見えない境界少年   作:迦羅

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二十七話

 この店の中には、濃密な気配が渦巻いていた。

 一つの卓の前に座る紫、青、幽々子、白蓮、幽香、神奈子、諏訪子、永琳、輝夜。意識せずとも溢れ出るお互いの妖力、神力が混ざり合い、ぶつかって消滅しては、また生まれていく。

 

「いやあ、何度見ても凄い光景ですね。・・・まぁ、見えていませんが」

 

「やめろやめろ。折角の雰囲気を壊すんじゃない」

 

 真顔で小ボケを口にする青に思わず突っ込んでしまう神奈子。どうやら青自身は、この雰囲気に不満がある様だ。

 

「何言っているんですか、今日は会談では無く宴なのですよ?宴と言うのは飲めや歌えや無礼講、被害無視の何でもありでは無いのですか?」

 

「無礼講とは確かによく言われますが…節度は守りましょうか。お店の方に迷惑をかける訳にもいきませんし」

 

「白蓮の言う通りね。店が壊れてこの料理が食べられなくなるのも勿体ないし、適度に、壊さない程度に盛り上がりましょう。それじゃあ、乾杯」

 

「「「乾杯!」」」

 

 紫の言葉がきっかけで、今度こそ宴会が始まった。青は姉に様々な料理を少しずつ食べさせて貰いながら、会話に花を咲かせる。

 

「今日くらいは白蓮もお酒を飲まれては如何ですか?折角の宴の場ですのに」

 

「いえ、不飲酒戒、酒を飲むことは仏の教えで禁止されていますので。本当は今日の宴会の招待も断ろうかと思っていたんです。そんな中、星がたまには羽を伸ばすべきだと強く勧めて来たので、根負けしてこの場にいるという訳です」

 

「成程、貴女は相変わらず真面目ですねぇ」

 

「そういえば…青、あまり乗り気では無い白蓮を誘っておいて私に招待状を送らないなんて、一体どういう了見かしら?それどころか彼女が訪ねて来るまで、そんな面白そうなことが開かれることすら知らなかったのだけれど」

 

「それを私に言わないでください。誰に招待状を送るか決めたのは、私では無く姉様ですので」

 

「そこで私に振るの…?別に、ただ藍に招待状を書かせる際に貴女の名前が思い浮かばなかった。それだけよ」

 

「この私の名前を忘れるなんて…妖怪の賢者も遂にボケが来たのかしら?」

 

 幽香の嘲笑に、紫は刺々しい気配を醸し出し、彼女を睨む。二人の間に渦巻く殺気によって段々と場の空気が冷め始めて来た所で、二人の真横を鉄の輪が通り過ぎる。

 

「紫も幽香も何をやっているのさ。お互いの足の引っ張り合いなんかで剥きになっちゃって。もういい年した大人なんだからさ」

 

「(それ、貴女が言いますか…?)諏訪子の言う通りです。こう何度も睨みあいが起きては酔いに浸ることも出来ません」

 

「「それは幽香(紫)が…」」

 

「はいはい、そこまでよ二人共。全く…幽香、貴女はそんなだから必要以上に恐れられることになるのよ。もっと寛容な心を持ちなさい。紫、貴女は青の姉でしょう。弟に宥められてどうするのよ。わかったら青に料理を食べさせてあげなさい」

 

「凄い…場を一瞬で収めた。流石お母さん…」

 

「誰がお母さんよ。誰が」

 

 流石最年長、言葉の重みが違う。永琳の言葉で渋々といった様だが矛を収めた二人。因みに先程諏訪子が投げた鉄の輪のせいで、店の壁には見事にヒビが入っていた。ミスティアが悲鳴を上げた。

 

「そういえば、役者は揃ったと言っていたけれど、実はもう一組、スペシャルゲストを呼んでいるのよ」

 

「「「スペシャルゲスト?」」」

 

 紫からの唐突な発言にオウム返しをしてしまう青達と、絶望した様な表情になるミスティア。四組以外に招待状を送っていたなんてことは、青も知らなかったからだ。

 

「当人達がしつこく頼むから根負けしちゃってね。といっても具体的な時間は教えなかったから、いつ来るかはわからないのだけれど――」

 

 紫が言い終えるよりも早く、店の扉が開き…というか衝撃で吹っ飛び、外から二つの人影が姿を現す。

 

「あ~、やっちまった…おい萃香!もう始まってんじゃねぇか!当日に誘いに来るってどういう神経してんだよ!?」

 

「誘ってやっただけ有難く思いな。私だって知ったの昨日なんだから…よっ!久しぶりだな青」

 

 衝撃により体に付着した土埃を手で払い、現れた二人、伊吹萃香と星熊勇儀は隣のテーブルにあった椅子を引っ張り、空いている場所に座る。

 

「ひぃふぅみぃ…やっぱり私達のグラスは無いか…おい店主!酒とグラスと箸、あと皿持ってこい!」

 

「あ、あの~、その前に出来れば扉を直して欲しいな~、なんて…?」

 

「あぁ!?」

 

「ひ、ひぃ!?すみませんすみません!少々お待ちを!」

 

「可哀想ですね…出会っていきなり脅すなんて」

 

「ふん、素直に従わないのが悪いのさ。宴で鬼を待たせるなんて重罪だからね」

 

「はぁ…これでも飲んでいなさい」

 

 そう言って青は萃香の声がする方に向けて、酒瓶をニ本放り投げる。

 

「お、気が利くねぇ」

 

 萃香と勇儀はそれを片手でキャッチし、豪快にラッパ飲みをする。何時もと変わらないその様子に全員が呆れていた。

 

「というか萃香はともかく、何故勇儀までここに?地底との行き来は禁止されている筈では?」

 

「その条約を締結したのはこの私よ?私が一言口を添えれば、鬼の一匹くらいどうとでもなるわ」

 

「うわぁ…これが職権乱用という奴ですか」

 

「こっちもさとり妖怪の妹を黙認しているのだからお相子よ」

 

 青の言葉を聞き流し、紫はその口を塞ぐように餃子を食べさせる。

 一方の勇儀と萃香もそれぞれ酒瓶一本を空にしたせいか、ほんのり顔が赤くなっていた。訂正しよう、萃香は常に酔っているため変化は無かった。

 

「紫も面白い事を考えるねぇ…同窓会だなんて。まぁ、参加条件が大分緩いみたいだけど」

 

「それは私も思ったよ。だけど、確かに私も諏訪子も神としてそれなりに長く生きている。しかし流石に永琳と同い年扱いはして欲しくないんだが…」

 

「それもそうね。私や紫はともかく、一番若い白蓮からすれば、おばあちゃん扱いは嫌なんじゃないかしら?」

 

「いえ、私はそんなことは思っていませんが…というか、私も十分おばあちゃんですし」

 

「歳の話はやめましょう。聞いていて虚しくなるわ」

 

 しれっと弄られて若干イラっとしたが、これ以上この話をしても誰も得しないと考え、永琳は話を打ち切ろうとするが、飲んだくれの鬼はそれを完全に無視する。

 

「それを言うなら、精神的に一番幼いのは青だろ~」

 

「私が?何故?」

 

「だって、未だに孤独が怖くて、一人で眠る事も出来ないんだろ?いつまでも紫に抱き着いて眠るなんて、随分と年の食った赤ん坊じゃ無いか」

 

「え…青ちゃんって未だに一人で寝られないの?恥ずかしくないのかしら…?」

 

 萃香の口から出た言葉を聞いて、最初に反応した幽々子を筆頭に次々に周りへとその反応が伝播していく。笑いを堪える輝夜や諏訪子、微笑ましそうに笑みを零す白蓮等と言った多種多様な反応だが、青にとってそれは羞恥心以外の何物でも無いのだ。

 どうやら彼女達にはわからせる必要があるらしい。自分が、彼女達の何人かの命に係わる重大な弱みを握っていることを。

 その為に、萃香と幽々子には生贄になって貰おう。

 

「精神年齢の低さについて貴女が言いますか?白玉楼で断ったのにも関わらず私の歪んだ顔が見たいとか言って、しまいには殴りかかって来た伊吹萃香さん?」

 

「お前、ここでそれを持ち出して来るのか?あれに関しては鬼の本能だから仕方がなっ――!?」

 

 青の指摘を軽く受け流そうとした萃香だったが、突然自分の近くから膨大な殺気を感じ、思わず体が固まってしまう。

 彼女は忘れていた。今この場には、彼の姉である八雲紫がいることを。

 

「青に危害を加えようとした。私にはそう聞こえたのだけれど、詳しく説明してくれないかしら、萃香?」

 

 その荒々しい気配とは正反対に、顔に笑みを貼り付ける紫。その笑顔の恐ろしさに、萃香は言葉に詰まってしまう。

 

「え、えーっと、それはだな…」

 

「場合によっては、貴女を時空の狭間に閉じ込めることになるのだけれど」

 

「おいおい、死んだわあいつ」

 

 勇儀が冗談交じりにそんなことを言うが、当の本人からすれば本当に命の危機だ。まさか青がそれをバラすとは思ってもみなかった。

 

「青ちゃん…恐ろしい子…紫を利用して鬼を倒すなんて」

 

 青のやり口に戦慄する幽々子だったが、青はそれ以上の爆弾をぶっこんで来る。

 

「何か言いましたか?白玉楼に泊った際に姉様に忠告されたのにも関わらず、結局私を襲って美味しくいただいた西行寺幽々子さん?」

 

「ちょっ、青ちゃんその話は…!」

 

 幽々子は慌てて青の口を塞ごうとしたが、時すでに遅し。

 

「「は…?」」

 

 その瞬間、空気が凍り付く。紫の首がもの凄い勢いで幽々子の方を向く。彼女の瞳は、完全に瞳孔が開いていた。

 

「ひぃ!紫はともかく、なんで白蓮まで怒ってるのよぉ!」

 

「当然です!不邪淫戒、無闇に淫らな行為をしてはなりません!それも盲目の青を無理やりだなんて…言語道断!」

 

「ねぇ青、嘘よね?まさか私の親友が貴女を襲ったなんてこと…」

 

「いえ、本当ですよ?」

 

 そこから青は、頼まれてもいないのに幽々子との情事を事細かに話し始める。

 人肌が無ければ眠れないのは確かだが、まさか眠らせてすらくれないとは思っていなかっただの、重い軽いに関係なく上に跨られるのは普通に疲れるからやめて欲しいだの、それはもう詳細に。

 こんな形の成長はして欲しく無かった。紫は耐え切れずに耳を塞ぐ。誰が好きで自分の愛する弟と友人の情事を聞きたがるのだろうか。少なくとも紫は、そのような性癖を持ち合わせていない。

 この宴が終わった時、自分の魂は残っているのだろうか。幽々子はそれだけが不安だった。

 

「あぁ、それと白蓮」

 

「・・・なんでしょう?」

 

「私の初めてを無理やり奪ったのは貴女の所のマミゾウですので、宜しく言っておいてください」

 

「!?」

 

 先程まで萃香を説教していた白蓮が、青の更なる一言によって凍り付く。青の一瞬で為した所業に他の者達はドン引きし、幽々子と同じ立場である諏訪子は内心震えあがっていた。幽香は何故か逆に開き直っていたが。

 そんな混沌に陥っていた宴会場だが、次の瞬間、この場は更なる混沌と化す。

 

「ッ…!なんだ!?」

 

 その変化に真っ先に気が付いたのは勇儀だった。次の瞬間、店の中に轟音が響き渡り、地面が大きく揺れる。

 そして天井を突き破り、無数の大岩が落ちてきて、否、降って来る。

 驚きで僅かに目を見開く者、特に表情に変化は無く、ただ真上を見ている者、こんな状況下でも説教を続け、正座をして渋々それを聞く者、恐怖で腰を抜かしているミスティア。三者三様の反応の中、

 

「あーはっはっは!」

 

 一人の少女の笑い声が、周囲に響き渡るのであった。

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