この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」   作:庫磨鳥

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予約投稿失敗しましたので、そのまま投稿します。

紅葉崎もみじさんに支援絵を頂きました! 本当にありがとうございます!

[プテラリオス(デフォルメユニット)]
こういうの好き

[02の抱っこシーン]
がんばれ~……


第六十七話

 

5933:識別番号02

報告→部屋を出て通路を進んだ先のエレベーターへと乗り、さらに直進通路を進んだ先にあった扉の前へと到着した。

 

5934:アスクヒドラ

ごめん! いま弾出し手伝ってるし、なんか横からにゅっと出て来たみたいだし、最悪列車が襲われるかもだから、こっちに集中する!

 

5935:識別番号04

アスクヒドラは目的地に到着するまでそちらに集中しろ。

 

5936:アスクヒドラ

だよね! 

それじゃあ終わるまで聞きに徹するから、代わりにプテラは、俺の20点モノマネで反応頼んだ!

 

5937:プテラリオス

分かりました。

今のところゼロツーのところは、人もプレデターも居なくて危険度はマジピース? 最高にセーフティなロードでいい感じ?

 

5938:識別番号02

点数→80点

評価→動揺したアスクが、自身を落ち着かせるためにフランクな言葉遣いをしそうな所が、本人度が高くなってしまい点数も上がってしまった。

 

5939:プテラリオス

難しいです。

 

5940:識別番号04

プテラリオス、混乱した事による戯言だ。真面目にやらなくていい。

 

5941:識別番号02

所謂→何時ものである。

回答→ここまで人間および『プレデター』の遭遇する事はなく、またここで争った形跡は無い。よって元より、この場所には人間は来ることのない特殊な場所である可能性が高い。

 

5942:プテラリオス

クリオネちゃんは、どうでしょうか?

 

5943:識別番号02

様子→最初こそ戸惑っているのを感じたが、今は自身に従い大人しく着いてきている。

理由→どうやら自身の領域に連れて行ってくれると信じ切っているようだ。

 

5944:プテラリオス

領域というのは、アルテミス女学園の事を指しているのでしょうか?

 

5945:識別番号02

否定→アルテミス女学園であるならば、自身の帰るべき場所というニュアンスに違和感が生じる。

考察→『聖女(シスター)』のクリオネは、自身と認識しているメドゥーサの領域となるが、それが何であるかは分からない。

 

5946:識別番号04

今後、その誤認による問題が発生する可能性は?

 

5947:識別番号02

不明→しかし、自身をメドゥーサと勘違いしているため従ってくれており、少なくともアルテミス女学園ペガサスたちと合流するまでは勘違いを継続させなければならないだろう。

 

5948:プテラリオス

識別番号02に質問があります。人間や『プレデター』に遭遇した場合、どう対処するつもりですか?

パワーの無い『人器(じんき)』では、遭遇してしまえば、あまりにも危険ではないでしょうか?

 

5949:識別番号02

────多分→しかし自身が得た電気を活用する〈固有性質(スペシャル)〉は、『人器(じんき)』の操作などに加えて、人間の機械を操作など、扱い次第では立派に戦える力となる事は間違いない。

 

5950:識別番号04

前置きに“多分”と発言しているぞ

 

5951:プテラリオス

戦える手段が有るのですか?

 

5952:識別番号02

所々→プテラの純粋な性格から発せられる質問は、自身に自我があるという事を証明させてくれる。

 

5953:プテラリオス

すみません。難しくて分かりません、詳しく教えてもらってもいいでしょうか?

 

5954:識別番号04

ともかくだ。プテラリオスの言う通り、戦闘に関する事柄を定めておかなければならない。

 

5955:識別番号02

肯定→自身の戦闘能力は未知数であるため、なるべく人間やプレデターの痕跡が少ない場所を進行ルートとする。

 

5956:識別番号04

そのためには自身の地点と建物の地図を発見しなければならない。であるならば、合流よりも探索を優先するべきだろう。

 

5957:識別番号02

肯定→時間を浪費してしまうが、安全性を向上させるために周辺を探索する。

 

5958:アスクヒドラ

分かったよゼロツー! それで聞きたいんだけど、トロワちゃんにマガジン投げてってお願いされたんだけど、本当に投げていいと思う!? 爆発しない!?

 

5959:識別番号02

不明→専門家に委ねるしかない。

 

 

 

 +++

 

 

「……? メドゥーサ様、どうかしましたか?」

 

 識別番号02は仲間内と話し合い、今後の方針を決めるために扉の前に立ち止まっていた。しばらく待っていたクリオネが不安となって声を掛ける。

 

 ──対策、これからの事を考えて、『聖女(シスター)』のクリオネとの対話手段を定めておいたほうがいいだろう。

 

 決めたら直ぐに実行と識別番号02は、壁を叩こうとしたが手が止まり、『人器(じんき)』の操作の仕方が不自然に分からなくなったかと思えば元に戻る。

 

 識別番号02は直ぐにこれがレガリア型に課せられている意思疎通の制限であると理解し、すごく不快になる。それは不便さからではなく、自身の思考にすら干渉してくるがのが何よりも嫌だからだ。仕方なしに識別番号02は次策として、クリオネの手を握っている指に力を強めたり、弱めたりを繰り返す。

 

「……もしかして、何かを伝えようとしていますか?」

 

 喋る事のできない識別番号02と、目が見えないクリオネの対話と呼ぶに価するやりとり、この時点で識別番号02は、これからの苦労を予想し、地道にやってきたアスクに称賛を言葉を送る。

 

 なお、実際に本人に言ったところ、“ゼロツーに褒められると、めっちゃ背中が痒い”という感想が帰ってきた。識別番号02は抗議を上げつつ、クリオネの手を離して握るを二回繰り返した。

 

「……えっと……これは……“はい”、という事でよろしいでしょうか?」

 

 手の力加減による返事は、最初の部屋を出ていく前に一度行った事もあり、クリオネは“肯定”の動作だとして、きちんと認識する。

 

「……メドゥーサ様、何か事情があって話さないのですか?」

 

 またクリオネ側も、識別番号02が意思の疎通ができると分かって、ずっと気になっていた事を尋ねる。すると先ほどと同じように、手を二回握られる。つまり“肯定(はい)”という事に、クリオネは安堵に近しい気持ちから、小さく微笑む。

 

「そうなんですね……あの、ここに立ち止まっているのは、何か良からぬ事が遭ったからですか?」

 

 新しい問いに、識別番号02は一考する。ここに立っていたのは仲間たちと話し合い、自身のやるべき事を更新していたからであり、悪い出来事があったからではない。

 

 ならば、返事の仕方を変えなければならないとして、識別番号02は手を離しては握るを四回繰り返す。

 

「これは……“いいえ”で合っていますか?」

 

 “二回(はい)”と返事をする。

 

「“はい”ですね……ふふ、メドゥーサ様とお話出来ています……あの、もし、よろしければ、これからも声を掛けてもよろしいでしょうか?」

 

 識別番号02は、どう応えるか少しだけ悩む。初期のアスクよりも意思疎通が難しい現状。会話は最低限に留めるべきであると考える。

 

 自身がアスクに言ってきた事でもあるが、半端な返事をしてしまい間違えてしまった場合、訂正する事もできず致命的な結果を引き起こしてしまう可能性がある。そんな風に考えた識別番号02は少し悩んだ末に、“二回(はい)”と返事をした。

 

「……! ……嬉しく……思います」

 

 ──言語化できるような理由はない。人の心に触れたばかりであり、何が最適であるかは予想すらも難しく下手な事はしないほうがいい。だがそれでも、他者と会話をする事で、一億八千万年の孤独を解消できた経験を持つものとして、感情論的結論による返事をするのは当然であると識別番号02は判断した。

 

 クリオネとの意思疎通について一段落した事で、識別番号02は最初の部屋の時と同じように、扉に触手を伸ばし、扉のロックを解除して中へと入る。

 

 室内は、倉庫よりも小さな手狭な正方形の空間。置かれているものは背もたれが大きなオフィスチェア。小さめの作業デスク、その上にはノートパソコンと、見るだけでは用途不明の機械だけである。

 

 識別番号02は人間が生活するための居住部屋かと思ったが、それにしては家具に該当するものが何も置かれておらず、ここもまた専用の目的のために作られた場所であると判断。だからこそ出会いたくて堪らなかった情報端末らしきもの(ノートパソコン)もあり、ここなら欲しい情報を得られるかもしれないと、場に留まって情報収集を開始する。

 

 その前にと、クリオネをオフィスチェアの側に立たせて、握っていない方の手を肩に乗せて力を込める。

 

「メドゥーサ様? ……ここに、腰を下ろせばいいんですね?」

 

 すぐに察してくれたクリオネの手を二回握り返す。ゆっくりと腰を下ろす彼女の位置がずれないようにフォローしつつ椅子へと座らせて、部屋に出てからは、ずっと握りっぱなしだった手を離した。

 

「あ……」

 

 寂しそうな声色が、球体の何処かに備わっている聴覚機器が拾うが、調べ物をしなければならないため、識別番号02は反応はしなかった。しかし、クリオネの側を離れる必要性もないとして、『人器(じんき)』を立ち上がらせると、“笠”から触手を展開する。

 

 ──決定、アスクヒドラの『蛇筒(へびつつ)』に因み、自身の触手名を『蛇ノ手(へびのて)』とする。

 

 実は触手という呼称に、なんだかずっとむず痒くしていたアスクに呆れつつ、それならばと識別番号02は名前を付けた後、その『蛇ノ手』をノートパソコンへの端子内へと入りこませ、接続する。

 

 ──証明、『蛇ノ手』は情報端末の操作も可能である。

 

 進化によって最も望んでいた情報端末への介入を、実際に行える事が判明してテンションを上げる識別番号02は、勢いそのままにノートパソコンを立ち上げて、内部にある情報(データ)を何の躊躇いもなくダウンロードする。すると、まるで最初から知っていたのを思い出したかのように、このノートパソコンの使い方を把握する。

 

 ──判明、デスクの上に置かれているのは、カメラから映像を映し出し、記録するための監視機器である。

 

 ノートパソコンにコードで繋がれている機械の正体。それはカメラ映像を記録するための録画機器であった。ならばこの部屋はモニター映像を見て、映像を見張るためだけに用意された室内であると、連鎖して答えが浮かび上がる事に楽しさを覚えつつ、スリープ状態であった監視モニターの映像を立ち上げる。

 

 そうして映し出されたのは先程、通ってきた通路。それを見た識別番号02は高ぶる感情を冷やして思考を行いつつ、他にも映像があると切り替えていく、すると順番的にエレベーター内部、下の通路、そして自身が目覚めたクリオネと出会った倉庫内が映し出されていた。

 

 次に識別番号02は映像記録を遡っていく。すると自分たちが部屋を出る様子、『人器(じんき)』を装着してクリオネを止める様子、クリオネが現れる様子、球体でそこら中に転がっている様子、そして自身が何も無い空間から現れて、十分後に動き出す様子が収められていた。

 

 ──不覚、見られていたのか。

 

 ──疑問、なら誰も来なかったのは何故だ?

 

 ポイント・ネモに墜落していた宇宙船が、どうして自身をここに送ったかは、いま答えを出せるほどの情報が無く、考えるだけ時間の無駄だとして頭の片隅に追いやりつつ、やはり自身が現れたところは、ばっちりと映像に映されてしまっていた。なのに完全に放置されているのは、流石におかしいと識別番号02は、理由を知れるための情報(データ)はないかと調べる。

 

 ──鑑定、このノートパソコンは外部とのネットワークに繋がっておらず、映像データのコピーもされた痕跡はない。よって外部に持ち出された可能性は限り無く低い。

 

 ならば、ここには元から誰も居なかった。学園が『プレデター』の襲撃にあって避難でもしていたのかもしれない。そう結論付ける事もできる。 だが気になる事がひとつある。

 

 ──再考、クリオネは何故、あの部屋へとやってきた?

 

 識別番号02は首の上にある球体だけを動かして、椅子に座って大人しくしているクリオネを見る。

 

 人間に何かしらの命令を受けるにしても、あるいは自分の意思でやってくるにしても、目が見えないという理由から単身で倉庫へと来るのは不自然である。

 

 ──観念、現在位置を調べることに切り替える。

 

 直接、本人に尋ねられない以上、彼女が自分から話してくれるのを待つしかないと、識別番号02はノートパソコンから自分の現在位置を知れるものはないかを調べる。すると、録画機器に保存されていたデータファイルに日本語のタイトルが付けられていた。

 

 ──判明、現在地点は『第七施設最下実験場』。

 

 識別番号02たちがいる場所、それは、北陸聖女学園の果ての中の果てであった。

 

 

 +++

 

≪──こちらゼロ、全体通告。第一通路の果てを目視、これより【606号教室列車】、【303号教室列車】は停車準備へと入る≫

「アイゼン1、了解」

≪や~っと着いたか。撃ちすぎて手の感覚が無くなっちまう所だったぜ≫

≪【KG10-GIII/《サンダーライン》】を、撃ちっ放しにしていたやつが何をほざいている≫

 

 通路の後半、ウミウシ型プレデターが殆どでなくなった事を見計らい、速度を上げるなどして時短を行いつつ進行。そうして1時間弱経過したころ、ついに『第2居住施設ミザール』の眼の前までやってきた。

 

「──ハジメ」

「はい、あちらと同じようにハッチが閉められていますが、ここが通路の終わりで間違いないかと」

 

【ダチュラ】を持った『土峰(つちみね)真嘉(まか)』が、アイゼン1こと『九重(ここのえ)ハジメ』と合流する、

 

「真嘉先輩、そちらの状況は?」

「みんなも列車も無事だ……穴から『プレデター』が出て来た時は驚いたけど、数が少なくて助かったぜ」

「やはり、増援ではなく、単に穴の中に留まっていただけの個体たちでしたか、大事に至らなくてなによりです」

 

 真嘉たち高等部二年、四名は時々、壁の非常口や、床の排水溝、または天井の通気口から出てくるウミウシ型プレデターから教室列車を守っていた。幸いにも群れから逸れて内部に留まっていただけであり、囲まれるような事はなく、四名だけで対処する事ができた。

 

「ハジメたちの方は?」

「はい、自身を含めたアイゼン部隊七名、怪我ひとつ有りません、疲労も抜けています」

「それならいい。お互い無事で何よりだ」

「はい」

 

 通信越しで聞いている事であるが、情報のすれ違い防止のためにも、余裕がある時はこうやって口頭での情報共有を行う。これは『街林調査』において決められた事であり、真嘉もハジメだけではなくアルテミス女学園の面々が当たり前に行うようになったものであった。

 

「……にしても、ハジメたちは凄いな。あれだけの数の『プレデター』が迫りくる中を、ずっと真っ直ぐ進み続けた」

「それが『アイアンホース』の強さです。とはいえ、この通路ではウミウシ型プレデターのみだった事が幸いしました。対応力の方では、どうしても遅れてしまう部分があるので、見たことのない(タイプ)が居た場合、もっと苦戦していたかもしれません」

 

 真嘉の称賛に、ハジメは誇りを持って言い切ったあと、今回の戦いは『アイアンホース』にとって得意分野であり、普段はこうは行かないと冷静に評価する。

 

「いや、俺が言いたいのはハジメたちの連携とかだよ……後ろから見ていて、完璧だと思った」

 

 ──あんな風に戦いながら指示を出す。あれこそが自分がやりたい、やらないと行けないリーダーとしての姿だった。後ろで見ていたハジメの戦いぶりを思い出しながら出た言葉には、確かな羨みが混ざっていた。

 

「ほんと……凄いな」

「真嘉先輩?」

「──ナー、おいリーダー」

 

 不機嫌な二個(ニャーコ)。その横には反対のニヤニヤ顔の一個(ワンコ)の【606号教室列車】コンビが合流する。

 

「任務を終わらせた感じにリラックスしてるが、今からが本番だろうが……扉を帰る前に補充するぞ」

「ククッ、二個(ニャーコ)はハジメが心配で堪らばぁ!?」

「黙れ、一個(ワンコ)

「分かりました。それでは真嘉先輩。自分はこれより補充に入ります。先にハッチの方で待っていて下さい」

 

 ハジメは戦闘によって消費した弾薬。また【KG9-MR/《ナイン》】の点検などを行うために教室列車の方へと向かう。

 

「ちょっとまって……ください、先輩……」

 

 真嘉は言われた通りに巨大ハッチの方へと向かおうとすると、二個(ニャーコ)に呼び止められる。

 

「さっきの話しを聞いて……ましたが……ナー、もう面倒だ」

「おいおい、もう敬語止めるのか? まじで無駄な努力だったなぁ、ギャハハゴッ!?」

 

 二個(ニャーコ)の鋭い横フックが一個(ワンコ)の脇腹にめり込む。この凹凸コンビのやり取りに、真嘉はまだ慣れなかった。

 

「……なんだ、何か俺に用か?」

「ナー、別に先輩がハジメの事を、どう思おうがどうでもいいが、もっとシャキッとしやがれ、見ていて面倒になってくる」

 

 言いたい事は言ったと、二個(ニャーコ)も教室列車の方へと向かう。

 

「……本当にそうだな」

 

 また叱られてしまったと、真嘉は自虐めいたため息を吐くと、愉快である事を隠そうとしない、喉を鳴らす笑い声が耳に入ってきた。

 

「ククッ、随分と困ってんな、先輩方」

「……一個(ワンコ)……でいいのか? 呼び方」

「何でも良いですよ。なんなら犬でも、クソでも好きなように呼んでくだされ」

「いや流石に……」

「そうですかい、なら、一個(ワンコ)でよろしくおねがいしますね。真嘉先輩方」

 

 ──パッと見たとき思ったけど、ぜったい性格が根暗だな。

 

 まだ教室列車で北陸聖女学園・第七分校へと向かっていたさい。一個(ワンコ)に言われた言葉。これによって、どう接していいか分からず、何を言うつもりなのか非常に不安だった。

 

「実は二個(ニャーコ)のやつも、隊長役つーか、指示する側で、色々と思うところあるんだよ。だから、ちょっとだけでも良いから許してやってくれ」

「そう、なのか……?」

 

 そんな真嘉の気持ちとは裏腹に、ちゃんとした相方の擁護をする一個(ワンコ)に、真嘉は呆気にとられる。

 

「自分ら【606号教室列車】には三番(トロワ)が来る前に、四名の後輩が居たんだよ」

「──それは」

 

 一個(ワンコ)は変わらず笑っている。しかし、心なしか違う感情が張り付いているように見えた。思えば【606号教室列車】は大きな教室列車であるのにも関わらず、どうして三名しか所属していなかったのか、真嘉は今になって疑問に思う。

 

「でも全員、鳥取砂丘の作戦で“卒業”しちまった。そん時にリーダーとして指示を出していたのが二個(ニャーコ)なんだよ」

 

 一個(ワンコ)から語られる自分たちと出会う前の出来事。それを聞いた真嘉は頭の中が空っぽになったかのように、何も考えられなくなった。

 

 

 +++

 

 

(すずり)夜稀(よき)』と『鈔前(しょうぜん)亜寅(アトラ)』は『第2居住施設ミザール』へと続く道を塞ぐ巨大ハッチの隅、制御盤の前に集まって話し合っていた。

 

「──どうです、先輩」

「うん、さっきと同じように開けると思う。ハジメたちの準備が終わり次第、開くよ」

 

 制御盤の中を開き、コードを繋げた工具箱型ALIS【プラタナス】の画面には、先ほどと同じように質素なフォントで[開く]という文字が表示されており、『第1荷役施設アルカイド』の時と同じく、ボタンを押すだけで巨大ハッチは開かれる事が分かる。

 

「しっかし、夜稀先輩の専用ALIS。よくわかんないっすけど凄いですね!」

「うん、本当に凄い……意味わかんないレベルで」

 

 このボタンを押すだけで、大きな扉が自在に開くという事に純粋に感心する亜寅。そんな彼女が思う以上に、持ち主である夜稀が理解できておらず、心の底から同意する。

 

 扉を開いているだけではある。だが【プラタナス】が起こしている事は、全く知らない赤の他人の家のマスターキーを持っており、それで扉を開いているという、あまりにも異常だ。

 

 移動中、ハジメや先輩たちが外で戦っている中、夜稀は【606号教室列車】の中にて【プラタナス】を出来る限り調べてみたが、直接的なタッチ操作で行える範囲では、巨大ハッチを操作できる理由(プログラム)を見つける事ができなかった。

 

 ただ、ハッキングなり、正規のプログラムキーであるにして、学園の装置を操作できるものを生半可な立場の人間が持っているものではない。つまり関係者の中でも上から数えたほうが早い立場の人物が、この【プラタナス】に組み込んだ。

 

「……本当、どういう『ALIS』なんだろう」

 

 自分のために作られた『ALIS』だからか、気がつけば自分の側にあるのが当たり前となっていた【プラタナス】。専用ALISなので普通じゃないのが当然であるが、それにしたって、やっぱり自分のために作られた『ALIS』は、あまりにも異質であると言う結論になる。

 

 また【プラタナス】の正体とは別に、どうしても考えてしまう事がある。

 

 ──この巨大ハッチを開けられるプログラムキーは、どの鍵でも解除し、開く事ができるのだろうか? それは物理的な扉のロックだけではなく、いわゆるデータ上のファイルも開ける事ができるのだろうか?

 

 もしそうだったら、北陸聖女学園がペガサスの研究施設の側面を持つのならば、パソコン1台見つけただけで、どれほどの情報を得られるのだろうか?

 

 その中には、ここで開発されたものや、実験のデータが──。

 

「──先輩、夜稀先輩って」

「……あ、えっと……どうしたの亜寅?」

 

 思考の渦に飲まれていた良くは、亜寅の呼びかけによって現実に戻る。

 

「いや、なんか悪い顔してましたよ」

「……え?」

 

 夜稀は自分の頬に触れる。北陸聖女学園が『プレデター』によって壊滅させられたかもしれない状況なのに、どんな宝箱でも開ける鍵を手に入れたかもしれないと、子供のように浮かれていた自分に気づき、不謹慎だったと罪悪感を抱く。

 

「ごめん、我を忘れてた。気を引き締めるよ」

「……あー、自分で言っておいてなんですけど、別に良いんじゃないですか?」

 

 まさか、そんなに気に病むとは思わなかったと亜寅は申し訳無さそうにしつつ、話を続ける。

 

「そりゃあ、夢中になって死にそ……じゃなくて、“卒業”しそうになるのは駄目だと思いますけど、変に気を張っちゃうと、夜稀先輩が辛いと思いますし、喉も乾いちゃうんですよね? それぐらいなら楽しくやってもらったほうがいいかなって……すいません、なんかちゃんと言葉に出来なくて」

「……時と場合は、流石に考えないとだよ」

 

 僅かに喉が乾くが、亜寅に気負わせたくないと。飲み物に口を付けるのを我慢する。

 

「んー」

 

 亜寅は頬を掻きながら、少しだけ考えたあと、自分の気持ちを正直に伝える。

 

「……まあ難しい事は置いといて、ワタシは夜稀先輩が好きな事をしているのを見るのも、好きな事を話してるのを聞くのも楽しいので、そのままで居て欲しいなって思ってます」

「……迷惑じゃなかったのは、嬉しいかな」

 

 ──誰にどう思われようとも、自分の好きな事をしてきた自覚はある。それでも、後輩に自分の生き方を肯定されたことに、夜稀は自分の中で何かが芽吹いたような気がした。

 

「──夜稀、こちらの準備が整った。ハッチを開いて下さい」

「あ、うん。わかった──開くよ」

 

 準備が完了したハジメが夜稀の護衛も兼ねて合流。言われた通りに夜稀は[開く]のボタンを押した。

 

 巨大ハッチが動き出す。少し離れた正面には何が在っても対処できるようにと、アイアンホースたちが銃型ALISを構えており、その後ろには四名の高等部ペガサスたちが居る。

 

「……アスク?」

「なに? ……本当ですね。なぜ列車の外に……」

 

 何気なしにハジメたちに視線を向け続けていると、安全な教室列車に居て欲しいと頼んでいたアスクが立っていた。彼が理由も無しに自分たちのお願いを反故するとは考えられない。

 

「……まさか、仲間の方に何かあったのか? 亜寅、反応はどうなっていますか?」

「んー? 奥の方の仲間が動いている? あと外に移動していた方が結構近くに居る?」

「……もしかして、第二施設で合流する予定なのかな……違う」

「夜稀?」

「なにかが起きたんだ」

 

 アスクを見ていた夜稀は、これまで彼との対話を行い続けてきた経験からか、彼が扉の先を警戒しているのが分かった。皆の最も後ろに着いたのは、何かあったとき自身の出来る立ち位置だからだ。

 

「うっ!?」

 

 ──開いた巨大ハッチの隙間から腐臭が入り込んできた。あまりにも酷くて、体内の『P細胞』が嗅覚を制御し、一瞬で気にならなくなるが──このハッチの先がどうなっているのか、悪い想像をしてしまうには充分だった。

 

「ハジメ……!」

「夜稀、一個(ワンコ)よりも少し高めで、ハッチを止められますか?」

「や、やってみる」

 

 何かあったさいに、直ぐに閉じられるようにとハジメの指示の意図を察した夜稀は、言われた通りの高さで[停止]のボタンを押した。

 

「こちらハジメ、アイゼン部隊、ゆっくりと第二施設へと侵入してください」

≪コピー≫

 

 サブリーダーであるルビーを筆頭に、アイゼン部隊はハッチの奥へと進み。第2居住施設ミザールへと入る。幸いにも通路周辺には『プレデター』は居なかった。

 

「…………酷いわね」

「なんたる事だ……正に地獄に呼ぶに相応しい」

 

 ──第二居住施設ミザール。北陸聖女学園・第七分校は北陸の島にある、隔離された学校である。そのためここで働く共助、およびスタッフは学園の内部にて生活する必要があり、そのために用意された人間が住むための校舎。

 

 直進に続く線路の奥は人が住まう建物が建ち並んでいる。その景色はさながら空が塞がれた都会の街と呼ぶに相応しい。事実、ここで暮らしていた人間は三万人を超えており、北陸聖女学園・第七分校にて婚姻したスタッフが、子供を産み育てるのも珍しくはなかった。

 

 ──そんな人の街が滅びている。遠目から見るだけで、きっと誰も生きていないという確信を全員が抱いた。

 

 確かに『プレデター』が居ない通路出入り口周辺。しかし作業をするための機械たちは破壊の限りを尽くされており、おびただしいほどの渇き赤黒くなった血痕が、そこら中に確認できる。

 

 遠くに並ぶ建物の中は破壊されており、中には煙が立ち籠もっているところもある。こんな風景にしたであろう、見覚えのあるプレデターたちが好き勝手に跋扈(ばっこ)しており、それに混じって見たことのない(タイプ)も確認できる。

 

 もっとも高いビルには宿り木のように千は容易く超える、大小さまざまの『プレデター』が壁に張り付いており、近づこうものなら『ペガサス』だって『アイアンホース』だって二度とは戻ってこられないだろう。

 

「あそこから入ってきたのか……!」

「ナー。だが、どうやったらあんなのが出来る?」

 

 ──そしてなによりも、平和を築いてきたであろうドーム型の壁に長さ数キロほどの大きな亀裂が出来ていた。そこから中へと入ってくる、数え切れないほどのチョウ型プレデターの群れ。少なくとも陸のプレデターが学園内に侵入してきた経路は、あの亀裂なのだろう。

 

「……こちらアイゼン1。ゼロ先生に通達。第二居住施設ミザールは壁に出来た大きな亀裂からプレデターが内部へと多数侵入……侵略地帯化しています。決して通路から出ないで下さい」

 

 第二施設の光景を見たハジメは、直ぐにゼロ先生に知らせる。

 

≪了解、生存者は確認できるか?≫

「人間も『聖女(シスター)』も見つけられません……は、『プレデター』の襲撃に会い、陥落しています」

≪了解、であるならば第七分校の調査は、これ以上必要ないと判断する≫

 

 ゼロは見て明らかに壊滅しており、その原因が『プレデター』であると判明しているのならば、危険を犯して調査する必要性は無いと判断する。

 

「……了解」

 

 ハジメの方は、あんな巨大な亀裂が出来た理由、深海プレデターが居る理由。また人間なり、『聖女(シスター)』なり生存者がまだ居る可能性など、気になる事がたくさんある。しかし、この自分たちの戦力では、『プレデター』の巣窟化した第二施設を進むことは出来ないとして、ゼロの判断に同意する。

 

「『街林』……じゃないよな……人の街だったのか?」

 

 そして真嘉も、二年ペガサスたちも第二居住施設ミザールの状況を目撃。真っ先にアルテミス女学園周辺の『街林』を連想したが、自然に侵食されていないなどの違いに直ぐに気づき、本当の、ほんの数日前、ここには人が居て、そしてみんな『プレデター』に殺されてしまった事が嫌でも分かってしまう。

 

「まかまか、平気?」

「あ、ああ……大丈夫だ」

 

 何時もと変わらない響生に声を掛けられて、強がりであるとバレるのを承知で応える。東京地区を、アルテミス女学園を、自分たちが守りたいと思っている場所を守るために大規模侵攻を食い止めている真嘉たちにとって、失敗してしまったらどうなるのか見せつけられたような気分となり、芯の底から恐怖が湧いてくる。

 

 ────ガコン。

 

「──ん? おい、いま音がしなかったか?」

「デンデンキコロゲーナかったねぇ」

 

 真嘉は何か音がして、もしかして近くに小型種の『プレデター』が潜んでいるかもしれないと周辺を警戒する。そんな中で数メートル先の地面。円形の重々しい半径1メートル以上はあろう、広いマンホールが目に留まる。

 

「なあ、あれって……おい、いまあの蓋動かなかった?」

「──うん、動いた」

 

 真嘉たちは一瞬、蓋が浮き上がったのを目撃した。それはまるで外の様子を確認するために少し上げたようであった。

 

「おい響生──あぶねぇ!?」

 

 響生が確認のためにマンホールに近づこうとすると、蓋が吹き飛んだ。一瞬真嘉の目には内側から棒状のようなもので突き上げられたのが見えた。

 

 真嘉は咄嗟に響生を引き寄せて、盾を斜め上に構える。幸い当たることはなかったが、落下する1メートルの平らな鉄の塊に当たれば、『ペガサス』とはいえ無事では済まなかっただろう。

 

「何がありました!?」

「あの穴に誰かいるぞ!」

 

 音に反応して、全員の視線が向く中でマンホールの中から“誰か”が飛び出した。

 

 ──艷やかで捻れた癖を持つ黒髪と灰かかった白目の大人びた少女。白があしらわれた黒系のダイバースーツに修道服を羽織ったような衣装。その手には銛型の『ALIS』が握られている──そして、尻の付け根に見たことのない尻尾が生えていた。

 

「お前は……」

 

 何者かと訪ねようとした真嘉を、尻尾の生えた女性は睨みつけて、口を開き、鋭いキバを剥き出しにした。

 

 真嘉は咄嗟に反応してしまい【ダチュラ】を構え、〈魔眼〉を何時でも発動できるように臨戦態勢を取ってしまう、その隣を飛び出す小さな影。

 

「響生!?」

 

 響生が、マンホールの穴から現れた少女に向かって【アジサイ】を振り下ろした。




──未知との遭遇。

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