神薙の軌跡・改   作:くどりん

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前話でラカムがさっさと調査に向かってしまいましたが、それだと折角オリキャラを出す意味が薄くなってしまうなと思ったので、修正を加えました。
それに修正前のままだと、レイル達も身動き取りづらいな、という結論になったので改めて読み直して頂けると助かります。


行方知れずの防人達

<4月27日16:30 クロスベル>

 

「特務支援課からの報告にもあったが、実際に聞き込みをした感じ、失踪者には共通点が見られるな」

 ラカムの先導の下、状況確認を行ったレイル達は、一度情報を纏めるために中央広場に面するカフェレストラン《ヴァンセット》を訪れていた。

 そこでラカムが手帳に書き記した情報を纏め上げていく。

 失踪した市民の特徴としては、各々の仕事やプライベートで何らかのトラブルを抱えていた、ということだ。

 だが、ある時を境に状況が好転――成績不振を起こしていた者は急激に莫大な利益を生み出し、ある者はギャンブルで神懸かったツキを引き寄せたそうだ。

「そして、その人達は横柄な態度をとるようになって……身体能力も常人の者とは思えない程になっていた、と」

 エミナがミルクたっぷりのホットカフェオレを啜り、呟く。

 それに応じたのはフィーだ。

 彼女はアルモリカ村産の蜂蜜を使用したハニーレモネードで喉を潤すと、

「3年前の薬物事件の時と症状が似ているね」

「だな」

 紅茶を口に含ませ、鼻孔を抜ける香りを味わいながら、レイルが首肯する。

「人格が豹変するってのは薬物事件だとお決まりの症状だが、常軌を逸する身体能力の向上や異常なまでの運やツキ――それこそ異能とでも言える領域の力を手にするのは、あの時の物と同じと見て間違いなさそうだ」

「そして、ルバーチェ商会の構成員もその薬物を摂取している可能性がある、とのことでしたね?」

 珈琲に角砂糖を加えながら、クレアがラカムに確認する。

 ラカムは手帳片手にジンジャーソーダのストローを加えながら、

「これも特務支援課からの情報提供だが、一昨日の黒月(ヘイユエ)襲撃時の状況から見ても間違いないだろうな」

 重機関銃を片手で振り回していたとのことで、蒼い錠剤の摂取は間違いないだろう。

 それに、

「ルバーチェ商会の構成員の統制が摂れなくなってるみたいだしね」

 ルバーチェ商会の営業本部長にして若頭であるガルシア・ロッシ――元西風の旅団の部隊長を務めていた男により、纏め上げられていた構成員達だったが、薬物影響で豹変した者達が彼の指示に従わなくなっているとのことだった。

 同郷とはいえ、所属していた時期がズレていたせいで面識がなかったフィーだが、団の仲間から聞かされた話だと、腕が立つ上に統率力もかなりのものらしい。

 そんな彼に対して、一介のマフィアが反抗するというのは常ならば想像出来なかった。

「けど……一体何が狙いなんでしょう?」

 フルーツジュースの甘さに目を輝かせていたリューネが、ふと疑問を呈する。

「ドクターの話だと私がいたロッジでも、依代となる子達への薬物投与が行われていたみたいですけど、それは教団の主目的からは逸れていたってことですし……」

 淡々と紡がれる内容に場の空気が張り詰めるが、リューネは意に介することなく続ける。

「最終的には悪魔崇拝による空の女神(エイドス)を否定する教義の実現だと思うんですけど……それと蒼い錠剤の効果が結びつかないような……」

「つまり、蒼い錠剤の流布は手段であって、何か別に目的があって――それが奴らの最終目標に繋がる、ってことか」

 レイルがリューネの言葉を要約すると、彼女は頷いた。

「協会本部に収監されたドクター……ハングドマンだったか? 彼からの情報提供は見込めないのか?」

 ラカムがリューネではなく、レイルやエミナへと確認する。

「あの人はリューネの世話や健康維持で関与していただけで、本筋の情報とは遮断されていたみたいだからな……」

「それでも、知り得た情報は全て開示してくれてるみたいだけど」

 なら仕方がないか、とラカムが呟くと、

「次に、天使のような化け物についてだが――っていちいち長ったらしいな」

「言われてみればそうだな。確か教団では《御遣い》って呼ばれていたが」

 流石にアレを天上からの使者ってのはなぁ、と表情を歪めるレイル。

「天使のような……霊的な存在を憑依……とりあえず、天依体(てんいたい)とでも呼称するのはどう?」

 と提案するエミナに異を唱える者はいなかった。

「じゃあ、その天依体だが、ロイド達が月の僧院で遭遇したのとは別で星見の塔や太陽の砦付近で目撃情報が上がってきている」

 星見の塔や太陽の砦。

 そのどちらも月の僧院と並び、中世の遺構としてクロスベルの人間に知られる場所だった。

「今のところロイド達との交戦を除けば、実害はないが……どう思う?」

 ラカムの問い掛けに応じたのはクレアだった。

「現状を鑑みれば、捜査を攪乱させるための罠である可能性が高そうですね」

「そだね。こっちの戦力を分散させるってのもあるかも」

「何かを企んでる線も否めないが……警戒はしておいた方が良さそうだな」

 と、フィーとレイルが続ける。

「後は、マフィア達の行方だが……これについては目撃情報もなくて手詰まりだな」

「クロスベル警察の捜査一課が監視していたようだが……空港の爆破予告を受けて、そっちに人員を回した矢先の失踪だったか」

 ああ、とレイルの言葉を受けてラカムが手帳のページを手繰る。

「きな臭い上層部からの圧力があったみたいだな。空港での警戒態勢は依然継続中ってことだ」

「もしかしたら、何か手掛かりがあるかも知れないし、捜査一課に話を聞いてみるのはどう?」

 エミナが提案すると、各々が賛同の意を示した。

「そうだな。集めた情報の整理はこんなもんだし、早速行ってみるか」

 そう告げるラカムが、じゃあこれを、と長方形の物体をレイルの前まで滑らせてくる。

「…………何のつもりだよ」

 レイルが持ち上げたそれは、バインダーに挟まれた伝票だった。

「最近でかい出費があって金欠なんだよな……よろしく頼むわ!」

「…………」

「…………」

 無言で視線を交わす2人だったが、

「ノンノさんお会計お願いしまーす! 領収書の宛名は遊撃士協会クロスベル支部ラカム・フォーグナーで!」

「てめぇ!?」

 

 

<同日17:15 クロスベル空港>

 

 中央広場から駅前通りを抜けた先にクロスベル空港は位置する。

 普段であれば、国際便での出入国で大勢の人が行き交う場所だが、今はクロスベル警察による厳戒態勢が敷かれ、飛行艇の離着陸さえ制限されている状態だった。

 ルバーチェ商会の行方について何か情報を得られないかとやってきたレイル達だったが、とてもそんな余裕がある状況ではなかった。

 辛うじて、ゲート前で警備についていた捜査一課の一人を捕まえたラカムが聞き込みを行ってくれている。

 それを遠巻きに見ていたレイル達だが、

「少しでも手掛かりが得られたら良いんだけど……」

「目撃証言のなさから、かなり計画的な行動みたいだし……ちょっと厳しいと思う」

「だよなぁ…………ん?」

 エミナとフィーの会話に相槌を入れたレイルが、ふと視界の隅に何かを捕えた。

「お兄ちゃん、どうかしたの?」

「いや、ちょっとな」

 レイルの視線の先――ゲートの先にある建物前でなにやら話し込んでいる人達が目についたのだ。

 3人いる内の2人は警察の人間と――恐らく、空港の職員だろう。

 だが、残る1人の風貌にどこか見覚えがあったのだ。

「ん~……」

 精神を研ぎ澄まし、身のうちに宿した霊力を眼球へと集中させる。

 すると、遠巻きでぼやけていた視界が鮮明になり、

「何やってんだ、あいつ?」

 男の姿をはっきりと捕えたレイルが首を捻った。

「誰かいたの?」

 その様子を訝しんだエミナが、レイルの視線を追う。

 そして暫くした後、

「げっ」

 レイルと同様に視力を強化したであろう彼女が顔を引きつらせる。

「そういやエミナ。昨日の実習で会ったって言ってたよな」

「そうだけど……それが、なんであんなところにいるのよ!?」

 聞きたいのはこっちだ、と返すレイルにクレアが問い掛ける。

「どなたかお知り合いが?」

「えぇ……多分、昨日の晩にリベールに戻って、グランセルから飛行艇で来たんでしょうけど」

 運悪く、爆破予告による騒動に巻き込まれたのだろう。

 ――その流れで、警察に協力している、ってところか……

「悪い、待たせたな……残念だが、手掛かりになりそうな情報はなかったな」

 そう言って戻ってきたラカムだが、レイル達の様子を見て不思議そうな顔になる。

「どうかしたのか?」

「いや……ここでの収穫は見込めそうにないし、いったんギルドに戻ってみるか」

 他のメンバーから何か情報が入ってきているかもしれない、ということで一同は来た道を戻ることになった。

「…………」

 ふと、視線を感じたレイルは、気配を感じた方へと振り返る。

 すると、先程の男がこちらを捉えており、

 ――こちらは任せろ、か。

 口の動きを読んで、メッセージを受け取る。

 それにならい、レイルも口の動きだけで言葉を返した。

 ――頼んだぜ、レーヴェ(・・・・)……

 

 

<同日17:30 ウルスラ病院行きバス停前>

 

「ロイド達じゃないか……何かあったのか?」

 ギルドへ戻る途中、ウルスラ病院行きのバス停前で立ち往生している支援課の面々を見つけ、レイル達は声を掛けてみた。

 事情を聞いてみれば、バスが遅れているらしく、ロイド達以外にも多くの人がどうしたものかと困り果てていた。

「薬の成分解析を依頼していた先生からの連絡が中々来なくて、直接出向いた方が良いと思ってやってきたんだが」

「聞けば20分以上待ちぼうけを食らってるみてぇだ」

「こうなると、徒歩で向かうしかなさそうね……」

「やれやれです……」

 と、女性陣が辟易としているのを見て、ラカムが口を挟む。

「だったら俺が! と言いたい所だが、今はこいつらもいるし、ご期待には添えそうにないな」

「? どういう――」

 レイルが訊ねようとしたが、突如ロイドの懐から着信を知らせるアラームが鳴り響いた。

「こっちはなんとかするので、そちらはそちらで調査を続けてください」

 そう言ってロイドが通信に出てしまったので、残りのメンバーと二言三言言葉を交わして、レイル達はこの場を離れることにした。

 

 

<同日17:40 駅前通り>

 

「なにか、騒がしいね」

 先頭を歩いていたフィーが振り返りながら、皆に指し示す。

 フィーが指さした先は、クロスベル駅の駅舎前だ。

 見れば、大勢の人が詰めかけているようで、それを抑えようと駅員達が対処しているようだ。

「こちらも、トラブルみたいですね」

「様子を伺ってみましょ」

 エミナの言葉に頷き、一行は人混みに近付いていく。

 すると、喧噪の声が明確に耳へと届いてきた。

「ただいま列車は帝国方面、共和国方面どちらも運休を停止しております!」

「復旧の目処は立っておりません! どうかご了承ください!」

 駅員達が声を張り上げて、押しかける利用客へと説明を行っているが、彼等は喧々囂々として、駅員達へ非難の声を浴びせかけている。

「空港にバス、それに鉄道でもトラブル……いくらなんでも偶然、じゃないよね?」

「だろうな。とにかく、事情を聞いてみないとな」

 見知った顔を見つけたレイルがラカムにも着いてくるよう、促す。

 そして、3人の女性客に集中砲火を受けているルクスの腕を引っ張り、彼女達から引き剥がす。

「あ、ちょっと!」

 なおも言い募ろうとする彼女達の前へ、着いてきていたラカムを押し出す。

「おい、レイル!?」

 ラカムが突然のことに反応出来ずにいると、

「なに、お兄さんがどうにかしてくれるの!?」

「あ、この人、遊撃士のバッジ付けてるじゃない!」

「なら、どうにかしてよ! 折角の旅行が台無しじゃない!」

「ちょ、ちょっと落ち着いてくれって!」

 矛先を向けられたラカムに後を託し、レイルはルクスを引き連れて人混みから離れる。

「は~、助かったよレイル。帝国に行ったとは聞いてたけど、帰ってたんだ」

「一時的にだけどな。それより、かなり大事みたいだけど、何が起きてるんだ」

「実は……」

 

 

「お兄さんに何か言うことはあるかな?」

「良かったじゃないか、3人もの女性に言い寄られてたんだろ?」

「あれを! 言い寄られるとは! 言わない!!」

 ルクスから事情を聞き出した後、ラカムに苦情を叩き付けていた女性達から回収し、レイル達は中央広場まで戻ってきていた。

「それでどうだったの?」

 エミナに促され、レイルはルクスから聞かされた話を共有した。

 どうやら、帝国との国境に位置するベルガード門との連絡が途絶えたことに加え、

「既に到着しているはずの列車が大幅に遅れている、ということですか……」

 クレアがそう言うと、彼女は瞼を閉じてなにやら思案し始める。

「私達が通過した際は、特に異常は見受けられませんでしたが……交通網が遮断されたとなると……目的は、クロスベルを隔離……いえ、封じ込める……でしょうか」

 高速で思考を巡らせ、口に出して整理していく。

「封じ込める、ですか……嫌な予感しかしませんね」

 クレアの言葉を拾い、レイルが溢す。

「これは、確認しといた方が良さげかもね」

「そうね」

 フィーの提案に賛同するエミナだったが、

「けど、この状況だと、ベルガード門方面のバスもトラブルに巻き込まれてそうね」

「歩いてだとざっと小一時間は掛かるな」

 何か良い移動手段はないかと思案する一向に対し、1人だけ不敵な笑みを浮かべていた。

「こんなこともあろうかと、ってな」

 思わせ振りな台詞を吐くラカムに視線が集まる。

「移動手段はこっちで手配するから、お前達は西通りを抜けた街道入り口で待っててくれ」

 

 

 ついでにギルドへ寄ってベルガード門の異常をタングラム門に伝えてもらうと言い残したラカムと別れた後、レイル達は彼の指示通り西通りを抜けた先、西クロスベル街道の入り口までやってきていた。

「予想はしてたけど、こっちも案の定ね」

 エミナの視線の先では、バス停前で困惑の表情を浮かべている人達が立ち尽くしていた。

「ラカムさん、どうするつもりなのかな?」

「……もしかしたら、警察車両を借りてきたりしてな」

 リューネの問い掛けに、レイルが苦笑交じりに答える。

 すると、程なくして市街地から腹の底まで震わせるかのような導力エンジン音が聞こえてきた。

 ――まさか……

 そう思って、音のする方を向いたレイルが見たのは、

「おー!」

「お、おっきい……!」

「待たせたな!」

運転席から上半身を覗かせたラカムの憎たらしいまでのどや顔だった。

「……でかい出費ってこれのことかよ」

「市場に出回ったばかりのラインフォルト社製の7人乗り導力車だ――どうだ羨ましいか?」

 まるで子供が買ってもらったばかりの玩具を自慢してくるようにも感じられたが、相手にするのも煩わしく感じたので返事も程ほどに、そそくさと乗り込むことにした。

 ともあれ、これでベルガード門へは10分前後で移動可能となったのだ。

「シートベルトは締めたな? それじゃあ行くぜ!」

「安全運転で頼むぞー」

 と、声を掛けてみたものの、はしゃぐラカムの耳に届いているかは怪しかった。

 

 

<同日18:10 ベルガード門>

 

「さて、到着っと」

 運転席から降りたラカムが、目の前に聳える威容を見上げる。

 国境を挟んですぐ向かいにあるガレリア要塞に比べれば見劣りするものの、クロスベルの西側を守護する要所である……のだが、

「人の気配は……あることはあるけど、静かすぎるな」

 後部座席から降りてきたレイルが告げてくる内容にラカムは頷いた。

「守衛の隊員がいないのも気掛かりだ」

 内部を確認するぞ、とラカムが言い、一同は周囲を警戒しながら施設内へと足を踏み入れた。

 

 

「もぬけの殻、みたいね」

 内部で待ち受けていた状況を見て、エミナがそう溢した。

 帝国へと通じる陸路では入出国の際、警備隊による検問が執り行われるのだが、担当している者の姿は見受けられず、検問所に併設されている詰め所にも人の姿がなかった。

「食堂の方も誰もいないね」

「けど、人の気配はするんだよね?」

 リューネに訊ねられ、レイルが首肯する。

「ああ……どうやらこの下、列車のホームから感じられるな」

「そちらを確認する前に、私の方からガレリア要塞側に連絡しておきますね。異常事態発生につき、一時的に陸路・鉄道網を閉鎖するよう伝えておきます」

「お願いします。ワルター中将のことだ……今のままだと、いつ乗り込んでくるか分かりませんしね」

 そうですね、とクレアが苦笑する。

 ガレリア要塞に詰める帝国軍第五機甲師団の師団長であるワルター中将はとにかく頭が固いことで有名である。

 情報局からの根回しで、クロスベルへの介入は見送り、静観するよう通達が入っているはずだが、搦め手を主とする情報局に対して反感を抱いているというのはもっぱらの噂だ。

 となると、情報局からの指示を無視してベルガード門に乗り込んでくる可能性はあり得ない話ではなかった。

 タングラム門にも異常発生の旨は伝えてあるとのことなので、そちらから人員が寄越させるまで凌げれば良いということで、そちらの対処はクレアに一任する。

 程なくして詰め所の通信機を切ったクレアがやれやれといった様子で戻ってきた。

「向こうもここの異常に気付いていたようで、介入の準備を進めていたようです……一先ず、宰相閣下の名前を出して牽制しておきましたので、応援が来るまでは大丈夫かと」

 そんなことをすれば共和国側が黙っていないでしょうに、とクレアが珍しく不平を漏らしていた。

「じゃあ、列車の方を確認しに行くとするか」

 

 

 階下に設けられた列車のホームでは、帝国方面から到着した列車が静かに佇んでいた。

「これは……」

 窓から中の様子を覗いてみると、中には乗客の姿が確認出来た。

 だが、

「全員眠ってるみたい……」

「乗客だけでなく、検問担当の兵士も同じみたいね」

 何らかの催眠ガスが使われたのかと思われたが、誰も苦しんでいる様子はなく、ただただ眠りに落ちている、という感じであった。

「一体何が――」

 あったのか、と言葉を紡ごうとしたレイルだったが、口を閉じ、周囲への警戒を強める。

 エミナやリューネ、ラカムもどうように身構える。

 そんな中、フィーとクレアだけが状況から取り残されそうになったが、4人の様子からただならぬ気配を察し、それぞれの得物を構える。

 肌をヒリヒリと刺激する感覚。

 フィーとクレアの反応が遅れたことから、その気配の正体は霊力を伴った存在だと皆が把握する。

「さっそくお出ましか……」

 ラカムが列車の上へと視線を移す。

 全員がそちらを注視すると、列車の上部――その空間が歪み、内側から歪な存在が姿を現していく。

 それは、まるで石膏で出来た彫像に思えた。

 それは、まるで人肌の温もりを感じさせる質感を与えてきた。

 それはさながら高尚な美術品を想起させながらも、全身を取り巻く鎖や内部から突き出た鉄片のような何か――そして、端正である筈の相貌に流れ続ける赤黒い涙がその異様さを強めている。

 天依体。

 悪しき業の末に変質を果たした異形が、彼等の前に立ち塞がった。




 さて、閃の軌跡としては外伝に位置する零の断章ですが、そこでレイル達が立ち向かうべき敵の存在が登場と相成りました。
 オリキャラ勢達が原作にどのような影響を与えていくのか、これからの展開をお楽しみ頂ければと幸いです。

 ちなみに、ラカムが購入した動力車ですが、イメージとしてはラン○ル辺りを想像してくださればと思います。
 描写で表現出来ればよかったのですが……これからも精進が必要ですね……

 次話では天依体との戦闘シーンを中心に描いていく予定ですので、今暫くお待ちくださいませ。
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