神薙の軌跡・改   作:檜山アキラ

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 皆さんこんにちは!
 年末年始の繁忙期が終わり、更新再開です!


守りぬく意志

「失礼します」

 ディーターからの呼び出しで総裁室へと赴いたロイドを出迎えたのは、緊張や不安といったで表情を浮かべた面々だった。ラカムはキーア達の護衛についているようで、それ以外の面々が揃っている状況だった。

 何事かとロイドが問うと、机上で組んだ手に額を預けていたディーターが面を上げ、事のあらましを説明し始める。それを受け、

「爆弾だって!?」

IBCビルのゲート前で警備隊員が円筒状の装置のような物を設置しようとしている、とのことで、更にランディがその正体に当たりを付けた途端、集まった一同に動揺が走る。

「各国の軍が破壊工作などに使われるような物ですが……そのような物まで持ち出してくるとは」

「流石に特殊合金製のゲートでも保たないかと……」

 苦々しく告げるクレアに続いて、ティオが嫌な汗を浮かべて呟く。

「このままだと、突破されるのも時間の問題だろうし――ランディ、打って出よう」

 だが、追い詰められようとしている状況の中でも、ロイドは抗う意志を損なわせることはなかった。

 ランディが表情を一変させ、待ってましたと言わんばかりにほくそ笑む。

「貴方達……無駄死にをするつもり!?」

 すぐにでも部屋を出て行こうとするロイド達を、マリアベルが慌てて引き留めに掛かる。

ロイドが爆弾の設置を妨害するだけだと説明するが、そのまま警備隊との衝突は避けられないだろう。

 なおも言い募ろうとするマリアベルに、同行を申し出たエリィが安心させるように微笑んでみせる。

「大丈夫……これが私達の仕事だから」

「心配ご無用です」

 ティオからの念押しもあり、やれやれといった様子でマリアベルが肩から力を抜く。それを見たロイドがディーターへと向き直り、

「無論、俺達も無駄死にするつもりはありません。警察本部か副司令の部隊か……応援が来るまでの辛抱ですから」

「ゲート前から地形の利もある。それに――」

 ランディが静観しているレイル達へと視線を送る。

「強力な助っ人もいることだしな」

「勿論、俺達も出る――と言いたい所なんだが」

 一度言葉を切り、レイルが思案するように瞳を閉じたかと思った直後、すぐさま顔を上げ、周囲を見回し、

「エミナ――ディスティハーダで生成した武器を維持出来るのは30アージュ程だったよな」

「弾丸とかならともかく……銃器そのものだと、それくらいね」

 なら、

「俺とリューネとクレアさんの3人で屋上からロイド達の援護を行いつつ、天依体への警戒にあたる。エミナはクレアさんにライフルを渡して、キーアちゃん達の護衛に。ARCUS持ちを1人にするのは最適解じゃないが――フィーは、ラカムと一緒に正面ゲートに向かってくれ」

了解(ヤー)

「天依体……来る可能性が?」

 次々に発せられる指示に応じて行動を起こしている彼女達を尻目に、ロイドがレイルへと疑問を投げ掛けると、彼は躊躇なく頷いて見せた。

「恐らく、だがな。天依体を操っている人物は、この件の主犯じゃないみたいだが、協力者である以上、この機を逃すとは考えにくい。だから――」

 こっちは俺達に任せておけ、とレイルが拳を突き出してくる。ロイドもそれに応じ、拳を突き合わせる。

「ああ! 空の女神(エイドス)の加護を!」

 

 ◆

 

 屋上に上がってきたレイルが身を隠しながら、眼下の様子を伺う。

 正面ゲート前。閉ざされた鉄扉の影で動く気配があるが、ゲートそのものが視界を遮ってしまっているので、直視は難しい状態である。

「ここからだと、門前よりも坂を上がってくる相手に狙いを絞った方が良さそうですね――いけそうですか?」

 隣でエミナから託されたライフルの調子を確認しているクレアへと声を掛けると、彼女は手元に視線を送ったまま、

「これなら十分にいけるかと」

 ライフルを構えて、スコープを覗き込む。

 エミナ曰く、このライフルは霊力を弾体形成し射出するという、いわば魔導ライフルと呼ばれる物らしい。銃身側部のスイッチ操作1つで殺傷/非殺傷の設定が切り替えられるとのことで、今は着弾と同時に衝撃波に変換される非殺傷設定となっている。スコープも特別製で、昼夜を問わず良好な視野を射手に与えてくれる。

「流石は、古代遺物(アーティファクト)ですね……」

 クレアがしみじみと溢すのを聞き、レイルは古代遺物がそう呼ばれるようになる以前――古代ゼムリア文明について、思考を巡らせた。

 ――リベルアークからして尋常じゃなかったが、古代遺物のどれもが今の文明レベルを凌駕しているよな……

 自身が持つ神滅剣もまたその1つなのだが、自分達がそれだけの危険性を孕んだ物を使役していることを実感せざるを得なかった。

「お兄ちゃん、ゲート前で動きが!」

 リューネの声に、思考の海から引き上げられたレイルが、最小限に身を乗り出して、状況を確認する。

 外敵の侵入を阻んでいたゲートが重々しい音と共に、その身を地下格納部へと収納されていく。視界が通り、門前で何らかの工作を行っていたらしい警備隊員と、その足下に設置された円筒状の装置が目に映った。

 突然の開門に不意を突かれた警備隊員達が、強襲を掛けたロイド達によって制圧されていく。その隙を突いてIBCの警備員や避難してきた旧市街のギヨーム達によって速やかに導力爆弾が回収されていく。

「初手は問題なくクリア――敵の増援、来ます!」

 スコープを覗いていたクレアが声を上げる。

 港湾区からIBCへと続く坂道を警備隊員達が駆け上がってくる。

「それじゃあ――俺達もやりますか」

 レイルはそう告げると、意識を周囲へと集中させていく。

 風の流れ、大気の振動――空間を伝播するあらゆる情報を捉え、掌握していく。

 神薙流体術風の型・奥義、風詠み。

 レイルを中心とした半径500アージュが、彼の知覚に補足されていく。視覚だけでは捉えきれない物陰から風が入り込む隙間があれば建物の内部までもが、レイルは掌握したのである。その情報をクレアへと伝達していく。

「正面3名に牽制2発――道沿い左手、手前から2つ目のビル屋上に上がってくる気配あり、行動を移される前に制圧を!」

「――!」

 返す言葉はなく、クレアが的確にレイルの指示を実行していく。正面の敵の内、1人は右肩に着弾し、衝撃波により頭部を揺らされ昏倒。続いて、ビル屋上に上がってきた警備隊員達がこちらのようにライフルで援護に入ろうとした所を、機先を制するように撃ち抜いていく。

「! 伏せろ!!」

 だが、操られているとはいっても向こうも精鋭部隊である。こちらの位置が補足され、坂を駆け上がってくる人員や補足範囲外からの長距離狙撃で応戦され始める。

「一筋縄ではいかないか」

「それだけ訓練が行き届いているということですね」

「今のうちに補給をしますね!」

 身を隠している間にリューネがクレアの持つライフルへと手をかざすと、淡い光が生まれ、銃身へと吸い込まれていく。同じようにレイルにも霊力の補給を行ってくれる。

 膨大な霊力を保有するリューネがいれば、魔導ライフルのエネルギー切れの心配は皆無である。

「場所を移しつつ、サポートを継続しましょう」

 天依体の襲来がない今の内に、可能な限り敵の数を減らすべく、レイル達は行動を再開した。

 

 

「第3波、来ます!」

 ティオの感知能力が警備隊員達の接近を告げ、ロイド達は休む間もなく、波状攻撃を凌ぎ続けていた。

 屋上からの援護もあり、正面ゲート前まで辿り着く敵の数を減らしているが、警備隊側もクレア達への対応を開始し、徐々にだが押し寄せる警備隊員の数が増してきている。

「神薙流剣術雷の型・秘技、天雷!」

 ラカムが太刀を上段から振り下ろすのに合わせて、彼の前方5アージュ辺りの上空から雷撃が降り注ぐ。直撃を受けた警備隊員が痙攣して倒れ伏すが、難を逃れた敵がラカムへと肉薄する。

「させない」

 2人の間に身体を割り込ませたフィーがすれ違いざまの連撃で脚部にダメージを与え、相手の機動力をそぎ落としていく。

「ヒュー、相変わらずやるじゃねぇか」

 フィーの動きを見て、ランディが軽口を挟んでくるが、その額には汗が浮かんでいる。薬物によって強化された相手がこちらに撤退の余地を与えず攻め続けてきていることもあり、この場で1・2を争う戦闘力を有するランディでさえ、疲労の表情が浮かび始めている。

 ――このままじゃ、ジリ貧……

 流れる汗を拭うこともせず、フィーは眼下より迫る軍勢を見据える。

 正直な話、形勢はこちらが不利である。

 個々の戦闘力では、強化された隊員達をものともしないメンバーだっている。しかし、不殺を貫く以上、加減は必須である。それに加えて物量差も圧倒的である。

 負け戦といっても過言ではない。

 名も知れ渡っていないような低級の猟兵団であれば、契約違反であろうと割に合わないと尻尾を巻いて逃げ出す状況だろう。

 だが、自分はそうではない。

 大陸西部で<赤い星座>と覇を競った<西風の旅団>の団員であり――遊撃士として人々を守るために戦う者達と共にあることを選んだ自分に、諦めるという選択肢はなかった。

 この場にいる誰もが、同じ思いでいるはずだ。だから――

「守り抜いてみせる!」

 

 

「フフ……頑張りますね」

 眼鏡の奥に鋭利な瞳を携えた男がIBC前で行われている戦いを見下ろし、楽しそうな笑みを浮かべる。特務支援課やその協力者達の戦いを見世物のように眺めている彼を、横に控えていた屈強な男が忠言する。

「ですがツァオ様……あのままではいずれ」

 ツァオと呼ばれた男が、言わずもがなと言う風に吐息を溢す。

「ここで倒れてしまうのであれば彼等も所詮、その程度の器だったということ――ほら、次が来ましたよ」

 

 

「このまま左に3アージュ移動――合図を送りますので、正面屋上の敵をお願いします!」

「はい!」

 レイルの指示を来ると、クレアは身を乗り出し、速射で敵を制圧していく。撃ち漏らした敵がいれば、深追いはせず、身を伏せ、次の好機を伺う。

「!! クレアさん、次のタイミングで右手の街路樹、手前から7番目に潜む相手を!」

 レイルが一瞬目を見開かせたが、鋭く飛んでくる指示に応じ、標的をスコープ越しに捉える。

「!」

 軽薄そうな男が、こちらではなくゲート前の戦況を忍び見ている。いかにも観光中といったラフな出で立ちだが、その顔を見紛うことはない。

 自身にとって血は繋がらないが、立場として兄弟筋と呼べる存在。その姿を認識した瞬間――クレアは躊躇いなくトリガーを引き絞った。

 

 

「しかしこのままだと、ギリアスのオッサンの狙い通りになっ――どぅわっ!?」

 

 

「避けられました!!」

「チッ! 相変わらず勘の鋭い野郎だ!」

「?」

 

 

「い、今のはミレイユ准尉……」

「そんな、あの人まで……」

 幾度目かの襲撃を退けた後、操られた隊員の中に見知った顔を見つけてしまい、ロイド達に動揺が走るが、その声はランディに届かなかった。

「クソが……ふざけやがって……!」

 沸々と身体の奥底から怒りがせり上がってくる。脳が痺れ、全身の血が沸騰するかのような錯覚を覚える。

 ――なんで、お前が――!

「――――――――ッ!!」

 沸き起こる衝動に身を任せ、喉から大気を引き裂く咆哮が夜気を震わせる。

 戦場の叫び(ウォークライ)

 爆発的な闘気を引き出す猟兵独自の戦闘技術が、周囲を――仲間達すら威圧していく。

 だが、今のランディにロイド達を気遣う余裕はなかった。

 奴らはミレイユを――俺の――

「落ち着け!!」

 突如、耳元で叫ばれ、放たれていた闘気が霧散していく。

「怒りで周りが見えなくなってどうする!」

 疲労の色が濃くなってきた顔でラカムが叱責してくる。その表情からは普段の軽薄さがなりを潜めており、真剣な眼差しでこちらを睨み据えている。

「なに、を……」

「惚れた女がいいようにされてブチ切れる気持ちは解る! だけど――」

 頭部を上から鷲掴みにされ、背後のビルの上層階を見上げさせられる。

「今すべきことを忘れんな!」

「……………………わりぃ」

 毒気を抜かれ、素直に頭を下げる。

 それに満足したのか、ラカムが武器を構え直し、目前に迫った敵に備えた。

 彼に倣い、ランディも体勢を整える。

「……1つ訂正だ」

「なんだよ?」

 横に並んだラカムにすがめを向けて、

「別に……俺が、ミレイユに惚れてるとかじゃないからな」

『…………』

 非難の目が集中したが、追求は事が済んでからだ。

 

 

「! お兄ちゃん!!」

 戦闘が開始され30分以上が過ぎた頃、何の前触れもなく、それはやってきた。

 リューネが真っ先に気付き、遅れてレイルもその気配を察知する。

 それは風詠みの認識範囲外――東に20セルジュ以上離れた位置に現れたのだ。

 夜天の星々に紛れるようにして現れたそれらは、淡い輝きを纏った天依体の群れであった。それも、10や20の話ではない。

「少なくても200以上、だな……」

 途中から数えるのを止め、レイルは捉えた光景の悍ましさに怒りを覚えた。

 恐怖ではなく、怒りだ。

 迫り来る猛威ではなく、それが生み出された背景を知るからこその怒りであった。

 ――あれだけの数の人間が、犠牲に――!

 気付いたときには、その右手に神秘の具現を握り締めていた。

 神滅剣・肆型(エクセリオン・フィーア)

 翠耀石のような宝珠を鍔元に填め込まれ、透き通るような刀身を携えた一振りへと周囲の大気が引き寄せられていく。

「クレアさん、離れて――どこかに捕まっていて下さい……リューネ、いけるな?」

 東を見据えたまま、クレアには下がるように伝え、リューネに可否を問う。

「…………お願い――あの子達を、解放してあげて」

 リューネの表情が一瞬、躊躇いに歪むが、それでも意を決してレイルへと力を託す。リューネが手を組み、祈りを捧げるように膝をつくと、彼女の全身を包み込むように目映い輝きが生まれる。煌々と夜闇を照らし出す光が揺蕩い、その光度と規模が増していく。膨れ上がるごとにその揺らめきは激しさを増していく。その波長が僅かの間、凪のごとく静まりかえった直後、レイルの元へと怒濤の勢いで放出されていく。そして、輝きがレイルへと至り、

「霊力回路――直結! 霊力、超過供給!!」

 

 

「――ッ!」

 リューネから伸びた光――莫大な霊力がこの身に届いた瞬間、全身を跳ね上がらせるような衝撃が襲い掛かる。

 導力よりも、より根源的な霊力が流し込まれ、自身の回路が瞬く間に膨張していく。その影響は物質的な身体にも及び、筋肉が軋み悲鳴を上げ、循環する血液が熱を帯びてこの身を内部から焼き尽くそうとしてくる。視界が明滅し、ともすれば意識を飛ばしそうになるのを食いしばって眼前を睨み据える。

 異形の軍勢が脇目も振らずにこちらに迫りつつある。目に映る光景がその姿で刻々と埋め尽くされていく。

 異様な光景、緊迫した状況であったが、心は平静を保っていた。やるべきことが定まっているならば、心を乱す必要はない。

 身の内で暴れ回る力の奔流を手にした得物へと流し込んでいく。すると、取り込んだ力に呼応して、鍔元の宝珠が輝きを放つ。

 周囲を取り巻くように大気がうねりを生み、旋回していくごとにその勢力を増していく。次第に風の流れが嵐の如く渦巻き、刀身へと収束していく。

「我が罪――数多の命を奪う罪業を、この身に刻む」

 右半身を引き、太刀の切っ先を前方に向け、突きの構えを取る。

 荒れ狂っていた嵐が止み、一瞬の静寂の後、レイルは迫り来る軍勢に対し、渾身の踏み込みと共に翠緑の嵐刃を解き放つ。

「神薙流剣術風の型・秘奥義――虚空穿!!」

 

 

 その光景を目の当たりにした者は、何が起こったのか理解するのに時間を要することとなった。

 IBC屋上にて、突如として風が吹き荒んだかと思った直後、東から近付いてきていた光点の群れが暴虐の具現と化した嵐のような何かに呑み込まれ――そのことごとくが消え失せたのである。

 街中の騒動を遠巻きに見ていた住人達だけでなく、当事者の関係者達ですら、初見の者であれば、起こった出来事に呆然とせざるを得なかった。

 何が起きた、あれは一体何なのだ。

 至る所から疑問の声が上がるが、そのほとんどが明確な答えを得ること叶わず。

 ただ起きた結果を把握するしかない。

 嵐刃過ぎ去りし後、穿たれた空間は正しく虚空――故に、この力を知る者はこう呼ぶ。

 虚空穿、と――

 

 

「凄まじい威力だな」

 レイルが放った一撃により、あらゆる状況が停滞したのも束の間。

 ロイド達をその物量で押し潰そうとしていた警備隊員達を掻き分けるようにして、1人の男が姿を現した。

「ロギンス!? 何でお前が――」

 その男と面識があったランディが食って掛かろうとするが、男が手のひらを突き出して、訂正を加える。

「“僕“は君の元同僚ではない。彼の身体を借りて、こうして話し掛けているだけさ」

「その口調……まさか、ヨアヒム先生――!」

 ロイドがその正体を言い当てると、男は嬉しそうに笑ってみせる。

「てめぇ、一体何が目的だ!」

 ラカムが牙を剥くが、男は動じることもなく、こちらを仲間に引き入れようとする始末である。

「彼等のように《グノーシス》を服用してもらえれば、我々の崇高な目的を理解してもらえるはずだよ?」

「ふ、ふざけないでください!」

 下卑た笑みを浮かべる男にティオが涙を滲ませながら、睨み付ける。

「……あなたが……あなたがあんな酷いことを……!」

「フフ、別に各ロッジの儀式は僕がやったわけではないけれどね。無論《グノーシス》のプロトタイプの実験データは回収させてもらったよ」

「裏ルートを使って、猟兵団に薬を流してたのもアンタが黒幕ってこと?」

 フィーの問い掛けに、男が無論と大仰に頷いてみせる。

「そのデータを元に、この古の聖地で僕は《グノーシス》を完成させた……そう、全ては運命だったのさ!」

 その物言いに各々が嫌悪感を顕わにするが、男は意に介することもなく要求を突きつけてくる。

「あの方を――キーア様を返してもらおうか」

「あんた……あの子をどうするつもりだ!?」

「キーア様は元々、我らが御子。その身を君達が預かったのは、ただの偶然に過ぎない。あの方にはただ、あるべき場所に還って頂くというだけさ」

 淡々と告げられる言葉を、ロイド達は拒絶する。

「あんたらの狂信に……あの子を巻き込ませるものか!」

「さっきから聞いていれば、妄想めいたことばかり……!」

「てめぇみたいな変態野郎の元にキー坊を戻せるわけねぇだろうが!」

「おととい来やがれ……です……!」

「話し合いの余地すら、ないね」

「やれやれ……交渉は決裂か」

 頭を振って見せた男が手を上げると、周囲に控えていた警備隊員達が武器を構え直す。

「ならば君達の屍を超えて、キーア様をお迎えさせてもらおう」

 男が手を振り下ろし、警備隊員達が距離を詰めようとした直後、

「だめーーーーーー!!!!」

 

 

「キ、キーア!?」

 護衛に付いていたエミナや屋上で援護に回っていた3人を引き連れて、キーアが警備隊員達の前へと立ちはだかる。

「ロイド達をいじめちゃだめ!」

「ど、どうして……」

 この場に連れて来たのかと問い詰めようとするロイドに、エミナが肩を竦めてみせる。

「どうしてもって聞いてくれなくてね……上の状況も落ち着いた感じだったし、ね」

 その代わり、キーアから距離を取ることはせず、何かあっても即座に対応出来るようにしてある。

「おお、キーア様……」

 自らその姿を現したキーアを前に男が歓喜の表情を浮かべる。最早他のことなど気にも留めていないといった状態である。

「お前達! すぐにキーア様を保護して差し上げるんだ!」

 そして、物言わぬ操り人形と化している警備隊員へと興奮気味に指示を送ると、彼等が再び距離を詰めてこようとする。

「させるかよ!」

 戦闘の隊員を峰打ちで叩き伏せたレイルを筆頭に、増援組が応戦を開始する。エミナもキーアをロイドに託し、フィーやラカムを引き連れて参戦する。

「キーア……どうしてこんな無茶を」

「だって、キーアがいる……ロイド達にメーワク掛かるから……」

 

 

 だから一緒にはいられない、と。

 悲しそうに告げるキーアの様子に、ロイドは胸の奥が引き絞られるような苦しさを覚えた。

 自分達に迷惑を掛けたくないから、元いた場所に戻ろうとする彼女に、

「キーア……“暗い”のが怖いんだろう!? 本当は、俺達から離れるのが寂しくて嫌なんだろう!?」

 彼女がいつか溢していた言葉を投げ返す。気丈に振る舞い、自分達を守ろうとする心優しい少女の本心を、彼女自身の言葉で聞きたくて、

「だったら、こんなヤツの言うことなんて聞いたら駄目だ!」

「で、でも……」

「俺は――俺達はキーアに側にいて欲しいんだ! キーアはどうなんだい?」

 真っ直ぐと彼女の瞳を見据える。涙を湛え、今にも溢れそうな眼がロイドを映し出す。

「……ロイ、ド……」

 それでもまだ言いあぐねる彼女に仲間達が語り掛ける。

「多分、私達は……あなたがいてくれたおかげで本当の意味で成長出来たと思う……あなたを見守る――そのことに、それぞれが求める意味を見出すことによって……!」

「はい……何のために生きているのか分からない私ですけど……皆とキーアを守るためなら何だって出来る気がします!」

「だからキー坊、余計なことは気にすんじゃねえ……お前はノンキに笑いながらすくすく育っていけば良いんだ。それだけで俺達はパワーを貰えてるんだからよ!」

「……エリィ……ティオ……ランディ……」

「グルルル……」

 そして、それまで建物内で状況を見守っていたツァイトも駆け付け、同意を示す唸りを上げてみせる。だが、

「そのような妄言で我等の御子を誑かさないで頂こうか!」

 警備隊員達の後方へと下がった男が憎々しく声を荒げる。

「様子見で預けていたのがそもそもの誤りだったようだ……特務支援課! 貴様等やそれに与する者達全員、嬲り殺しに――」

「うるせぇ!!」

 男の言葉を遮るように、ラカムが裂帛の気合いと共に広範囲に雷撃を落とす。

「大事な話の途中だ! 外野がしゃしゃり出てんじゃねぇ!」

「! 邪魔をするな!」

 広範囲だったためかさしたるダメージはなく、警備隊員達がすぐさま体勢を立て直してくる。だが、お陰で敵の意識がラカム達へと逸れている。

「キーア……キーアがどうしたいか、教えて欲しい」

「……キーア、は……」

 少女が大粒の涙を溢し、だけどはっきりと心の内を告げてくる。

「キーア、みんなと一緒にいる……一緒にいたい!!」

 

 

 少女が本心を告げたとき、何がどのように作用したのかは分からないが、青白い輝きが彼女の全身を包み込む。

「おお! それでこそ、それでこそ我等の御子だ!」

 目聡くその様子を捉えた男だけが、得心がいったというように喜びを顕わにする。

「やはり貴女は我等の元へと還るべきだ!」

「絶対にヤダ!!」

 男が差し出した手を、キーアは今度こそはっきりと拒絶する。

「だ、そうだぜ? まだ続けるか?」

 このまま戦闘が長引けば、不利なのはこちら側なのだが、それでもランディが威勢良く問い掛ける。だが、相手もそれを理解しているので、引き下がる気配はなかった。

「……大人しくキーア様を引き渡せば、命だけは見逃してやろうと思ったが――こうなってしまっては……鏖殺あるのみだ!!」

 男が手を空に翳す。が、何かが起きる様子もなく、

「? 何故だ、市内に展開した警備隊員が制御下から外れていっているだと……!?」

「流石に昏倒させてしまえば、操ることは叶わないようだな」

「市内の戦力は、最早あてには出来ないだろう」

 訝しむ男の背後――坂の下より2人の剣士がそう告げる。

 濃紺の長髪とアッシュブロンドの短髪。流麗な太刀と金色の魔剣。その出で立ちは全く異なるものの、纏う気迫は共に見る者を震撼させるものだった。

 《風の剣聖》と《剣帝》。

 この地に集う最大戦力と呼んでも過言ではない2人の登場であった。


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