今の私にできること。そして私がやりたいことの答えを見つけるために部屋に籠って思考を巡らせ続けていると時間はあっという間に過ぎて、気がつけば日付が変わる直前になっていた。少し眠気も出てきたので、思い出が綴られたアルバムを元の引き出しの中に戻した私はベッドに敷かれた布団の中に潜り込む。
(最初に会った時はベッドが舞の分しか無かったから舞と一緒に寝てたこともあったなぁ…。実は誰かと一緒の布団で寝るのってあの時が初めてだった)
「そんなこともあったんだね。その時はよく眠れたの? 私、寝相はいい方だとは思ってるけど、布団を蹴っ飛ばしたりだとか、自分だけ布団に包まってたとか。アリアに迷惑をかけてたりしてなかった?」
(全然。一人で寝る時と違って一緒に寝てる舞の暖かさも感じることができた。私が驚いたのは次の日の朝のことさ。舞があんなに早い時間に起きるとは流石に予想ができなかったからね)
「私はそんな早い時間に起きて何をしていたのかな?」
(朝練だよ。戦いで使う武器の扱いと魔法の練習。みんなで一緒に一生懸命頑張っていた。努力を積み重ねることで舞達はどこまでも成長を続ける。私はそんな舞達の姿を見るのが好きになったの。教える側だったこともあってね)
「なら、もう一度私に戦い方を教えてくれる?」
(勿論だよ。自分もネプテューヌやネプギアちゃん達と一緒に戦えるようになりたい。その願いを現実にするためにも私が教えられることは全て教える)
アリアの言ったようにネプギア達と一緒に過ごしていれば奪われた私の記憶は何かのきっかけで元に戻るのかもしれない。でも、ただ一緒にいるだけでは駄目だと思った。そこでネプギア達に病室で聞かせてもらった思い出話を振り返ってみる。
一緒にモンスターや悪党に立ち向かうなどの何かしらの戦いの話があったことを思い出した。このことから辿り着いた結論が記憶を失う前の私はネプギア達と一緒に戦っていたということ。今は助けてもらってばかりだけど、もう一度自分の力でネプギア達の隣に立てるようになりたい。一緒に戦えるようになりたい。それが数時間考えた末に私が出した答え。一緒にクエストに行って戦いを経験すると記憶を取り戻す近道になるのではないかと思ったのだ。
だが、今の私はあまりにも弱すぎる。いかに強力な女神の力があったとしても、それを自由に使いこなせなければ持っている意味が無い。どうやら記憶を失う前の私は朝早くに起きて練習をしていたみたいだから、明日から早速試してみようと思った。
(これからの方針も決まったことだし、明日に備えて今日はもう寝よう? お話の続きならあの世界でもできるから)
「わかった。また色々教えてくれると嬉しい」
目を閉じて意識を手放す。明日からは色々な意味で忙しくなりそうだ。現実世界で眠りに就いたところで今度は私とアリア。二人だけの世界に移る。
「さて、現実の体がお休みになったところで、今回はこの世界に関する基礎的な知識を教えるよ。私達が今いるこの世界は超次元ゲイムギョウ界と呼ばれる世界で、四つの国によって構成されている。その四つの内の一つは紫の女神パープルハートが守護するプラネテューヌ。現実の私達がいる場所だね」
「残りの三つの国にもネプテューヌとネプギアのような女神がいるの?」
「察しがいいね。ネプギアちゃん達と一緒にいたユニちゃん、ロムちゃんとラムちゃんも舞と同じ女神。その四人は女神候補生と呼ばれている。言い換えれば女神の妹ってことだよ」
確かクイズコーナーで出た問題では黒の女神の妹がユニ、白の女神の妹が○○と○○のように三つの選択肢が二人の人物を選ぶ形になっていて正解がロムとラムの二人だった。それを思い出したところでアリアの講義は続いていく。
残る三つの国は黒の女神ブラックハートが守護するラステイション、白の女神ホワイトハートが守護するルウィー、緑の女神グリーンハートが守護するリーンボックス。ここに私達がいるプラネテューヌを加えることで四つの国が出揃う。忘れないようにノートに纏めたいところではあるが流石にこの場には無いので諦める。確か机の引き出しの中に入っていたから、これまでに得た情報は忘れないうちに残しておこうと思った。
「今の情勢を簡単に説明させてもらうと四つの国の女神はある戦いに備えてシェアを上げている。ネプテューヌがクエストに行っていたのもその一環なんだよ」
「ある戦いって…?」
「舞が病室で見ていた番組に出てきたニュースを覚えているかな? 犯罪組織マジェコンヌの四天王が復活したって話」
確か要求に従わなければ国民を皆殺しにすると言う声明を出してきたという話だったかな。あの時は世の中を混乱させるために馬鹿なことを言っているだけなのかなと思ったからあまり気にしてはいなかったけど。
「奴らは銀の女神シルバーハート、私達の身柄の引き渡しを要求してきている。復活した奴らを倒さないと私達だけじゃない、全ての国民は殺されて、世界も壊されてしまう。奴らの背後に控えている存在にはそれができるだけの力があるからね。奴らが指定した期間は十日間あるからネプテューヌ達はその期間を最大限に利用してシェアを高めているの。九日目になったら攻勢に出る作戦で各国では準備が進められている。これが今の世界の情勢だよ。残された時間はまだあるけど、決して余裕があるわけでもない」
「私が記憶と元の強さを取り戻せばそいつらを何とかできる?」
「できるよ。まぁ、正直言わせてもらうと新しい能力を習得したネプテューヌ達だけでも十分な気もするけど、実際の戦場では何が起こるかわからないからね。不測の出来事が起こり得る可能性を完全に断つためには私達も参戦する必要があると言ったところかな。だから明日から戦いが始まるまでの期間はできる限りでいい。ネプギアちゃん達と一緒にクエストに行ってみてほしい」
残された期間で私が記憶と元の強さを取り戻せば、ネプギア達と一緒に前線で戦うことができる。取り戻せなかった場合は残念ながら残るしかない。みんなが一生懸命戦っている中で私達だけがお留守番というのは絶対に嫌だ。何が何でも失った物を全て取り戻してみせるという決意を固める。
「残された期間が少ないからと言って焦る必要は無いよ。無茶をして怪我をしたら、本末転倒だからね。大丈夫。舞には私だけじゃない。みんながついてるから。また一緒に頑張って結果を積み重ねて行けばいいんだよ」
「アリア…。わかった。私、頑張るよ。戦いが始まるまでに間に合うかはわからないけど、残された時間は自分にできることを精一杯頑張るから。最後にもう一つだけ教えてほしいことがあるんだけど、聞いてもいいかな?」
「何かな?」
「どうすればアリアと現実の世界でも触れ合えるようになるの?」
「私の本来の姿は舞の目に映っている姿なんだけど、この姿で現実世界に顕現することはもうできないかな。シェアがある程度溜まったら別の形で姿を見せることはできるかもしれないけど」
「じゃあ、私が頑張れば姿を表せるようになるかもしれないんだね」
「まあね。流石に私もこの世界だけでしか触れあえないのは嫌だから何か方法を考えてみるよ。舞は自分のやりたいことに集中してよ。何か方法が浮かんだら声をかけるからさ。それまでは待っていてほしい」
「わかったよ。今日も色々教えてくれてありがとう。今回はここまでかな?」
「そうだね。続きはまた現実世界でしよう。それにしても本当に舞って優しいよね。私が男の子だったら確実に落とされてるよ…」
「そうかなぁ…? 一応褒め言葉として受け取らせてもらうよ」
その言葉を最後に再び私の意識が遠のいて行く。病室で眠った時と同じように次に目を覚ました時には既に朝になっていた。
「ん…。もう朝か…」
布団から出て部屋の壁にかかっている時計を見ると時刻は午前六時を示していた。部屋のカーテンを開けると太陽の光が入ってきた。部屋を出たところにある洗面所で顔を洗って歯を磨いたらまた戻って櫛でぼさぼさになった髪を整える。パジャマから普段着であるパーカーワンピに着替えたら部屋を出る。
「あれ? 舞さん? こんなに朝早くにどうしたんですか?」
私と同じタイミングでネプギアが部屋から出てきた。
「ネプギア? 実は…」
私はネプギアに昨日考えて出した答えを言う。
「そうですか。なら、これから私達と一緒に行きませんか? 私達も朝練は毎日欠かさずにやっているんです。お姉ちゃんが今準備しているのでもう少しだけ待っていてください」
少しの間を置いて部屋の扉が開き、ネプテューヌが中から出てきた。
「お待たせー。あれ? 舞がいる。もしかして…」
「過去の私はみんなと一緒に朝練をしてたみたいだからね。今日からまた一緒にお願いしてもいいかな?」
「やったー! また舞と一緒に練習ができる! じゃあ、早速行こうよ!」
ネプテューヌとネプギアの案内でたどり着いたのはプラネテューヌの街の近くにあるバーチャフォレストと言う場所。何故かモンスターがいない場所なので私はこの場所で練習していたみたい。
「来たのはいいけど何をしようかな…」
(最初に武器を具現化してみようか。どんな物でもいいから自分が使いたい武器の形をイメージしてみて)
「…」
私の右手に銀色の光が集まる。光が弾け飛ぶと右手には銀色の短剣が握られていた。とても軽い。他にも出せるのかな? 私は武器の形を可能な限り思い浮かべてみる。結果、短剣に加えて銀色の銃、ハンマー、槍、大剣と五種類の武器を出すことができた。
「どれか一つを選ばないといけないよね?」
(最初はどれか一つを選んで、ある程度使い込んだら武器種を変えてみるといいよ)
「どれにしようかな…」
私は出てきた武器を見る。過去の私はこの武器達を上手いこと使い分けていたのかな。いつまでも迷っていても仕方ないので直感で五つの中から一つを選ぶ。私が選んだのは銀色の大剣。重さもそれなりにあって片手だと持てないという欠点があるけど、それでも私は大剣を選んだ。特に理由はないけどね。
「おお…。武器を担いだ舞を見るのが凄い久しぶりに感じるよ。大剣だったらわたしが技とか教えようか? わたしも本職は大剣使いだし」
「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「任せてー! 実は舞に見せた武器はこういう使い方もできるんだよね」
ネプテューヌが二つの長剣を重ね合わせる。二つの長剣が光に包まれると代わりに現れたのは一振りの大剣。表面は漆黒色、裏面は白金色をしている。今日の朝練はネプテューヌに大剣の扱いを学ぶことになった。
(じゃあ、ネプギアちゃんはまたあれの練習をしようか。一応あの戦いでも見せてはもらったけど、改めてもう一度見せてほしい)
「はい!」
ネプギアは金と銀の双剣を頭上で交差させると鬼神化を使い、流れるような剣舞を披露する。続けば続くほど速度と火力が上昇する紫の剣舞。
(もう完成形になっているね。今度はある程度まで火力と速度を上昇させたら、鬼神化を解除してみようか。鬼神化によって上昇させた火力と速度を解除した後も維持し続けること。それを意識してやってみようか)
「わかりました!」
通常は鬼神化を解除してしまうと上昇させた火力と速度は初期状態に戻ってしまうが、今度はそれを維持し続ける特殊な状態に挑戦する。実際に舞がしていたゲームにも登場する奥義なので記憶にはあったが、まだ実践には至っていなかったのだ。
朝練に使える時間は約一時間程度。三十分が経過したところで教える側がネプテューヌからアリアに変わった。ネプギアとネプテューヌは女神化して激しく打ち合っている。
(さて、私が残りの時間で教えるのは銀炎の使い方。これは記憶を失う前の舞でも完全に自分の物にすることはできていなかった。私の技を習得してもらうに当たって、この銀炎の扱いは基礎に当たる部分だから頑張って)
私は残りの時間でアリアから銀炎の扱いを学ぶ。この銀炎は武器に纏わせたりだとか、離れた敵に飛ばして攻撃することができるみたい。流石は記憶を失う前の私が完全に自分の物にできていなかったこともあって扱いがとても難しい。
自分の手の中にそれを発生させることまではできるけど、武器に纏わせようとしたり飛ばそうとしたりした矢先に消えてしまったりだとかで上手に運用ができない。今の状態だと戦いに使用することはできないかな。完全に使えるようになるまでは武器のみで頑張るしかない。
(銀炎を作り出せただけでも十分だよ。当面の目標はこれの制御だね。次の機会に頑張って練習しようか)
「わかった。色々と勉強になったよ。また明日もよろしく」
朝練が終わったところで教会に戻って朝食を食べる。
「舞さんも以前のように朝練をされるようになったんですね」
「うん。ただ一緒にいるだけじゃなくて何かをしないといけない気がしたから。ネプテューヌ達はこれからまた仕事なの?」
「そうだねー。復活怪人を何とかするまでは我慢しないと。いーすん、平和になったら少し仕事の量を減らしてよー」
「そうですね。ネプテューヌさんもここ最近はとても頑張ってくれていますから全てが無事に解決した暁には纏まった休暇を取っていただきたいと考えています」
「おー! 流石いーすん!」
「だからと言ってだらけ過ぎないでくださいね。それではお二人に今日の
「私はどうすればいいのかな?」
「舞さんはネプギアさん達の方に加わっていただければと思います。ネプギアさん、ユニさんと共に舞さんの手助けをしてあげてくださいね?」
「はいっ! 舞さんとユニちゃんと一緒にクエストに行くのってあの時以来ですよね」
ネプギアが言っているのはユニと初めて出会った時のことだ。ユニが病室で私に話してくれたことを思い出す。一緒にクエストを受けてモンスター退治をしたこと。
「ノワールと一緒に行くのは三年前のあの時以来だねー。今でも私一人で十分よ! とか言ってぼっちでクエスト行ってたりして!」
「最近はユニちゃんと一緒に行ってるみたいだよ?」
「ナ、ナンダッテー!」
心なしかネプテューヌの顔がいつもと違う表情になっていたように見えた。
「そういうわけですので、これからラステイションに向かっていただけますか? ノワールさんとユニさんには既に連絡を入れていますので」
私達はイストワールから出された