見えない境界少年   作:迦羅

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初めまして(下)

「ほらほら、何時もの威勢はどうしたんだい青~?顔背けてなんかいないで歯の浮く様な台詞の一つや二つ吐いたらどうだね?」

 

 永琳の手によって青が再び目に光を取り戻す事が可能になってから一週間程経ったある日の守矢神社。そこには未だに人の顔を直視するのに慣れていないのか耳を赤くし悔しそうに表情を歪めながら、視線を逸らし続ける青と、そんな彼の姿をこの機を逃すものかと言わんばかりに全力で煽る諏訪子の姿があった。

 赤くなっている青の頬をツンツンと突き、彼が別の方向を向けばまさしく神速で顔が向いた方へと移動し、ニヤニヤしながら煽りまくる。完全に神の力の無駄遣いである。

 

「う、五月蝿いですよ諏訪子。そ、そういうえっちぃのは…その、駄目です」

 

 そう言って青はさらに頬を赤くし、視界を塞ぐべく両手で自身の顔を覆う。というか諏訪子は一言もエッチな事とは言っていないのだが、やはり普段からそういう事しか考えていないが故なのか。

 

「あっはははは!青は『ハンドルを握ると性格が変わる』ならぬ『視覚を取り戻すと性格が変わる』タイプなんだね!まさか青の口からエッチなのは駄目なんて台詞を聞くことが出来るなんて!」

 

「・・・諏訪子殿、あまり青様を揶揄わないでいただけないか。青様の羞恥心が常に最高潮ではまともな会話にならない」

 

「いやぁ、ごめんごめん。青がこんなに恥ずかしがるネタなんて滅多に無いからさ。久しぶりに思いっきり笑わせて貰ったよ」

 

 諏訪子の笑いは青に同行していた藍が注意することで漸く収まった。先程まで青と諏訪子のやり取りだけが繰り広げられていた為に空気となっていた神奈子もここで漸く口を開く。

 

「それにしても、永琳も随分と便利な道具を作るねぇ…付けるだけで一定時間盲目が解消する眼鏡とは、月の賢者さまさまだよ」

 

 永琳は試作品を作ってからこの一週間の間で、機械をさらにコンパクトで軽い形状の眼鏡型にするという改良を施していた。しかしどう頑張っても脳に負荷をかけている事実は変わらないので、長時間の使用は厳しいらしい。それ故に何処で使うのかは慎重に判断せねばならないのだ。正直に言ってしまえば態々そんな事を考えるのは不便なので、恐らく今後使うことはあまり無いだろう。

 

「その眼鏡、紫には見せたのかい?」

 

「えぇ、見せましたよ。『もう一度青と目線を合わせて会話できるとは思わなかった』と号泣されました。私が恥ずかしくてすぐに顔を逸らしたので台無しでしたが」

 

「それにしても、青様は何をそんなに恥ずかしがっておられるのです?紫様からお聞きしましたが貴方様は女性経験はかなり多い筈…それに私も長年貴方様にお仕えしてきましたが、恥ずかしがっているお姿など見たことがありません」

 

「その、こうして視覚を使って諏訪子達を見ると…私が関係を持っていた相手はこんなに綺麗な人だったのかと思って…今までそんな感情を抱いた事などありませんでしたから、と、とにかく!視線を合わせると顔が熱くなるんです!」

 

「ねぇねぇ神奈子聞いた?これがあの青なんだよ、信じられる?」

 

「凄いな、たった一つの感覚の有無だけでここまで変わる物なのか。それに下の話を全くしてこないのも私的にはポイント高いぞ。こっちの青の方が上手く友人としての付き合いが出来る気がするのだが」

 

 諏訪子も神奈子も揃って驚愕と言った表情で青の顔をマジマジと見る。青はそれに再び顔を赤くし、視線を逸らすのに徹し始める。

 

「お二人共、それ以上青様の顔を見つめるのはおやめください。先程似たような事を注意したと思いますが?」

 

 このままでは青が顔を赤くしそれを二人(主に諏訪子)が弄るというのが無限に行われると悟った藍は守矢の二柱に軽く注意した後、彼を守るべく自分の方へと抱き寄せる。それは藍がいつも青に何気なくしている行為であったが、今回に限ってはそれが不味かった。

 

「なっ!なななぁ…!」

 

 不意に体に伝わって来た柔らかい感触、そして程よい温もりが自分を包んでいる。今まで幾度と無く嗅いできた藍のにおいが今日は途轍もなく特別な物に感じた。視線を上へと向ければ自分の事を守ろうとしているからであろうか、彼女の顔は引き締まっており、綺麗であると同時に格好いいという感情を抱いた。今まで感じたことがない程、胸がキュンキュンと締め付けられたのだ。

 まるで初めて好いた人に触れた生娘の様な反応をしてしまった。青の口から出た声にならない悲鳴を聞き、藍も漸く自分のしたことが彼に更なる羞恥心を与えている事に気づく。

 

「も、申し訳ございません青様!すぐに離れます!」

 

 元々目が見えていなかった時ですら羞恥プレイを嫌がり避けていた青の事だ。羞恥心という感情が人一倍苦手であることは間違いない。藍は慌てた様子で片手で抱き締めていた彼の体を畳へと戻したが、青の目尻には涙が溜まっていた。

 

「も、もうやだぁ…!お家帰えるー!」

 

 普段の口調すら忘れて青は泣きながら守矢神社を飛び出し、大空へと消えて行った。どうやら彼は目の見えている状態の時に弄り過ぎると幼児退行を起こしてしまうらしい。

 

「羞恥心で泣いてる青も、結構そそられるね…」

 

「マジかお前」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーりん!えーりん!助けてえーりん!」

 

「変な掛け声しないで頂戴。輝夜に聞かれたら絶対に真似されるから」

 

 守矢神社での騒動から少し時間が経ち場所は変わって永遠亭、お家に帰ると言って泣きながら守矢神社を後にした青は家に帰らず永遠亭へと向かっていた。彼は瞬間移動が使えるので態々守矢神社を飛び出す必要は無かったのだが、その考えに至らない程精神的に余裕が無かったらしい。

 

「それで一体何の用よ。貴方がその装置を持って永遠亭から瞬間移動でいなくなってまだ一時間も経っていないのだから、もう少しくらいは使える筈なの「この装置お返しします!もういりません!」――貴方、今なんて?」

 

 彼のその言葉は天才的な頭脳を持つ永琳でも予想外であった。まさか盲目であった人間が視界を取り戻す手段を自ら手放そうとするとは思ってもいなかったのだ。彼が喜ぶと思って作ったのだが、何か不満でもあったのだろうか。

 

「この眼鏡をかけて色んな人と会ってきましたが…誰も彼も私の想像していたよりも美人な方ばかりで話しているだけで恥ずかしいんです!これじゃあ平然とセクハラが出来ませんよ!」

 

「いい事じゃない」

 

「私の数少ないストレス解消法がぁ…!諏訪子に会っても幽香に会っても萃香に会ってもルーミアに会っても言われるのは純粋だのピュアだの生娘だの調教したいだのと…私が求めているのはおねショタでは無くショタおねなんです!襲われる展開もそれはそれで好きですけど、完全に相手にマウントを取られてはいけないんです!」

 

「貴方はショタ名乗れる程若く無いでしょう」

 

「見た目は少年だからいいんです!合法というものですよ!というか皆さん時と場所を選ばず私を襲い過ぎじゃ無いですか!?今更ですがとんでもない人達だという事を実感しましたよ。特に萃香!お酒のせいで赤らんだ頬のまま胸元をチラつかせてすり寄っって来るのはやめなさい!自分が普段そんなことをされていると知った時の私の気持ちがわかりますか!?」

 

「それを私に言わないで頂戴」

 

 相当言葉をまくし立てたせいで乱れた呼吸を整え、青は平静を装うべく何時ものように目を閉じ笑みを貼り付ける。

 

「・・・と、いう訳で。この眼鏡を返しに来ました。もう今後は使う事も無いでしょうし、何か研究の役にでも立ててください」

 

「被験者本人がそう言うのなら止めはしないけど、本当にいいのね?」

 

「えぇ、この一週間で姉様や藍や橙、幽々子達の姿も見る事が出来ましたし、幻想郷の姿も見る事が出来た。もうそれだけで満足ですよ」

 

 そう言った後青は眼鏡に手をかけそれを外し、永琳の方へと差し出す。永琳としてはもう少し実験のデータが欲しかったのだが、青相手に力づくという手段は取れないだろう。

 

「ふぅ、これで漸く落ち着いて情事が出来る――」

 

 そこまで言って、青は何故か言葉を途切れさせる。一体どうしたのかと永琳が首を傾げていると、彼の肌からじわじわと大量の汗が分泌されていることがわかった。

 

「ど、どうしましょう永琳…目が見えなくなっても記憶が無くなる訳じゃ無いんで脳裏に焼き付いた彼女達の顔が消えなません!これじゃあ恥ずかしくて夜に騒げないままですよ!」

 

「まぁ、そうでしょうね。人の脳ってそんなに貧弱な仕組みはしていないもの」

 

「い、一体どうすればぁ…!これじゃあ眼鏡を返した意味が無いですよ…どうしてこんな時だけ私の脳みそは優秀な働きをするんですか!?もう知らねーですよ、ばかやろーですよぉお!」

 

 一人で叫ぶだけ叫んだあと、青はそのストレスを運動エネルギーに変換したのか部屋の外へと全力で走って行ってしまった。壁にぶつかっているのか何秒かに一回ゴンッ!という音が響き渡るが、まぁ妖怪だから大丈夫だろう。永琳は騒ぎ立てる青を無視し、再び試験管を手に新薬の開発に勤しむのであった。

 彼が以前の様に平静を取り戻すには、まだまだ時間がかかりそうだ。

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