この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」 作:庫磨鳥
北陸女学園・第七分校、その『第1荷役施設アルカイド』と『第2居住施設ミザール』を繋げる“第一通路”は十数キロにおよぶ。床には埋め込み式の線路が有り、『新日本鉄道』が保有する列車であれば走る事ができる。
ひたすら真っ直ぐ進むだけの退屈な通路はいま、人間であるならば決して果てに辿り着くことのできない地獄の洞窟と化している。何故なら海の底からやってきたとされる、ウミウシ型プレデターが百、あるいは千、もしくは数えるのが難しいほど第一通路内へと留まっているからである。
一億八千万年前では、当たり前だったとされる海中都市の生活用水路を通って内部へと侵入。そこに住む人間を抹殺する事を目的に作り変えられたとされる。だからこそ通路に集まっているのではないかと、識別番号02は推察した。
もはや、ウミウシ型プレデターの巣となった通路。通りかかる人間が居れば、陸の上であろうと、海の上であろうと関係ない。『プレデター』として月の裏側にいる
──DA DADAN!! DADADADADAN!!
鉄の馬が
ハジメたち七名からなるアイアンホース部隊アイゼンは、七キロ速度で走る【606号教室列車】と【303号教室列車】の数メートル前方を付かず離れず、銃を構えながら進む。
肩揺れによって銃口がぶれてしまう事で、全く当たらないとされる移動しながらの発砲であるが、『アイアンホース』としての体幹と、訓練で身に付いた姿勢制御、そしてなによりも『ALIS』のアシスト機能によって、アイゼン部隊はウミウシ型プレデターの急所を撃ち貫いていき、自身らが進む道を制圧進行していく。
≪──こちらゼロ、8キロ地点を突破。線路問題なし、プレデター接近、
「了解。リーダーより各自、このまま発砲距離を120メートルで維持、速度そのまま、位置そのまま進め」
ゼロから発信される情報を聞き、ハジメはリーダーとしてアイゼン部隊へと指示を出す。
教室列車の真正面に位置する彼女は、マークスマンライフル型ALIS【KG9-MR/《ナイン》】での射撃を控えめにして、教室列車と部隊の位置関係を調整する
≪こちらルビー。このペースと数で出てくるなら、10キロ地点で
「了解。補充タイミングが被らないように気をつけて下さい」
ハジメの数メートル前方に位置取っている
≪
ショットガン型ALIS【
通常使いしている散弾では有効射程外の距離からの射撃であるが、現在使用している
しかし、ウミウシ型プレデターは硬い皮膚を持つものの、軟体であるためか
「
≪
≪……こっちの
「どちらも、
≪分かってるわよ。これで頭の中身は変わっていないっていうんだから、不思議なものよね≫
ハジメより右斜め上。
戦闘時の
──だからこそ、ハジメたちは自分たちの中で最も強く、“一番敵対したくない相手”として、
≪ハジメ、
「了解──
≪問題ない。自分だけで制圧可能≫
≪あんまりやる事ないかも!≫
アサルトライフル型ALIS【
【
「分かった。それでは
≪
「
≪
≪──こちら
「了解」
「──ナー、交代だ
「それはこっちのセリフだぜ
「どうしたって移動しながらだと限界があるんだよ! 〈
そんな
「真嘉先輩、弾を入れてくるから、自分が戻って来るまで前に出て、
「分かったぜ……あと、言いづらかったら敬語とかいいぞ」
「ルビーが煩い……です」
「ギャハハハ!! マジで無駄な努力!!」
「ナー、クソ犬あとで〆る」
「さーて、んじゃあ遊んだ分。真面目に仕事しますかね」
その撃ち方は断続的で弾が無駄になる事を最小限にしたもので、大人しく理性的である。【KG10-GIII/《サンダーライン》】を非常に楽しそうに撃ち、制圧射撃を行っていた
「こちら
≪だったらお言葉に甘えて。ハジメ、
≪了解──
≪
≪こ、
≪はい~、では先ほど教えた通り、縦三本のラインを参考に、中央の標的を意識して観てくださいね~≫
通信機越しに聞こえた
「──ねぇ、私、ちゃんと出来てる?」
「はい。とても助かっていますよ~。──次の群れが来ます、引き続き、
「わ、分かったわ……」
(あそこ)(真ん中右だって)(あの三体固まっているやつ)(いま気づいたの?)(あいつ放って置くとルビーが困るよ)(後輩に迷惑かけたいの?)
「……真ん中右側、三体固まっているの」
『妖精』の罵倒混じりの指摘のままに示すと、
「その次は……左の五体……奥の二体、じゃなくて四体……その右に居るちょっと離れたのも、お願い」
『妖精』は群れの中から対象を選ぶ。他と違いはないのに、どうしてあの個体たちなのか、その理由は咲也。そしてどこまでも咲也本人の意識でしかない『
──不思議な先輩ですね~。
ひとつの群れが終わり、また次の群れが来るまでの間、
だから余裕があった時期、
──いいですね~。
「先輩、また今度、機会が有りましたら、
「え? いや、わ、私はあんたたちの言う所の
「今でも充分ちゃんとやれていますよ〜。それにもし、先輩がよろしければ自分が色々と教えますので、どうですか〜?」
「……まあ、アルテミス学園に来たら教えてちょうだい……というか、こういう話は、戦闘が終わってからにして」
「それもそうですね~。ごめんなさい」
謝られた咲也は、ウミウシ型プレデターの群れが落ち着いたのを見計らって話しかけてくれたのに、冷たい態度を取りやがってと『妖精』にまくし立てられる。それを知らない
鉄道アイアンホース教育校の文化的に、
≪──こちらゼロ、プレデター接近、
「それでは先輩、引き続きお願いしますね~」
「わ、分かったわ」
再び意識を集中させた
≪──10キロ地点に到達≫
≪ナー、流石に数が多いぞ≫
≪そろそろ、賢く撃つのにも飽きてきたぜ≫
≪でも、増えてるってわけじゃなさそうね≫
「はい、群も疎らになってきました。増える様子もない、通路はもう少しで空っぽになるかと」
まだ通路は地図で確認した限りでは、ようやく半分に到達したところ。油断は出来ないものの、これなら奥になるにつれて余裕になっていき、教室列車の速度を上げられるかもしれないと、ハジメは思う。
「アイゼン部隊全員に通達、このまま、足を止めずに進め」
≪
≪
≪
≪
≪
≪
──集った英雄の部隊、その歩みは止まることなく、軍靴と発砲の音が奏で続けられる。
+++
ハジメたちが第一通路を進んでいる最中。識別番号02も動き出す。宇宙服に近しいデザインをした海中を探査するための“深海服”を己の肉体、『
「メドゥーサ様?」
識別番号02が立ち上がると、『
拘束具は外れないように専用の鍵でロックがされてあるものの、識別番号02が調べていた際、触手で簡単に解除する事ができた。
しかし、識別番号02は本人が気づく前に再び拘束具をロックを掛けた。プテラリオスが滅ぼした第四分校の事情を考えれば、仰々しい拘束具がなされているのはそれ相応の理由があり、『
また、明らかに異形である自分を視認してしまえば、『プレデター』であると敵意を持たれて最悪な方向へと進んでしまうかもしれないため、少なくともアスクたちと合流するまでは、自身をメドゥーサと勘違いさせ続けなければならず。目を塞いだまま連れて行くと決断した。
ただ、それによって問題になるのは目の見えない彼女を、どうやって連れて移動するかと識別番号02は思案する。掛かる負担は最小限、緊急事態を備えて自身が運んだほうがいい。幾つかの姿勢をイメージする中、アスクからの提案をガチで採用。横向きに正面から抱きかかえる、いわゆるお姫様抱っこに決定する。
「メドゥーサ様、どうかしましたか?」
動きを察知したクリオネが尋ねてくるが目が見えないため、承諾を取るのは意思疎通は難しい。なら、識別番号02は仕方がないと、驚かせてしまう事を承知で即座に実行、膝立ちとなり、クリオネを持ち上げ──ようとしたが、細身で華奢なクリオネの膝裏を掬おうとした左腕が動かなくなった。
「……私に何かして欲しい事があるのでしょうか?」
識別番号02は、まだ『
全く動かない。
──何故、なにが原因だ?
クリオネが何かしている様子は無く、原因は明らかに自分側にあると思われるが、それが何なのか分からないと混乱する識別番号02に、アスクからの何気ない指摘が入る。
──シンプルに識別番号02のパワーが足りないんじゃない?
なんだか面白くない理由だとして、反論を秒で書き込んでしまった識別番号02であるが、改めて今の『
思えば、この『
──結論、この『
小さな物なら持ち上げられるのは、先ほど試して分かっているが、人体の重量であれば軽い方であると思われるクリオネですら掬い上げる事はおろか、本人からして膝裏と背中に触れられている程度しか力が出ていない事に、識別番号02は普通にショックを受ける。
「あ……」
こうなったらと、クリオネの小さな右手を、大きな手で握り、立ち上がる。なるべく小さな歩幅で前へと少し進み、引っ張りそうになる所でクリオネも前に進んだ。
「……どこかへ……行かれるのですね?」
識別番号02は、どう返事するかを考えて、握った手を開いて直ぐに閉じるを二回繰り返す。これに対しての目立った反応は無かったが、“
──疑問、これが“扉”とされるものであるのは間違いない。ならば開くための手段がある筈だ。
扉の近くまで来た識別番号02は調べ始める。見た感じ関係がありそうなボタンを触ってみるが反応しない。
──考察、反応はないが、これが開くための装置である事は間違い無い筈だ。
──状況、鍵が掛かっている、あるいは起動していないと思われる。
それならば、中を調べてみるかと識別番号02は“笠”から細長い触手を扉へと伸ばし、隙間などに入りこませる。すると機械と接続したような感覚を抱き、触手を通して識別番号02に扉に備わっている装置に関する
──理解、この触手は人間の作った機械に干渉する事ができる。
段々と自身の〈
「そちらは……」
クリオネが、自分が来た道に戻ろうとしている事に気づいたのか、困惑している様子を見せるが、識別番号02は反応できる手段がないとして、そっと彼女の手を握り、歩き始める。
──興味、これが人の住まう施設、その通路か。
倉庫の外は、サイエンス的なデザインの通路であった。味気のない白が先まで続く退屈なまでの直進の廊下であるが、識別番号02にとっては新たなる地上の景色であり、未知へと続く道も同然。知的探究心を刺激されるのには充分であった。
──自粛、今はアスク、もしくは識別番号04との合流を最優先とする。
今は余計でしかない感情を散らして、クリオネの手を握り、ゆっくりと歩き出した。
──違う道、違う足跡、運命を望んで。
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