「さて、どうしたものかのぉ」
一人の初老の男性が、玉座の上から会議室を見回して低く唸った。
ここは、アルデス大陸の東に位置する大国、アラフトル王国の王都パーラル。
パーラルは、アラフトルの中央に位置し、国内の交易や政治の中心でもある人口100万人の大都市である。
そして、その王都にある王城の一室では、『あるひとつの問題』について話し合われていた。
国王である、バラモン・アラフトルは、会議室の中にいる有力貴族達にといかけた。
「ここはやはり、聖騎士長に向かってもらうべきでは?」
「それは出来ぬ。あやつらは王都の…。ひいては国の守護こそが役目だ。…おいそれと動かす訳にはいかんのだ。」
一人の貴族が提案するが、国王に一蹴されてしまう。
「では、巫女の予言を信じ、『はぐれ人』を探しますか?」
と、別の貴族が提案する。
それを聞いた国王が、
「フム…。確か予言に出た場所は、ここからすぐ東にあるロウの森じゃったな。」
「はい。ではすぐに捜索隊を編成して向かわせますか?」
「いや、それは最後の手段じゃ。予言の的中率は2割。いなかった場合のリスクが大きい。それに今あの森には、ダイヤウルフがいる…。捜索隊を出しても、被害がでるだけの可能性が大きすぎる…。」
そうやって、国王と貴族達が議論していると、一人の騎士が、あわただしく会議室に入ってきた。
「何事だ?今は会議中だぞ」
「申し訳ございません!ですが、緊急の事態が起きましたので、報告します。」
「いったい何が起きたと言うんだ?」
貴族の一人が苛立たしげに聞くと、騎士は報告を始めた。
「報告します。一月前より、ロウの森に入ってきたダイヤウルフですが、先程、討伐されたのを確認しました」
その報告に一同は絶句した。心なしか騎士の声も震えている。
「ダイヤウルフはAレートの魔獣だぞ?いったい誰が…」
魔獣には、その危険度によってレートが設定されている。下からD~B、その上にA~AAA、そして、S~SSSが存在する。
Aレートの魔獣には万全を期すため経験を積んだ聖騎士が、3~5人は必要である。
つまりそれは、そのダイヤウルフを倒した者は、通常の聖騎士を上回る力を持っていることである。
「では、そうなった経緯を報告してくれ。」
と、最初にショックから立ち直ったバラモンが報告の続きを促した。
「はい。一月前より、ロウの森に入ってきたダイヤウルフを監視するため魔法式カメラを飛ばして監視していたところ、今日の昼頃、一人の平民と思われる少年がいきなりダイヤウルフの前に現れました。
そのあとすぐに、戦闘が開始され数分で倒されました。」
「ウゥム…。その物は最低でも上位の聖騎士に匹敵する力を持っている可能性があるな…。その映像を観ることはできるか?」
「はい。記録したテープを持ってきています。」
「では、見せてもらおう」
バラモンは唸りながらも、報告した騎士に映像を見せるよう指示した。
騎士は指示されるまま、テープを会議室に備え付けられたプロジェクターにセットしてスクリーンに映像を映し出した。
映像を見終わったもの達は皆一様に目を見開き絶句していた。
静まり返った会議室でバラモンが口を開いて言った。
「おそらく、この者が予言に出た『はぐれ人』じゃろう…。今すぐ小隊を編成して向かわせろ。城へ招くのだ」
「了解しましたッ」
国王に命令された騎士はビシッと敬礼し退出していった。
そして国王の目には僅かな希望が浮かんでいた。
◇◇◇
小川の近くの岩の上で寝ていた京介は近づいてくる馬の足音で目をさました。
日は傾き初め夕暮れに差し掛かっていた。
京介は身を起こしながら、足音のする方を見た。そこから向かって来たのは、鎧に身を包み馬に騎乗した騎士だった。
京介が物珍しそうに騎士達を見ていると五人いる騎士の先頭に立っている騎士が口を開いた。
「我々はアラフトル王国の聖騎士である。国王陛下より、貴方を王城へ招くよう指示された。今すぐご同行願えるだろうか?」
「え…?あー。え~と…」
いきなり言われて京介は面食らったがすぐに落ち着きを取り戻して考える。
そして、ひとつの事実を思い出した。
(そー言えば俺、宿も飯もなかったけ…。)
このまま行けば宿と夕御飯にありつけるかもと思い、少し警戒しながらも王城へいくことを了承し騎士の一人の後ろに乗り王城へ向かうのだった。
◇◇◇
一時間もしないうちに京介は城門の前まで来ていた。
城門まで着くと、京介は目の前に建つ城の大きさに息をのんだ。造りは中世のヨーロッパに建っていそうな雰囲気の城で、そんな城の中に入らなければならないことに京介は早くも緊張してきた。
城門を通ったあと、馬から降り騎士に促されるままそのあとをついていった。大理石で出来た廊下を歩きながら京介は騎士に問いかけた。
「あの、このあと俺何するんですか?」
「このあとお前には、謁見の間で国王陛下にあってもらう」
「Oh……。マジですか」
騎士の言葉に京介は一瞬立ち止まり、呆然とした。いきなりこの国のトップと会えと言われれば誰だってこうなるだろう。ここまで来てしまいもう戻れないと思い京介はあきらめのため息をついた。
「あの、王様に会うのにこんな格好でいいんですかね?」
そう言いつつ、京介は自分の服装を確認した。京介の現在の格好はワイシャツにスラックスという出で立ちで日本では別に違和感のない格好ではあるが国王にこの格好で会うのはどうかという疑問が頭をよぎっていた。
「安心しろ。今回の謁見は非公式のものだからそう堅苦しい格好をする必要はない。それに、その服はかなり仕立てがいいから失礼には当たらないだろう」
その言葉にほっとしつつ、京介は謁見の間に通された。
中に入ってまず目に入ったのは玉座。そこに腰掛けているのが国王だろう。見た目は白髪のただの老人に見えるのに、その身に纏う威厳や風格は老いを感じさせなかった。その両脇には豪奢な服を纏った貴族とおぼしきものと鎧に身を包んだ騎士が、控えていた。
沈黙が支配するなかで、国王が口を開いた。
「ワシが、ここアラフトル王国国王バラモン・アラフトルだ。まずはお主がここへ来た経緯から説明しよう」
次回ヒロインが!?