テンプレ系裏ボス少女 作:るて
「――これでっ……終わりだぁぁあああ!!!」
その剣戟は、ただ縦に。
純粋に真っ直ぐに『降ろす』その一撃が、確かに目の前の――《魔王》の肉体に沈み込んだ。
「……ふ、ふはは――はははは!!!」
ブチリ、と。気味の悪い音をたてて、そして《魔王》の肉体は断ち切られた。
肩口から脇腹にかけて駆け抜けた一閃は、致死のそれ。ダクダクと流れ出す青い鮮血が地面を濡らす。
「なにが……可笑しい」
だから《勇者》は、ラドラは視線を強めて、死に体の《魔王》へと語りかける。
「いや、な。まさか――
段々と抜けて行く。段々と段々と、風船が萎むように。その肉体を《魔王》足らしめていた力が、圧して、捻れて――消えて行く。
だから、目を見開いたラドラの手は空を切る。
「──まて《魔王》!!お前の後ろに、まだなにかが――」
「それを、答える……義理は……無い――な」
フッ、と。瞬きの間に、魔王は最後の吐息を吐ききった。
弾けた果実のように魔王の肉体が霧散し、滲み消え去る。
「くっ──そ!最後に爆弾を残しやがった!!《魔王》!! 一体誰が後ろに――」
「――おや?」
その瞬間、響き渡るのは酷く間の抜けた声。散歩中にふと気になる物を見つけた――そう形容してもおかしくないほど脱力しきったその響きは、今この場にはあまりにも似つかわしくなかった。
「……なっ」
いつの間にか、その少女は当たり前のようにそこにいた。
ありふれた黒髪。ありふれた茶色の瞳。町娘が身につけそうな、ありきたりなその服装。凡庸で汎用な変哲もないその少女は、不思議そうに首をかしげる。
「おやおやおやぁ? 可笑しいですねー……少々
「……君、は……いや、お前は」
思わず漏れたその声が、少女の耳に届き。そしてやっと――やっと少女はラドラを認識した。
目を大きく見開いて、少女は驚きと納得のうめき声を発する。
「おおおお――! なるほどなるほどぉ! これはなるほどですねー!!」
「一体……お前は――」
「ほほぅ……今代は気がお早いようですね《勇者》様? 私ですかぁ?
まぁまぁまぁ、気になるかも知れませんがぁ――今は水に流しましょう!!」
パン、と手が鳴り世界を揺らす。小さな小さなその揺れは、響き揺らがし反響し――そして小さな小さな
それは世界にとって極々小さな――だが、人間にとっては大きすぎる物で。
「──……あ、あぁ。そう、だな」
「でしょぉー?
《魔王》を倒せた! 世界は平和に!! 故に私がここにいる! さてさて、他に何を心配することがあるんでしょうかねぇ?」
「……無い、な」
「でしょー?」
にこにこと。不気味な程に愛想よく。言葉一つが清廉潔白、清く正しく。なんの威圧感も無いその少女の言葉に、ラドラが納得するのも
「さてさてさてぇ……面白い物も見れたことですしぃ! 私はそろそろ帰りますねー……《勇者》様もぉ――お迎え、来たみたいですよぉ?」
クルリと反転背中を前に。ワンステップで少女はラドラに背を向ける。
そしてかけられた言葉に、思わずラドラは後ろを向いて――。
「ラドラ様ーー!!」
「なに先走ってんだ!!」
そこにいたのは、仲間である《聖女》と《剣聖》。一組の男女が駆け寄るのを認め、安堵のため息を漏らし――思わず気を抜いたことを悟り。
「――ッ」
そして、咄嗟に振り向いた後ろには何も無く。
――少女は、跡形もなく姿を消していた。