見えない境界少年   作:迦羅

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五話

「大丈夫ですか?青様」

 

「えぇ、大丈夫です。もっと早く歩いても構いませんよ」

 

 八雲家を後にしてから数分程経った頃、二人は森の中をゆっくりと歩いていた。藍は一瞬空を飛ぼうか迷ったが、目が見えない中いきなり己の体が宙に浮くのは相当怖いだろうと思いやめておいた。それに万が一彼を落としてしまってはいけないからだ。

 彼はもっと歩く速度を上げても良いと言っているが、当然そんなことはしない。もしそんな事をして青が怪我でもしたら、己の主に顔向け出来ないからだ。

 

「ところで、今はどちらへ?」

 

「取り敢えず、博麗神社に向かおうかと。あそこには博麗の巫女という幻想郷の維持を担う人間がおりますので」

 

「・・・時折屋敷にも顔を覗かせていた、あの赤子ですか?」

 

「憶えていらしたんですね」

 

「えぇ、人間の赤子を触れたのは、あれが最初で最後の事でしたので」

 

 妖怪である彼にとって、十数年など一瞬だ。赤子が家に来た時のことを、まるで昨日の事の様に懐かしむ。

 

「あの子も今は、赤子から少女に成長していますよ。精神も成長しているのかと言えば、些か疑問が残りますが…あ、そこに段差がありますので、お気を付けください」

 

 頭に欲望に忠実な巫女を思い浮かべながら、藍は言葉を綴る。まぁ、金の価値が理解出来ているという点においては、成長なのだろう。

 

「彼女達は人間と妖怪の立場を調整する存在として、妖怪達が引き起こす異変を解決しているのです」

 

「そうなんですね…彼女達?」

 

「博麗の巫女の幼馴染である人間ですよ。それ以外にも人妖問わず様々な者と協力して異変を解決しています。彼女には不思議と人が集まって来るんです」

 

「姉様の持つカリスマ性の様な物なのでしょうか…?」

 

「そうかもしれませんね――っと、到着しましたよ」

 

 彼女の言葉に、青は歩くのを止める。どうやら無事に博麗神社に到着した様だ。かなり時間がかかったので、徒歩でここに来ることは今後少ないかもしれない。姉の能力を利用するだろう。

 そんなことをなんとなく考えていると、隣にいた藍から声がかかる。

 

「青様、これから92段程階段が続きます。流石にこの量の階段は危険ですので、私が青様を担いで飛ぼうと考えているのですが、宜しいですか?」

 

「えぇ、構いませんよ。ここで転んでしまっては、迷惑をかけるだけですので」

 

 青の了承を得た後、彼女は青の膝の下に手を通す。

 

「・・・どうして、お姫様だっこなのですか?」

 

「こちらの方が楽ですので。すぐに到着しますから、我慢してください」

 

 些か不満だが、これ以上何か言って時間を潰すのも勿体ない。青は仕方なく諦めて、彼女の胸に体を預けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…藍、もう降ろしてくれませんか?」

 

「何を言っているのですか青様。まだ半分も登り切っていないのですよ?」

 

「いや嘘ですよね?さっき普通に地に足を着ける音が聞こえましたよ?」

 

 彼女は自分が不自由なのが耳だとでも思っているのだろうか。流石にそれくらいは聞こえる。

 藍は誤魔化す事が出来ない事を悟ったのか、渋々と言った様子で青を降ろす。

 

「・・・落ち葉の感触が無い。掃除は行き届いている様ですね」

 

「その発言、山の仙人や閻魔の様ですね」

 

「やはり目が見えないとなると、己の歩く場所が散らかっているというのは、かなり怖いので」

 

 そう言って彼は恐る恐ると言った様子で前へと歩いて行く。藍は慌てて彼の手を取り、彼が転ばぬようにエスコートする。

 

「この神社は、新しいのですか?」

 

「新しい、とは言えませんね。幻想郷創設当初とまでは行きませんが、建てられてからそれなりの年月が経っていますので。修理しようにもここは人里から離れており、皆妖怪を恐れて近づこうとしませんので」

 

「それは…ここの住人も苦労していそうですね」

 

「どうでしょう…おや、先客がいましたか」

 

 藍と共に神社の方へ近づいて行く程に、段々と彼ら以外の人声が聞こえてくる。しかしそれは一つでは無く、複数の声がした。

 

「ささっ、青様、中に入ってしまいましょう」

 

「え、家主の許可なしに入ってしまっても良いんですか?」

 

「大丈夫ですよ。この神社を訪れる妖精や鬼は、一々確認等しませんから」

 

 そう言って藍は言葉通り戸を叩くことすらせずに扉を開け、ズカズカと家に足を踏み入れる。勿論青が転ばぬ様、細心の注意を払ってだが。

 

「やぁ、霊夢。邪魔しているぞ。魔理沙もいたのか」

 

「紫のトコの式神じゃないか。紫はともかく、お前がここに来るなんて珍しいな」

 

「全く…なんで家に来る奴はどいつもこいつも勝手に入って来るのよ――あら?」

 

 居間にいた二人の少女はどちらも違った反応を見せるが、その内の一人が青の存在に気が付く。

 

「うん?見慣れない奴がいるな。誰だソイツ?」

 

 もう一人の金髪の少女も彼の存在に気づいたのか、藍に訝し気な視線を向ける。

 しかし藍が答えるよりも先に、青が口を開く。

 

「貴女が、博麗の巫女ですか?」

 

 その視線は、真っ直ぐに金髪の少女の方を向いていた。

 

「何言ってるんだ?私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ!霊夢の事を知らないなんて、珍しい奴だな」

 

「あぁ、すみませんね。なにぶんずっと屋敷に籠っていた上に、目が不自由な物で」

 

 会話が一区切りついたタイミングで、藍がコホンと一つ咳ばらいをして、注目を自分に戻す。

 

「お前達に紹介しておこう。この方は八雲青様、紫様の弟君であらせられる方だ」

 

「うっそだろ…?」

 

「へぇ、あのスキマ妖怪に弟なんていたのね」

 

 魔理沙と名乗った少女は驚愕のあまり目を見開き、霊夢と呼ばれた少女はあまり大きな反応を見せない。さほど興味が無いのだろうか。

 

「初めまして。魔法使いのお嬢さんに博麗の巫女。藍の申した通り、私は八雲青と申します。この体の都合上あまり関わる機会は多くないかもしれませんが、宜しくお願い致します」

 

「あ、あぁ、宜しくな」

 

「・・・随分と礼儀正しい奴が来たわね」

 

 二人の物珍しそうな視線が一層強まったのを、青は感じた。幻想郷の住人には、自分の様に普段から敬語を使う者が少ないのだろうか。

 

「青様、どうなされますか?もう少しここにいる事も可能ですが…」

 

「そうですね…後はどのくらい行く場所が残っているのですか?」

 

「えぇっと…流石にこの一日で全てを回りきるのは不可能でしょうから…本日は五大老を除いた主な幻想郷勢力への訪問ですかね。吸血鬼の館に妖怪の山、人里にも向かう必要があるでしょうし、流石に神霊廟は…いや行けるのでしょうか」

 

「・・・成程、行かねばならない所が山ほどあるのがわかりました」

 

 藍の止まることを知らない言葉に若干気圧されつつも、青は仕方ないかと小さく溜め息を吐く。この幻想郷において、『八雲紫の弟』という立ち位置はとてつもなく重要なのだ。自分もそれくらいは理解している。

 青は視線を藍から霊夢達がいるであろう場所へと戻し、口を開く。

 

「そういう訳ですのでお二人共、来たばかりで申し訳ありませんが、そろそろお暇させていただきます」

 

「あぁ、まぁ、その、なんだ…頑張れよな!」

 

「どの道近々宴会やることになるだろうから、その時にまた会うのでしょうけどね」

 

「宴会…ですか?」

 

「えぇ、幻想郷の住人は事あるごとに宴会を開きたがるから。紫の弟ってことは貴方は新参者では無く大分古参なんでしょうけど、知らなかったら新参者と同じよ。そういう理由」

 

「成程…姉様の許可がおりたら、参加させてもらいます」

 

「えぇ、貴方が主役なんだから、貴方がいないと成立しないわよ」

 

 そう言った後、彼女はじゃあね~と軽い別れの挨拶を述べる。青はそれに丁寧なお辞儀を返した後、藍に手を引かれて博麗神社を後にするのだった。

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