見えない境界少年   作:迦羅

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お久しぶりです。
この度青様のイメージイラストを作成しましたので、よければあらすじの欄をご覧ください。
ただし、自分のイメージを崩したくない方は閲覧注意です。


鬼の目にも…

 妖怪という存在は、全ての生物の中で最も適応能力が高い種族として有名である。

 スキマ妖怪や唐傘妖怪などその種類は多様であるが、全ての妖怪は一貫して人間の感情を揺れ動かすという事を目的として存在している。恐怖であったり驚きであったり、人間の感情そのものが彼ら彼女らの生きる糧だからだ。

 妖怪は人間を食らうことで力を得る為、必然的にその生活は人間に適応したものとなる。その最たる例が封獣ぬえだろう。彼女は能力そのものが個々の人間に対し影響を与える能力であることから、最も妖怪らしい妖怪と言うことが出来る。

 妖怪としての格が高くなればなる程、長い間人間に依存し、適応し続けて来た証となる。故に紫やぬえを筆頭とした高位の妖怪はあらゆる環境に適応する事が出来る。ましてや病にかかるなどもっての外だ。

 

「・・・その筈なんですけど、なんでこうなったんでしょ――ックシュン!」

 

 自分の額に貼ってある僅かに冷たさが残る冷却シートに触れながら、青はくしゃみを一つ零す。

 つい先日、起床した時に少しの気怠さと寒気を覚え姉に頼んで永遠亭に向かった所、風邪と診断されてしまった。

 理由としては人間としてはありがちな気候の変化によるものらしいが、青には永琳の言った『人間としては』という部分がやけに胸に深く突き刺さった。

 

「私、これでも最高位の妖怪なんですけど…以前の筋肉痛の時も思いましたが、私やっぱり妖怪としての格落ちてません?」

 

 流石にこれ以上は自分の妖怪としての大事な何かが失われてしまう気がする。姉にでも頼んで運動に付き合って貰おうかと考えていた。その場合、まずは以前の喧嘩の様にならないことを藍に説得する必要があるのだが。

 普段より回らない頭を適度に使いつつのんびりと過ごしていると、不意に襖が開き、誰かが入って来る音が聞こえた。足音的に入って来たのは藍だろう。何百年と共に過ごして来たんだ。今更間違える様なことは無い。

 

「青様、お粥をお持ちしましたが…食べられますか?」

 

「えぇ、大丈夫ですよ。別に食欲が無いとかはありません。今日は姉様ではなく藍が食べさせてくれるんですか?」

 

「はい。紫様は少々、というかかなりご乱心でしたので、外の空気を吸わせようと散歩に行かせているところです」

 

「・・・姉様の扱い、雑じゃありません?」

 

 今まで一度も病にかかったことの無い青が体調を崩したという事実は、八雲家にちょっとした騒動を引き起こした。

 特にまだ幼い頃に弱かった彼の姿を知っていた紫の乱心っぷりは相当で、外の世界へと向かいあらゆる風邪薬を買い占めようとして藍に止められた程だ。今は橙が付き添って外出をしているらしい。

 

「青様、あーん、ですよ。これ、実際にやると結構恥ずかしいですね…」

 

「そうですか?私はこれが普通なので何とも思わないですけど」

 

 目が見えない以上常に他人からの介護を必要とする青だが、妖怪相手では風邪をうつす心配が無いのが救いだろう。

 いつもより少しだけ時間をかけつつも、青は朝食を食べ終える。いつも通り完璧な味付けだ。

 

「青様、申し訳無いのですが私はこれから紫様に課せられた仕事に取り掛からねばなりません。ですので少しの間外出してしまうのですが…」

 

「別にそこまで気にしなくて大丈夫ですよ。姉様から与えられた仕事を邪魔する訳には行きません。式神としての責務を全うしなさい」

 

 そう言って頭を撫でてやると、藍は少しだけ申し訳無さそうにしながら、恥ずかしがりつつもそれを受け入れる。

 暫くの間そうしていると、藍はそろそろと言って立ち上がり、一礼した後に部屋から出て行った。襖の閉まる音と藍の足音が遠ざかって行くのを感じながら、青は再び布団へと潜り込む。

 

「(永琳からは風邪は非常に軽いもので早ければ二日ほどで治る、重症化もしないだろうと言われましたが…それでも一人だと些か心細いですね)」

 

 今は朝だから鳥の鳴き声や日の暖かさで気持ちを誤魔化す事が出来る。もしこれが夜なら多分心細さから号泣していただろう。大妖怪としての気品など一切感じさせないガチ泣きだ。寂しさは青の一番の天敵。それを倒せるならプライドは無い。

 気分もそこまで優れている訳でも無いのでもうひと眠りしようかと思っていた青だったが、ふと自分の枕元に気配を感じ、再び体を起こす。

 

「ありゃ、起こしちまったか?私としては完璧に気配を消していたつもりだったんだが…」

 

「いえ、元から起きてましたよ。姉様にでも用事ですか?萃香」

 

 特に驚いた様子も無く、青は自分のすぐ横に当たり前の様に居座っている彼女――伊吹萃香へと言葉をかける。

 また何時ものように酒を飲んでいるのだろう。口を開く度に出る彼女の吐息には、濃い酒の匂いがした。

 

「いんや、今日はお前が体調を崩したっつう話を聞いたからな。一人ぼっちが大嫌いなお子様の世話をしに来てやったんだよ」

 

「お子様呼ばわりは取り敢えずいいとして、何処でそんな事知ったんですか」

 

「おいおい、私の能力は知ってるだろ?私は常に体の一部を霧状にして幻想郷中に霧散させているんだ。私の情報収集能力は天狗を超えるぜ?」

 

「怖すぎると思う反面、私だけが常に監視されてる訳じゃ無いことを知って安心しました」

 

 相変わらず化け物じみている萃香に青はそう言った後一度小さい席を零す。彼には見えないものの、萃香はその様子を少しだけ心配そうに眺めていた。

 そもそも先程述べた様に高位の妖怪が体調を崩す事は殆ど無い。しかも今回の青の様にただの季節の変化によって体調を崩すことなど、それこそ人間が人生を五回やり直しても起こりえないくらいの出来事だ。

 萃香は永琳の独り言を盗み聞きしただけなので、青が体調を崩した事は知っていても、その病がどれ程重いものかまでは知らない。もしただの軽い風邪だと知っていれば、なんだと一蹴して態々見舞いには来なかっただろう。

 

「ま、体調悪いんだったら余計な事せずに寝てな。何か欲しいものあったら私が取って来てやるよ」

 

「・・・どういう風の吹き回しですか」

 

「普段世話になってるお前に、酒呑童子様からのささやかな恩返しだよ。言ってくれれば勇儀の角までは用意してやれるぜ?」

 

 軽い冗談を述べつつ、萃香は青の世話をする紫の様に彼を軽い力でベッドへと寝かせ、毛布をかけてやる。

 対して青は一瞬勇儀の角の話が気になったが、仮にそれを頼んで彼女が本気で持ってきた場合、今度勇儀に殺される事は確定なのでやめておいた。萃香にも勇儀にもそれを実践できる実力がある。

 

「萃香、お願いがあるんですけど…」

 

「ん、なんだ?」

 

「こんなことを貴女に言うのは少し恥ずかしいんですが、手、握ってくれませんか?さっきまで一人だったから、貴女がいなくなってしまうんじゃないかと思うと心細くて…」

 

・・・可愛いかよ

 

「何か言いました?」

 

「いんや、何でもねぇよ」

 

 普段の生意気な子供の様な姿とは違って、滅多に見せない青の弱々しい姿にギャップ萌えをくらってしまった萃香は、それを本人に悟られないようにしつつも、要望の通り彼の手を握る。

 やはり熱が出ているのか、その手は少しだけ普段よりも温かかった。

 

「治ったら、二度とこんなことにならないよう私が組手をしてやるよ」

 

「それ、大丈夫なんですかね…主に幻想郷が。多分藍に止められますよ」

 

 普段は突拍子のない発言をして悪く言えば空気を読まない彼女だが、今はそのいつもの調子を維持できるマイペースさがありがたい。

 三時間後、紫からの命を終えて帰って来た藍が見たのは、まるで彼の姉の様に優しい笑みを浮かべながら頭を撫で続ける鬼の姿であった。

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