トールズ士官学院1年特化クラスⅦ組B班
第1回特別実習記録
実習地:サザーラント州紡績都市パルム
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初となる特別実習を通して見えてきた各人の課題点は下記の通りである。
<マキアス・レーグニッツ>
学業における成績は優秀であるものの、有事の際の応用力並びに柔軟性に乏しく、固定観念に囚われがちである。
また、貴族に対しての見方が偏重しており、度々衝突を繰り返している。
上記の点を改善出来れば、チームの指揮に回すのが妥当かと思われる。
それとは別にフィジカル面での強化は必須である。
「副委員長なんだから、もうちょっとクラスの和を保ってほしいんだけど」
「貴族に対して、恨みがある、と言っても過言じゃなさそうだよな」
「マキアスさん……なにか理由があるのかな?」
<ユーシス・アルバレア>
知識・交渉力・戦闘能力など広い分野で同世代の中では水準以上のレベルであるものの、頭一つ抜き出るものがない器用貧乏タイプ。
能力の底上げを行うことで、あらゆるチームでの不足を補えることも可能だろう。
ただし、一部の生徒に対して生来の口下手が表に出て、衝突を生み出してしまっているため、その点も要改善項目である。
「昔は素直で可愛かったのに……公爵家に引き取られてから色々あったんだろうけど、心配よね」
「公爵家の一員たらんとして、自分を追い詰めている節はあるかもな」
<ガイウス・ウォーゼル>
身体能力は高水準。その反面、導力技術関連は苦手な模様。
精神面に置いては、同年代の中でも一際落ち着いている。不測の事態に対しても冷静な対応に長けている。
また、ノルドからの留学ということもあり、帝国における制度――貴族制度といったものに馴染みがないため、今後は重点的に指導の必要あり。
「ただ、知らないからこその物事の見方、ってのもあるし……それがⅦ組にとってプラスに働くこともあるかもしれないわね」
「ガイウスの落ち着きっぷりは、正直マキアスとかに見習ってほしいものがあるな」
<エマ・ミルスティン>
委員長を任せられるだけの学力・知識量には目を見張るものがある。それに、意外ではあるが体力もあり、野営などの知識も豊富なことから、サバイバル――あるいはそれに類する経験があるように思われる。
性格上致し方ないのか、リーダーシップに長けているとは言い難い。根っからのフォロータイプであるため、今後の方針としては後方支援に特化させるのが良いと思われる。
「胸に関しては、クラス一主張してのにねぇ……」
「あれは凄いよね」
「確かにな……冗談だよ、睨むなよ」
「……お兄ちゃん……」
<フィー・クラウゼル>
一緒に過ごすようになって3年近くが経つけど、随分と成長したなと驚かされる。
人見知りで主体性に欠けていた子がよくぞここまで、というのはあまりにも身内贔屓過ぎるか。
出会った当初に比べ、自分から様々なことに挑戦しようとしてる姿勢が見受けられて、正直嬉しくもある。(中略)ただ、まだまだ対外的な言葉遣いや社会的なマナーなどに関しては身に付け切れていない感が否めなく(中略)あと、今回の実習中にユーシスとマキアスの喧嘩を仲裁したのには感心したけど、もう少し手加減ってものを(後略)
「フィーのだけやたらと長くないか?」
「やっぱり、姉目線で見ちゃうとさ…………はい、以後気をつけます」
「というか、本人前にして話すのやめてほしい……正直、恥ずかしい」
◆
<実習内容・所感>
遊撃士の活動を元に作られた特別実習の為、今回行った活動は私にとっては馴染み深いものであった。
市民の悩み解決を主軸に、素材集め、紛失物捜索、手配魔獣の討伐――私やフィー以外のメンバーからしてみれば経験のないことばかりだったらしく、街中や周辺の街道を駆け回っている内に、疲労の蓄積が如実に表れてきていた。
そうなると気持ちに余裕がなくなってくるのか、ユーシスとマキアスの口論が頻繁に繰り返されるようになる。
出発前にだいぶ釘を刺したつもりではいたけど、この問題は中々に根が深そうである。
ただ、この件に関して嬉しい誤算があった。
2人の仲裁をしたのが、まさかのフィーだったのだ。
まさかあの子が、と思う反面、彼女も成長しているんだなと、目頭が熱くなったのは皆には内緒にしないとね。
どうにか初日の実習を終えて休憩の合間に、面白い出会いがあった。
パルム市の片隅にあるヴァンダールの剣術道場で、あのミュラー少佐の弟くんと遭遇!
名前を聞くまで全然分からないくらい、線の細い美少年だった。
それにミュラー少佐と違って、彼は双剣使いなんだって。話した感じ、何か思うところがあるみたいだけど、同年代の中ではトップクラスの才能があるかも……これは成長が楽しみかもね!
あー……出会いって言ったら、あいつとも会ったわ。
相変わらずの憎まれ口というか、斜に構えてるというか……
まあ、あいつのおかげで2日目に起きた事件も無事に解決できたわけだけど……
そう言えば、あいつ、しっかりリベールで経験積んで、今じゃ正遊撃士として活躍してるんだって!
……昔からの夢だ、って言ってたから、そこは正直叶って良かったなって思う。
そういう意味ではブライト家の持つ『力』って凄いなぁ、って感心しちゃうわ。
そういや、別れ際にまたレイルと手合わせしたい、って言ってたけど--
◆
「最初の方はまだ体裁保ててたけど、所感の方は最早日記だよな」
「うーん、報告書として書くなら大丈夫なんだけど、こう、なんていうの、どうしても個人の感想を前面に出して書くと、ねぇ?」
「ねぇ? って言われてもよ……」
瞬く間に流れゆく景色を他所に、2人は雑談を交わしているが、傍らの少女達は時々会話に加わるものの、見るからに気を張り詰めさせていた。
「気持ちは分からなくもないが、今からそんなんじゃいざっていうときにへばっちまうぞ」
「ん。分かってる。けど……」
「どうしても、ね」
フィーとリューネが口々に答えるが、どちらも顔を強張らせていた。
その原因を考えれば、致し方ないことなのかもしれない。
片や、行方不明となった古巣の仲間達の手掛かりが見つかったかもしれず――
片や、かつて所属させられていた組織の残党が彼の地で暗躍している可能性があったとしては――
「けど、向こうに着くまでまだ時間あるし、ちょっとでも休んでなさいよ」
そう言うエミナであったが、今の2人に言っても聞き入れられるとは思っていない。
それだけ気が張っているということだ。
――状況が状況だものね。
向かう先で待ち受けるであろう事態、だけでなく、リューネに至っては現状に対する緊張感もあるのだろう。
「間もなくガレリア要塞に到着します。その後は、民間の車両に乗り換えて頂き、目的地を目指します」
エミナ達がいる車両へ来た人物が、これからの流れを再確認してくる。
車外に目を向けると、景色が流れる速度が緩やかになっていくのが分かった。
「まさか、こんなにも早く戻ることになるなんてねぇ」
エミナが思っていたことを呟くと、レイルがそれに頷く。
「……そうだな」
そして、傍らにやってきた人物へと向き直る。
「すみません、クレアさん。巻き込んでしまって」
「いえ」
レイルに謝罪された人物――クレア・リーヴェルトは頭を振り、彼等に言い聞かせる。
「情報局からの要請や宰相閣下からの命もありますし……帝国側としては色々な思惑がありますが、それを抜きにしても協力させて頂ければと」
「鉄血宰相が絡んでるとなると、後が怖いですが……それでも、ありがとうございます」
レイルが改めて礼を伝えると、エミナがクレアに問い掛ける。
「情報局ってことは……もしかしなくても、あのちゃらんぽらんが?」
「ええ。現地にいるレクターさんが働きかけたようで」
それで通じるんだ……とフィーがツッコんでいたが、レクターの名を聞いたレイルが嫌そうに吐き捨てた。
「あいつのことだ。『これで借りは返した』とでも言いたいんだろうよ」
「そういえば、以前レクターさんがお世話になったようですね」
「まぁ、色々ありまして」
と、具体的な説明は濁して、レイルが話題を反らした。
窓の外に見えてきた威容――ガレリア要塞のその先を見据え、
「俺達に与えられた時間は3日、か」
その限られた時間でどれだけのことが出来るのか。
焦燥、期待、不安。
様々な思いを乗せて、列車は東へと向かう。
陰謀渦巻く彼の地――魔都・クロスベルへと……
こんにちは、檜山アキラです!
駆け足で、前作「神薙の軌跡」でも書き上げてきた部分を改良して参りましたが、如何でしたでしょうか?
ここからはより一層オリジナル要素を加えて、執筆していきたいと思います。
更新速度はゆっくりになるかと思いますが、ゴールまでお付き合い頂けましたなら幸いです。