見えない境界少年   作:迦羅

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どうも、超お久しぶりです。
ネタが思いつかない&リアルが忙しかったせいで殆ど執筆に手をつけられないでいました。
漸くリアルが落ち着いて来ましたが相変わらずネタ切れであることに変わりはないので投稿日は不定期ですが、上がってたら見てやるかくらいの感覚でいてくださると嬉しいです。
新しい作品も頑張って書いている最中ですので、どうか期待せずにお待ちください。


喧嘩

「ヒック…もう、なんでしゅかぁ…!やってられませんよぉ!」

 

 ここはかつて人間達から忌み嫌われた者達が集まる楽園の最後の砦、地底。そんな不穏ながらも美しい世界でもやはり娯楽というものは必要のようで、真昼間なのにも関わらず居酒屋には暖簾がかけられていた。

 そして店内には二人の客がカウンターに座っており、そのうち一人はもう大分酔っているのか自分の両手以上の大きさの盃を豪快に傾け、衣服や肌に酒が零れようとお構いなしに呑み続けている我らが賢者の弟、八雲青であった。

 

「お、落ち着けよ青…幾らお前と言えど鬼専用の盃で酒を飲むな。その盃に酒の質を上げる効果があるのは知っているだろう?翌日の二日酔いは避けられんぞ!」

 

 一方珍しく荒れている青を隣で宥めているのは、地底に住む鬼の星熊勇儀であった。これまで勇儀が騒ぎ、青がそれを宥めるというシーンは数多く見られたものの、配役がまるっきり逆な状態は例え飲み仲間の萃香でも見たことが無いだろう。

 

「うるさいですよ勇儀!どうせ貴女には今の私の気持ちなんてわかりませんよぉ!」

 

「だからお前がそうなった理由を話せつってんだろ!?もうこの会話七回目だしなんなら最初にしてから軽く一時間は超えたぞ!」

 

 遂に堪忍袋の緒が切れたのか、勇儀は苛立ちを隠そうともせずに思い切りカウンターを叩く。

 仮にこの動作を地上の店――例えばミスティアの店ですれば、一瞬で卓は真っ二つに砕かれ、残っていた料理もさぞ悲惨な事になったであろう。

 しかしそこは流石地底の荒くれ者が使う事を想定して作られた店。勇儀の一撃を受けてもカウンターは新たに大きく凹みを作るだけに留まった。尚、衝撃と凹んで出来た傾きのせいで、料理と酒は全て台無しになった模様。

 

「理由…ですかぁ?それは、その…察してください」

 

「ふざけんな。今まで一時間近くお前に付き合って時間を無駄にしたんだぞ私は。知る権利くらいあって当然だろ」

 

「無駄とは酷いですね。貴女は友人との時間を無駄と言うんですか?一体いつからそんな冷酷な鬼に…シクシク」

 

「ダル絡みうっざ…あぁ、断言してやるよ。今までのお前とのやり取りは全部時間の無駄だ!わかったらつべこべ言わずに理由を吐け!このエロガキがぁ!いつからお前は泣き上戸キャラになった!?」

 

 そう言って勇儀は青の首に腕を回し、思いっきり締め上げる。流石の大妖怪と言えども鬼からの暴力は辛いのか、彼女の腕を何度もタップして降参の意を示し、少し呼吸を整えた後でポツポツと語り始める。

 

「その…実は、昨日姉様と喧嘩をしまして…」

 

「へぇ、お前が紫と喧嘩?そりゃまた珍しい。明日は槍でも降るんじゃないか?」

 

「茶化さないでくださいよ。だから貴女に話すのは嫌だったんです」

 

「悪かったよ。それで、お前達が喧嘩をした理由は何なんだ?お前を溺愛する紫が並大抵の事で怒るとは思えないんだが」

 

 そこまで聞かれて青は再び数秒の間だんまりを決め込む。これは他人に家族の事情を詳細に聞かれるのが恥ずかしいのかそれとも喧嘩の非が自分にある事がわかっているのか、全ては彼の次の言葉を聞けばわかる事だ。

 

「・・・その、姉様に、最近の私は少し自由奔放すぎる。少しは慎みを覚えろと言われまして…そこから発展して言い合いになって、最終的には屋敷の庭で戦ってました」

 

「大災害すぎるだろ」

 

 大妖怪同士の戦闘が勃発すれば、地形の変動は愚か最悪の場合この幻想郷そのものが崩壊してしまう恐れがある。紫も青も幻想郷の創造者である為ある程度の手加減は当然しているのだろうが、それでもこの世界で一二を争う程の大妖怪だ。果たして八雲の屋敷は無事に残っているのか、それが非常に気になる所である。

 

「というか、今の話だけを聞くとどう考えてもお前が悪いんだが…」

 

 勇儀としては、紫の言いたい事は十二分に理解出来る。そもそもとして皆忘れがちだが、青は両目の視力を失っている盲目の妖怪なのだ。日常生活にすら支障が出るレベルなのにもかかわらず、この様に一人で平然と外を出歩かれては心配だろう。

 だからこそ、紫は何百年も青を屋敷に幽閉していたのだから。

 

「えぇ、確かに冷静に考えると姉様の言い分は十分に理解出来ますし、非はこちらにあると思うのですが…当時は熱くなっていたので自分の意見を曲げることが出来ず、結局謝らないで家を出てきてしまいました」

 

「成程なぁ…でも、お前達が喧嘩をしても紫の所の式が上手いこと仲裁してくれるような気もするが」

 

「あぁ、藍と橙の事ですか。あの二人なら私と姉様の戦闘の余波にやられて早い段階で伸びてましたよ」

 

「本当に何やってるんだお前等」

 

 きっと二人は哀れにも訳も分からず大妖怪同士の抗争に巻き込まれ、そして散って行ったのだろう。理不尽に被害を受けた二人の事を思うと涙が止まらない勇儀であった。鬼の目にも涙とは正にこのことである。

 

「・・・まぁ、それはいいとして、ならもうすることは決まってるだろ。素直に紫に謝ってそれでおしまいだ。態々地底までヤケ酒を飲みに来る事でも無いだろうに」

 

「それもそうなんですけど…姉様と喧嘩したのも初めてですし、私ちゃんと謝った事というのが一度も無いので不安で。誰かに話を聞いてもらいたかったんです」

 

「お前…今までどれだけ我が儘な人生送って来たんだ」

 

 これまで聞いた青の所業に呆れかえっている勇儀だが、それとは対照的に青の顔は出会った当初よりも幾分か晴れやかだ。

 青は最後に一口、今度は盃に注がれていない酒を飲んだ後、席から立ち上がり店を後にしようとする。

 

「色々と迷惑をかけましたね、勇儀」

 

「気にすんな。なんだかんだお前とは付き合いも長い。今更愚痴を聞かされたくらいでお前への好感度が下がったりはしないさ。聞いている時はかなり鬱陶しかったけどな」

 

 そう言って豪快に笑う勇儀に青は少しだけ顔を向けた後、クスリと笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

「いえ、それもありますが、お酒の代金を払っていただいて申し訳ないという話です」

 

 これが本当に彼の最後の言葉だった。青は一度指をパチンッと鳴らす。すると彼と周囲の景色との境界が段々と薄くなっていき、そしてやがて彼の姿は完全に無くなった。

 

「・・・あのやろぉ、今度会ったら絶対にぶっ飛ばしてやる…!」

 

 今この場に残っているのは嵌められたという事実に漸く気が付き、怒りで拳を震わせている勇儀だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女にわかる…?あの子は昔はあんな子じゃ無かったの!それがいつの間にかあんな不摂生で淫らな子に育っちゃって、一体何処で育て方を間違えたのかしらぁ…!」

 

「お、落ち着きましょう紫?そんなに泣いたら畳が水分を吸っちゃって駄目になるわ」

 

「なんで私よりも畳の心配なのよ!」

 

 場所は変わって白玉楼。青が地底で飲んだくれていたのとほぼ同時刻に天の上では、涙で畳を濡らす妖怪の賢者とそれを必死に慰めている亡霊姫の姿があった。

 紫も青同様初めての姉弟での喧嘩でこの怒りをどう発散すれば良いのかわからず、一番の親友である幽々子の下へと泣きついたのだ。因みにその手にはしっかりと酒瓶が握られている。飲まなきゃやってられない。

 

「というか幽々子…青があんな子になっちゃったのは貴女にも責任の一端があるのよ?そこら辺どう思ってるのよ」

 

「・・・てへっ?」

 

「そんなんで誤魔化される程チョロく無いわよ私は!それにやるなら自分の年を考えなさいよ!」

 

「なっ…紫に年に関して言われる筋合いは無いわよ!?よく自分の事をゆかりんって呼ぶ癖に棚に上げないで頂戴!」

 

 そしてこちらもまた地底の二人同様、今にも新たな喧嘩が勃発しそうな険悪な雰囲気へと発展しそうになっていた。

 と言っても紫は自分が今やっていることが八つ当たりだとわかっているし、幽々子の方も紫がストレスを発散したいのだとわかっているからあまり怒りも湧かない。長年の付き合いは伊達では無いのだ。歳の事を言われた時はそこそこ腹が立ったが。

 

「でもねぇ…紫の気持ちも確かに分かるけど、青ちゃんの気持ちもわからないでも無いわ」

 

「どうして?だってあの子は目が見えないのよ?今もこうしているうちに一人でよくわからない所ほっつき歩いてるんだから危ないでしょう。だから私はあの子にもう少し慎みある行動を――」

 

「前々から言ってるけど貴女は過保護すぎるのよ。私は目が見えない家族を持ったことが無いからわからないけど、それでも青ちゃんは戦闘に関しては貴女と張り合えるくらいの実力を持っているじゃない。紫や藍ちゃんと青ちゃんは性別が違うんだから、一人での時間が零っていうのも可哀想だわ」

 

「そ、それはそうだけど…」

 

 幽々子の言っている事は確かに正論だ。しかしだからと言って納得は出来ない。これに限っては幾ら論じられても、結局は気持ちの問題なのだ。

 青がまだ妖怪としての格が低かった頃、目の見えない彼は何匹もの妖怪に殺されかけた。その度に紫が身を挺して守っていたのだ。いつも彼を一人で外に出す度に、あの時の記憶が頭に蘇る。

 

「これは私の勝手な推測だけど、変に縛るからその規則を破ろうとするのよ。貴女がもう少し広い心を持って接すれば、あの子も自然と落ち着いた行動をすると思うわよ?」

 

「・・・そうかしら?」

 

「それに青ちゃんは貴女の事が大好きだし愛しているんだもの。好きな子には意地悪したい心理で言いつけを破ってるだけかもしれないわよ?」

 

「それはそれで複雑な心境ね…」

 

 どれだけ青に言い寄られても、血がつながっている以上ノーとしか言えないのだが。

 

「・・・吐き出したら大分すっきりしたわ。これ以上長居するのも妖夢に迷惑をかけるだけでしょうし、そろそろ帰る事にするわ」

 

「そう。謝るなら自分から謝った方が良いわよ?そうしたら向こうの罪悪感も刺激されて青ちゃんも素直に謝ると思うし」

 

「そんな邪な考えなんて持たないでちゃんと精神誠意謝るわよ。それじゃあ、またお邪魔するわ」

 

 そう言うと紫は自分の手元にスキマを開き、一切の躊躇もなく中へ入り姿を消してしまう。

 一人となって数秒が経った後、幽々子は卓上にある湯呑みに手を伸ばし、中の緑茶を全て飲み終えて一言。

 

「言い忘れてたけど、貸し一にしておきましょうか」

 

 そんな今更過ぎる恐ろしい発言を、サラッと呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉様…その――」

 

「青、ごめんなさい。私は自分の不安な気持ちを落ち着けたいが為に、貴方への制約を厳しくしてしまった。貴方の為では無く私の為に貴方を縛ってしまった事、どうか許して頂戴」

 

「い、いえ!謝らないでください!私の方こそ姉様の気持ちを理解せず身勝手な行動を…それに姉様に酷いことを言ってしまいましたし…その、ごめんなさい…」

 

「いいのよ。可愛い弟との初めての喧嘩だもの。確かに言われた時はちょっと辛かったけど、これも良い思い出の一つとして残しておきましょう。さて、青。仲直りして早速だけど手伝って欲しい事があるの」

 

「奇遇ですね。私もです」

 

「「藍と橙の機嫌を直す方法、一緒に考えましょう」」

 

 八雲家の屋敷に帰ってからはや三時間。

 一向に開かれる事の無い玄関の扉を前に、賢者達は頭を抱えるのであった。

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