見えない境界少年   作:迦羅

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三十四話

「やっていることが先日の同窓会と変わらないと思うのですが」

 

 日もすっかり山に隠れ、妖怪の活動する夜の時間が訪れた。しかし山奥に佇む神社だけは燃えているかの様に明るく、騒がしかった。

 そんな中、此度の宴会の主賓(らしい)八雲青は、自分の周りにいる存在の気配を今一度確認した後、小さく言葉を漏らす。

 

「確かに。酒を飲んで飯を食い、他愛も無い会話を交わす。以前の宴と、やっていることはそう変わらないねぇ。でも、宴は何度やってもいいものだよ?」

 

「それは否定しません。しかし、私は本来ここに交流を求めてやって来たのですが…」

 

 自分の隣に座る友人、洩矢諏訪子の声を聞き、青は再度溜め息を吐く。

 現在自分の周りには伊吹萃香、風見幽香、洩矢諏訪子の三人が座っていた。今この場には紫も藍もいない。橙達は怯えて少し離れた場所に行ってしまった為に彼女達を止める者は誰もいない。いつ襲われるか内心少しだけ不安だったのだが、どうにもそういう訳では無いらしい。

 

「皆貴女達に怯えるせいで、誰もこちらに近寄って来てくれません。先程から突き刺さる様な視線を感じますが…恐らく博麗の巫女の物でしょう。邪魔者扱いされてますよ、私達」

 

「そんなもの、勝手にさせておけばいいじゃない。今日の宴の主賓は一応貴方なのでしょう?なら貴方の周りにいれば何をしても許されるのよ」

 

「そんなことは無いと思いますよ。というかそもそもその主賓である私が迷惑だと言っているのですが…」

 

「まぁまぁ、細かい事は気にしなくてだろ。ほれほれ、酒注いでやるから」

 

 いくら青と言えども三人を同時に相手していたら、流石に相手の雰囲気に流されてしまう。最早とやかく言うことも無駄だと判断し、大人しく萃香からグラスに注がれた酒をグイッと飲み干す。

 酒が喉を通った瞬間、喉を焼き尽くすような熱と共に、言いようのない感覚が彼を襲う。

 

「ッ!」

 

「あ~あ、素直に飲んじまったよ」

 

 その今まで感じたことの無い程の体の熱さに、青は思わず手にしていた盃を落としてしまう。

 萃香の声が上手く聞き取れない。何故、これ程までに胸が熱くなる?何故彼女の声を、気配を感じるだけで、言い表せないもどかしさが襲ってくる?

 

「すいかぁ、謀りました、ね…一体何を、飲ませたのですか…」

 

「流石に気が付くか。お前に飲ませた酒にはな、普通の物とは二つだけ違う所がある。一つ目はその質。その酒は一度勇儀の持つ盃に注いだ物なんだ。あいつの盃に注がれた酒は、その品質が格段に良くなる代わりに劣化が早い。味が落ちない様に態々地底まで行って今日貰って来たんだ。有難く思いなよ」

 

「有難迷惑、という奴ですよ…」

 

 青の反論も、いつもと違い冷静さを感じない。彼の顔は、萃香好みに歪んでいた。

 

「二つ目は些細な事だ。お前が今飲んだ酒に、八意印の即効性の媚薬を仕込ませて貰った。大丈夫だよ、その酒の度数に比べればほんの少しだからさ」

 

 それだ。それが一番の問題である。珍しく何もしてこないなと思い油断していた自分が馬鹿だった。警戒していれば避けられたかと言われるとすぐに頷くことは出来ないが、それでもこの未来を回避する事が出来たかもしれないのだ。

 

「(まず…い!能力の、制御が…!)」

 

 媚薬は不味い。自分の心が、能力が、外に出ようと身体中を暴れまわっているのが良くわかる。

 心を落ち着けようと深呼吸をしようとしても、喉に残る酒がそれを妨害し、逆にむせ返ってしまう。せめて誰か助けが来ればと思ったが、周囲の二人が手を貸さない以上グルなのだろう。助けが来ないのは明らかだった。

 そしてむせ返った拍子でただでさえ不安定な青の能力、《誑かす程度の能力》が遂にその制御を失う。

 

「「「っはぁぁ…///」」」

 

 その瞬間、この場にいた殆どの者が、一斉にうっとりとした溜め息を吐いた。遠くで頰を紅潮させながら息を荒げ、着物は着崩れ肌をさらけ出し、胸を抑えている青にあの興味無さそうにしていた博麗の巫女ですら釘付けになる。

 遠くにいる者でさえ彼の虜となっているのだ。ならば、その色気を最も間近で受けた三人はどうなってしまっているのか。

 結論から言うと――どうにもならなかった。

 

「面白いな…今まで会ったどんな奴とも違う感触だ…!その場にいるだけで人を、神を、妖を誘惑し、依存させるなんて。私が持っていない強さを持っている。やっぱりお前は私の理想だよ!」

 

 近くにいる幽香と諏訪子には多少の変化は感じられど、萃香からは変化を感じない。

 彼女達大妖怪や神レベルになれば、精神に影響する能力はかかりにくい。それに加え鬼は元々妖怪の種族の中でも精神防御力が高い。それ故に青の誘惑を受けても平然としていられるのだろう。青がそのつもりで力を使用した場合は、どうなるのかわかりかねるが。

 どうせならば《誑かす程度の能力》のもう一つの力も暴走して萃香達に幻覚を見せて逃げられればよかったのだが、こちらは発動する気配が全く無い。肝心な時に役に立たない能力に、青は心の中で舌打ちをする。

 しかし今この状況において、自分の能力を嘆いても何の得にもならない。

 

「(神…そうだ、神奈子なら、神奈子ならこの状況を治めてくれる筈…)」

 

「あ、残念だけど神奈子は来ないよ。さっき私が責任をもって酔い潰しておいたからね」

 

 危うく色気と一緒に殺気まで漏れ出しそうになった。責任をもって酔い潰すなど初めて聞いた言葉だ。そもそも酔い潰すという行為自体が無責任だというのに。

 

「起きている者全員が、貴方の力にやられてしまっている。わかる?私達以外は近づくことが出来ないのよ。きっと今の彼女達からすれば、貴方は神々しく映っていて、近づくことすら烏滸がましいと感じているのでしょうね。今は紫もいなければ白蓮もいない。この言葉の意味、わかる?」

 

 幽香の手が、胸を抑えている青の手に重なる。そのまま彼女は流れる様な動作で手を上へと持っていき彼の首を掴み、畳の上に押し倒す。

 押し倒した以上それなりに力が加えられている為にそれなりに苦しいだろうが、今の彼にはそれすらどうでもよかった。

 彼女の手が肌に触れる事すら、首が絞まる感覚すら快楽に感じてしまう。自分の理性がゴリゴリと音を立てて削れていくのがわかる。

 夜に複数人を相手にすることは、過去に何度かあった。しかし今、この三人に食われてしまえば…自分は依存させる側では無くする側、溺れる側になってしまうような気がした。

 今すぐ逃げ出したい。しかし体に上手く力が入らない。逃げ出そうとする自分と、受け入れようとする自分。その二つがせめぎ合っていた。

 そしてその様な心持ちでは、幽香の手から逃れることは出来ない。

 

「ナイスだ風見!それじゃあ久しぶりに、いっただっきまーす!」

 

 幽香の行動を合図に諏訪子が青の着物を強めに引っ張る。そして露わになったその白く透き通る様な肌に、全く鍛えられていない程良い柔らかさを持った胸に舌を這わせ、ピチャピチャと蛙の様に水音を立てながら堪能する。

 媚薬により感度が何倍にも跳ね上がっている今の青はそれに平静としていることなど出来る筈も無く、体を痙攣させながら何とかその感覚をやり過ごそうとする。

 しかし忘れてはいけない。この場にいるのが彼女だけでは無いことに。そして快楽を逃すなんてことを、ほかの二人がさせてくれる筈が無いという現実に。

 

「いい……今の貴方の表情、すっごくそそるわぁ…」

 

「足りない…もっと、もっと見せて、魅せておくれよ。快楽に歪んだお前を、堕ちるお前の姿を…!」

 

 暴れそうになる青の体を萃香は強引に押さえつけ、更なる刺激を与えようと彼の首筋に歯を突き刺す。青の体を電撃の様な痛みが駆け巡るが、感覚がおかしくなっている青にはそれすら快楽に感じられてしまい、滅多に浮かべることの無い涙を瞳に宿しながら、途切れ途切れに悲鳴か嬌声か判断のつかない声を上げる。

 

「だ、だめ、です……ま、まわりに、みられて、いる……んんっ!?」

 

「いいじゃないそんなの。見せつけておけば良いのよ。彼女たちは見ることは出来ても、貴方に手を出すことは出来ないのだから」

 

「安心して。誰にも渡さない。青は私の、私たちだけのものさ」

 

「そ、そういうもんだいじゃ……やあぁっ!」

 

 拘束や一日中耐久等、ありとあらゆる希望を聞きそれを受け入れて来た青だったが、唯一羞恥プレイだけは駄目なのだ。自分の情事を第三者である誰かに見られるなど、恥ずかしすぎて行為どころでは無くなる。

 何より今は自分の家族である式の式がいる。彼女に自分の喘いでいる姿を見られてしまっているというのはあまりにも情けなかった。

 

「〜〜っ!も、もうやめ……!こ、このままだと…ひゅあっ!?」

 

「泣きごとを言うなんて貴方らしくもない。貴方は言葉なんて口にしていないで、ただ私たちを昂ぶらせる悲鳴をあげ続けていれば良いの」

 

「そもそも青が悪いんだろ……会う度会う度私たちをその能力で誘惑して……!滅茶苦茶にしてくれと行っている様なものじゃないか。私がどんな気持ちで夜に自分を慰めているか知らないで……!」

 

「そ、そんなつもりは……ひぁっ!」

 

「でもそんな日々は今日でおしまい。この日を何千年と待ち望んだことか……遂にお前を私のものに出来る……!」

 

 諏訪子は彼の胸を舐め続けたまま、待ちきれないと言った様子で片手を彼の下半身の方へと持って行く。

 もはやこれまでか、青は覚悟を決め、せめてこれ以上声を上げることは無いように強く意識を保とうとする。

 しかし幻想郷の、博麗神社の神はまだ、青を見捨ててはいなかったらしい。

 

「何を…しているのかしら?」

 

「・・・あ」

 

 突如として空間に穴が空き、そこから凍える様な目をした八雲紫が姿を現す。そして諏訪子の手をへし折らんとばかりに力を込めて掴み上げ、乱暴に払いのける。同時に素早く青の真下にスキマを開き、真上から落ちてくる彼を優しく受け止める。

 

「ねぇ…さまぁ…」

 

「青…悪い妖怪に襲われるなんて可哀想に…」

 

 身に纏っていた気配をやわらげ、紫は一度彼の頭を撫でてから自分の胸に抱き寄せる。

 

「落ち着いて…一度ゆっくり、大きく深呼吸をして…そう」

 

 紫という存在は、青にとって天然の精神安定剤。こうして彼女の胸に顔を埋めるだけで、自然と体の火照りも無くなっていく。

 落ち着いた青をゆっくりと床に寝かせ再度頭を撫でた後、他の者に襲われないように結界を貼り、紫は再び萃香達を睨む。

 

「さて…貴女達、ちょっと表に出ましょうか。妖怪なりの責任の取り方というものを教えてあげるわ」

 

「い、いや、私達はまだヤってないから未遂「出ろ」…はい」

 

 姉達の気配が遠くなっていくのを、朧気な意識で感じ取る。

 先程までの緊張が弛緩したせいか、それとも今になって酔いが回って来たからなのか猛烈な睡魔に襲われ、青は意識を手放した。姉の温もりが感じられないのを、少し寂しく思いながら。

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