見えない境界少年   作:迦羅

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二十二話

「姉様、姉様。今日は何処に向かえば宜しいですか?」

 

 永遠亭から帰って来た青達を迎えたのは、様子を見に行ったのに青達が人里にいないことを知り焦りに焦った藍であった。二人はただちに藍によって連行され、尋問を受ける事となった。

 青に関しては多少のお咎めで済んだが、橙は永遠亭に行く事を報告しなかったことや、青を置いて遊んでしまった事を藍にとても叱られた。

 橙の嗚咽が耳に入って来て流石に可哀想と思った青が止めるまで説教は続き、橙はすっかり落ち込んでしまった。結局昨日の残りの時間は橙を慰めるのに時間を消費してしまった。一緒に寝る直前までぐずっていたのを見ると、彼女もまだまだ子供だなと思ってしまう。

 そして次の日、青は朝食を食べ終えた後に姉の部屋で、今日の行き先について相談をしていた。

 

「青…私は寂しいわよ」

 

「寂しい…?」

 

「最近、全く私に構ってくれないじゃない!」

 

 紫の叫び声が鼓膜に響く。確かに最近は外に出てばかりで以前よりも姉に構う時間は少なくなっていた。しかしそれは今までが多かっただけで、他の姉弟からすればこれくらいが普通なのでは無いだろうか。他の姉弟を知らないのでなんとも言えないが。

 

「ちょっと前までは四六時中私にべったりだったのに…所詮私とは遊びだったのね…!」

 

「どういうことですか一体。そこまでおっしゃるのでしたら、今日は姉様と一緒に過ごしますよ」

 

「本当…?なら一緒にお布団に入りましょう。もう少し寝たいわ」

 

「さっき起きたばかりなのに二度寝ですか…?まぁ、それも良いと思いますけど」

 

 布団に入ろうと言われて寝る以外のこと、さらに具体的に言えば体を重ねることを考えてしまった自分は色々と不味いと思う。それもこれも全部幽々子達のせいだと勝手に自己完結し、青は差し出された姉の手を取ろうとする。

 

「乱れた生活は感心しませんよ。朝に起きて、夜に寝る。どれだけ生きていようが、それは変えてはいけない物です」

 

 青が紫の手を取る瞬間、部屋の入口から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 何故彼女がここに。青はそう思ったが無視をする訳には行かないので、そちらに顔を向ける。

 

「映姫ですか…」

 

「何やら不満そうですね。私が来てはいけませんでしたか?」

 

「いえ、そういう訳では無いのですが…何故貴女が私達の屋敷に?」

 

 そこにいたのは地獄の最高裁判長、四季映姫だった。

 青は彼女の事が嫌いでは無いし、仲も決して悪いわけでは無い。しかし青は、正直に言って彼女が少し苦手なのだ。

 

「私の部下が何時もの如くいなくなってしまいましてね。山の仙人から貴方と関わりがあるということを聞いて、もしかしたらと思った次第です。あぁ、勝手に入った訳では無く貴女方の式神に断ったのでご心配なく」

 

 まぁ、久しぶりに説教をしに行こうという思いもありましたが…という最後の言葉を青は聞き逃さなかった。彼女の説教は長い上に彼女から見た悪行を全て晒される。だから姉の前では、決して彼女に説教をされる訳にはいかない。それが青が映姫のことを苦手に感じている理由だ。

 

「さて…青、貴方には色々と言いたいことがあります。貴方は淫れた生活を送り過ぎている。例え貴方の本意では無いとしても結果的にそれに付き合ってしまっては同じです。断るなり抵抗するなり、自分の意志をしっかりと持ち、それを態度に表すことこそが――」

 

「ま、まぁまぁ。こんなことをしているうちに、貴女の部下が逃げてしまうかもしれませんよ?貴女は閻魔なのですから、目的を見失ってはいけません」

 

「・・・確かに、それは正論です。しかし、それは貴方がお説教から逃げたいから出た言葉なのでは?」

 

「閻魔たる者が憶測で物を言ってはなりませんよ。ほら、お説教ならまた後日受けますから」

 

「・・・はぁ、わかりました。それではまた後日」

 

 お邪魔しました。映姫はそう言って襖を開け、廊下を歩いて行く。突然現れ、すぐに帰って行った彼女に二人は思わず目を瞬かせる。

 

「・・・一体なんだったんでしょう」

 

「さ、さぁ。それよりも、青の生活が乱れているなんて。確かに多少は夜更かしとか起きるのが遅いとかあるかもしれないけど、そんなに言う程かしら?」

 

「・・・どうでしょうね」

 

 姉に深く詮索されなかったことに青は心の中でホッと胸を撫で下ろす。今度説教を受ける事が確定してしまったが、その時は是非とも紫がいない時にしてほしい。流石にまだバレるわけにはいかない。襲われたという事実は、幻想郷の重鎮でありかつ問題だらけの集団である彼女達と上手く付き合う手段の一つなのだ。

 

「姉様、邪魔が入りましたが、二度寝をなさりますか?」

 

「うーん。なんだか興が削がれたわね。藍にお茶でも頼みましょうか」

 

 少し待っていて頂戴ねと言って、紫は部屋から出て行く。青は突如訪れた静寂に少しの不安を抱きながらも、姉の帰りを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「同窓会でも開きましょうか」

 

 暫くして二つの湯呑みと煎餅を持って帰って来た紫は、青の隣に座り一口お茶を啜ってから、そんなことを言い出す。

 

「同窓会…?」

 

「そうよ。お店に集まってご飯を食べながら、昔のことを懐かしむの。外の世界の人間は人生で何度か、そういう催しをするらしいわ」

 

「それを悪い事だとは言うつもりはありませんが…私達と同年代の者なんて、幻想郷に誰一人としていないでは無いですか」

 

 この幻想郷には百歳を超える妖怪はそれなりに存在するが、自分達の様に二千、三千を超えた妖怪何ぞそうそう存在しない。藍ですら千五百を超えたか超えていないかくらいだろう。

 しかも青も紫も自分の年齢に関しては、千を迎えたくらいで数えるのをやめた。自分達の詳しい年齢がわからないのでは、そもそも同年代を集める以前の問題だ。

 

「あら、同年代だったらいるじゃない。私達と同じ、年を数えるのをやめた者達が」

 

「・・・あぁ、そういうことですか」

 

 確かにそういう意味では、彼女達のことを同年代と言っても問題無いのだろうか。永琳達と同い年扱いするのは流石に勘弁してほしいなぁとは思うが。

 

「・・・少し想像してみましたが、私達に集まられる店の方々が可哀想ですね」

 

「そうかしら?妖怪の賢者たる私に選ばれたのだから、寧ろ光栄じゃないの」

 

 この姉は自分が尊敬された妖怪であると思っているのだろうか。藍と橙を除いて、人妖問わず殆どの存在は彼女に対して恐れの感情しか抱いていないというのに。

 

「でも面白そうですね、それ。ちょっとやってみたいです」

 

「でしょう?今度幽々子達に言ってみようかしら」

 

 誰を呼ぼうか、何処に行こうか、そんなことを姉と話しているうちに、時間は過ぎていく。

 はたして何人が、どんな面子が集まるのか、そしてどんな被害が生まれるのか。楽しみではあるが、若干不安になる青であった。

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