「……どうぞ」
部屋から返事が返ってきた事を確認し、ツムギは本を取り出し目的の頁を開くと小声で何かを呟いた後に、本をしまって室内に入る。
「えっーと、久しぶり、かな?私の事、憶えているかな?」
「とうさまの友達、本とお話していた人?」
「お父様のご友人、コレクターさんですよね?」
「あ、あはは……いろいろとツッコミたいけれどまぁ、憶えているなら何より」
クロエ・オルレアとサクラ・オルレアの2人共に憶えていた事に安堵するツムギ。そしていくつか確認を取り始める。
「そちらの淡白な回答をするのがクロエ、しっかり回答するのがサクラだよね?」
「そうね」
「はい、そうです」
「髪がホワイトブロンドがクロエ、イエローブロンドがサクラ?」
「そうね」
「そうです」
「K、改めまして私はツムギ。キミたちの両親の友人で、まぁ
「……メガネ」
「そのメガネも神域遺物ですか?」
ツムギが姉妹に改めて自己紹介をすると、クロエはツムギのかけているメガネを指摘した。その指摘を捕捉するように、サクラは訊ねた。
「Yes、だからまぁそうだね。キミたちが両親にも隠している事、私に話してみないかい?」
「隠している事なんて、」「サクラ。ツムギは、分かってるわ」
「姉さん…!」
「大丈夫よ。この人はちゃんと、わたしたちをみてくれる。サクラを認めた2人目の人。憶えてない?」
クロエはサクラの目をまっすぐ見て意見する。一方でサクラは気が立っているのか、クロエほどツムギへ信頼を寄せてはいなかった。
「…おーけー、まだ警戒してるみたいだけど、問題を解決するための話をしようか?特にク…いやサクラ、キミは気を張り積め過ぎた。その様子だと、まともに休めてないでしょ?」
ツムギが指摘した通り、気を張り詰めているせいか、サクラに疲弊しているようにみられる。
「気を抜ける訳がないです。姉さんは皆さんに、期待されているんです。だから」
「サクラ、気にし過ぎ」
「ですが姉さん!私の描く絵が認められないせいで、姉さまが描けなくなっていると」
「関係ない。サクラはサクラ、わたしはわたし。それに、とうさまたちは見る目がない」
「そんなはずありません!姉さんは」
「そこまで、そこまで。姉妹共にお互いが大好きなのはわかった。なら早いところ解決するべきだ」
ツムギが2人の会話の間に割って入る。
「一応確認するけどその姿、メイクや変装の類いじゃなくて、入れ替わっている、って言う事で良いのかな?」
クロエとサクラの身に起こった現象は、それは精神の入れ替わり。もっと分かりやすく言うなら、クロエとサクラ、2人の外見が入れ替わってしまったのだ。
リクが話した姉妹の変化。それは2人の外見が入れ替わり、クロエだと思っていた中身はサクラ。クロエっぽい行動をとるクラの中身はクロエなのだから、当然の変化と言える。
だがリクは2人が入れ替わってしまった事には気付かず、単純に『コレクションの神域遺物が原因で不調になったのでは?』と考え、専門家のツムギを呼んだのだった。
「リクからは2人とも原因は分からないと聞いている。けど本当は、心当たりあるんじゃないかな?」
「…ないわ」
「…………」
「サクラ?」
「……さい、姉さん。私の「なんで?」せい……えっ、姉さん?」
「サクラはなんで、わたしに謝るの?」
ツムギが問い掛けると、クロエは少し思案し知らないと答える。一方サクラは無言で俯いた。どうやらサクラには心当たりがあったらしい。
「…私が願ってしまったんです。姉さんの様になりたい、と」
部分解説
~~ある姉妹の話~~
姉は物心付く前から絵を描いており、絵を通して自身の感情や想いを伝えていた。その結果、姉と言う稀代の天才を生み出した両親は、妹も同様に育てようとする。
がしかし、上手くはいかなかった。妹には才能があり賢くもあったが、姉の才能には遠く及ばなかったのだ。
その事はすぐに広まり、両親を含め殆どの人たちは妹には才能がない、所詮は劣化品と判断した。姉と言う大き過ぎる才能と比べ勘違いをしたのだ。
幸いなことに妹は、絵を描く事を嫌いにはならなかった。敬愛していた姉が自身の絵を好きだと言ったから。
しかし周囲の人たちは、姉と妹を比べては落胆する。妹は嫌だった。勝手に期待してその作品が、姉程では無いと分かると勝手に落胆する。
次第に自身の活動は消極的になり、持ち前の賢さで姉を支え補佐する事を選んだ。敬愛で劣等感に蓋をして、姉と競うことを避けてきた。