ネタを知っている人なら察してしまう
おみまいするぞー!撃ち抜くぞー!
「とーほくって料理出来るのか?」
放課後の何気ない日常の何気ない会話。
「料理ですか?お湯を入れて3分で作れるラーメンであれば出来ますが」
「それって料理って言うのか?」
「そう言う音街は…確か料理出来ますね、テレビでやってましたし」
音街は毎日夕方に放送しているお料理の教育番組
「ウナちゃんのミラクルクッキング」に出演している。
内容は様々な料理をしたり、時にはストーリーもあって歌って踊ったりする番組だ。
ちなみにきりたんは再放送分も含めて毎日欠かさず視聴している。
「そーだぞ!ウナの手にかかればカレーも肉じゃがもシチューだってあっという間に作れるぞ!」
胸を逸らせて自信満々に言う音街。
「いや、3つとも味付けが違うだけで具材は一緒じゃないですか」
呆れたようにきりたんは言う。
「じゃあ、とーほくは作れるの?」
「…カレーならこの前の家庭科で作ったじゃないですか」
「ウナが覚えてる限りだととーほくはお皿の用意と片付けしかしてなかったような…」
「料理は見た目も大事ですからね、綺麗なお皿であればより美味しくなるじゃないですか」
「でもそれ調理じゃないじゃん!!」
音街はツッコミを入れる。
「む…そこまで言うなら、カレーくらいご馳走しますよ」
「レトルトってオチじゃないよね?」
「勿論1からですよ音街、覚悟しといた方がいいですよ、あまりの美味しさに服が脱げるかもしれませんから」
「脱がないし、脱げないからね‼︎」
〜数日後、東北家台所〜
「さあ早速作りましょう」
張り切るのはエプロン姿のきりたん。
「なあ、本当に手伝わなくて大丈夫なのか?」
心配そうに横にいるのは音街。
「今日は音街に私が料理出来るということを証明しますから手伝って貰っては意味がありません、音街は居間で待っていて下さい」
「うーん分かった、待ってる」
不安気な顔を浮かべながらも居間へと向かってく音街。
そんな音街の背中を見届けたきりたん、早速調理にとりかかる。
(まずは、野菜とお肉を切りますか)
用意した具材を包丁で切っていくきりたん。不器用なのか形は不揃いなものばかりが出来上がる。
(おかしいですね、予定ではもっと綺麗に切れているはずでしたが…まあ味には問題ないでしょう)
その後は鍋に具材を入れて炒めてから水を加えて煮込む。
しばらく煮て、あくを取った後、いよいよルーを入れる段階できりたんはある行動に出る。
(普通のカレーを作っても音街は驚かないですからね、これを加えましょう)
きりたんが持ち出したのはヨーグルトである。
(ヨーグルトを加えると辛さを抑えまろやかに仕上がると本にも書いてありました)
鍋の中にヨーグルトをひとパック分加えていく。
〜数分後〜
(香りは…ふむ、問題無さそうですね)
その後、ルーの素も加えた鍋からはカレーの良い香りがしている。
「早速よそいましょう」
きりたんは完成したルーを白米がたっぷり乗ったお皿にかけていく
「うーん、完成はしましたがこれではただのまろやかヨーグルトカレーですね、音街に出すにはまだインパクトが足りないような気がします」
カレーを見ながらそう思うきりたん、何かないかと考える。
(福神漬けやらっきょうでは普通ですし、もっとこう、我が家のカレーみたいな…我が家の…そうだ!あれがありました)
きりたんは冷蔵庫から[それ]を見つけるとお皿に盛りつけた。
(さあ後は音街に食べてもらうだけ、やっぱりカレーなんて簡単じゃないですか)
きりたんは自信満々に完成したカレーを持ち、音街の待つ居間へと向かっていった。
〜東北家 居間〜
「さあどうぞ、きりたん特製カレーです」
きりたんはテーブルの上に完成したカレーライスを置く。
「おお、待ってたぞ!…ってとーほく、これ何?」
スプーンを持ったまでは良いが、目の前に置かれた料理に音街は手が止まる。
「何ってカレーですよ」
「それは分かるんだけど、このルーの上に乗っているのは何?」
出されたカレーライスには緑色の物体が盛られていた。
「何ってずんだですよ?我が家では必ずと言って良いほど食卓に並びますから」
「ああ、やっぱりずんだなんだ」
音街はずんだが出てくる事はある程度予測はしていたのでそこまで驚きはしなかった。
「さあ早く食べてみて下さい、美味しいですから」
「おおそうだな、いただきまーす!」
スプーンでカレーを掬い口へと運ぶ、その瞬間音街の動きが止まった。
(ん?なんか酸っぱい…)
口に広がるのはカレー特有のスパイシーな味ではなく食べた事のない謎の風味だった。
(待って、何これ酸っぱいと思ったら急に不気味な臭いが口の中に広がってきて、更にずんだのほのかな甘さがルーと全然合ってなくて…駄目、これ美味しくない!)
辛くもないのに汗が出る、飲み込めない、とはいえ友人が作ってくれた料理を吐くわけにはいかない、数秒が数分にも感じる葛藤の末、ようやく最初の一口を飲み込んだ。
「どうですか?音街、美味しいでしょ」
「そ…そうだな、なあとーほく、味見とかはした?」
「いえしてません、カレーですから味は決まっているようなものですし、もしかして薄かったですか?」
「そう言うわけじゃ…あともしかして何だけどずんだ以外に何か入れてる?」
「よく気づきましたね、実はカレーにはヨーグルトを入れると味がまろやかになるとレシピにあったので入れたんですよ」
「へ、へー…それってどんなヨーグルト?」
「どんなって普通のよくあるヨーグルトですよ」
きりたんは立ち上がると台所からヨーグルトを持ってきた。
小さい容器のヨーグルトにはこう書かれていた
【カルシウムたっぷり!甘々ミルクヨーグルト】
「それだーーー!」
音街は声を上げる
「どうしたんですか突然大きな声を出して」
ここで話は変わるが料理下手の3箇条というのをご存知だろうか。
1 正しい材料を使わない
2 味見をしない
3 アレンジを加える
簡単に言えばレシピを守らないと言う事だ。
今回で言うとプレーンヨーグルトを使用するところで砂糖たっぷりデザートヨーグルトを使ってしまった事。
ヨーグルトを鍋に加える前に、小皿に少量のルーとヨーグルトを入れて味見をしなかった事。
そしてトドメと言わんばかりのミスマッチなずんだ盛りつけ。
きりたんは見事、料理下手3箇条を見事に守り抜いてしまった。スリーアウト、役満である。
〜閑話休題〜
「…つまりヨーグルトは甘いものではなく何も入ってないプレーンを使うべきと」
「そうだぞとーほく、というか何で甘いのにしたんだ?」
「私、辛いの苦手ですから甘い方入れたらより甘くなるかなと」
「とーほくぅ…」
「第一、ヨーグルト1個で味なんてそんな変わりませんよ、では私も一口…」
そう言いながらきりたんはカレーをスプーンで掬い口へと運ぶ。
「ど…どうだ、とーほく?」
音街はスプーンを口に咥えたまま動かないきりたんを心配そうに見る。
数分後、ようやく動き出したきりたんは喋り出す。
「オ…オイシイデス」
「無理するなとーほく!涙目で言っても説得力無いぞ!」
「イヤァホントオイシイデスヨマダタベレマス」
「やめろぉ!とーほく、やめてくれぇ!」
音街はきりたんを羽交い締めにして止める。
「ごめんなさい、本当は料理出来ないんです見栄を張りました」
「うんまあ、そんなところだとは思ってた」
互いに正座して向き合う2人。
「でも、きりたんがウナの為に頑張って作ってくれたのは嬉しいし、それは1番伝わってる。ウナだって初めから料理が出来たわけじゃないからさ、今度は2人で一緒に何か作ろうよ!」
音街は笑顔できりたんの両手をそっと握る。
「音街…そうですね、なら今度は甘い物を作りたいです!」
「良いね!パンケーキにブラウニー、スコーンでも何でも作ろう!」
和気藹々と話す2人、しかし突然2人とも真顔になる。
「「まあその前にこれどうしようか…」」
2人の前にあるのは先程よそったカレーライスと鍋に残ったカレールーである。
「食べ物を残すはのよくないからなー」
「というか、こんなに残した挙句、ずんだの無駄遣いがバレたらずん姉様に〆られます」
「「…」」
少しの沈黙が2人に流れる。
暫くののち、きりたんが口を開く。
「元々は音街の為に作ったカレーです、どうぞ遠慮なく食べてください」
スッと音街の方にカレーを寄せる。
「いやいや、とーほくが作ったんだからとーほくが食べようよ」
音街はきりたんの方にカレーを寄せる。
「音街、これは大変貴重でありがたいJSの手料理ですよ、食べない手はありません」
「それ言うならウナもJSだからね!?そうだ!ウナがあーんして食べさせてあげるからとーほくが食べよう!」
「くっ…魅力的な提案ですがこのゲテモノに対してのリスクとリターンが合ってません」
「ゲテモノって言った!今、ゲテモノって言った!」
互いに不味いカレーを押し付け合う争いが行われる。
「仕方ありません…あれで決着をつけますか」
「どっちが勝っても恨みっこ無しだぞとーほく」
「ルールは2回勝ち越しでいきましょう」
2人は携帯ゲーム機を取り出し、構えた。
「負けないぞ、ピ◯チュウ‼︎」
「かかってこい!リ◯ク‼︎」
まさに(胃が)やるかやられるかの大乱闘が幕を開けた。
戦いは苛烈を極め、勝っては負けてを繰り返す。最終的には青春漫画の如く互いの腕前を認め合い、半分ずつ食べようとなった。
その後しばらくの間「ウナちゃんのミラクルクッキング」は再放送がしばらく続いていたとか。
きりたんは元気だった。