この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」   作:庫磨鳥

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お待たさえしました。これからもマイペースに投稿していきますので、楽しんでいただけたら再開です。

紅葉崎もみじさんに支援絵をもらいました。本当にありがとうございます!
[例の扉絵風]
[例の扉絵風(フリー)]
めっちゃ格好いい……。


第六十八話

 ──『白銀(しろがね)響生(ひびき)』は何をするにしても騒ぎ立てていたが、アルテミス女学園の外に出てからと言うもの不気味なほど大人しくしていた。

 

 ──まだ馴染みある狭い環境だから保たれていた心の均衡が、外に出てしまえば一気に崩れてしまうかもしれませんね。

 

 響生に明確な存在価値を与えている黒髪の先輩、久佐薙(くさなぎ)月世(つくよ)に言われた通り、響生はアルテミス女学園の外に出てからというものの、喋ることが億劫になっていた。

 

 また体の方もろくに動くことなく、【303号教室列車】の移動中、屋上の外を出た時、急に体に力が入らなくなっていて指の力だけでしがみついていた。真嘉が声を掛けていなければ、そのまま放り投げられていただろう。

 

 そんな響生であるが、普通に体を動かせるようになる事がある。それは戦闘の時、もっと具体的に言えば真嘉たちを守るため、命を引き裂かなければならない時であった。

 

 ──せめて、もしもの時に動けるように役割を与えましょう。どうか一切の疑念を抱かず、殺すべき相手に向かって『ALIS』を振るい、傷を付けて、最後には引き裂いてください──大切な人を守るために。

 

 ──それが『叢雲(むらくも)』の白銀響生のするべきことです。

 

 月世から与えられた具体的な指示によって響生は稼働(うご)く、躊躇なくマンホールの穴から飛び出してきた人型の、まだ正体がはっきりとしていない相手を──躊躇なく殺しに行く。

 

 響生は駆け出したと同時に、三日月の形をした斧型専用ALIS【アジサイ】を頭上に掲げた。この距離なら『魔眼』の視線切りをしなくても、瞳が輝く頃には【アジサイ】を振り下ろし、肩か頭蓋に当てて、切り込みを入れられる。

 

 そうすれば〈創哭(きずな)〉で身体を引き裂き、『P細胞』が諦めて命を断つほどのダメージを与える事ができる。

 

「響生、とま──っ!」

 

 その後に続くはずだった静止の言葉は。真嘉自身の経験による本能的のブレーキによって途中で詰まってしまう。もし本当に目の前の存在が『ゴルゴン』であるならば、ほんの僅かな躊躇いによって、呆気もなく“卒業”してしまう可能性が高い。

 

 ここで響生のことを止めるには、響生だけではなく全員の命を危険にする行為だ。

 

 相手は見た目的に『ゴルゴン』だと判断しきってもいい。だが何か違和感がある、一瞬の中で思考を回した真嘉の頭に浮かんだのは、見た目が『ゴルゴン』でありながらも普通に人の自我を持っている後輩、『キメラ』である『鈔前(しょうぜん)亜寅(アトラ)』だった。

 

≪──止めて!!≫

 

 通信機から聞こえてきた悲痛の声、トンネル方面から発砲音、地面が弾け飛び、砂埃が上がる。響生は反応する事なく、ひたすら相手に向かって行く。

 

「止まれ響生!」

 

 真嘉も声を張り上げるが、一歩遅く、響生は飛び上がる。相手は目を見開き、反射的にか、手に持っていた棒状の物──返しがある事から“(もり)”と呼ぶべき武器の切っ先を突き出した。

 

 ──お腹に刺さる。

 

 予想よりも素早く反応された。【アジサイ】を振り下ろす前よりも先に、銛が腹部へと突き刺さる。両足を地面へと離したタイミングであるため方向転換も、身体を捻らせるのも間に合わない。

 

 ──でも殺せる。

 

 しかし、既に響生の間合いでもあり、銛が腹部に刺さって宙ぶらりんになったとしてもお【アジサイ】の刃を掠らせる事ができる。切り傷という名の溝さえ作れば、〈創哭(きずな)〉を発動して引き裂くことができると、腹部に力を込めた。

 

「ダメ」

 

 ──響生は脇腹に強い衝撃を受けたとともに、真横へと飛ばされる。

 

 いつの間にか響生の真横は『穂紫(ほむら)香火(かび)』が立っており、彼女が左手のひらで響生を押して、突き飛ばした。

 

そのあと香火は伸びてきた銛の柄を握りしめて静止させると同時に、右手に持っていた【械刃製第三世代・槍】の十字刃を正体不明の少女の首元に突きつけた。

 

「……ナーおい、いつの間にあそこにいた?」

「ギャハハ、全然わからんねぇ」

「先輩・土峰真嘉が静止する前には動いていた。その思考、正に雷の如くだった」

 

 二個(ニャーコ)一個(ワンコ)は正体不明の少女の方へと意識を集中していたというのもあるが、香火の俊敏な動きを見切れておらず、気がつけ響生は掌底によって横に飛ばされており、決着もついていた。

 

「香火!」

「すぅ……ん、真嘉……違う」

「違う?」

 

 いつもの寝ぼけ言葉が何を指して言っているのか分からず、真嘉は思わず聞き返してしまう。

 

「──おう、もしかしてワタシの事を『ゴルゴン』だと勘違いしたから襲ってきたのか?」

「うおっ!?」

「絶対そうだったみたいだな。まあ、仕方ないか、ワタシも“卒業”させに来たと思って、敵意むき出しだったし……」

 

 腰から生えている尻尾をゆらゆらと動かしながら、正体不明の少女は自虐気味に鼻を鳴らす。真嘉は戸惑いつつも会話が通じる相手だとわかり、話しかける。

 

「お前は……『キメラ』なのか?」

「きめら? なんだそれ?」

「ああ、いや悪い、『ペガサス』……いや、『聖女(シスター)』なのか?」

 

『キメラ』は夜稀が名付けたものなので知るわけ無いかと、真嘉は言い直す。

 

「ああ、そうだ。ワタシは『聖女(シスター)』──シスター・オルカだ。よろしくな」

 

 オルカは鋭い歯が、僅かに見えるぐらいの力が抜けた笑みを見せる。

 

「それで、お前たちは? 敵では無さそうだが」

「オレたちは──」

「あ、待ってくれ、絶対こっちの方が先だ──大丈夫だ、上がってこい!」

 

 独特のマイペースさを見せるオルカは、うつ伏せとなって自身が出て来たマンホールの穴に向かって声を張り上げたあと、手を伸ばした。

 

「よし、ひとりずつ上げるぞ」

 

 真嘉が何をしているんだと見ていると、オルカが腕を引き上げる。すると修道服にも病院で着るような患者服にも見える“制服”を着た少女──『聖女(シスター)』であろう子が、オルカの手を掴んで穴から出て来た。

 

「し、シスター・オルカ……」

「頑張ったな」

「は、はい……!」

「次のやつ引き上げるから、少し下がってくれ」

 

 そう言ってオルカは再びマンホールの穴に手を伸ばした。

 

「……お前」

「手伝う」

「……助かる」

 

 事態を把握した真嘉は、オルカと同じようにうつ伏せとなって、マンホールの穴の中を覗いた。思った以上に狭い空間に、何人もの怯えた表情をした『聖女(シスター)』たちが、こちらを見上げており、そんな彼女たちに向かって真嘉は手を伸ばす。

 

「大丈夫だ、手を掴んでくれ」

 

 差し出された知らない手に躊躇っていた『聖女(シスター)』たちであるが、オルカが声を掛けると、垂れた犬耳に見える『外殻』が、頭に生えた中等部一年ぐらいの『聖女(シスター)』が手を伸ばす。

 

「引っ張るぞ!」

「あ……ありがとう」

 

 真嘉は小さな体を軽々と引っ張り上げる。知らない誰かである真嘉に『聖女(シスター)』は、怯えながらも感謝を告げる。

 

「ああ、よく頑張ったな」

「……! はい……!」

 

 なにが会ったかは知らない。でも間違いなく命懸けで、ここまで逃げてきたんだと真嘉が労いの言葉を掛けると、犬耳の『聖女(シスター)』は安心したのか涙を流し始めた。

 

 真嘉は泣かせてしまったと戸惑い慌て、とっさに頭を撫でて落ち着かせる。後になって、自分がしてもらった時の事を思い出して、少しだけ顔を赤くする。

 

「『聖女(シスター)』は全員で三十九居る」

「分かった。皆も手伝ってくれ!」

「ん……ふぁ……」

「分かりました。一個(ワンコ)は穴の中に入り、彼女たちを持ち上げてください。二個(ニャーコ)(ミツ)は、(フタ)と共に周辺の警戒を──」

 

 香火やアイアンホースたちも加わり、しばらくの間、穴の中にいる『聖女(シスター)』たちを引き上げ続ける事となった。

 

 ──遠くで座り込んでいる響生は、それを見つめて動かない。

 

 +++

 

「──はぁ……はぁ……!」

 

 少し時を遡り、【606号教室列車】の天井上にて、『篠木(ささき)咲也(さや)』は、ストレスの過負荷によって呼吸を荒くしていた。その手は(フタ)のスナイパーライフル型ALIS【KG8-SR/MITSUHOKO(トライデント)】を傾かせている。

 

「……どうやら敵では無かったようですね~。ありがとうございます、おかげで取り返しの付かない事態にならずにすみました~」

「……あなた」

 

 湧き出そうになる得体の知れないものをみた恐怖を散らしつつ、咲也は息を落ち着かせる。

 

 オルカを最初に目視したのは咲也だった。スコープ越しに見えた普通の人の形をしてない少女に、咲也はとっさに『ゴルゴン』だと叫びそうになった。

 

 ──『違うじゃん』『よく見なよ』『亜寅とおなじ』『それとも一緒の化け物って言いたいの』『可哀想』『可愛い後輩なのに』『ほんと可哀想』

 

 それを止めたのが『妖精』の声。驚愕する表面意識とは裏腹に、オルカが自我を持った『キメラ』と呼べる存在であると瞬時に見抜き咲也にブレーキを掛けた。おかげで“卒業”するまで自分を許せなくなるミスをせずに済んだと、複雑な感情を抱くなか、まだ『妖精』の声は続いていた。

 

 ──『ねぇ、ひだり』、『放っておいていいの?』

 

 乱れた思考を整えるためにスコープを顔を離したとき。表面意識が認識しないぐらいの視界の端に捉えていたものを『妖精』が指摘した。咲也は考えるよりも先に腕を動かし、弾丸が発射寸前だった【KG8-SR/MITSUHOKO(トライデント)】の銃口をずらした。

 

「ど、うして……なに、考えているの?」

 

 (フタ)は誰にも指示されるわけでもなく、正体を確認するわけでもなく、マンホールの穴から出て来たオルカを撃った。いつもなら感情的に大きな声を出している咲也であったが戸惑いのあまり、唸るような声で静かに問いかける。

 

「そうですね~、ハジメたちにも良く聞かれるんですけど、特別な事はなにも考えていませんよ~」

 

 聞かれ慣れているのか、それとも全く気にしてないのか、(フタ)は構え直した【KG8-SR/MITSUHOKO(トライデント)】のスコープを覗きながら答える。

 

「危険だと感じたら撃つ、それが癖になっちゃってるんですよね~」

 

 敵だから、味方ではないから、敵になるから、味方だったから、そういうのではなく、(フタ)が狙撃する判断基準は、もっと浅くて軽い考え、“危険かもしれない”である。

 

「そん……っ!」

「すいません。通信が入りました~。はいこちら(フタ)

 

 怪しいから撃つ。それだけで命を終わらせる事ができるという(フタ)に、咲也は心根を揺さぶられてしまうほどの拒絶心から、強い言葉を言いそうになるも、通信が割り込んできた事で思いとどまる事が出来た。

 

「はい、撃ちました。ですが寸前のところで咲也先輩が逸らしてくれました~ ……ごめんなさい、そして了解しました。このまま警戒は続けますが見張りに徹底しますね~。そちらの様子ですが詳細を──」

 

 これからの情報交換を始めた事で、咲也は感情の行き場を無くしてしまい、五月蝿くなった『妖精』たちの声を聞きつつ、真嘉たちの方を見る。

 

「……っ! ごめん、離れる!」

 

 ある事に気づいた咲也は【606号教室列車】を降りて、第2居住施設ミザールへと向かう。

 

「響生!」

 

 マンホールの穴から『聖女(シスター)』を引き上げる事を優先しているのもあるだろう、飛ばされたあと放置されてしまっていた響生が、その場にへたり込んで動かなくなっており、心配になった咲也は合流。呼びかけるが反応がない。

 

「響生!!」

「──わっ、どうしたのさやさや?」

 

 ようやく反応を示した響生は、わざとらしい驚きと共に咲也の方へと顔を向けた。その表情は何時ものような笑顔であり、咲也は顔を見なかったことを後悔する。

 

「動かないから心配したわ」

「そう、ごめんね! 見ての通りきょうちゃんは平気平米快調六平(へいきぃへいべーかいちょうろっぺー)! ナンモナイトだよ!」

「本当に? なにも隠してないわよね?」

 

 咲也は、しっかりと響生を見る。何時もの調子を装っているが、やはり何処かおかしい。それはいつも被っている仮面の罅を見つけたようなものであった。

 

「んー、分かんない!」

「……分かんないじゃないでしょう」

「だって本当なんだもん……なんだか動きたくて動けなかった、それがなんでか分かんない」

「響生……」

 

 掛ける言葉が見つからず、視線を逸らしてしまう。そうして見たのは真嘉が、泣いている犬耳の『聖女(シスター)』を慰めている所だった。頭を撫でる姿は誰かを連想させるもので、咲也は“彼”の、人ではない顔が浮かんだ。

 

「アスク……」

「後ろに居るよー」

「え?」

 

 響生の言葉に反応して、後ろを振り向くと、さながら呼ばれて参上といいたげなアスクが立っており、自分の頭に手を乗せる。

 

「な、なんでここに……心配で見に来てくれたの?」

 

 意思疎通の挙動ができるようになってから、置くだけではなく優しく撫でられるようになった硬い手を、咲也は気に入っている。だけど素直になれなくて何時も顔をそっぽ向いてしまう。

 

「──うん、大丈夫だよ。まだ動けるよ」

「え?」

 

 アスクは響生のそばで片膝たちとなり、視線を下げてじっと目を合わせる。本当に何となくであるがアスクは事情を知っているように思えた。

 

「アスク……」

 

 響生の事について何か知っているのではないかと、名前を呼ぶと、咲也の方を向いて“ごめん”と手のひらの横を見せる。

 

「──咲也、響生、それにアスクも、全員こっちに来てくれ!」

 

 何か事情があって話せないのが分かったが、それでも聞いた方がいいのかと悩んでいると、真嘉から声が掛かった。『聖女(シスター)』たち全員を、引っ張り上げたあとの対応に人手が足りていないようだ。

 

「……行きましょう」

「おーけー!」

 

 結局のところ咲也は追求をせずに、真嘉たちと合流を決めた。この事が何か取り返しの付かないことに繋がってしまうのではないか、そんな漠然とした不安は残り続けてしまう。

 

 

 +++

 

 

≪も~、あんまり食料を消費すると食べさせすぎているって怒られるのに~≫

「ナー、どうせ大量に余ってるんだ。それに帰ったら列車を降りるんだろうが、なら別に在庫を空にしても問題ねぇだろう」

≪あ、それもそうだね~。じゃあたくさん食べていいよ≫

「……阿呆(トンマ)が」

 

 もしかしたら奥に見える『プレデター』の大群に気付かれて襲撃されるかもしれない。そんな緊張感の中での『聖女(シスター)』たちを引き上げて、なんとか無事に終えたあと、真嘉たちは全員を連れて第一通路内部へと戻ってきた。

 

 まずは疲弊しきっている『聖女(シスター)』たちを落ち着かせようと、【606号教室列車】に積まれていたシリアルバーと、アルテミス女学園から多めに持ってきた飲料水を分け与える。別に何日食べていなくても『P細胞』が栄養や体の管理を行ってくれるため、飢えるという事はないが、それでも食べさせたほうがいいとアルテミス女学園勢の意見を採用する事となった。

 

「食べないのか?」

「…………あの、真嘉、ちょっといいですか、はい」

「レミ?」

「えっと、こうやって食べます……というか、食べていいです、もっと欲しかったら言ってください……」

 

 戸惑い手が動かない聖女(シスター)たちに、レミは同じシリアルバーと水を眼の前で食べ始める。すると、躊躇いこそ残っているもののレミを真似るように、ひとりずつ食べ始めた。

 

「警戒していたのか?」

「もぐもぐごくん……あくまで予想ですけど、警戒というよりかは、どうしていいか分からなかったというか、学園とかの雰囲気からしても、許可が無ければ好きに食べるとかもできなかった感じがします……」

「……助かったレミ」

「いえ、もしかしたらと思っただけなので、あんまり褒められたことは、はい」

 

 質素なものであるが、それでも美味しいと思えるものを感じるのは荒んでいた心に効く。涙を流す子、嗚咽をこぼす子、無心で食べ続けて、もっと物欲しそうにする子など反応はそれぞれであるが、聖女(シスター)たちは落ち着きを取り戻しはじめた。

 

「──あの、あ、貴女も『聖女(シスター)』なんですか?」

「え? いやワタシはペガサスっていうか『キメラ』なんだけど……あ、耳とか尻尾があるからか」

 

 それからしばらくして、『聖女(シスター)』のひとりが亜寅に話しかける。どうして勘違いされたのだろうかと不思議がりはしたものの、『聖女(シスター)』たちを見て、すぐに納得する。

 

 ──オルカを合わせた40名の『聖女(シスター)』の中には、有り体に言ってしまえば『キメラ』である亜寅と同じ特徴。頭に獣耳、腰に尻尾、肌に『外殻』などの非人間的特徴を持っている子が多く見られた。でも、どうしてこんなにも『キメラ』っぽい見た目の聖女(シスター)が多いのか、亜寅は考えそうになったが、たぶん碌な理由じゃないだろうなと、げんなりする。

 

「あ、貴女たちはいったい?」

「えーっと、何から話せばいいのか、夜稀せんぱーい!」

「分かった、いま行くよ」

「あとレミ先輩も来てください!」

「え、あ、はい……」

(ミツ)は、夜稀たちの方を手伝ってきてくれませんか?」

「分かった!」

 

 自分だけでは上手く出来るかわからないと思った亜寅は、なんだか説明が上手そうな夜稀とレミに助けを求める。また三名で三十九名を対応するのは難しいだろうとして、ハジメは(ミツ)を手伝わせにいかせた。

 

「そろそろ、話を聞きたいんだがいいか?」

 

 聖女(シスター)たちの対応に当たっている亜寅たち四名と、【606号教室列車】の天井上で周囲を見張っている(フタ)を除いた全員がシスター・オルカの周辺に集まる。そこにはアスクの姿もあるが、側に咲也たちがいるためか気に放っているが反応する程ではなかった。

 

「先に聞いていいか? お前達はいったい、格好からして学園の外の『聖女(シスター)』か?」

「はい、正しくは自分たち赤い制服を着ているのが『アイアンホース』、紺色のブレザーが『ペガサス』ですね」

「やっぱり外のワタシたちか、なんていうか見た目は普通なんだな」

 

 オルカはもの珍しそうに、髪や瞳の色こそバラバラであるが、人として平均的な姿をしているハジメたちを興味深そうに見る。

 

「それで、貴女は北陸聖女学園・第七分校の『聖女(シスター)』で間違ってない?」

 

 ルビーが代表して話を進める。

 

「ああ、そうだ。フェクダ所属のシスター・オルカだ」

「フェクダ? ……確か第六施設だったかしら? まさかここまで来たの?」

「ああ、途中でアイツらを拾いながら、なんとかな」

「それは本当に頑張ったわね」

 

 学園の全体マップに書かれてあった『第6特殊ペガサス研究所フェクダ』、それは学園の玄関を担っている『第1荷役施設アルカイド』から最も遠い施設であり、そこから、この第一通路付近まで来たという事に、ルビーは驚き、賞賛と労いを込めた言葉を贈る。

 

「それで、オルカ。この学園でいったい何があったの?」

 

 オルカは俯いて黙り込んでしまう。その心境を全員が察するが、ルビーは静かに答えを待つ、これが出来ると分かっているからこそ、ハジメたちアイアンホースは質問役を彼女に任せた。

 

「……三日前、最初なにがあったかは分からない。“授業”の時間になっても大人が誰も来なくて……逃げている途中で知ったんだけど、地上のプレデターが学園の中に入ってきたらしい」

 

 つまり、第2居住施設ミザールの悲惨な光景は、たった3日にして作り上げられたものだと知り、誰かの喉がなる。

 

「それで、なんだ……アイツが……アイツの歌が海の底から聞こえてきた」

「歌?」

「ああ、アイツは……突然、海の底で歌い始めた。すると今まで見たことのないような大きなプレデターが何匹も海からやってきて……“サメ”も“ウミカメ”も、“クジラ”も……みんな“卒業”した」

「そう……それで、ここまで逃げてきたのね?」

「ああ……生きてほしいって言われたから、絶対に“卒業”したくなかった……馬鹿だよ、どっちにしても、もうすぐ終わってしまうのに」

「そんな事はない」

 

 オルカの自虐は抑制限界値が間近であることを話していると察した真嘉は強く否定する。オルカが逃げたおかげで多くの聖女(シスター)たちと、こうして出会う事ができた。それはつまり、命を続けられる事を意味するからだ。

 

「……そうか、それなら少し気が楽になる」

「まあ、その辺の詳しい事は後で……ねぇ、オルカ。学園内に入ってきたプレデターは、陸が先で、深海があとで間違いない?」

「ああ、絶対間違いない」

「そして、深海プレデターを学園に呼び寄せたのは、仲間を呼び寄せる〈固有性質(スペシャル)〉を持った深海プレデターって事で合ってる?」

「……ああ」

 

 アスクの事は後で話すとして、ルビーたちは聞いた情報をまとめる。

 

「時系列は陸のプレデターが先に学園内に侵入、その後に深海プレデターがやって来た。だが、どうして陸のプレデターが学園内に侵入できたのか……」

「ナー、そんな事よりも深海プレデターを呼び寄せる深海プレデターってやつが、あまりにもクソだ」

「ククッ、マジなら、この国もう終わりかもなぁ」

「物語が壮大になり過ぎてきたな。修正が必要だ」

 

 話を聞いていたハジメ、二個(ニャーコ)一個(ワンコ)三番(トロワ)が情報を元に分析を始める。

 

「この『プレデター』が、どれだけ深海のプレデターを呼ぶかだな。最悪、数キロに範囲内に居る海の奴らが本土を侵攻するって話になってくる、チッ、一気に無関係じゃなくなったな」

「世界の終末、時はいかほど残されているか分かるか?」

「わかりません……何にしても、この戦力では第二施設のプレデターを突破して第三施設へと行くのは難しいでしょう、自分たちで対処するにしても、入念な準備が必要です」

 

 オルカの情報が正しければ、もう他人事ではない。本土に深海プレデターが上陸してアルテミス女学園を攻めてくるかもしれない。それなら一刻も早く対処したいが、現時点の装備と人員では突破は難しい。

 

「……真嘉先輩」

「ハジメ……」

「自分たちは、いちどアルテミス女学園へと即刻帰還し、この事を全て報告、全員で話し合ったほうがいいと判断します」

「そうだな……ハジメの言う通りだ」

 

 流石に、個人的な迷いとかを気にしている場合じゃないと真嘉は同意を示す。

 

「……お前たちは帰るのか?」

「そうね。その『深海プレデター』をどうにかしないと行けないと思うけど、ルビーたちだけじゃ、どうしたって戦力不足。いちど体制を立て直して、どうするか話し合いましょう……もちろん、貴女たちも一緒に来てもらうわ」

 

 四十名の『聖女(シスター)』が一気にアルテミス女学園に来ることになるが、あの生徒会長は断る事はしないだろう。あるいは人手不足を解消される事に喜び、忙しくなる事に意識を失いそうになるかもしれないわねとと思う。

 

「……悪い、聖女(シスター)たちの事はよろしく頼む。ワタシはひとり戻るよ」

「なっ!? ちょっと待ってくれ!」

 

 銛──よく見れば銛型ALISを握りしめて立ち上がるオルカを真嘉が呼び止める。

 

「……いちど下がったほうが良いわよ」

「アイツが歌う毎に、深海プレデターは増えていって、どうにも出来なくなる。いまだってもう手遅れになっているだろう。それなら、少しでも時間が残されている内に向かったほうがいい」

「その“時間”に関して話したい事があるって言ってるの」

 

 抑制限界値が近いから、時間を無駄にはできないと言うオルカ。ルビーは話の順番を誤ったことを感じつつ、先ずはアスクと“血清”について話すために呼び止める。

 

「──アイツは絶対に、ワタシが殺すんだ」

「いや、でも……どうするんだ、奥はプレデターでいっぱいなんだろ?」

「ここまで来た地下通路を使う。時間こそ掛かったが殆ど戦わずに移動する事が出来た。来た道を戻れば今日中にはつくさ」

 

 何を言っても止まらなさそうなオルカに、どうするべきかと真嘉は悩み、周囲を見る。ハジメたちはリスクを天秤に掛けているのか様子見に徹しており、誰も何も言わない。

 

 深海プレデターの事は、どうにかしないと行けないとしても、今は向かうのは危険すぎる。そんなのは真嘉だって分かっているが、それでも先頭に立ち、ここまで三十九名の『聖女(シスター)』たちを、ここまで来たオルカのことを、このまま送り出す事はしたくなかった。

 

 ──誰かを探すように視線を彷徨わせていると、久しぶりに隣同士で一緒にいる、咲也と響生と目があった。

 

「……だったら!」

 

 いい切る前に、第二通路の方から轟音と振動が真嘉たちを襲う。

 

「い、一体なに、地震なの!?」

「さやさや、落ち着いて」

「チッ、何かが誘爆したのか!?」

「……いや、ちげぇな、これは爆撃だ」

 

 音の種類から何が起きたのかを察した一個(ワンコ)が先導して、第2居住施設ミザールへと向かう。

 

 ──第二施設の、プレデターたちが蔓延っている反対側の天井に穴が開いていた。おそらくあそこに飛来してきた爆発物が命中、崩落させたのだと誰が見ても明らかだった。

 

「自衛隊……じゃないわね」

「攻撃の仕方が雑だしな。久佐薙財閥が証拠隠滅のために秘蔵のミサイルを撃ったってほうがマジだと思える」

 

 アイアンホースたちは何度か自衛隊の戦闘機による爆撃を見たことがある。その仕事振りは、余裕が無くて決して外せないからこそ正確無比であり、そんな自衛隊らしくない目標が定まっていない無差別的な攻撃だと感じた。

 

「いったい何が……アスク?」

 

 混乱する真嘉に対して、アスクが三本の指を立てた。それを目にしたアルテミス女学園の関係者全員が事態は深刻であることを自覚する。

 

 ──それは最初から決めていた合図。プテラリオスを発進させたという意味を持ったものであった。




──スクラブル・ホライゾン

簡単にですが、とあるロボットゲームを使って北陸聖女学園の頭上MAPを作っています。形を把握するために、よろしければ見てください。
北陸聖女学園・第七分校MAP
アスクヒドラ一同:第一通路
識別番号04:第二施設外・亀裂前
識別番号02:第七施設最下実験場




今後、後書きの一番下に関係ある作品や自作などを広告する事があると思いますが、モチベにもなるので、ご了承ください。
一緒にTRPGを作っている絵師さんが作ったテスト時のリプレイ動画が更新されました、よろしければ。
【エモクロアTRPG】薄幸少年と不幸お姉さんが巻き込まれる『0番童話』#3
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