

 

だから、油断していた。挙動による意思疎通ができる様になったこともあり、あまり体の動きを意識しなくなったというのもあるのだろう。

 

アスクは識別番号02の位置は、ここではないかと案内図を指で刺していた。

 

「──どうしたのアスク? そこに何かあるの?」

 

それを咲也たちに見られてしまった。

 




──それは、いずれ起きるべきだった気遣い。

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