神薙の軌跡・改   作:くどりん

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天依体

 それはクレア・リーヴェルトにして初めて感じる悍ましさであった。

 無機質じみた中に感じる生物感。

罪人を想起させる鎖や肉を突き破った骨片のような金属類が、目の前の存在の異様さを際立たせている。

 そして、止めどなく溢れている血涙はまるで、

 ――怨嗟の顕われ、でしょうか……

 明確な言葉を交わしている訳ではないのに、その姿は見る者の不安を掻き立て、自らをこのような境遇に貶めた存在への恨みや怒りを叩き付けられているかのような錯覚に陥る。

 気のせい、で済ませてしまえれば良いのだが、彼の存在の成り立ちを知ってしまった今では、どうしてもその懸念を捨てきれないでいた。

 ――ですが……

 だからといって、戦うことに躊躇いはない。

 鉄道憲兵隊――正規軍において警察活動を行う部隊に所属しているが、軍人であることに変わりはない。

 祖国の脅威となり得る存在を討つことに躊躇すれば、それは祖国に――守るべき者達に危険を及ぼすことになる。

 例えそれが、元は人間であったとしてもだ。

 元に戻す方法を見つけ出し事態の解決に当たる――そんなものは理想論でしかない。

 天依体の総数がどれだけなのかは分からないが、その全てを無力化し、あるとも分からない方法を模索するなど、現実的ではない。

 明確な現実は、目の前の異形を討たなければ人々の脅威となる、ただそれだけだ。

 ――皆さんは……

 周囲の様子を伺うと、誰もが身構え、交戦に備えていた。

 レイルやエミナ、ラカムだけでなく、フィーやリューネもである。

 年若い2人の表情に緊張の色はあれど、動揺や迷いは感じられない。

 かつての戦いを経て、既に覚悟は出来ているのだろう。

 そのことに言いようのないもの悲しさを覚えるクレアだったが、頭を振り余念を振り払う。

 列車上の空間の歪みから顕われた天依体の数は、10を超えている。

 空間の歪みはその役割を終えたのか、徐々に収縮した後、霧散してしまった。

 見上げる位置に浮かぶ天依体が表情のない相貌でこちらを見下ろしている。

 天依体から意識を反らすことなく、クレアはリューネへと呼びかける。

「リューネさん、お願いします!」

「はい!!」

 力強く応じたリューネが、その周囲の空間ごと光を帯び始める。

 そして瞬く間に光はリューネの手先へと凝縮していき、

霊力付与(エンチャント)!」

 輝きが増した光が二手に分かれ、クレアとフィーが持つ武器へと吸い込まれていく。

 天依体には物理攻撃や下位のアーツでは有効打にならない。

 それ故に、事前に打ち合わせていた対抗策である。

 霊力による攻撃手段を持たない2人へとリューネによる霊力の供給を行うことで、パーティー全員が天依体に対抗出来る手段を備えることとなる。

 心なしか熱を帯びたを軍用拳銃を構え、

「状況開始! 乗客を護衛しつつ、敵性体の排除を開始します!」

 戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 クレアの号令の元、戦端が開かれた。

 エミナは首元から引っ張り出したペンダントを掴み、相棒へと呼び掛けた。

「さぁ、目を覚まして――銃妃(ディスティハーダ)!」

 それは、今はなき故郷の村で祀られていた神具であり、数々の苦難を共に乗り越えてきた戦友である。

 エミナの呼び掛けに、ペンダントに組み込まれた紅耀石のような深紅の宝石が輝きを放つ。

 その輝きは瞬く間に形を織り成していき、エミナの手元に二丁の導力銃を創出させる。

 それが銃妃と呼ばれる古代遺物の能力である。

 所有者の霊力を用い、あらゆる銃器・弾丸を生成する神秘の具現。

 手に馴染む感触を確かめながら、エミナは前に歩み出る。

「《銃舞神妃》エミナ・ローレッジ――飛ばしていくわよ!」

 

 

「出番だ! 神滅剣・伍型(エクセリオン・フュンフ)!」

 頭上に手を翳したラカムの手元へ稲光が集まっていく。

 空気を震撼させて顕現したのは、一振りの太刀であった。

 流麗な刃文に透き通るような刀身、鍔元にはめ込まれた色鮮やかな黄色の宝玉が見る者を魅了する。

 それが、神薙(かんなぎ)の一族で受け継がれる伝説の武具――八振りの古代遺物・神滅剣の1つである。

 ラカムは手にした太刀により、自身の霊力が昂ぶっていくのを感じる。

「悪いが、異形退治の専門家としちゃあ、お前らを見過ごすわけにはいかねぇ……例え、元が人間だったとしてもな」

 だから、

「――せめて、苦しまないようにしてやる」

 言うや否や、ラカムの姿は1体の天依体の背後へと着地していた。

 足先に霊力を集中させることで、爆発的な瞬発力をもって跳躍。そして、すれ違いざまに雷を纏った太刀を振るっていた。

 神薙流剣術・雷の型、秘技――雷迅石火。

 断ち切られたことを理解させぬまま、天依体が霧散していく。

「相変わらずの早業、だな!」

 同じく列車上に上がってきたレイルが、天依体から放たれた光弾をはじきながら声を掛けてきた。

 彼が振るう武器――ごく普通の太刀に霊力を纏わせているだけの物を見て、ラカムが顔をしかめる。

「おまっ――なんで神滅剣使ってねぇんだよ!?」

「こんなとこで使ったら、生き埋めになるだろ!」

 レイルの反論にラカムは彼が持つ力を思い出す。

 ――そういや、レイルの技、半端ない威力だったよな……

 神滅剣が持つ力には、所有者の霊力を増幅させる効果がある。

 その力もあり、神薙の一族は異形退治の専門家、と知る人ぞ知る存在として噂されているのだが、レイルの力は一族の中でも群を抜いているのである。

ただでさえ強大な力なのだが、レイルはレイルでその出力の調整が下手くそなのである。

そんな彼が神滅剣を使えば、周囲の被害もただ事では済まないだろう。

そして今は、足下の車内に大勢の乗客がいる状態である。

 ――なら、仕方ねぇか……

「やられても神滅剣使ってなかったからって言い訳するなよ!」

 世話の焼ける従弟にそう言い残し、ラカムは次なる敵へと向かっていった。

 

 

 天依体の腕から振るわれる複数の鎖が不規則な軌道を描きながら、リューネへと襲いかかる。

 彼女はそれをものともせず、最小限の動きで交わし、敵へと肉薄する。

「リューネ!」

 残り僅かで拳が届く距離へと迫ったとき、背後からフィーの呼び掛けが届く。

「!!」

 彼女と結んだARCUSの戦術リンクを通じて、フィーの呼び掛けの意味を汲み取る。

 ――下!

 リューネの視界の外から鎖が跳ね上がるような軌跡を描く。

 上体を反らすこと攻撃をやりすごすが、態勢を崩されてしまった。

「フィーちゃん!」

 勢いを殺さずにバク転に踏み切ったリューネがパートナーへと声を上げる。

 その身体に複数の鎖が振り下ろされそうになったが、

「させないよ」

 フィーが双銃剣から弾丸を放ち、次々に弾かれた鎖の群れは、リューネの身体にかすることもなく、地面へと叩き付けられた。

 そこへ無防備となった敵へ、着地を終えたリューネが距離を詰める。

 握る拳に力を込め、纏わせた霊力が輝きを放つ。

「フォトンインパクト!!」

 突き出した拳が敵の胸部へと至り、破壊の光が放出され背面まで穿たれた。

 直後、声にならない断末魔を上げ、天依体が大気へ溶けていった。

「…………」

「大丈夫?」

 立ち尽くすリューネへとフィーが心配そうに声を掛けてくる。

 大丈夫だよ、と静かに返したリューネは、手に残る感覚と今し方倒した天依体へと意識を向けた。

 ――あの子達は、お兄ちゃん達と出会えなかった私……

 むしろ、自身に課せられていた役割を思えば、まだマシなのだろうが、彼等が感じたであろう悲しみや絶望は並大抵のものではなかったはずだ。

 天依体へと変異した彼等を解放するには、その命を奪う他ない。

 死が救い、などというのは欺瞞だ。

 どのような形であれ、命を奪うことに変わりはない。

 自身の出自に向き合う以上、それは避けては通れないことだと理解している。

 ならば、彼等という存在を胸に刻みつけ、忘れないことがせめてもの贖いになるだろうか、と考え、意識を周囲へと戻す。

 構内全域に広がった戦闘は間もなく終わりを迎えようとしていた。

 

 

 天依体が攻撃手段は大きく分けて2つである。

 体中に巻き付かせた鎖を操る近距離攻撃と光弾を様々な形で放つ遠距離攻撃である。

 エミナは3体の天依体を引きつけ、最前線(・・・)にて攻撃を躱し続けていた。

 手にする武器は2丁の導力銃。本来であれば、陣形の後方にて牽制といったフォロー役である。

 だが、これこそがエミナにとって最善の位置取りであった。

 淀みなく刻むステップは、幼き頃に亡くなった母から教わった神楽の舞を応用したものだ。

 今はなき故郷に祀られていた銃妃に奉じる舞――エミナの母方が代々受け継ぎ、村の神事で披露されたものだ。それ家系の出であるが故に、幼少の頃より母に厳しく教え込まれたものである。

 ――それが、こんな形で役立ってるなんて――!

 皮肉なものね、と内心独りごちる。

 村の守り神へと捧げる舞が、今では異形を討つ力へと変じている。

 そのことに対して後ろめたさを覚えたこともあるが、今はこの戦い方に誇りすら感じている。

 ――どのような形であれ、お母さんが私に遺してくれたものだから!

 迫り来る鎖を紙一重で躱し、身体を旋回させる。

 流れる動きの中、遠距離からこちらを狙う相手に牽制の銃撃を放つ。

 腕に伝わる反動は、続く動きへの補助とする。

 躱す。銃撃。サイドステップ。跳躍。銃撃。スライド。ターン。銃撃。

 動きの1つ1つが次へ、次へと新たな動きを生んでいく。

 呼吸は逸ることなく、だけど動きは軽やかに、迅く。

 タン、タタンッ、タン、タン――

 打ち鳴らす足音が小刻みに、その速度を高めていく。

 身体の内から燃えるような熱が湧き上がる。

 喉元を抜ける呼気が熱い。

 浮かぶ汗が頬を伝う間もなく、激しさを増す動きの中で弾かれていく。

 1体。また1体と撃ち抜かれた天依体が消失していく。

 そして自分を囲っていた最後の4体目の消滅を確認したところで、エミナは徐々にステップを緩め、制動を掛けていく。

「……ふぅ」

 籠もった熱が汗を浮かび上がらせる。

 額を袖口で拭い、周囲の様子を確認したところで――

「エミナさん!!」

 直後。

 銃声が1つ、構内へと響き渡った。

 

 

 その個体は、物陰に潜み機を伺っていた。

 次々に打ち倒される同胞に対して抱く感情はなく、ただただ下された指令を全うするためにその個体は待ち続けた。

 そして、その機会がようやくやってきた。

 銃撃の乱舞を放つ女がその動きを止め、気を抜いたところを――

「エミナさん!!」

 女の背後から飛び出したこちらに気付いた別の女が、彼女に呼び掛けるが、女は振り返ることはなかった。

 静かに腕を前方に向けて――何故か呼び掛けた別の女へと手にした得物から光を放った。

 その意図を解することもせず、機械的に女の命を刈り取ろうとするが、

「――!?」

 何故か、自身の眉間が撃ち抜かれていた。

 訳も分からぬまま、その個体は身体を構成する力を失い、宙に溶け消えていった。

 

 

 エミナとクレアの連携を横目で確認したレイルは、感嘆を覚えていた。

 ――戦術リンクもなしによくやるな!

 彼女達が行った行動は、単純なようでいて信頼がなければ為し得ぬものだった。

 エミナの背後から飛び出した天依体に気付いたクレアがエミナに呼び掛け、その手にミラーデバイス――エネルギーを反射・増幅させる鏡面体の装置を掲げたのだ。

 その意味を即座に察したエミナが導力エネルギーを発射。後は、ミラーデバイスによって弾き返されたエネルギーが天依体を貫いたのだが、どちらか一方のミスがもう片方を危険に晒すような連携だった。

 それを難なくやり遂げるあたり、2人の間にある信頼は今もなお堅いということだ。

 そのことを嬉しく感じるが、今は目の前のことに集中しなければならない。

「これで――最後だ!」

 神薙流剣術・風の型、秘技――風烈刃。

 風の刃を纏った一閃が天依体を断ち切る。

 残心を解き、仲間や乗客達の無事を確認する。

「車体の所々に損傷――これは、まぁ仕方ないか」

 人的被害は皆無である。とりあえずはそれで良しとする。

 ただ、

 ――先程の空間転移は……

 記憶にある天依体の能力と照らし合わせても、該当するものがなかった。

「やつらも、進化しているってことなのか……」

「その通り!」

「!?」

 

 

 その男は、誰に気付かれることもなく、その場に現れた。

 上等なスーツを着込み、髪は丁寧にオールバックに固められている。歳は40程で、すらりと伸びた手足とピンとした立ち姿からは好印象すら与えられる。

 ただし、その整った顔立ちに浮かぶ底知れぬ笑みと――宙に浮いていることで、明らかな異質感を醸し出していた。

 そしてその傍らに、天依体のようで、今までのそれとは異なる存在を引き連れていた。

 その個体は、これまでレイル達が遭遇したものとは違い、全身に絡みついた鎖はなく、体外へと突き出た金属片も見掛けられず、その代わりというように手には深く吸い込まれそうな紫紺の宝珠が携えられていた。

 正に高尚な芸術作品そのもののような存在であった――が、その個体から放たれる強大なプレッシャーにレイル達は緊張の糸を張り詰めさせた。

「あんたは……」

「お初にお目に掛かる。私はフェルディナンド・ベリアル! 君達も知るところのD∴G教団にて幹部司祭を務める者だ」

 レイルの誰何に男が何の躊躇いもなく、名乗りを上げる。

「てめぇが今回の違法薬物や失踪事件の黒幕ってわけか!」

「それについてはNo! とお答えしよう」

 鋭い剣幕で睨むラカムをものともせず、フェルディナンドは飄々としている。

「もっとも――主導は私の仲間であり、彼の計画に乗じて私は私の研究を進めているからね……黒幕の共犯者、が正しい位置付けだね?」

「あんたの細かい立ち位置なんかはどうでも良い……それより、何が目的で俺達の前に姿を現した?」

「それに、ここにいる乗客達を眠らせたのもあんたの仕業なの?」

 レイルとエミナの問い掛けに、フェルディナンドは嬉しそうに頷きながら、

「すぐに拘束しようとしてこない辺り、この子の凄さが伝わっているようで何よりだよ」

 隣に控えている天依体の頬に手を添え、恍惚の表情を浮かべる。

 彼の指摘にレイル達が眉をしかめる。

 フェルディナンドが言うように、彼の傍らにいる天依体からはそれまでの個体に比べ、底知れない力を感じている。

 それ故に、軽率に動くことなく、相手の出方を伺っている。

「こちらも研究成果を披露したくてウズウズしていたんだよ……それに君と話がしてみたかったというのも目的の1つだ」

 リューネ君、と男の視線が彼女を捉える。

「私、ですか……?」

 リューネの表情が目に見えて強張っていく。

 その脳裏には、かつての記憶が蘇り、ともすれば足が竦みそうになった。

 男の視線を遮るように、フィーがリューネの前へと身を乗り出した。

「フフ、安心したまえ小さな騎士(ナイト)君。この場で彼女をどうこうするつもりはないからね。それにしても、ハングドマン君のおかげで健康に育っていて何よりだよ……」

 男は柔和に目を細め、

「それに、君達との交流の中で、驚くべきスピードで情緒が育まれているようだね。有り難いことだよ」

「あんたに礼を言われる筋合いはないと思うが?」

「彼女は我々にとっても大切な存在なのだよ。丁重に扱ってくれていることに感謝を述べるのは当然では?」

 男の問い返しに、レイルがそうかよ、と小さく吐き捨てた。

「ああ、それと……ヴェルガー君の暴走で辛い目に遭わせてしまったね。あの件に関しては本当に申し訳なかった」

「――ッ!」

 ヴェルガー。

 その名を耳にした直後、リューネが肩を抱いて震えだしてしまう。

 その様子にフィーとエミナがそれぞれの得物を構えるが、レイルがそれを制する。

「おっと? 彼の名前がトラウマを刺激してしまったかな……重ね重ね申し訳ない」

「あんたが何をしたいのかは知らないが……目的はこれで達したんじゃないのか?」

「それもそうだね。研究成果もまだまだ改善点が山積みだが、今は良しとしよう」

 そう言うと、フェルディナンドが指を鳴らす。

 それに応じるように、傍らの天依体が手に携えた紫紺の宝珠を頭上に掲げる。

 宝珠が輝きを放ち、レイル達の緊張が高まるが、

「安心したまえ――彼等を解放しよう」

 言うと、彼の背後に空間の歪みが生まれ、そこから新たな天依体が姿を現す。

 その姿も今までのものと――そして、男の傍らにいるものとも異なり、その目元を血が滲んだような赤黒い布が覆い隠していた。

「レム、力を解除しなさい」

「――――」

 男の呼び掛けに、レムと呼ばれた個体が静かに高音の響きを発する。

「これで乗客達はじきに眠りから覚めるだろう」

「……その天依体は、人の睡眠欲求と覚醒力を操れるってことか」

「それ以外も可能だが、概ねその通りだよ。理解が早くて有り難いね。――それに、てんいたい……転移、いや天依か……うん、実に良い呼び名だ」

 今後は私もそれに倣うとしよう、と男が笑みを濃くしていく。

「ついでと言ってはなんだが、こちらのラウムも紹介しておこうか――彼女の力はお察しの通りの空間転移だが、一度行ったことのある場所や視認出来る範囲でないと力が及ばないのが難点だがね」

「それを、我々が信じるとでも?」

 クレアの指摘に、フェルディナンドが口角を吊り上げる。

「言っただろう? 研究成果を披露したかった、と……どんなに偉大な研究だろうとその結果が広く知られなければ意味がない」

 それに、

「私は私の研究に対して真摯でありたい――故に、虚偽の報告は私の美学に反するのだよ」

「それにしたとしても、それだけ明け透けに話すのは――知られた所で大勢に影響はない、ってことの裏返しか」

「君は、本当に聡明だね」

 フェルディナンドがレイルの推測を肯定し、

「君達がどう足掻いたところで、私の悲願成就は揺らぐことはない。むしろ、どのような動きを見せてくれるのかが、楽しみなくらいだよ」

「言ってくれるじゃねぇかよ」

 ラカムの声音に怒りが孕まれるが、フェルディナンドは飄々と受け流す。

「さて、あまり長居し過ぎると仲間にどやされてしまうからね。我々はそろそろお暇しようか――ラウム」

 彼の呼び掛けに宝珠を持つ天依体――ラウムが再度宝珠を掲げると、フェルディナンド達を覆うように次元が歪んでいく。

「それでは諸君、またすぐに会うことになるだろう。その際にはこの子達以外の子もご紹介しようじゃないか」

「……最後にこれだけは答えろ――マフィアや警備隊といった失踪者は、どうなっている?」

「――私の管轄外なので、詳しくは知らないが――今のところ命に別状はないはずだよ?」

 それがどうかしたのかとでも言うようにフェルディナンドが小首を傾げる。だが、レイルはそれで聞くべきことは聞けたといった感じで、

「……なら良い」

「そうかい? では、今度こそ――っと、そうだそうだ」

 歪みの中へと呑み込まれる中、フェルディナンドがふと何かを思い出したかのような素振りを見せ、

「そこの金髪の君――そう、君だ。確か、ラカム君だったね? ゼオラ君のことは、本当に残念だったよ」

「なん、だと……」

袂を分かった(・・・・・・)とはいえ、彼女の幸せを願っていたのだがね」

 真意が読めなかったが、憐憫を感じさせる表情を浮かべたかと思った直後、フェルディナンド達の気配は完全に掻き消えてしまった。

 

 

「ふぅ……」

 敵が退いたことを確認し、レイル達は緊張を解き、体内に溜まった重たい空気を吐き出した。

 あのままこの場で戦うことにならずに済んで良かったと、心底安堵する。

 ――乗客を巻き込まずに、は到底無理だったよな……

 それだけ、彼が引き連れていた天依体が強大な力を有していた、ということだ。

 ――むこうも、こちらが手を出せないと踏んだ上で表に出てきたんだろうな。

 厄介な相手が出てきたことに嘆息するが、今はそれよりも、

「リューネ、大丈夫か?」

 極度の緊張から解放され、へたり込んでしまったリューネへ声を掛けると、リューネが力ない笑みを浮かべ、

「う、うん……なんとか」

「……無理、するなよ」

 そう伝え、頭をなで回してやる。

 くすぐったそうにするリューネをフィーに任せ、車内の様子を確認しているエミナとクレアへと目配せする。

 乗客達が意識を取り戻しつつあるのを確かめていた彼女達が、レイルの視線に気付き、1度頷いて見せた。

 ――乗客達は2人に任せて――

 残る人物へと向きなおる。

「ラカム……」

「……あ、ああ」

 呼び掛けに対して、気の抜けた返事が返ってくる。視線が泳ぎ、明らかに動揺しているのが見て取れた。

 それでも、レイルはラカムに確認しておくべきことがあった。

「ゼオラって確か――」

「……ああ。3年前の、とある強盗事件で命を落とした――俺の、婚約者だ」




 こんにちは、檜山アキラです。
 今回はオリジナルキャラ達の戦闘シーンを描く形となりましたが、如何でしたでしょうか?
 正直、彼等のバックボーンが未だ作中で描けていないので、いつかは形にしたいと思っております。特にエミナが使う古代遺物についてやリューネの過去などは過去編の候補として挙げております。
 今回現れたフェルディナンドや天依体がこの後の展開にどう絡んでいくのか、時間は掛かるかも知れませんが、しっかりと書き切りたいと思います。
 それでは、次回更新をお待ち頂ければ幸いです。、
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