ネプテューヌの仕事にネプギアと一緒に同行させてもらうことになった私は二人の案内でギルドと呼ばれる建物の中に入った。ここでクエスト、言い換えると国民からの依頼を受けてそれを達成することがネプテューヌの仕事みたい。ネプテューヌが受けたクエストはレツゴウアイランドという場所のモンスター退治。
ネプテューヌが受付で手続きを済ませている間にネプギアが簡単に説明をしてくれた。ここで受けられるクエストを達成することで得られる物についてだけど、クエストの内容に応じた報酬金は勿論、日常生活の役に立つ道具や物を開発するために必要になる様々な素材が得られる。クエストを受注する理由はそれら報酬の獲得もあるが、ネプギアはシェアを上昇させるためだと言う。
それについてはアリアが教えてくれた。シェアと言うのは国を守護する女神に対する信仰心のこと。女神の力はシェアに比例する形で増減するので非常に重要な要素と言える。ネプギア達と同じ女神になっている私も何かクエストを達成してシェアを得ることで力があがったりだとか他にもいいことがあるみたい。
病室でネプギア達に聞かせてもらった話だと記憶を失う前の私も色々なモンスターと戦っていたようだけど、戦い方を忘れている今の私がモンスターに挑むのは自殺行為もいいところ。今回は見学させてもらうしかないかな。クエストについての理解を深めたところで目的地であるレツゴウアイランドに向かうことに。
到着したところで辺りを見渡してみると、奇妙な生物が多数確認できる。座布団に座って浮遊している骸骨、飛行機にも見える乗り物に乗っているおじさん、オレンジ色で顔にブーメランが食い込んでいる小さい人。各々で独特な特徴を持っているこれらの生物がモンスターなのだ。もっと見た目が怖いのかなと思ってたけど、いい意味で私の予想を裏切ってくれた感じかな。
「よーし、みんな叩っ斬るよー! 舞はネプギアと離れたところから見てるだけでいいからねー」
ネプテューヌの手に蒼い光が集まると二つの長剣が現れる。片方は白金色、もう片方は漆黒色の刀身を持っている。どうやら対になっているみたい。ネプテューヌは二つの長剣を握って駆け出すと流れるような動きでモンスターに攻撃を加えていく。モンスターもただではやられまいと反撃をしているけど、全くと言っていいほど当たっていない。ネプテューヌに完全に見切られて攻撃を避けられていた。
「わたしに勝とうなんて一万年と二千年早いよー。ジャンピングアーツ!」
長剣による斬撃と蹴り技による打撃を組み合わせた連続攻撃。それを受けたモンスターは光となって消滅した。粗方潰し終えると今度は別のモンスターが姿を現した。逆立った白色の毛皮と鋭い爪を持った巨大な狼。さっきまで相手にしていたモンスター達とは雰囲気がまるで違う。
「こいつで最後だね。舞も見てることだし、この辺りで本気出しちゃおうかなっ。というわけで括目せよっ!」
ネプテューヌの体が光の柱に包まれる。光が弾け飛び、中から現れたのは深紫色の髪を持ち、黒に紫のラインが入った鎧のような物を纏った女性。
「ネプテューヌ…なの?」
「あれがお姉ちゃんが女神化した姿で、このプラネテューヌを守護する紫の女神、パープルハートです」
革新する紫の大地が守護女神、パープルハート。昨夜のアリアとの会話の中に出てきていたことを思い出した。私もあんな感じに変身することができるのかな? 今の私にはやり方がわからないから試しようがないけど。
「一気に決めさせてもらう」
ネプテューヌの髪の色が黒色に、身に纏っている鎧の色が淡い青緑色に変わる。それは激しい明滅を繰り返していて、体からはバチバチと音を立てる紫色の小さな光が漏れ出していた。女神化による外見の変化に加えてさらなる変化を見せてくれたネプテューヌに私は驚きを隠しきれなかった。
「お姉ちゃん、完全に本気モードだよ…」
「あれは女神化とはまた違うの?」
「はい。お姉ちゃんの固有能力で紫電という力ですね。どんな能力なのかは見ていればわかる…かな? また改めて説明しますね」
私はネプテューヌと白い狼との戦いに目を移す。この際だから正直に言わせてもらおうかな。動きがまるで見えない。ネプテューヌが二つの長剣を白い狼に向けたと思った瞬間に攻撃が終了していたのだから。白い狼は何が起こったのか理解できていないみたい。私も同じ。本当に瞬間移動にしか見えない。
「ネプギアは見えてるの?」
「見えてますよ。舞さんにもまた見えるようになると思います」
記憶を失う前の私はあの動きを見切っていたのか。悪い人に連れ去られる前の私は本当に何をしていたのかな? 考えていると内にこの戦いも終わろうとしていた。白い狼の体には無数の傷が刻まれていて、そこからは蒼い光が漏れ出している。
「これで決めてあげるわ。紫電の舞【鳴神】…!」
ネプテューヌは紫の雷を纏わせた二つの長剣で舞い踊る。白い狼はその美しき剣舞に身を斬り裂かれ、光となって消滅する。私はネプテューヌの紫電の舞に自然と心を奪われていた。再びネプテューヌの体が光の柱に包まれ、光が弾け飛ぶと元の姿に戻っていた。
「次回も! わたしの活躍に乞うご期待っ!」
モンスターを全滅させたネプテューヌは私達の方に向かってピースを決めていた。無事にクエストの目的を達成したのでプラネテューヌのギルドに戻って報告を行う。目的を達成したら報告を行うことでクエストクリアとなる。この流れを頭の中に入れておきたいところかな。教会に帰ると今度はネプテューヌとネプギアの部屋に案内された。
「働いた後にはプリンを食べないとね!」
ネプテューヌとネプギアの部屋には何と冷蔵庫が備え付けられていた。ネプテューヌは冷蔵庫からプリンを三個取り出すとテーブルの上に置く。プリンが入っている容器のふたにはピンクのマーカーで『ねぷの』『ぎあの』『まいの』と書かれていた。
「念のために聞いておくけど、これは私のプリンでいいのかな?」
「うん。まいのって書いてあるでしょ? 舞がこの教会に帰ってきた時のために用意してたんだー。遠慮せずに食べていいからね?」
「じゃあ…いただきます」
容器のふたを開けてスプーンを使って一口。甘味が口の中いっぱいに広がった。確かに疲れた時にはいいかもしれないね。だからと言って食べ過ぎは禁物と言ったところかな。それでお腹を壊したら意味がない。三人でプリンを食べて寛いでいると部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「ネプテューヌさん、ネプギアさん。イストワールです」
「いーすんが来たってことはまた別の仕事かなぁ? ちょっと待ってねー」
ネプテューヌがドアを開けると本に乗った小さな人が入ってきた。誰かな?
「いーすんさん、何かあったんですか?」
「すみません。今日中にどうしても決裁をいただきたい書類がありまして。クエストから戻られたばかりのところ申し訳ありませんが見ていただいてもよろしいですか?」
「ネプギア、先に見てあげてよ」
「わかった。いーすんさん、見せてもらってもいいですか?」
「ありがとうございます。こちらの書類なんですが…」
ネプギアは眼鏡をかけるとイストワールから預かった書類に目を通していく。
「はぁ…。プリンを食べた後にこれを使うのは嫌なんだけど、仕方ないよね…」
ネプテューヌは目を閉じる。数十秒後に何かが弾けるような音が聞こえた。再び目を開けたネプテューヌの瞳の色は変わっていて、電源ボタンのマークが浮かびあがっている。確かさっきの戦いで見せてくれた女神化の時もこんな目をしていたような? でもさっきと違ってネプテューヌの姿は変わっていない。
「ネプギア、確認できたらわたしのところに回してちょうだい」
「わかった。いーすんさん、すみません。ここはどういう意味でしょうか?」
「はい。ここはですね…」
ネプテューヌの口調も女神化した時の物に変わっていて何だか奇妙な違和感がある。
「あの…。女神化…してるの?」
「ええ。さっき見せた女神化と違ってこれは姿を変えない特殊な女神化よ。事務仕事の時はこれを使って早めに片付けるようにしているの。舞もわたしと同じことができるはずよ。この際だから一度試してみたらどうかしら?」
「やり方がわからない…」
(私が教えるよ。舞、目を閉じて意識を集中してみて)
「…」
(体の内に何か温かい物を感じない?)
「これかな…?」
(思い出を失っていても飲み込みが早いね? 舞が今感じているそれがシェアの力。それを一気に体の外に放出するとさっきの戦いでネプテューヌが見せてくれた女神化ができるよ。でも今回は外に出したら駄目。それを意識して集中を続けてみて)
「…」
一分ほど経つと再び何かが弾ける音が聞こえた。
「前よりは時間がかかっているみたいだけど、記憶を失った状態で物にするのは流石と言ったところかしら?」
(もう目を開けても大丈夫だよ)
「何だか不思議な感じ…」
「お姉ちゃん、書類見終わったよ。あれ? 舞さんの髪が銀色になってる…」
「本当に?」
ネプギアの言葉に後ろから髪を持ってきて確認してみると確かに銀色になっていた。確か私の髪の色は黒だったはず。ネプテューヌと同じ女神化をしたことで髪の色が黒色から銀色に変わったのかな?
「あの女神化をアリアが教え直したら一度で物にしたわ。ネプギア、それに目を通したいから貸してもらえる?」
ネプギアから書類を受け取ったネプテューヌは書類に目を通す。全ての書類に目を通して不備がないことを確認したところで机の引き出しから判子を取り出して書類に押印する。最後にサインをしてイストワールにそれを手渡した。
「これでいいかしら?」
「はい。ありがとうございました。それにしてもお二人とも、本当にいい意味で変わられましたね? いつまでも二人揃ってだらけていたあの頃が嘘のようです。今日のところはこれで自由にしていただいてもいいですよ?」
「なら、そのお言葉に甘えさせてもらうわ」
ネプテューヌが再び目を閉じる。もう一度目を開けると元に戻っていた。
「あー。疲れたぁ…。もう一個プリン食べようかな…」
「お姉ちゃん、食べ過ぎるとお腹壊しちゃうよ?」
「それは嫌だなぁ…。夕飯まで我慢するしかないか…」
「あと数時間の辛抱だよ。舞さん、その女神化を解くにはもう一度目を閉じて気持ちを落ち着かせてください。それで髪の色も元に戻るはずですよ」
「わかった。やってみるね?」
ネプギアに言われた通りに目を閉じて気持ちを落ち着かせる。念の為、髪を後ろから持ってきて確認すると黒色に戻っていた。
「戻ったみたい。教えてくれてありがとう。その人がいーすんさん?」
「正式な名前はイストワールと言います。またこうしてあなたの元気な姿を見ることができてとても嬉しいです。ネプテューヌさん達は私の事を略してそう呼んでいますね。舞さんも好きなように呼んでいただいて構いませんよ?」
「じゃあ、イストワールって呼ばせてもらおうかな?」
「ふふっ。舞さんならそう言うと思っていましたよ。一つ聞かせていただきたいのですが、舞さんは今のご自分の状態をどこまで把握されていますか?」
「今の私はネプギア達と過ごした記憶を失っていることは理解しているかな。それとアリアに教えてもらったんだけど、今の私はネプテューヌやネプギアと同じ女神になってるんだよね?」
「そこまでご存知でしたか…。おっしゃっていただいた通り、今の舞さんはネプテューヌさんやネプギアさんと同じ守護女神です。銀の女神シルバーハート。それがあなたとアリアさんの女神としての名前ですね」
「シルバーハートか…。女神の私もクエストとかしたほうがいいのかな? アリアはネプギア達と一緒にいれば記憶は自然と戻るって言ってるけど、私自身も何かしないといけないと気がするんだよね。ただ一緒にいるだけじゃなくてさ」
「そうですか…。先程はネプテューヌさんのクエストに同行すると聞いたので戦闘への参加は禁止させていただきましたが、舞さんがそれを望むのであれば私はもう止めません。今のあなたは何物にも縛られない自由の女神でもあります。やってみたいと思ったなら挑戦してみればいいと思いますよ。何か困ったことがあれば、遠慮せずに私やネプテューヌさん、ネプギアさんに頼ってください。特にネプギアさんは舞さんと一緒にいた時間が一番長いですから頼りになると思います」
「わたし達はこれまで舞さんにいっぱい助けられてきました。だから、今度はわたし達が舞さんを助ける番です」
「ネプギアだけじゃなくてわたしにも頼ってよね! これでもわたしはネプギアのお姉ちゃんなんだから!」
「ありがとう。私って仲間に恵まれてるんだね。色々なことがわかったことだし、今日の夜に一度考えてみるよ。今の私にできること、やりたいことを」
きっと私は今のままでは駄目なのだと思う。ネプテューヌ達は隣の部屋に私を案内してくれた。どうやらこの部屋は私とアリアの部屋みたい。二つある机の上にはパソコンが置いてある。
机の引き出しを開けてみるとアルバムが出てきた。中には私がネプギア達とコスプレをしている写真や水着姿やメイド姿で五人で並んだ写真などがあった。今の私の頭の中には残されていないけど、みんなと過ごした思い出の形が確かにそこにあったのだ。
一人で考える時間がほしいということでネプギア達には申し訳ないが部屋を出てもらった。目には見えないがアリアもいるので正確には二人になるが。私は今の自分に何ができるのか、本当にやりたいことは何なのかを考える。私はアルバムに綴られた思い出の写真を見ながら思考を巡らせているうちに時間はあっという間に過ぎて行き、夕飯とお風呂を済ませた後もそれは続いていた。