この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」 作:庫磨鳥
紅葉崎もみじさんから支援絵を頂きました。本当にありがとうございます!
[野花ちゃんルート、エンディング]
おめでとう
[オープニングで視るやつ]
姿が露わになるの、ワクワクします。
[大きさ比べ]
何がとはいいませんが、作者とイメージが合っていたり、合っていなかったりして面白かった。
──変わりたいと、常日頃思うようになった。
『妖精』の声に悩む日々もそうであるけど、それによって形成された人格は、人間社会側での秩序でしか物事を語れず、考え無しに先輩の策にクレームを付ける事しかできず、後輩の悲惨な過去を抉ってしまい、そして強く『妖精』に罵倒されるという悪循環。
こんな自分は仲間の中で不和を起こしているだけではないかと、それによって見限られるのではないかと悩まない日は無い。
先輩も後輩も、そして大切な同級生たちは自分の性格を把握しているから、間違いを受け入れてくれる、認めてくれている。ただ、今は時期が悪いだけであり、自分が持つ真っ当で常識な価値観は、とてもありがたいものであると。
これから、自分たちは
だからこそ、『
アスクは面倒見がよく優しい。自分たちに好意を抱いてくれており、だからこそ助けてくれるというのが事実であると、日々の生活で自然と理解する事ができた。最近は身体を動かして気持ちを伝える事もできるようなり、より一層“彼”を理解できるようになった。
しかし、逆に言えば、それだけである。咲也は相手の心の機微を読み取る事ができる先輩とは違い、本当の意味で互いに考えている事を理解し合う“意思疎通”が出来ているとは、どうしても思えなかった。
──アスク、こんな私を守りたいと思い続けてくれる? 寄り添ってくれる?
考えすぎであるのは百も承知だ。彼が思った以上に素直である事も分かっている。私室を尋ねると心から歓迎してくれて、一緒に音楽を聞く時間を楽しんでくれているのは、決して嘘じゃないと断言できる。
両親を広い視野で見てきた咲也にとって、相手に甘えるだけの人間は最低であるという価値観を持っている。だから自分は最低であると、こんな自分は何時しか、彼に見限られてしまうのではないかという恐怖が頭の片隅にへばり付いて取れないでいる。
せめて彼の役に立ちたい、何時しかむしろ利用する気だから優しくしていたらいいのにと思うようになった。
甘えている分の対価を払いたい。この気持ちをアスク本人に伝えたとしても、そんな事を考えなくていいとしか言ってくれないだろう、それが分かっているからこそ、この気持ちだけは打ち明けた事が無かった。
それでも、咲也は“恩返し”がしたかった。自分の価値を分かりやすく証明して安心したかった。純粋で利己的であると『妖精』たちが、鼓膜の奥底で責め立てる。しかし、咲也はアスクに必要性を提示できるのは、己の体を使った実体のある利益しか思いつかなかった。そんな自分も嫌だった。
──変わりたい。変われていないから真嘉たちの事も上手く行っていない気がしてくる。自分という存在が全ての歯車を狂わせているような気がする。
悪循環、今のままで居続ける以上、咲也は状況は好転しない、むしろ悪化するとネガティブ思考を募らせる。実は教室列車での移動中、咲也は真嘉とほぼ同じような思考になっていた。会話が増えて上手く行っているように思えて、実は何も変わっていなくて、それに対して自分を責めていた。真嘉と違うのは『妖精』が何倍も己を責め立てるという事のみ。
そうやって数日を過ごす事となり、この転校で何か切っ掛けになればいいと強く願い、そうして訪れた北陸聖女学園・第七分校にて、アスクは壁に掛けられていた小さな全体図の、とある1点を指し示した。
咲也は考えるよりも前に、声を掛けていた。
「──どうしたのアスク? そこに何かあるの?」
+++
咲也に指摘されたアスクは、咄嗟に学園全体図から指を離して、両手の平を相手に見えて振るい、なんでもない事をアピールする。
実際には、指を付けていた箇所には識別番号02と『
「気にしないでいいのか?」
アスクの意思は正確に真嘉たちに伝わる。その通りだと念押しに、いつもと変わらない親指を突き立てた。
「──本当に?」
「咲也?」
「本当に……気にしなくていいの? アスク、もし何かして欲しい事があるなら、遠慮なんてしないでよ……」
意思疎通は正しく行われた、しかし、咲也は本当なのかと疑いの言葉を口にする。信用していないからじゃない。むしろアスクを心から信用しているからこそ、自分たちを第一に考えて、本当はして欲しい事があるのに誤魔化したのではないかという発想に辿り着いてしまった。
と言っても改めて否定すれば、前提としてアスクの迷惑になりたくないと、咲也は大人しく引き下がるだろう。しかし、ここで予期せぬ連鎖反応が起こった。
「……あれ、ここって……?」
「亜寅? どうした、何があったのか?」
「いや、そういえば狼さんどこ行ったのかなって思って、場所を調べたんですけど……」
そういえば、アスクと一緒に来ていた筈の識別番号04が居ない事に気づいた、『
狼さんというのは、主に亜寅たち中等部ペガサスが使っている識別番号04の呼び名。夜稀がアスクたちと同じように名前を付けようとしたさい全力で拒否。事情を尋ねると人型に進化したさいに名付けて欲しいという意思が伝わった事で、『東海道ペガサス』のムツミを習い、狼さんと言う仮称で呼ばれるようになった。
「なんか、狼さんとは違う、アスクの友達の場所……これって、この学園の中じゃないですかね?」
「……なんだって? それは本当か!?」
「た、たぶん、さっき指さしたのも、この位置っぽかったですし」
亜寅が気になって調べた事で、識別番号02が現在、北陸女学園・第七分校校舎内に居る可能性がペガサスたちに共有される事となる。
「そんで狼さんが学園の外側から、その仲間の方に向かっている感じなのかな?」
そう言いつつ、亜寅はアスクを見た。しばらく目が合っていた二人だが、ふいにアスクの単眼が逸れた事で図星である事を認めたと、亜寅の言う事が事実であると『ペガサス』たちに認識される。
「いったい何が起きているんだ? ……レミ、何か言いたいことがあるのか?」
「えっと、本当に単なる妄想レベルの話なんですけど、アスクの仲間は前々から学園に捕まっていたかも……それで、アスクたちは内々に救助作戦を行っていたかもしれないです、はい」
レミの考えは、物的証拠が何もひとつもない、あくまでもしかしての話であるがアスクの態度や、識別番号02の位置などから、仲間が北陸女学園に捕まっていたという事が、まるで事実であるかのように広がってしまう。
「──もしかして、助けに行きたいの?」
それは誤解であると、アスクは宥めつつ、なんとか伝えようとする。
「私たちに遠慮なんてしないで、もし、本当に助けに行きたいのなら……力になりたい」
しかし、助けには行きたいと嘘ではない気持ちが、アスクの挙動に出てしまい、周りには誤魔化しているように見えてしまっていた。これにより、彼ならば自分たちの安全を優先して本当は力を貸して欲しいのに言えないで居る。そんな優しい疑惑に拍車がかかり、納得への道を遠ざける。
「──アスク」
──ここに彼の真意を察する事のできる先輩は居ない。いちど疑ってしまえば答えを指し示してくれる回答がおらず、お互いの落とし所が迷子になり、話し合いは進む事無く、会話は同じ部分を何度も繰り返す。
「──なんだあれ? 動く鎧か!? ……か、格好いい」
「あー、そういえば、あんた。ああいうの元から好きだったわね」
「
「ギャハハ、本当に触手が伸びてやがる! あれで活性化率を下げる液体を下げるっふ!!」
「てめぇは、今から二度と喋るな」
そうこうしているうちにハジメたちが合流する。
「……真嘉先輩、何か話し合っていたようですが、トラブルが?」
「実はアスクの仲間が──」
えらい事になっていると、震える張本人とは別に、真嘉が『アイアンホース』たちに今までの事を共有し、話が広がっていく。
「アスクの仲間が学園内に居る可能性が高い……それが本当なら放って置くわけにも行きませんね」
「助けに行くつもり?」
「……仲間が居ると思われるのが第七施設であるならば、こことは正反対ににあります、通路は一本道のみ、外側から回るのは難しいでしょう」
ハジメは一先ず状況を整理する、学園の外は『街林』のようになっており、多種多様な『プレデター』たちが多く棲み着いている事こそ知らないものの、『アイアンホース』としての経験上、危険であると判断した。
「なぁ、本人がいいって言ってるなら、気にしなくていいんじゃねぇの?」
「……でも、放っておける内容じゃないわ」
「だからって、本人が嫌がっているのを進んでやるってか?」
「そ、それは……でも……っ!」
「ん、おお? おいおい大丈夫かよ?」
咲也は『妖精』の声が酷くなり、耳元を抑える。
「……でも、何かできるなら……したい……」
「──ん……いま考えたって意味はないよ……旅は始まってからトラブルが起きる」
「か、香火?」
「お土産は……現地で買わないとね……どれだけ寒くても」
相変わらず、立ちながら寝たり起きたりを繰り返している『
「ナー……なんて?」
「くくっ、助けに行こうって言ってるんじゃね? しっかし、アルテミスの先輩らは楽しいのばっかでいいな。ほんとお前が居る時は退屈しねぇぜ、ハジメ」
「……ん? ちょっと待て通信が入った──こちら
「ちっ、クソがっ! 今すぐ戻るからエンジンかけとけ!!」
「……それで、どうしたの?」
怒り心頭といった様子で通信を切る
「自分たち【
「そんで、救援と調査を兼ねて、貴女たちが派遣されたってわけね」
「……ねぇ、それって大丈夫なの? この学園の異常が知られてるって事よね?」
「いえ、ここで何が起きているのかは分かっていないはず。その先行調査に
大人たちは要請に応じて【606号教室列車】と【303号教室列車】を送った段階であるため、まだなんの情報も得ていないと不安になった咲也に、ハジメが冷静に返す。
「しかし気になる事がある。状況不明地点での救援と調査ならば、適しているのは400番代の筈だ。なのになぜ【
「……ナー、この前の鳥取砂丘におけるプラント型の討伐作戦で、多くの400番台を損失する被害を受けた。その影響はあるかもな」
鳥取砂丘での作戦では多くの教室列車とアイアンホース、車掌教師が犠牲になったと、なんて事無く答える
「後はまぁ、ちょっとした功績取りってやつじゃないか? このまま出世させるのは不安だから、これぐらいは出来ますってな」
「……後は、他の北陸女学園の分校の様子とかも関係しているかもね」
ルビーは『東海道ペガサス』がアルテミス女学園へと転校してきた理由を思い出す。
「ナー、理由はどうでもいい。これから自分たちは【606号教室列車】と【303号教室列車】と共に第二施設へと進行を開始する」
「──たったいま、
「どうする? いちおう、私たちは部外者だけど?」
北陸女学園・第七分校の救援および調査は、鉄道アイアンホース教育校所属の『アイアンホース』たちに与えられた任務である。そのためハジメとルビーを含めたアルテミス女学園勢には関係のない話ではある。
「……真嘉先輩、お願いがあります」
だからといって放っておける関係性ではないと、ハジメは真嘉の正面に立ち、腕を後ろに回して直立する。
「現在、この学園は、どれほどの被害にあっており、どれほどの『プレデター』が侵入しているのか分からない状態です。そのため【303号教室列車】および【606号教室列車】、その所属するアイアンホースでのみ作戦を行うには危険が過ぎます……なので、共に第二施設へと進行して下さるようお願いします」
危険が伴う願いであるからと、力強い瞳でハジメは格式張る態度で真嘉に頭を下げた。
「……そう、だな」
真嘉は考える素振りをしつつ間を置いた。そのさい誰かの鼻が鳴った。
「分かった。ハジメの仲間たちはオレからしても放っておけないし、オレたちも何かアルテミス学園に持ち帰られるものがあるか探したい……そしてアスクの仲間の事だってある。だから付いていこうと思うんだが、皆もそれでいいか?」
真嘉に反対するものはおらず、そのまま決定となる。
「ありがとうございます! ……それで早速、その事で夜稀に頼みたいことがあります。第二施設へと進むための通路ハッチが閉ざされており、ロックが解除できないとの事です」
「……ソフトは専門外なんだけど、いっかい見てみるよ」
──『
+++
3333:アスクヒドラ 自分のアホさ加減と、みんなの優しさに対して咽び泣きたい。
3334:識別番号04 なんとしても停止させろ。識別番号02とクリオネは自身が救出する。
3335:アスクヒドラ いやでも、本当にどうしよう。 信用されすぎていて話を聞いてくれない事ってあるんだ……。
3336:識別番号02 否定→強引な手段はするべきではない。 理由→アスクの意思が完全に伝わらない現状、致命的なコミュニケーションエラーになりかねない。
3337:アスクヒドラ ゼロツーの言う通り、マジでいま怖がらせたら、どうなるか分からんない……本当に、久しぶりに、自分が喋れないってのが嫌になったよ。
3338:識別番号04 ──自身の発言は浅慮であった。撤回し、謝罪する。
3339:アスクヒドラ いや、全然、ゼロヨンが謝ることじゃないから。 でも、本当にどうしようか……。
3340:識別番号02 意見→変わらず今後の方針は彼女たちアルテミス女学園ペガサスに委ねるべきである。 理由→既に彼女たちは、第二施設への移動を行う事を決めたので、この時点でアスクが静止させるのは『アイアンホース』たちにとっても都合が悪く、場をかき乱す事にしかならない。
3341:アスクヒドラ そうなんだよね……任務についていくのは大賛成だけど、それからどうなるかだよね。調査するのは第二施設だけかもしれないし。 ゼロツーとクリオネちゃんを助けられるなら助けたいのは間違いないけど……。
3342:識別番号02 状況→こうなってしまった以上、ここに待機しつづけては不都合が多いと考える。 開始→よって自分たちも、この室内から出て外を探索する。 目的→識別番号04もしくはアスクたちとの合流を少しでも早める。
3343:アスクヒドラ ええ? それって危なくないか?
3344:識別番号02 不明→『プレデター』の襲撃によって、現在外の様子は完全に分からなくなっている。これがチャンスであるか否かは、外の様子を確認して見てみないと分からない。 補足→脅威が人間よりも『プレデター』のほうが高くなった事で、ここに留まるのはむしろ危険である。 理由→もし『プレデター』が集団で室内へと侵入してきた場合、逃げ場所がない
3345:アスクヒドラ そっか……ごめん……っていう話じゃないよな。 分かった。最悪ほんとうに駄目そうだったら、俺はみんなを強引にでも止めて、アルテミス女学園に戻ることにするよ。
3346:識別番号02 正直→外の様子がどれだけの被害なのか、人間たちが生き残っているのか何もかも不明であるため、外部から調査を行ってくれるのは助かる。
3347:アスクヒドラ わかった。こっからお互い小まめに実況して行こうか。 みんな無事で帰るために。
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「……なぁ、真嘉と言ったか? お前がアルテミス側のチームリーダーという認識でいいのか?」
「あ、ああ。俺がリーダーで間違いないぜ」
巨大ハッチが開けられない事で夜稀が調べている間、一同は教室列車の近くで自由な時間を過ごす事となった。そのさい
「ニャー、思った以上に頼りないリーダーだな」
小柄な後輩から放たれるド直球感想に、真嘉は胸にどでかい矢印が刺さった気がした。
「……そう、だと思う。ハジメと比べたらオレは頼りないように見えるし……実際にリーダーとして大事な事を、ちゃんと決められていない」
先程の話し合いにおいて、真嘉は、また後輩の言葉に乗っかっただけじゃないかと、しつこいほど同じ事で、うじうじ悩んでいたため完全に図星であると認める。その所為か、最後の言葉は言うつもりはなかったが、殆ど無意識に口に出てしまった。
「ナー、自覚してるなら、シャキッとする努力を怠けるんじゃねぇよ……誰かの言葉をパクって口にしただけだろうが、リーダーであるお前が決めた事だろうが」
「それは……そうだな」
「どうにもならない時が来て、お前の指示で悪化の道を進む事となっても、目的を絶対に達するために迷わずに指示を出し続けるしかねぇのがリーダーなんだよ……だから、自分の口にしたものを絶対に曖昧にするんじゃねぇ」
もしかして励ましてくれているのか、だったら感謝したいと思い
「
「……ニャー、悪かった。敬語苦手なんだ」
「いや、まあなんだ、気にしないでくれ。敬語が苦手なら使わなくていいぜ」
そう言いながら真嘉は、敬語が苦手ってレベルかと思ったが口にはしなかった。
それにしてもと、
「堂々とか……」
真嘉は、
「──どう? 開きそうー?」
「あんまりだね」
真嘉たちが時間を潰している一方で、第二施設へと繋がる通路を閉ざす巨大ハッチ付近。夜稀は操作盤の中身を開いて調べているのだが作業は難航していた。
「んー、駄目だ。電源は生きているけど、ロックを解除する手段が無い。緊急時のための開閉手段も見つからないなんて……もしかして通路側だけにあるのかも……うーん、それだと本当にどうしようもなくなる」
夜稀が調べた限りでは巨大ハッチを開くためには、どこにあるか分からない制御室での操作が必要になる。いちおう、この制御盤からでも開けるようになっているが、操作をするためにはパスワードが必要となり、プログラム面の専門知識は疎い夜稀では開けないものであった。
「通路側にボタンがあるの?」
「ある“かも”だね。いっかい見てみない限りは分からない」
「ふーん、だったら自分が見てこようか?」
興味深そうに夜稀の作業を見学を見ていた
「ん? あ、そうか。君の魔眼は壁を通り抜けられる〈
「分かった! じゃあ行ってくるね!」
「……あ、ちょっと待って、ハジメに許可を取ってから」
このまま独断して通路の奥へと活かせるのは駄目だろうと、寸前で止める夜稀であったが間に合わず。
「あいだ!?」
「……あれ?」
しかし、
「痛たた……超痛いよ!」
「だ、だいじょうぶ?」
「平気、怪我はしてない……でも通り抜けられなかった、え~、なんでぇ?」
「魔眼が通じなかった? ……もしかして魔眼対策が施されている? え、そんな筈は、だってこれだけ大きなハッチに……でもそれしか考えられない……」
夜稀は、もう慣れたように〈
「間違いない、教室列車のと同じように〈魔眼〉を防ぐ加工がされてある……!」
この巨大ハッチは魔眼の効果を発生させないための加工が施されており、それは【303号教室列車】の管制操舵室と同じく、光を殆ど吸収してしまう黒色塗料が施されているのだと確信する。
「……こんな大きい物体の全てに塗料を施すなんて、一体どれだけの材料と予算、それに生産設備があれば可能なんだ……正気かよ」
夜稀は組織運営とか、金銭廻りに関する事は専門外であるため、よくは分からない。しかし、これだけの巨大施設を作った事よりも、彼女の技術者としての価値観が“非常に予算がかかるひと手間”という部分を肌で実感し、北陸女学園という組織が、アルテミス女学園とは比較にならないほどの巨大な組織であり、それを保てるだけの技術を持ち得ている事を実感し、興奮する。
「
「この壁通り抜けようとしたら、できなくて頭ぶつけちゃった」
「魔眼が効かなかったのか?」
「ハジメ、実は──」
「なるほど。それは困りましたね。最悪、魔眼を利用して無理にでもこじ開けようと思ったのですが……砲撃や爆弾などでの物理破壊は可能だと思いますか?」
「正確な事は分からないけど、強引な手段は止めといた方がいいと思う。見るからに分厚いから、本当に破壊できるか分からないし、出来たとしても二次被害が発生した時の被害が、とんでもない事になる」
目に見える【606号教室列車】に連結している固定砲台。あれを撃てば、もしかしたら巨大ハッチは破壊できるかもしれないが、巨大な砲弾の破片が周辺に散らばる、また壊した事で建物そのものにダメージが入ったり、瓦礫が進路を塞ぎ、むしろ道が塞がってしまうなど、夜稀は強引に壊そうとした場合、最悪の事態は低くない可能性で発生する事をハジメに伝える。
「了解した。その事も含めて、どうするか皆で話し合おう。夜稀も来てくれ」
「うん、でも、もうちょっと待って、駄目元だけど【プラタナス】に差し込んで見る」
【プラタナス】は、あくまでも工具箱型ALISであり、自分の作業を補助するためのものである。そのため純正な端末とは違い、パスワードを開けるような事はできないだろうと思いつつ、何か調べられるものがあるかもしれないと、制御盤の奥に見つけた差し込み口にコードを繋げる。
「……ん?」
【プラナタス】のモニターを見ていると首を傾げた。いつもシンプルで面白みで言えば無いに等しい質素なフォント文字が表示されている。
ただ表示されている言葉は、何時もの『ALIS』のステータスや、作業に関するものではなく、個人的に集めているデータファイルではない。それは接続した巨大ハッチに関する“選択肢”であった。
──質素に表示されている、[開く]という項目。
「……いや、嘘だろ……」
そんな筈はない、仮にも巨大な施設の防衛セキュリティだ。こんな外部ツールでしかない工具箱型ALISにハッキングできるスペックはない。
だから、もしもこれでハッチを開く事ができるならば、元から【プラナタス】の内部に、この北陸聖女学園のサーバーに干渉できるキープログラムが積んであったという事を意味する。
──どのようなものであれ戦うための武器の形をしている専用ALISの中でも、異質である工具箱型専用ALIS【プラナタス】。もう全てを熟知したと信じていた夜稀は、自分の知らない何かをしり、薄寒さを感じながら、“開く”のディスプレイに表示された項目を押した。
「あれ!? 開いた!!」
「開錠できたんだな、ありがとうございます夜稀」
「あ、うん……」
あまりにも呆気なく、巨大ハッチが下へと下りていき、床へと収納されていく、ゆっくりと動く姿は壮大であり、夢中になれるほど好きな光景であるが、今の夜稀は呆然と見つめるだけであった。
「……?」
だからだろうか、夜稀は違和感にすぐに気がついた。通路の方に何かがいる。一体だけじゃない、数え切れないほど大群が。
──その正体に気付くのに時間は掛からなかった。見たことのない種類ばかりであるが、どのような存在であるか見間違う事は決してない。夜稀は咄嗟に、周囲にいる全員に聞こえるように腹から声を出す。
「……あ、ぷ、『プレデター』だ!!」
巨大ハッチが落ちきった時、通路に居た『プレデター』の軍勢が、夜稀を見た。
──この門をくぐる者は、一切の希望を捨てよ。
お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告、いつもありがとうございます!
これからも楽しんでいただけたら幸いです。
【私事】
この作品とは関係なく、完全なる私事になりますが、制作したTRPG自作シナリオにてイラストを担当してくれた方が、テストプレイ時のセッションを動画化してくれています。よろしければ視聴して、楽しんでいただけたら幸いです。
直接的に関係のない別作品の宣伝を行うのは礼を欠けている行いだと承知していますが、応援させてください。問題が発した場合は消したいと思います。
[【エモクロアTRPG】薄幸少年と不幸お姉さんが巻き込まれる『0番童話』#1]