見えない境界少年   作:迦羅

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八話

「さて、無事に館内へと入ることは出来ましたが…これからどうするのですか?」

 

 扉の音が閉まったのを確認して、青は藍に問いかける。

 扉の音や自分の声が周囲に良く響く。どうやらこの屋敷は相当広い様だ。

 

「予定通り、この屋敷の主であるレミリア・スカーレットに会うつもりです」

 

「それはわかっていますが、美鈴さんは私達の事を伝えた様子は無かったですよね?このまま勝手に主のレミリアさん?の下に向かっては不法侵入になってしまうのでは?」

 

「それはご安心を。私の予想が正しければそろそろ―「あら、いつもの白黒ネズミが来たかと思ったら」」

 

「!?」

 

 先程まで自分達以外に誰もいなかった筈。音も無く現れた存在に、青は思わず一歩後ろに後退ってしまう。

 

「あぁ、申し訳ございません。そんなに驚かすつもりは無かったのですが」

 

「我々は侵入者では無い。ちゃんとこの館の門番から許可を得ている」

 

「そうでしたか。失礼しました。そちらの方は初めてお見えになりますね。私、紅魔館のメイド長を務めております、十六夜咲夜と申しますわ」

 

「あ、はい。私は八雲青と言います。本日はこの館の主に一度ご挨拶をと…」

 

「レミリアお嬢様へのご用件ですね?かしこまりました。お嬢様の下へ案内致します」

 

「あぁ、そうしてくれると助かる」

 

 藍の言葉に頷き、咲夜が先導する。それを追いかける様にして藍が、その後ろを青が歩く。

 

「・・・青様、差し支えなければお聞きしたいのですが」

 

「はい、何ですか?それと様付けは必要ありませんよ」

 

「かしこまりました。それと、お聞きしたいことなのですが…何故青さんはずっと目を閉じているのですか?」

 

「あぁ、それは必要無いからですよ」

 

「必要無い?」

 

「えぇ、私は生まれつき目が不自由でしてね。開けても視界に入れることの出来る景色が無いんです」

 

「・・・申し訳ありません。不躾に」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 

「青様、それを自覚しているならあまりはしゃぎすぎないでいただきたいのですが…」

 

「あはは…気をつけます」

 

 藍の言葉に青は自分の頬をポリポリとかく。きっと彼女は今半目で自分のことを見ているのだろう。視線が痛い。

 

「ふふっ、仲が宜しいのですね」

 

「えぇ、私には勿体ないくらいの式ですよ」

 

「・・・そう言う事を恥ずかしげもなく言うのは、ズルいと思います」

 

「事実ですから」

 

 クスクスと笑う青に、藍はむぅ、と唸る。年上の余裕という物が今の彼からは感じられた。

 

「到着しましたよ」

 

 二人が会話に花を咲かせていると、前方を歩いていた咲夜から声がかかる。

 

「この扉の先に、お嬢様がいらっしゃいます」

 

 彼女はそう言った後、そこにあるであろう扉を四回ノックする。

 

「お嬢様、咲夜です。八雲の者がいらっしゃいました」

 

「通しなさい」

 

 扉の向こうから聞こえて来たのは、まだ少し幼さを感じる声。しかし威厳を持ったその声は、この先に屋敷の主がいるという事を実感させる。

 

「行きますよ。青様」

 

 扉が開く音がした後その声と共に、藍が青の手を引いて室内へと入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、予想が外れたわね。てっきりあのスキマ妖怪が来るのかと思ったのだけれど…」

 

 二人が部屋に入るなり聞こえたのは、そんな拍子抜けした様な声だった。

 

「お初にお目にかかります。私は八雲青、妖怪の賢者八雲紫の弟です。本日は幻想郷の各勢力への挨拶回りということで、この館へと参った次第です」

 

「弟?へぇ…あのスキマ妖怪と違って、随分と下に出るわね。私はこの紅魔館の主、レミリア・スカーレット。夜を支配する吸血鬼よ」

 

「吸血鬼…やはり話に聞く通り、日光が苦手なのですか?」

 

「え?まぁ、確かにそうだけど…そんなことはどうでもいいのよ。貴方、紅茶はいけるかしら?」

 

「紅茶ですか?まぁ、たまに嗜む程度ですが…」

 

「そう…取り敢えず座って頂戴な。咲夜」

 

「かしこまりました」

 

「ッ!?咲夜さん急に近づいて来ないでください。心臓に悪いです」

 

「あら、失礼」

 

 咲夜は青の言葉に返答しながらも、カチャカチャとテーブルに何かを置いている。恐らく紅茶の用意をしているのだろう。青は藍の介抱を受けながらテーブルの方へと歩いて行き、椅子に腰かける。

 

「すみませんね。目が見えないばかりにこの様になってしまい」

 

「別に気にしないわよ。ただ、貴方の目に私の姿を焼き付けることが出来ないのは残念に思うけどね」

 

「ふふっ、誘っているんですか?」

 

「冗談よ、冗談」

 

「そうですか、それは残念ですね。ところで藍、貴女も座ったらどうですか?」

 

「いえ、私は従者ですから」

 

「相変わらず固いですねぇ…さっきも言いましたか」

 

 青は手探りで紅茶のカップを探し当て、ゆっくりと口に含む。

 

「・・・素晴らしいですね。素人である私が評価することすら烏滸がましい」

 

「お褒め頂き光栄です」

 

「・・・咲夜の紅茶なんだから美味しいのは当然として、もっといい褒め方あったんじゃないの?」

 

 レミリアの指摘を青は華麗にスルーして、再び紅茶を口に含む。

 

「ところでレミリアさん、一つ気になったことがあったのですが…」

 

「何かしら?答えられる範囲なら答えるけれど」

 

「先程咲夜さんに案内されている時に、一か所だけ空気の流れが違う場所があったんです。恐らくは下へと続いているのでしょう。それは一体、何処へと続いているのですか?」

 

「・・・貴方も大妖怪なのかしら?」

 

「まぁ、それなりに長い年月を生きていますから。戦わずともそれなりのことは出来ます」

 

「空気の流れをそこまで正確に読むなんて、平常で出来ることでは無いわよ」

 

「誉め言葉として受け取っておきます」

 

「地下へとね…咲夜、貴女は大広間を通ってまっすぐここに来たのよね?」

 

「はい」

 

「ならその途中にあるのは…フランの部屋かしら」

 

「フラン?」

 

「えぇ、フラン…フランドール・スカーレット、私の妹よ。あの子は自身の持つ能力が故に生まれつき不安定でね、今は大分落ち着いたけど長い間あそこに幽閉していたのよ。今はもう自由に出歩けるようにはしているけれど」

 

「成程、それは非常に…いい話を聞けました」

 

「いい話?」

 

 青の物言いにレミリアは訝し気な視線を向ける。

 

「レミリアさん、先程も言ったのですが――」

 

 最後にもう一口紅茶を飲んだ後、青は無邪気な笑みを浮かべる。

 

「私、それなりのことは出来るんですよ」

 

 そう言った瞬間、青の体が煙の様に消える。

 

「「なっ!?」」

 

 突然のことに咲夜もレミリアも驚きを隠せない。

 そんな中数秒程呆然としていたが、藍だけは状況をすぐに理解し、扉へと駆けて行く。

 

「全く本当にあの方は…!」

 

 人騒がせにも程があるだろう。見つけたら絶対に説教をしてやる。藍はそう思いながらも来た道を猛スピードで戻り、フランドールの部屋とやらを探すのだった。

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