舞達がラステイションを出発した頃、夢見る白の大地ルウィーの教会の近くにある広場で魔法の練習に励んでいる者達がいた。ルウィーを守護する女神ホワイトハートことブランと妹である双子の女神候補生ロムとラムである。三人の女神の魔法の練習を見ているのはかつての魔法大国、煌めく金の大地を守護していた守護女神ゴールドハートことセレナ。
「ブランの方もいい感じになってきたね。魔法の扱いには慣れてきたかな?」
「妹達には流石に敵わないけどね。この杖のおかげで扱いには慣れてきたわ」
ブランの手の中にある杖。見る角度によって様々な色に変化する星形の水晶が先端についた杖は六魔将の一人エリカから受け継いだブランの新たな武器。魔法の行使にかかる魔力の消費の削減、威力の増幅、詠唱を短縮させると言った効果が秘められている。
「私も魔法を教える生徒が増えて嬉しいよ。平和になったらルウィーで魔法学校をまた始めてみようかな…。魔法に憧れを持っている子ども達に魔法の楽しさを教えてあげたい」
「こちらとしても嬉しい提案よ。その時は遠慮せずに言ってちょうだい。全面的に協力させてもらうから」
今代の魔法大国であるルウィーも生まれながらにして魔法の適性を持っている子ども達が多い傾向にある。魔法に憧れを持っている子ども達だが、教える側に立てる人間があまりいないこともあって才能が埋もれてしまっていることが多いのだ。実際、魔法を教えられる人間と言うとブランを補佐する教祖のミナを始め、少人数に限られてきてしまう。守護女神にして魔術師でもあるセレナが加わればルウィーもよりよい方向に発展することが期待できる。
「情勢が落ち着いたら改めて話をさせてもらうよ。さて、舞達も来るから今日の朝の鍛練はこれで終わりにしようか。ロムちゃん、ラムちゃん!」
「はーい!」
少し離れた場所で魔法の練習をしていた少女が練習を止めて走ってきた。桃色と水色が混ざった色合いの長髪を持ち、白色のパーカーワンピを着た一人の少女。このパーカーワンピはプラネテューヌから帰る前に買った物である。
「その姿を見た時は本当に驚いたわ。まさか舞の姿になるとは思わなかったから。これは二人が舞に対して強い憧れを抱いていると言うことなのよね…?」
「二人の強い憧れが魔法の力で現実になった姿だよ。ブランの姿や二人を成長させたような姿を取ることもあるかもしれないね。二人がどこまで成長するのか見てみたいよ」
「もう少しで来るの?」
「昨日イストワールから連絡があったから来るはずよ。その状態で舞に会うつもり?」
「うん。みんなを驚かせてみたい。駄目って言うのなら元に戻るけど?」
「別に構わないわ。止める理由もないし」
魔法の練習を終えたブラン達は教会に戻って舞達が来るのを待つことに。雑談をしながら数十分待っていると教会の扉が開き、舞達がやって来た。
「こんにちは」
「舞お姉さんだ…!」
教会の扉を開けると一人の少女が私に抱き着いてきた。少女の姿に驚きを隠せない。何故なら髪と瞳と身に着けている服の色を除いて私と同じ姿なのだから。
「あなたは誰なの…?」
「驚かせるという目的は達成できたね。こっちの姿ならわかるよね?」
私の姿をした少女の体が白い光に包まれる。光が弾け飛ぶと先程の少女の姿は消えていて、見覚えのある二人の少女が私の前に姿を現した。
「ロム、ラム…!」
「ふっふーん。驚いているみたいね? あれはわたし達が魔法で変身した姿なのよ。色々あったせいで舞に見せることができなかったから、驚かせようと思って準備をしてたってわけ」
「舞お姉ちゃんみたいになりたいって思ったらできるようになったの…。最近はさっき見せた姿でいることも多い…。魔法のお勉強する時とか…」
舞の姿になった時は何とブランの仕事を手伝うこともあると言う。白の女神候補生も成長しているのだ。二人が一人前の女神になる日も近づいている。
「わーっ! アリアさん小さい! さわってもいい?」
私の頭の上に乗っていた小さいアリアは羽を振るわせてラムのところに飛んで行く。ラムが両手を差し出すとアリアは止まった。
「アリアさん、本物の妖精さんみたい…」
ロムは不思議そうな表情でアリアの姿を見つめていた。
「今日はよく来てくれたわね。記憶が戻り始めたと聞いてはいるけど、改めて自己紹介させてもらうわ。わたしの名前はブラン。女神としての名はホワイトハートよ。わたしの隣にいるのが…」
「今の舞から見れば初対面だよね。私の名前はセレナ。女神としての名はゴールドハート。今は各国を日替わりで回っているの。今日は私もお手伝いさせてもらうね」
金の女神と言うのは初めて聞いた。思い出した記憶の中にも出てきていなかった。セレナも私のことを知っているみたい。ということはまだ思い出せていない記憶のどこかで私はセレナと会っていることになる。
「この前は業火の制御の件でお世話になったわね。おかげであの力をきちんと制御できるようになったわ。本当にありがとう」
「どういたしまして。強い力は自分の制御下におけて真価を発揮する物だからね。あれをネプテューヌ達に教えた以上は責任も私にあるもの。今日のクエストで成果を見せてもらおうかな。ネプテューヌもだよ?」
「生まれ変わったわたしの力を見せてあげるよー。今度闘技場で戦うとき時はセレナにも完全勝利できる自信もあるから、近い内にまた戦おうよ!」
「大きく出たね? 簡単には勝たせるつもりはないから。またあの舞台で戦う日を楽しみにしてるよ。さて、ブラン。今日のクエストの説明をお願いしてもいいかな?」
「わかったわ。今日のクエストはルウィー国際展示場のモンスター退治よ。ギルドの報告によると展示場の西側エリアに上位危険種と接触禁止種が確認されているわ。西側はわたし達で引き受けるから舞達には東側をお願いしたい。行けるかしら?」
「大丈夫だよ。私には頼れる仲間がいる。今回のクエストでも記憶を取り戻せるように頑張るから」
「どうやら心配は無いみたいだね。舞と四人の女神候補生。最強の五人も揃ったことだし、早速クエストに行ってみようか。アリア。舞達のことを頼んだよ?」
「任せて。セレナの方も大丈夫だとは思うけど気を付けてね」
私達は教会を出てギルドに向かう。ブランが代表でクエストを受注したところで目的地であるルウィー国際展示場に向けて出発した。北側の入口から街道を道なりに進むと大きな建物が見えてきた。入口が二つあるのでパーティを二つに分けて内部に侵入する。
「舞お姉ちゃん、寒くない…?」
「確かに寒いけど、動けるから大丈夫だよ」
展示場内は割られた窓から入ってきた雪が積もっている上に街中と比べると気温が低い。ここに来る途中にブランから教えてもらったことだけど、ルウィーでは犯罪組織マジェコンヌの活動が非常に活発だったこともあって国際展示場が本来の役割を果たせていない。それが今の私達の目に映る現状なのだ。荒れ果てた展示場内はモンスターの住処と化してしまっている。
この場所を元に戻すことは難しいかもしれないけど、みんなの力を合わせれば何とかなるかもしれない。私も女神として自分にできることをしていきたいと思った。私達は武器を構えるとモンスターに攻撃を仕掛けて討伐していく。私が今回使うのはハンマー。こちらも重量があるので大剣と同じように両手で持つ必要がある。
「はああっ!」
アリアがモンスターに銀の炎を飛ばして隙を作ってくれる。生じた隙を見逃さずにハンマーによる強烈な打撃を二足歩行の猫型モンスターにお見舞いする。振り上げてから叩きつける。アリアから教えてもらった基本的な動作。
「これを受けてみてください!」
ネプギアはブロック型のモンスターに何かを投げつける。モンスターの体に付着したのを確認したところで双剣を振って衝撃波を飛ばす。直撃と同時にモンスターの体が爆発に飲み込まれた。モンスターの体に付着したのはネプギアが開発した爆弾。外部からの衝撃を受けると爆発する性質がある。爆発に飲み込まれたモンスターは跡形も無く消滅した。
「狙い撃つわ。スナイパーモード発動ッ!」
ユニの銃が光に包まれると形が変化した。離れた位置からモンスターを狙撃する。ウサギのドット絵のようなモンスターはユニの銃撃に体を撃ちぬかれて消滅した。ラステイションで見せたブラストモードに加えて初期設定のアサルトモード。三つの形態を状況に応じて使い分けることで戦局を有利に進めるのだ。
「ロムちゃん、わたし達も行くわよ!」
「わかった…!」
ロムとラムは太陽と月の杖を交差させる。二人の体が白の光に包まれる。光が弾け飛ぶと教会で見せた舞の姿になっていた。詠唱短縮からの魔法を解き放ち、目の前に現れたモンスターの群れに炸裂させる。
「エクスプロージョン!」
火属性の魔力がモンスターの群れの中心に収束すると大爆発を起こした。群れの殆どのモンスターは消滅したが倒しきれなかったモンスターには杖を降って魔力弾を飛ばして対処する。雑魚モンスターを一掃すると新たなモンスターが姿を現した。
逆立った白い毛皮に発達した大きな爪を持った狼型の大型モンスター。私はこのモンスターに見覚えがある。ネプテューヌとネプギアと一緒に行ったレツゴウアイランドでのクエストでネプテューヌが最後に相手にしていたモンスターだ。あの時も感じ取ってはいたけどこのモンスターも雰囲気が違う。ここから導き出せる結論は一つだ。
「危険種…だね?」
「レツゴウアイランド、ルウィー国際展示場で確認されている危険種のアイスフェンリルだよ」
女神化に加えてネプギアが紫電と呼んでいた力を行使していたネプテューヌはいとも簡単にこれを討伐していた。今の私がどこまで通用するのかわからないけど頑張ってみるしかない。不用意に攻撃を仕掛けずに隙を窺うから始める。唸り声を上げると私に攻撃を加えようとしてきたが、地面から現れた銀色の鎖がアイスフェンリルの四肢を拘束した。
「舞お姉さんに手出しはさせないよ」
私の姿に変身したロムとラムの魔法に助けられた。拘束を強引に破ろうとしているけど、隙が生じているのには変わりないのでハンマーでアイスフェンリルの頭を叩く。三回叩きつけて四回目で振り上げるとアイスフェンリルは転倒した。追撃としてネプギアの斬撃とユニの銃撃が入る。連携を繋いで反撃の隙を与えないようにして体力を確実に削っていく。
拘束を破ったアイスフェンリルは口から強烈な冷気を吐き出して反撃してきた。ドルフィンと戦った時と違って今度は自分で反応して距離を取ることで回避する。
「舞、柄についている赤いボタンを押してみて」
ユニとネプギアがアイスフェンリルの気を引いてくれている内にアリアの言葉に従ってボタンを押すとハンマーの球体の部分が銀色の光に包まれた。球体だった先端が斧の刃のような形状に変化。これは確か戦斧と呼ばれる武器の形だ。それと同時に私の頭の中にある技の動作が流れ込んできた。この動きをしているのはネプギアなのかな?
「とどめは舞お姉さんに譲るよ」
足元に黄色の魔法陣が現れた。太陽と月の杖を交差させて詠唱を開始する。詠唱に要する時間は非常に短いので解き放つまでにそれほど時間はかからない。
「ライトニング・ボルテックス!」
電気の渦がアイスフェンリルの体を包み込む。討伐までには至らなかったがアイスフェンリルは体を痙攣させ、身動きが取れない状態になっていた。高電圧の電撃によって麻痺を誘発する効果も秘めている雷属性の中級魔法だ。
「舞、とどめだよ」
「わかった…!」
私は足に力を込めて駆け出すことでアイスフェンリルとの距離を一気に詰める。
「バンツァーアックス!」
シェアを纏わせた戦斧でアイスフェンリルの体に重い斬撃を五回連続で叩き込む。私の斬撃はアイスフェンリルの体に深く食い込み、蒼い光が大量に漏れ出した。五回目の斬撃を当てたところで地面に倒れ伏し光となって消滅する。消滅した後には強い冷気を帯びている爪が残されていた。迂闊に触るとこちらが怪我をしてしまいそう。
「流石は舞お姉さん。思い出を失っていても私達が憧れた強さは健在と言ったところなのかな? 東側のモンスターはこれで片付いたみたいだね」
「そうみたいね。お姉ちゃん達の方も終わると思うわ。その姿だと口調も舞みたいになるのね?」
「少しだけ大人になったかのような気分を味わうことができるよ。この姿の維持には魔力を継続的に消費するからあまり調子に乗ると大変なことになるけど。終わったから元の姿に戻るね?」
再び白色の光が体を包み込む。光の中からロムとラムが姿を現した。
「初めてなった時は舞さんがいなかったけど、二人が並んでいるところを見ると不思議な感じがするよ。今回は何も起こらなかった…のかな?」
「いや、これから始まるみたいだよ。一度は断たれたハード・リンクが戦いを通して少しではあるけど復元され始めているから。ほら、二人の体からも薄らとだけど白の光が出ているもの」
アリアの言葉に視線を移すとロムとラムの体から二つの白い光が舞の体に向かって伸びている。前回と違って頭痛を訴えてはいないのだが、舞は目を閉じて立った状態のまま一歩たりとも動かないのだ。
「舞さん…?」
「…」
ネプギアが声をかけても反応しない。
「どうやら意識だけが一時的に飛んでいるみたいだね…。直立不動の状態なのがすごいけど。展示場の外でネプテューヌ達が戻って来るまで待ってみようか。またモンスターが出てきたら危ないからね。舞には悪いけど一時的に体を貸してもらうよ」
アリアが銀色の光の玉になって舞の体の中に入ると閉じていた目が開き、舞の体が動き始める。ちなみに今の舞の体を動かしているのはアリアの意識だ。今の舞とアリアは二人で一人の銀の女神。このようにアリアが代わりに舞の体を動かして活動するという荒業も一応は可能だったりする。
舞の意識は今回のハード・リンクの発現によって再生される記憶の世界に旅立っているらしい。次に目を覚ました時にどこまで思い出しているのかわからないが、先日発現したネプギアとユニのハード・リンクの光も今回の戦いを通して輝きを少し取り戻したので期待が持てるところではある。ネプギア達は舞の記憶が戻ってほしいと言う願いを胸に秘めて姉と舞の意識が戻って来るのを待つのであった。