見えない境界少年   作:迦羅

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三十三話

「あら、遅かったじゃない。もう始まっているわよ」

 

 現在の時刻は十八時過ぎ。まだ太陽が僅かに見えているが既に周囲は赤よりも藍色が強くなっている時間帯。青達一行は暫くの間空を飛び続け、漸く博麗神社の境内へと足を踏み入れた。

 先日訪れた時とは比べ物にならない程の喧騒と、仄かに香る料理の匂い。そして自分達の少し前から聞き覚えのある、博麗霊夢の声が聞こえてくる。

 

「主賓抜きに始められる宴もおかしなものだと思いますが…こちらにも事情があったんですよ」

 

 青の言葉に霊夢はそう、と端的に言葉を返し、彼らの前から去っていく。先程の問いかけも形だけの物だった様だ。どうやら初めて会った時に感じた、周りに興味がないという推測は間違ってはいないらしい。

 そんなことを考えていると、両隣にいる橙や舞、里乃では無く、後ろから服を引っ張られる感触がする。

 

「おに~さん、一緒に遊んで欲しいのだ~」

 

 聞き覚えのある声、しかし青の頭の中では、今その声を出しているであろう人物と自分の知っている相手が一致しなかった。

 

「ちょっとちょっと。貴女が誰かは知らないけどさ、青様は貴女みたいな妖怪に構っている暇は無いの」

 

「いえいえ、舞。折角ですし、彼女の提案に乗る事にしましょう。里乃も橙も、ここからは自由時間です。好きな所に行ってもらって構いませんよ。私はこの妖怪さんに、案内を頼みますから」

 

「え…でも…」

 

「それに、この子とは少し話したい事がありますし」

 

「・・・わかりました」

 

 青の言葉に少しの間思考した橙だが、主からの命故に断る訳にも行かず、少々心配だが里乃と舞と一緒に、神社の本堂へと歩いて行く。

 三人の気配が去っていくのを確認した後、青は人の少ない森の近くへと移動し、彼女に向き直る。

 

「それで、一つ確認させて欲しいのですが、貴女はルーミアで間違いないですよね?」

 

「そうよ。貴方なら声でわかるでしょう」

 

 先程とは全く違う、しかし聞き覚えのある口調に、青は奇妙な感覚に陥る。友人の意外な一面を見てしまった時の様な、つまり何が言いたいのかと言うと、弄りたくなる。

 

「何故、子供の様な口調にしていたのですか?まぁ、子供といっても大分特徴的な喋り方の様ですが」

 

「一応私は封印されている身だからね。下手に警戒されない様に低級妖怪になりすましているのよ」

 

「成程…それにしても…ぷぷっ」

 

「失礼ね。蹴るわよ」

 

 もう既に蹴っているでは無いか。目の見えない可哀想な少年に何たる仕打ち。きっと彼女には人の心が無いのだろう。

 

「まぁそれはともかく、何故私に接触を?何か目的があるのでしょう?」

 

「目的なんて無いわよ。ただ、久しぶりに貴方と話したくなったというか…」

 

「ルーミア」

 

「な、なによ」

 

 突然呼び捨てで名前を呼ばれ、思わず体を強張らせてしまう。

 

「貴女って…意外と乙女な所ありますよね」

 

「うっさいわね。余計なお世話よ」

 

「いえいえ、私としてはその方が可愛らしくていいと思いますよ。それに多少は抜けている部分があった方が、慕われやすいとも聞きますし」

 

 口元にニマニマと笑みを浮かべながらそんなことを言う青に、ルーミアは思わず頬を引き攣らせる。

 

「随分と人の事を煽るじゃない。今ここで貴方のことを食い散らかしても、私としては構わないのよ?」

 

「ふふっ、それがどちらの意味なのかはわかりかねますが、貴女にそれをすることは不可能です。私という存在は麻薬と同然。一度手を出してしまったら最後、抜け出す事は出来ない。私が許しませんもの。貴女も、これから私と会えなくなるのは嫌でしょう?」

 

「貴方って、本当良い性格してるわよね」

 

「よく言われます」

 

 これ以上何を言っても無駄だと判断したのか、ルーミアは一度大きく溜め息を吐いてから、再度口を開く。

 

「まぁいいわ。貴方の過保護な姉がいつ来るかもわからないし、私は別の場所に行く事にするわ」

 

「それが妥当でしょう。貴女と二人だけで過ごすというのは難しいですからねぇ。私を攫ってくれれば、何でもして差し上げますよ」

 

「・・・そういうのって、普通攫われる人が言う台詞では無いと思うのだけれど。まぁ、気が向いたらね」

 

 その言葉が青の耳に入る頃には、既にルーミアはこの場にはいなかった。

 せめて神社の本堂までは案内して欲しかったと思う青であったが、もういない相手には何も伝わらない。仕方なく人の気配を探りながら、一歩一歩慎重に歩を進めていく。

 

「おや、こんな所で何してるんだお前は。何時も隣にいる式神は何処に行ったんだい?」

 

 漸く喧騒が聞こえる様になってきた時、聞き覚えのある声と共に突然腕を掴まれる。

 

「藍は今、姉様に付き添っています。流石に賢者の会合に補佐である彼女が席を外す訳には行きませんので」

 

 会議が全く進まなくなりますから。自分の目の前にいるであろう人物、八坂神奈子に青は端的に理由を説明する。

 

「納得だ。だが、それにしたって式の式がいただろう。あいつは向こうで飯食ってるみたいだが…」

 

「私が一人にさせてくれと言ったんですよ。尤も、一人になった後どうやって橙の下に行くのかは考えてませんでしたが」

 

「馬鹿だねぇ」

 

 神奈子は呆れたような声を出し、青の体を軽々持ち上げ、背中に乗せる。

 

「折角だ。私がおぶってやるよ」

 

「何故そうなったのかはわかりかねますが…助かります。所で、貴女がいるということは、諏訪子の方もこの宴に?」

 

「あぁ、と言っても、まだ来てはいないけどな。私は宴会の準備を手伝っていたんだ。流石にただ飲みは気が引けたからな」

 

「ほう、傲岸不遜の神にしては珍しい。貴女も少しは礼儀を知ったのですね」

 

「嘘だろ?私ってそんなに威張り散らしてたか?」

 

「少なくとも初めて会った時はそうでしたね」

 

 青は少しだけ懐かしそうに彼女が八雲の屋敷の障子を突き破って現れた時のことを思い出す。あの日は洩矢の国からの帰りだったらしいが、障子は破けるわ急に人の家で酒を飲み始めるわで本当に迷惑だった。暫くして家に帰ってきた姉に追い出されていたが。

 

「うぐっ…まぁ、過ぎた事は忘れるにかぎる。・・・ほら、こっからは一人で歩けるだろう?」

 

 そう言って神奈子は青を背中から神社の縁側に降ろす。確かにここから橙がいる場所まではそう遠くは無いので、一人でも向かうことが出来るだろう。

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

「いいよ別に。私達の仲じゃ無いか」

 

 青の感謝をに手をプラプラと降って答え、神奈子はその場を後にする。取り残された青は一人でいる時に酔っぱらいに絡まれるのも面倒なので、早いところ橙の下に向かおうと歩き出すのであった。

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