鉄槌マン   作:邪骨

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ムカつく奴はぶっ殺すぜ!


第一話 誕生、鉄槌マン!

 美南明(みなみあきら)は平凡なサラリーマンである。これといって特徴の無い、ITエンジニアである。気に食わない上司に頭を下げ、残業代の出ない残業をし、体を壊した母の面倒を見る、そんな毎日の繰り返し。どこにでもある不幸を少し抱えた人生。しかし明はそれでもいいかと思っていた。人生こんなもんだし、俺はその程度の人間だし、勇気を持って動いても、失敗するのが目に見えている、だから俺はこれでいいし、何も動かないのだ、と。それが俺だ。

 

 だから、俺はこんなことになっても、自分から動けずにいた。

 

「この人痴漢ですッ!!!!」

 

 いつもの通勤途中、列車の中、俺の隣で女性の甲高い声が響く。何だろう、と俺は思った。その次の瞬間には、俺は自身の腕を、隣の女に掴まれていた。

 

「この人が今、私の太ももを触りました!」

 

「えッ」

 

 誓って俺はそんなことをしていない。しかし女はしたのだと言っている。乗客の視線が一斉に俺に集まり、何人かはスマホをこちらに向けていた。

 

「ちょっと、あなたは何か勘違いをs」

 

 彼は、きっと彼女の勘違いだろうと思い、冷静に諭す。しかし言葉を言い終わる前に、女はまたもや叫んだ。

 

「うるさぁいッ!!黙りなさい!!誰か乗務員さん呼んでーーー!!!!誰かーーーー!!!!」

 

 女は彼の言うことに耳も貸さず、あくまで自分が被害者で、彼が加害者というスタンスを取るらしい。

 

 俺は呆然とした。

 

 何故、この女の人は自分の話を聞いてくれないのだろうか。何故、誰も俺の無実を訴えてはくれないのだろうか。俺は近くの乗客に目を向ける。若い男だった。男は彼の視線に気づくと、サッと目を背ける。そうか、誰も俺に関わりたくないのだ。絶望感が胸に湧いた。

 

「ちょっとよろしいですか」

 

 そうして絶望している内に、いつの間にか目の前に現れた乗務員の手によって、俺と女は電車から降ろされた。何故かチャラチャラとした男も一緒に。

 

「駅員さん、俺は何もやってないですよ」

 

 面倒くさげな駅員に、彼は懸命に訴えた。しかし女の「いいえ!触られました!」の一言で、駅員は「だそうだけど」とこちらを疑いの目で見るようになった。

 

 何だ、俺が一体何をしたって言うんだ。仕事に行かなくちゃならんのだ、それがどうして痴漢騒ぎに巻き込まれ、さらには犯人扱いを受けているんだ。あまりにも不条理だ。俺はそういう思いから怒り、しかしそれを胸の内に留めた。怒り狂うと、何だか逆ギレをしているみたいで、まるで自分が犯人だと認めるみたいで、何よりも勇気が無くて、できなかった。

 

 チャラチャラとした男がこちらをニヤニヤと見ている。何なのだ、お前は。突然付いてきて、何なのだ。何か関係があるのかよ。俺はイラついた。

 

 そうこうしているうちに、警察が来て、俺を連れて行く。何処へ?そこら辺の交番だろう。そこから事情聴取やらなんやら受けて、裁判になって、刑務所に入れられてしまうのだ。

 

 ああ、俺の人生、終わった。こんなことで。

 

 俺は俯きながら歩く。その時、後ろの声に気がついた。

 

「ふぅちゃんさあ、マジえげつねえや。今回でなんぼ捥ぎ取れっかなぁ?」

 

 チャラ男の声だ。話し相手はあの女だ!

 

 そうか、俺は嵌められたんだ!あの女は痴漢なんかにあっちゃいない!俺は勘違いで犯人扱いをされたわけじゃない!金目的の痴漢冤罪!自作自演なのだ!あの女!

 

 カッと血が上った。脳が沸騰するほど茹だって、体が硬直した。警官にどつかれる。

 

 気がついたときには警官を殴り飛ばしていた。

 

 やってしまった。そう思った。

 

 ヤバい、ヤベえって。公務執行妨害に、暴行じゃん。俺の人生さらに終わったーーー!感情に身を任せてしまった。勇気が無いとか関係なかったわ。勇気無くても激高すると人ってこうなんのね。

 

 とりあえず反撃される前に警官どうにかしなきゃ。どうする?

 

 気絶させるか。

 

 藻掻く警官を押さえつけて、顔面を何度も殴打した。鼻血を出して、泡を吹いて、ピクリとも動かなくなるまで殴り続けた。

 

 警官は死んだ。

 

 ヤバたにえん。殺人もプラスじゃん、やっば。

 

 あー、もう、俺死んだわ。もう何も怖いもんねぇわ。じゃ、あの女も殺しとくか。

 

 驚愕に目を見開いて硬直する女は、俺の動きに対応できない。

 

 殺す!殺してやる!

 

「死ね!」

 

 大きく振りかぶって、拳を振り下ろす。

 

 殴られたのはチャラ男!女を庇ったな!だが俺は攻勢の手を緩めない!胸ポケットから万年筆を素早く抜き、チャラ男の眼球に一突きだ!

 蹲るチャラ男。俺はそれを蹴り飛ばして、再度女に覆い被さる!死ね!殺す!死ね!ああああああ!口!鼻!耳!腹!それを殴る!刺す!

 

「やめでッ、やめッ」

 

 女は何かほざく。

 

「俺はやめない!お前を殺す!俺の人生を終わらせようとしたお前の人生を、俺が終わらす!」

 

 俺は殴り続けた。周りの人間は戦々恐々としていて、誰も止めに入らない。それならそれでいい。ほんとうに殺すまでだ。

 

「ごめんなぎゅッ」

 

 言わせない!死ね!

 

「死ぬまで殴る!お前の最後が後悔と反省と恐怖で染まるようにしてやる!!!!」

 

 女は死んだ。

 

 惨たらしく死んだ。

 

 俺が殺した。

 

 女の死体はぐちゃぐちゃに崩れて、原形を留めていない。

 

 ついでにチャラ男も殺そう。こんなに弱り切ったチャラ男なんて、どうやっても殺せる。首を突いて、血管を裂いた。

 

 チャラ男は死んだ。

 

 すっきりした。とても清々しい気分だ。何だよお前ら、その目は。向かい来る駅員。俺はそれも殴った。殺すほどでは無いけれど、死ぬぐらい殴った。

 

 俺は人垣をかき分けて、道に出る。

 

 あーあ、俺の人生終わったと思ったけど、俺、逃げちゃった。だってまだ終われねえよ。セックスだってまだしたことねえし、ムカつく上司も殴ってねえし・・・叶えたい欲望すげぇある。

 

 きっと俺は警察に追われるだろう。逃げても指名手配されて、探し出されるだろう。そんときは皆返り討ちにしてやる。俺の邪魔をするやつぁ、皆殺しだ!

 

「ははは!はははははは!!!!」

 

 朝霧濃い街の中を、俺の高笑いが木霊した。

 

 

 

 

 後に語られる『鉄槌マン』は、こうして誕生した。彼の道を塞ぎし者、悉く粉砕される。邪悪なる者、討ち滅ぼされるだろう。そんな伝説の数々を残した『鉄槌マン』。彼の辿った道はどのようなものだったのか。乞うご期待!

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