見えない境界少年   作:迦羅

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十話

「ん~!初めての外出だからか、随分と疲れました」

 

 紅魔館の扉の前で、青は軽く伸びをする。

 およそ二時間が経った頃、青は漸く藍の説教から解放され、それなりに時間も経っていたので紅魔館を後にすることになった。

 他にもこの屋敷には無限に近い書物のある大図書館があるらしいが、目の見えない青にとってそれはそこまで重要でも無かった為に見送ったのだ。

 

「全く、まさか紅魔館だけでここまで時間がかかるとは思っていませんでしたよ」

 

 彼の隣にいた藍は、呆れたように溜め息を吐く。

 

「それは藍が私を長い時間叱ったからですよね?」

 

「そもそもの原因は青様が私の知らない間に勝手な行動をなさったからですよね?」

 

「はい…すみません」

 

 流石に返す言葉が無いのか、青は少し申し訳無さそうに縮こまる。

 

「もう日が沈みかけていますし…今日はもう帰りましょうか。夜は知能の低い妖怪が増えて面倒ですので」

 

「そうしましょうか。これからはいつでも外出できますし、焦る必要はありませんものね」

 

 藍の意見に賛同し、青は彼女に手を引かれて門の方へと歩き出す。

 

「おや、もうお帰りですか」

 

「えぇ、流石にもう帰らないと姉様が心配しますので」

 

「そうですか。またいらしてくださいね」

 

 美鈴の言葉に笑みを返した後、彼らは紅魔館を後にする。

 紅魔館の先にある森に足を踏み入れた瞬間、一瞬の暗転の後で視界が変化し、彼女達の目の前に屋敷が現れる。

 

「おや、迎えに来てくださった様ですね。いえ、私達が向かったというのが正しいのでしょうか」

 

「どうしたのですか?藍」

 

「どうやら紫様が私達を送り届けてくれた様です」

 

 藍は少し驚いたがすぐに状況を理解し、家の扉を開け放つ。

 

「「ただいま戻りました」」

 

 二人が声をそろえて言うと、奥からスタスタと歩いて来る音と、ドタドタと元気よく走って来る音が近づいて来る。

 

「お帰りなさいませ!青様!藍様!」

 

「あぁ、ただいま、橙」

 

「おかえりなさい二人共」

 

「ただいまです。姉様」

 

「藍、帰って来て早々悪いけど夕飯の用意をしてもらえるかしら?」

 

「承知しました」

 

 藍はその言葉も予想していたのか、特に声音を変えずに返事をし、青を彼女達に任せて台所へと向かう。

 

「青、廊下に上がれるかしら?」

 

「えぇ、大丈夫ですよ。よいしょ…っと」

 

 姉の手を借りて、青は家に上がる。

 

「それじゃあ青、私の部屋に行きましょう。貴方の土産話を、聞かせて頂戴…ね?」

 

「はいはい!橙も聞きたいです!」

 

「橙が面白いと思うかはわかりませんが…折角ですし話しましょうか」

 

 青の言葉に橙は目を輝かせ、彼を紫の部屋に連れて行く。

 橙に引っ張られる青の後ろを歩きながら、紫は微笑ましそうに彼らを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで藍ったら、私の事を本気で叱るんですよ?酷いと思いませんか?」

 

 時間は流れ日も暮れた頃、青達は四人で食卓を囲み、今日の夕食をつついていた。

 もう夕飯を食べているにも関わらず、彼の土産話は終わる事は無かった。それを止める者がいないので仕方がないのだが。

 

「それは青様が私に伝えないで勝手な行動をなさるからでは無いですか。そんなところまで姉君に似ないでください」

 

「ちょっと藍?今さり気なく私を貶さなかったかしら?」

 

「気のせいじゃ無いですか?橙、その皿を貸しなさい」

 

 紫の指摘を華麗にスルーして橙の皿に料理をよそう藍に、紫は悔しそうな表情を浮かべる。

 

「橙は、私と藍のどっちが悪いと思いますか?」

 

「ふぇ!?私ですか!?うーんと…えーっと…」

 

「ふふっ、意地悪な質問をしてしまいましたね」

 

 橙の反応を楽しみながら、青は紫から料理を食べさせて貰う。

 先程説教をしたばかりなのにまだ懲りていないのか。藍は思わずジト目で青を見るが、本人はどこ吹く風だ。

 

「そういえば、姉様は今日は何をしていたのですか?」

 

「私は今日は幽々子の屋敷にお邪魔していたわ。最近行ってなかったし」

 

「幽々子嬢の屋敷ですか…」

 

「前々から思っていたけど、どうして青は幽々子のことを幽々子嬢なんて呼ぶの?本人の前では言っていないじゃない」

 

「うーん、何ででしょうか。私自身もよくわかりません。いつの間にかそう呼んでいました」

 

「そう、まぁそれは別に構わないけど。それよりちゃんとお野菜も食べなさい?はい、あーん」

 

「あー…ん」

 

 幽々子にはここ数週間会っていないなぁ…と思いながら、青は口の中に入って来たサラダをもぐもぐと咀嚼する。

 

「・・・ふぅ、ご馳走様でした。それでは姉様、私は先に自室に戻っていますね」

 

「えぇ、わかったわ。藍、食べてる途中申し訳ないけど、一緒について行ってくれる?」

 

「承知しました。青様、どうぞお手を」

 

「すみませんね…」

 

 紫の言葉に頷き、藍は青の手を引いて彼の部屋へと向かう。

 それを見届けてから、紫は酒を口に含み、ゆっくりと喉に通す。

 

「紫様紫様」

 

 するとそのタイミングで、橙から声がかかる。先程までの元気のある声音とは違い、僅かな緊張が含んだ声。何か隠し事か、あるいは頼みごとがあるのだろうか。

 

「どうしたの?橙」

 

「青様の案内って、人里にも行くんですか?」

 

 橙からの問いかけに、紫は数秒程思考する。人里は彼の生活においてそれ程必要な場所では無いが、あそこには稗田邸も含め、重要な場所もいくつか存在する。しかしそれらも必ずしも行く必要があるかと聞かれたら、首を横に降るだろう。

 

「・・・青の意思によると思うわ。あの子が行きたいと言ったのなら、行くんじゃないかしら?」

 

「なら、その時の青様の案内は、橙がしたいです!」

 

 まるで寺子屋の時の様に元気よく手を挙げる橙。紫はそれに微笑ましそうに笑みを向けつつ、言葉を返す。

 

「別にいいんじゃないかしら?人里は他と違って危険も少ないし。また今度青に話してみればいいんじゃない?勿論、藍にも許可を取らないと駄目よ?」

 

「はい、わかりました!そうします!」

 

 自分の願いが聞き入れられ、橙は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 丁度そのタイミングで藍が戻って来たので話を切り上げ、彼女達は再び夕食を取り始めるのだった。

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