見えない境界少年   作:迦羅

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二十話

「一つ、申し上げたい事が」

 

「あら、何かしら?」

 

 輝夜に手を引かれ竹林を歩くこと十数分。突然彼女の足が止まったことを鑑みるに、どうやら無事に永遠亭に到着した様だ。彼女は割と引きこもりがちだと思っていたのだが、自分の屋敷の周辺に関してはしっかりと頭に入っているらしい。折角竹林の案内人を見つけた上で永遠亭の住人にも会うことが出来たのに迷っては、時間の無駄遣いもいいところだろう。

 

「竹林の入り口からここまでの道の舗装を、私は強くおすすめしますよ」

 

 目の見えない彼にとって、永遠亭までの道のりは歩き辛いことこの上なかった。恐らく今後また永遠亭に訪れる機会があったとしても、彼が歩いて来ることは無いだろう。

 

「そういうことは竹林の管理人の妹紅に言って頂戴。勝手に手を加えたら怒られるわよ」

 

「全く…世の中は何時でも、私に厳しい」

 

「好き放題やってる癖によく言うわよ」

 

 青の言葉を輝夜は軽くあしらった後、また同じ様に青の手を引いて永遠亭の中に入ろうとしたのだが、

 

「青様、早く中に入りましょう!」

 

「っとと、橙、そんなに急がなくても永遠亭は逃げませんよ」

 

 輝夜の手を振り払う様にして、橙が青の手を取って永遠亭へと向かって行く。

 輝夜は何をされたのかわからず一瞬呆然とするが、すぐに正気に戻り、面白く無さそうに彼女、橙を見下ろす。

 

(私から男を奪うなんて、化け猫の癖にやるじゃない)

 

 輝夜は青のことは彼が永遠亭を訪れた際に共に時間を潰す程度には気に入っているし、興味もあるが、異性として好きかと聞かれたら首を縦に振ることは無いだろう。しかし過去に何人もの男を弄んだことがある彼女にとって、男を化け猫に取られるというのは面白くなかった。

 彼女はズンズンと早足で青の下に向かい、橙が繋いでいる手とは反対側の手を握る。

 

「・・・輝夜?橙が手を引いてくれる様なので、もう手を繋ぐ必要は無いんですが」

 

「別にいいじゃない。永遠亭の案内も私が適任でしょう?私はこの子以上に永遠亭のことを知っているし」

 

 輝夜はそう言いながら橙の方を見て、フッと嘲笑を漏らす。

 

(私から男を取るだなんて、千年は早いわよ)

 

 橙もその行動の意味を理解したのか、ぐぬぬと悔しそうな表情で輝夜を見る。

 

「・・・いいえ、青様の案内は橙がするので、輝夜さんの手は必要無いです!」

 

 少しの間考える素振りを見せたが、橙は変わらずに青を引っ張る様に先に進み始める。輝夜の言葉は的を射ている正論だ。橙にはこの正論に反論できる言葉が思いつかなかったのでごり押そうとした。ただそれだけである。

 

「そんな気にしなくていいのよ。貴女には永琳の居場所はわからないでしょうし」

 

 しかしその程度では輝夜は折れない。そのまま二人は謎の対抗心を見せて彼の手を離すことはせず、結果的に青の両手を二人が引っ張りながら進むという奇妙な状況に陥った。

 

「私はキョンシーでは無いのですが…」

 

 歩き辛いのでやめて欲しいなぁと思いつつも、青は彼女達にされるがままの状態で永遠亭の中へと入っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・貴方達、何をしているの?」

 

 薬師、八意永琳が青達を見て最初に口にしたのは、そんな疑問と呆れが含まれた言葉だった。

 輝夜と橙に引っ張られるようにして永遠亭に足を踏み入れた青は、かれこれ十数分程屋敷の中を彷徨っていた。

 永遠亭も白玉楼と同じくかなり広いのだが、所詮は大きさに制限のある建物だ。永遠亭の住人である輝夜がいる以上、永琳に会うのにこれ程時間はかからなかっただろう。

 しかしその予想を見事に覆したのが、先程から謎に輝夜に対してライバル意識を抱いている橙だ。輝夜が右に曲がろうとすれば、橙が左に青を引っ張り、前へ行こうとすればもと来た道を戻ろうとする。常に反対の行動に出ようとするせいで、青達は中々目的地まで進むことが出来ずにいた。注意しようかとも考えたが、そのせいで三人の間の空気が気まずくなるのも面倒だという理由で、今までこの状況を変えることが出来ずにいた。

 このまま自分達は永久に永琳と会う事が出来ないのではというくだらない考えを一瞬抱いたが、その直後にまさかの本人から出向いてくれた。女神とは彼女のことを言うのだろうか。

 

「久しぶりですね永琳。愛しています」

 

「いきなりなによ…貴方の姉に聞かれたら私が殺されるからやめて頂戴」

 

「まぁそれはともかく…助けてください」

 

「そっちが本音ね。・・・輝夜、あまり変な事をしないでくれるとありがたいのだけど」

 

「違うわよ永琳。そもそもの原因は私じゃ無くてそっちの化け猫だもの」

 

「子供みたいなことを言ってないで…ほら、離れる」

 

 自分より年下の式神相手に何をやっているんだと呆れながら、永琳は半ば強引に輝夜を青から引き離す。

 青から引き放された輝夜は勝ち誇った様な笑みを浮かべる橙に、悔しそうに表情を歪めるのだった。その二人のやり取りに、目の見えない青は全く気づいていないのだが。

 

「それにしても珍しい…というか初めてじゃ無いかしら?貴方が玄関からこの屋敷に入って来るなんて」

 

「その言い方だと普段は玄関以外から突撃してくるみたいな言い方になるのでやめてください。つい最近、姉様に外出の許可をいただけたんですよ」

 

「成程、それで今日家に来た理由は、幻想郷の各勢力への挨拶回りってとこかしら。紫も漸く、その過保護っぷりを治そうと思ったのかしらね」

 

「人の台詞取らないでくれます?私の思考をそれ程まで読めるのは、流石天才と言った所でしょうか」

 

「紫が貴方を外に出すことは予想外だったけど、それさえわかればこの程度のこと誰でも思いつくわよ。うどんげから、貴方達が来ることも聞いていたし」

 

 永琳はそこで一度会話を切り上げ身を翻し、廊下をスタスタと歩き始める。

 

「今頃うどんげがお茶を用意してくれている頃だから、そこまでついて来なさい。貴方達が遅かったせいで、大分冷めちゃってるかもしれないけど」

 

 永琳に捕まっていた輝夜も、もう橙との争いに興味を無くしたのか、永琳の手を振り解いて彼女の後をついて行く。

 橙は彼女達を見失う事が無いように、そしてもう離すまいと青の手をしっかり握りながら、彼のペースに合わせて彼女達の後をついて行くのであった。

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