見えない境界少年   作:迦羅

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六話

「先程の二人が異変解決を行っている人間なのですが、どうでしたか?」

 

 博麗神社に続く道を、藍と青の二人は神社とは反対側に進んでいく。その途中で藍が口を開き、青に質問を投げかけて来る。

 

「どう…と言われましても、私が彼女達と話したのはほんの数分あまり、はっきりしたことを申し上げることは出来ませんよ?」

 

「承知しております。簡単で構いませんので、彼女達の印象をお聞きしたく…」

 

 藍の言葉に青は立ち止まり、そうですね…と少しの間思案する。

 

「人間らしい…と言うべきでしょうか」

 

「人間らしい?」

 

「えぇ、霊夢さんの方は周りの殆どに興味が無さそうな印象を抱きました。対して魔理沙さんの方は年相応に周りの事全てに興味津々な様子。いわばあの二人は極端なんです。姉様の様に他人に内なる感情を見せない訳でも、幽々子嬢の様に常に周囲に笑顔を振り撒いている訳でも無い。言い方を変えれば、まだ若いという事も出来ますね」

 

「成程…貴重なご意見、ありがとうございます」

 

「と言っても、顔すら伺う事の出来ない哀れな妖怪の独り言ですがね」

 

 自虐を零し苦笑を浮かべた後、青は再び歩き出そうとするが、一歩踏み出した途端に彼の懐から何かが落ちる。

 

「青様、懐から何か落ちましたよ?」

 

「え…?あぁ、本当ですね」

 

 彼女の言葉を聞いて懐を探り、青は何を紛失したのか推測する。

 

「どうやら煙管を落としてしまった様ですね」

 

「煙管?青様、お煙草を吸っておられましたか?」

 

「いえ、私は煙草は吸いませんよ。古い友人からの貰い物なんです。昔は八雲の屋敷には何故か多くの妖怪が姉様の目を盗んで訪れましてね、その方々を相手していたので、友人は結構多いんですよ」

 

「・・・それは、大丈夫なんですか?」

 

「もう昔の話ですから、今はそんなことはありませんよ。あの人達は、今は何をしているんでしょう…」

 

 青は少し懐かしむ様に昔を思い返していたが、すぐに気持ちを現実に引き戻す。

 

「っと、まずは煙管を取り戻しましょう。藍、私は煙管を取って来るので、そこで待っていてください」

 

「いえ、私も同行致します」

 

「大丈夫ですよ。転がる音で何処に行ったかはわかります。数分程で戻ってきますので、心配しないでください」

 

「・・・わかりました。三分でお戻りください。それ以上かかった場合には、探させていただきます」

 

「わかりました」

 

 青は彼女に返事をした後、茂みの中へと消えて行った。それを見届けた藍は、頭の中で数を数え始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて…」

 

 茂みの中に入って数歩歩いた後、青は足元に落ちている煙管を拾う。煙管はほんの十数秒茂みを進んだだけで見つかった。あまり遠くに転がって行ってはいない様だ。そうなるような力加減で転がしたのだから、それも当然なのだが。

 しかし煙管がすぐに見つかっても、青は藍の下には戻らない。本当の目的は、別にあるのだ。

 青は手探りで前方へと歩き、少し進んだ先にある木の前で足を止める。

 

「貴女と会うのも…随分と久しぶりですね」

 

 目の前の木に話しかける青。ここだけを見ればただの頭のおかしい妖怪だが、当然だが彼は木に話しかけた訳では無い。

 

「・・・どうして目が見えないのに、私がいる事がわかったのかしら」

 

 そう言って木の影から現れたのは、リボンを付けた金髪の少女だった。彼の目が見えないことも知っているのか、彼の手を取って自分がここにいるという事を証明する。

 

「人は五感の一つを失うと他の感覚が鋭くなると言いますが、妖怪の場合はそれが顕著なのでしょう。・・・最後に会った時よりも随分と背が低くなって…私と同じくらいになっている様ですが、久しぶりですね、ルーミアさん」

 

「さん付けはいらないって何度も言っているでしょう。それと身長に関しては余計なお世話よ」

 

「まぁ、そうなった理由に関しては自分もある程度は知っています。ですが無事なようで何よりです」

 

「力の殆どを失ったこの状態が無事と言えるのならそうね…貴方も変わっていない様で何よりだわ」

 

「私はあの時と同じように、ずっと屋敷に籠っていますよ。今日外出出来るようになりましたが」

 

「あぁ、そういえば貴方は八雲の者だったわね。本当…惜しいわ」

 

「惜しい…ですか?」

 

「えぇ、流石に八雲紫の腕の中にいるようじゃ、私の物には出来ないと思ったのよ」

 

「あぁ、そういう…確かに私は、貴女の物になるつもりはありませんよ。少なくとも今は…ですが」

 

「連れないわねぇ…昔はお互いに愛を貪りあった仲じゃない」

 

「貪りあったのでは無く、貴女が一方的に捕食したの間違いでしょうに…姉様に隠すのは大変だったんですよ?」

 

「むしろ私はどうして事後なのにあんなに平然と出来たのか不思議よ」

 

「まぁ、今までにもそういったことが何度かありましたので」

 

「え…噓でしょ?私以外にも襲った奴がいたの?」

 

「ふふっ、それはどうでしょう…?」

 

 青は先程まで藍に見せていたものとは全く違う妖艶な笑みを浮かべ、ルーミアの唇に人差し指を当てる。突然のことに心の準備が出来なかったルーミアは思わず顔を赤くする。この姿を彼に見られなくてよかったと思うと同時に、ルーミアは僅かな怒りを抱いた。このままでは、彼の思う壺では無いか。

 

「さて、そろそろ戻る事にしましょうか」

 

「・・・このまま帰るつもり?」

 

「藍に三分で帰って来る様に言われているので。流石に貴女も、彼女と迂闊に接触するのは不味いでしょう?」

 

「それもそうね」

 

「またいつか会いましょうね。私を襲った責任は、しっかりと取って貰いますよ」

 

 そう言って青は彼女の頭を撫で、そっと唇に口づけをする。そして踵を返し、茂みの外へと歩いて行った。

 

「恐ろしい人…」

 

 先程までしていた柔らかい感触を名残惜しむ様に、ルーミアは自分の唇に触れる。暫くしてから顔の火照りを冷ますように、茂みの奥へと消えていった。

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