見えない境界少年   作:迦羅

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少し遅いですが明けましておめでとうございます。今年に入って初めての投稿です。
最近新しい作品を作ろうと構想を練っていまして、それに夢中になって番外編に全く手をつけていませんでした。ネタが思い浮かばないのも多少ありますが。
次の投稿がいつになるかはわかりませんが、どうか気長に、そして期待しない程度にお待ちください。
改めまして、今年も宜しくお願い致します。


青の結婚生活(仮)

「青、結婚しよう!」

 

 日が昇ってからまだ三時間と経っていない頃。

 朝食を取っている最中であった紫、青、藍、橙の四人の前に、突然障子を蹴破りながらそんなことを言い放つ諏訪子の姿があった。

 

「・・・別に構いませんが」

 

 青が了承した。

 こうして二人はめでたく結婚し、幸せに暮らしましたとさ。

 めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――んな訳無いでしょ!?」

 

 あまりに突然の出来事に一瞬意識がついて行けていなかった紫であったが、漸く状況を理解し、取りあえず自分から弟を取ろうとする害虫の頭を殴りつける。

 

「いった~…ちょっと紫、いきなり何するのさ」

 

「それはこっちの台詞よ!人の家に押し掛けて最初に出て来た言葉が告白ってどういうことよ!?」

 

 そこで藍と橙も漸く意識を取り戻し、橙は取りあえず朝食に影響が出ないようにと自分達の皿を素早く食卓から台所へと非難させる。藍は木枠ごと壊された障子を直そうと、和紙を取りに奥の部屋へと向かった。

 

「青もなんでそこで告白を了承するのよ!」

 

「だって…別に私は誰かの物になるつもりはありません。しかし外の世界ならいざ知らず、この幻想郷において結婚という物は所詮形だけの産物ではありませんか。一夫多妻がどうとか以前にそもそも幻想郷で結婚の規定など定められていませんし、結婚せずとも夜の営みは出来ますし、なんなら襲われますし」

 

「いきなり告白した私が言うのも何だけど、その考えもどうかと思う…虚しくならない?」

 

 諏訪子の突然の告白に唯一動じる事も無く朝食を食べ続ける青に、諏訪子ですら呆れた様に溜め息を吐く。

 

「青が何と言おうと駄目な物は駄目よ!貴女に青をやるつもりはないわ!」

 

「・・・過保護」

 

「これは普通でしょう!?」

 

 興奮した様子で捲し立てる紫を虫の様に払いのけながら、諏訪子は青の眼前にまで迫る。

 

「まぁ、聞いて貰って分かっただろうけど、紫がそんなこと許してくれる筈無いでしょ?」

 

「そうですね。なんとなくそんな予感はしていました」

 

「私もそう思ってた。だから、結婚生活を体験してみない?」

 

「体験…ですか?」

 

 結婚生活体験。聞きなれない言葉に青は思わず首を傾げる。

 諏訪子はコテンと首を傾ける青の反応に当然だと言う様にうんうんと頷き、そしてその仕草に若干の萌えを感じながら得意げに説明を始める。

 

「そう。一日だけ青が守矢神社に住んで、私と結婚したらこんないいことがあるんだよ~っていうのを知るの。まぁ、勿論多少悪い所は見つかると思うけど…そこは直せばいいでしょ」

 

「成程…面白そうでいいですね。私も一度結婚生活を体験してみたいと思ったことはありますし」

 

 疑似結婚生活というものを経験できる数少ない機会だ。経験は多いに越したことは無いだろう。

 最後の一品であるたくあんをポリポリと音を立てて食べながら、青はぼんやりとそんなことを考えていた。

 だがしかし疑似だからといって、青を襲いかけた前科のある粘着質な神の下に行くのを紫が許すかと言えば、そんなことは断じて無いのである。

 

「もう決定したことの様に話しているけど、一度青を襲いかけた貴女の下に、私がこの子を行かせると思うのかしら?」

 

「一回じゃないよ。青が守矢神社に来た時も襲ったし、なんなら昔結構な頻度でヤってたからね」

 

「ちょっと青、お姉ちゃんそんなこと聞いてないんだけど?結構な頻度でしてたの?」

 

「もう昔の事ですから、私は大して気にしていませんよ」

 

「まぁともかく、明日の朝まで青を借りて行くから、宜しくね!」

 

 無理矢理話を切り上げるや否や、諏訪子は青の手を取り立ち上がらせ、所謂お姫様抱っこの状態で青を担ぎながら部屋を出て行き、やがて空へと飛んで行ってしまう。

 

「諏訪子…青をお姫様抱っこするなんて…私もやったこと無いのに!」

 

 仮にもしここに藍がいたのならツッコミどころが違うと指摘していたのだろうが、残念な事に彼女は未だに戻ってこない。

 すぐさま追いかけようとスキマを開こうとする紫であったが、後ろからトントンと肩を叩かれる。

 

「姉様」

 

「青!?さっき出て行ったんじゃないの!?」

 

 顔をギリギリまで近づけて話しかけてくる青に驚く紫であったが、青はそんな彼女の反応を楽しむ様にクスクスと笑いながら話を続ける。

 

「ここにいる私は能力で作った分身です。姉様、取りあえず私は彼女の言った通り、一日だけ結婚生活を体験してみます。面白そうですし」

 

「な――!だ、駄目よ。もしも諏訪子に襲われたらどうするのよ?」

 

「私はそれでも構いませんよ。彼女一人だけなら、先の宴会の様な醜態は晒しません。ですから追いかけてこないでくださいね。もし姉様が私を取り戻しにいらっしゃれば、私は姉様を嫌いになるかもしれません」

 

「きら――!?」

 

 勿論、青の言葉は真っ赤な嘘だ。青が心の底から信頼し、甘える事の出来る数少ない人物である姉を嫌いになる筈が無いだろう。

 しかし弟一筋の紫としては、嫌われるかもしれないという可能性があるというだけで大問題であった。気づけば、考えるより先に口が動いていた。

 

「・・・わかったわ」

 

「ありがとうございます姉様、大好きですよ」

 

 そう言って青の分身は彼女の頬に口づけをし、その直後に煙となって消えてしまう。

 

「・・・なら、私の下からいなくならないで欲しいのだけど」

 

 青の言葉を易々と了承してしまった先程の自分を少しだけ後悔しつつも、紫は橙を呼ぶために台所へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・という訳で。今日一日だけ私は諏訪子の夫になりますので、宜しくお願いします」

 

「はぁ、どうも…」

 

 突如として己の信仰する神が男を連れて来た。しかもお姫様抱っこで。そのツッコミどころがありすぎる状況に風祝の少女、東風谷早苗は困惑を隠しきれない。

 さらにはその妖怪は平然としながら自分に挨拶をしてくる始末。これでは気が抜けた返事になってしまうのも仕方が無いだろう。

 

「諏訪子様も、恋をなさるんですね」

 

「あの二人のは、恋なんていう程綺麗なものじゃない気もするが…」

 

 小声でそんなことをぽつりと呟く神奈子であったが、その言葉が早苗の耳に入る事は無かった。

 

「お、気になるかい早苗?私と青の、笑いあり(青を襲う事が出来たと言う愉悦)、涙あり(青を堕とすことが叶わなかったという悔しさ)のラブロマンス」

 

「ラブロマンス…是非お聞かせください!」

 

 いくら奇跡を扱える神の子孫だからといって、早苗とて年頃の少女。そう言った色恋ものへの興味だって人並みに存在する。

 しかも神と妖怪の恋愛という今後絶対に聞くことが出来ない様な代物。興味はない訳が無いのだ。

 己の問いかけに何度も首を振る早苗に、諏訪子は気を良くしたのか自慢げに青との馴れ初めを語り始める。

 

 

 

 

 ~十分後~

 

 

 

 

 

「違う…違います…私が想像していたラブロマンスじゃないですよそれは多分昼ドラでやっているタイプのやつです…」

 

 恋バナで聞かなければよかったと感じたのはこれが初めてかもしれない。なんだかんだ言って尊敬していた洩矢諏訪子という神のイメージがガラガラと音を立てて崩れ去った様な気がした。

 

「いやぁ、自分の恋バナを人に聞かせるのって結構恥ずかしいね。私まであの時の事を思い出して、ちょっと昂っちゃったよ。ねぇ青、ちょっと奥の寝室まで行かない?」

 

「いきなり何を言っているんですか?まぁ、望まれるなら受け入れますが」

 

「早苗の前で何言ってるんだお前達。まだ昼にすらなってないんだぞ?」

 

 両頬に手を当てイヤンイヤンと首を左右に振りながら顔を赤くする諏訪子と、彼女の隣に立ちながら平然としている青。早苗との温度差で風邪を引きそうだなぁと、神奈子は半ば現実から目を逸らしつつあった。

 

「と、ともかく、諏訪子様のお考えは理解しました。青さん、一日だけですが、どうぞ宜しくお願いします」

 

「そうかしこまる必要はありませんよ。この体である以上、私の方がお世話になることが多いでしょうし。こちらこそ宜しくお願いします」

 

「ね、家の早苗はいい子でしょ?流石私と青の子孫なだけあるよね」

 

「・・・ちょっと待ってください。諏訪子様、今何と仰いました?」

 

 何やらとんでもないことを聞いた気がする。早苗は恐る恐ると言った様子で諏訪子に問いかける。

 

「あぁ、言ってなかったっけ?青は早苗の先祖かもしれないんだよ。私、青としかヤッてないし」

 

「・・・まさかのデキ婚ですか!?」

 

「いえ、結婚はしていませんよ。だから夫婦の体験というものをやろうとしているのではないですか」

 

「お二方の関係はどうなっているのですか!?」

 

 常識にとらわれてはいけない幻想郷でもありえませんよ!?と頭を押さえて叫ぶ早苗。

 しかし早苗が知らないだけで、幻想郷にはそういう奴がかなり多い。しかも殆どがこの世界の重鎮であるという始末。

 どうか早苗に悪影響を与えないで欲しい。神奈子は切実にそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあ早速新婚生活を送ろうって言いたいところだけど…夫婦って何するの?」

 

「それがわかっているから私を誘ったのでは無いんですか?」

 

「私が行き当たりばったりな性格なのわかってるでしょ?どうしよう、ヤる?」

 

「どうしてそっち方面にしか行かないんだ。この色ボケ共が…」

 

 脳内がピンク色に染まっている二人に神奈子は本日何度目かの深い溜め息を吐く。青は色ボケ扱いされたことに不満気であったが。

 

「・・・取り敢えずもうそろそろ昼だから、昼食でも作ってみてはどうだ?昔は家事は女の仕事だったが、最近はそういう考えも廃れて行っているらしいぞ」

 

「料理かぁ…青、出来る?」

 

「目が見えない私にそれ聞きます?」

 

 今更この神は何を言っているのだろう。愚問が過ぎるその発言に、思わず呆れて嘆息する。

 

「私ももう何千年もやってないからなぁ…全く出来ないや…私達、夫婦生活向いていないんじゃ?」

 

「まぁ、私には藍がいますから。家事をする必要はありませんし」

 

「私の所にも早苗がいる…ということは、嫁入りしようが婿入りしようが家事をする必要なんて無いってことだよね」

 

「そういうことになりますね」

 

 ホッと安堵の息を吐いている二人に、いつの間にか家事を押し付けられることとなった早苗は憐れみと若干の軽蔑の籠った視線を向ける。

 最早早苗の目に映る彼ら彼女らは妖怪でも神でもない。ただのニートだ。

 

「いや、よく考えたら結婚してからはそれでいいかもしれませんけど、少なくとも今はそれじゃ駄目じゃ無いですか?折角の夫婦体験の意味が…」

 

「確かに。ねぇ神奈子、他に何か夫婦らしいこと無い?」

 

「お前達考えなし過ぎるだろ…何を思ってそんなことを始めたんだ」

 

「「夜の運動会」」

 

「はぁああ…」

 

 決めた。今日一日は家を空けよう。何を当たり前のことを見たいな顔でこちらに顔を向ける二人に神奈子は顔を手で覆ってしまう。

 早苗は二人が話しているのを無視して昼食を作って来ると言って台所へと行ってしまった。それが本当なのかこの場から逃れるために出た嘘なのかはわからないが、ここから抜け出せたこと自体が羨ましい。

 

「取り敢えず、早苗がお昼を作って来るまではのんびりしてようか。やる事も無いみたいだし。あ、膝枕してあげよっか?」

 

「そうですね。まったりすることにしましょうか。それではお言葉に甘えるとしましょう」

 

 自分の気苦労も知らないで、元凶である二人は相変わらずマイペースに話をし、勝手にこの場を去ってしまう。

 何故だろう。神奈子は妙にムカついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふぅ、お茶が美味しいですねぇ」

 

「そうだねぇ…」

 

 結局早苗が作ってくれた昼食に舌鼓を打った後、二人は神社の縁側に腰かけお茶を飲み、時に団子を口にしながら、のんびりとしたじかんを過ごしていた。のんびりとし過ぎていた。

 つまり何が言いたいのかというと――

 

「あ、見てください。日が山の影に隠れて行きますよ」

 

「もう一日も終わりなのかぁ。平和で何よりだよ」

 

 日が沈む…つまり昼食を取り終わってから凡そ六時間もの間、青と諏訪子はここの縁側に座って何もしていなかったということを意味する。

 夫婦の体験とは一体何だったのだろうか。結局彼も彼女も人間の夫婦なんてものはよくわからず、適当に始めた達成しなくてもよい暇つぶしであったという訳だ。

 

「結論だけを言うのなら、私達に一般的な夫婦生活は無理なようですね。検証が無事に終わったようで何よりです」

 

「まぁ、このまま青を紫の下に返すつもりなんて毛頭無いけどね」

 

「そんな事だろうと思いました。私も姉様には伝えておきましたし、大丈夫ですけど」

 

「いつ伝えたの?」

 

「私が貴女に抱き抱えられて家を後にしてからですね」

 

「?」

 

 頭にはてなマークを浮かべる諏訪子であったが、青はそんな彼女の気持ちに気づいているのか否か立ち上がり、珍しく自分の方から手を取って廊下を歩き始める。

 

「諏訪子、貴女は夕食を食べたいですか?」

 

「別に、今はそこまでお腹は空いてないよ。普段もまだ夕飯の時間じゃ無いし、早苗もまだ作ってないんじゃないかな?」

 

「そうですか」

 

 そこからまた暫くの間無言が続く。諏訪子にとってはその時間は苦では無かったが、何処に向かっているのだろうという気持ちはあった。

 しかし彼女がそう思い始めてから一分もしないうちに、その疑問は解消されることになる。

 

「ここ…寝室?」

 

 青が彼女の手を引いてやってきたのは、普段彼女が眠っている部屋だった。しかもご丁寧に押し入れから布団まで出され、敷かれている。

 

「先程神奈子に貴女の寝室の場所を聞いておきましてね。ついでに布団も敷いて貰ったんです。彼女には中々冷たい視線をいただきましたが」

 

 彼の発言に目の前に敷かれた布団。そしてゆっくりとその布団の上に座る――昼間よりも衣服を着崩した青。ここまでいけば、どんなに勘の鈍い人でも察することが出来るだろう。

 

「・・・珍しいね。青の方から誘ってくるなんて」

 

 本当に珍しい。今まで青とは数えるのが嫌になる程体を重ねてきたが、青の方から誘ってくるなんてことは一度あったか無いかくらいだ。少しは興味を惹かせることが出来たのかな?と若干嬉しくなる諏訪子。

 

「今日はそういう気分だっただけです。一時とはいえ、私自ら貴女のものになりに行っているんです。まさか夕飯前で体力が無いとは言いませんよね?」

 

「・・・勿論」

 

 諏訪子の返答に満足そうな表情を浮かべる青は、焦らす様にゆっくりと自分の体を隠す唯一の布である着物を脱いでいく。それを眺める諏訪子の目は、既に蛙ではなく蛇の目となっていた。

 寝室から甘い嬌声が聞こえるようになるまで、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・神奈子様」

 

「聞くな早苗。お前にはまだ早い」

 

 時間は少し経って台所。そこには頬を痙攣させつつも慣れた手つきで夕食を作る早苗と、彼女の耳を後ろから両手で塞ぐ神奈子という奇妙な構図が出来上がっていた。

 

「・・・全くあいつら、時と場所を考えてくれ。兎と同じで年中発情期なのか?」

 

「諏訪子様が青さんと結婚なさったら、毎日こんな感じになるんですかね」

 

「・・・かもしれないな」

 

「それは…嫌ですね」

 

「私もだよ」

 

 諏訪子には悪いが、万が一そう言う状況になったのなら、全力で反対させて貰おう。

 少し遠くから聞こえる水音とどちらのものかわからない嬌声を耳にしながら、神奈子の鬱憤は溜まり続けるのであった。

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