犯罪組織マジェコンヌ四天王からの要求が出されてから六日目の朝、教会に程近い場所にある広場で私達は朝の鍛練を行う。私はアリアから銀炎の使い方を再度教えてもらい練習を積み重ねることになった。
「はあああっ!」
銀炎の玉を右手に顕現させてセレナが魔法で作成した鍛練用のターゲットに狙いを定めて飛ばした。直撃したターゲットは銀の炎に包まれて光となって消滅する。今度は途中で消えることがなかったので少しだけ前に進めたのかな。
「お見事。第一段階はこれでクリアだよ。でも舞が今倒したのは動かないただの的。わかってるとは思うけど実際のモンスターはもっと激しい動きをする。相手の動きを読むことも重要になるから次の実戦ではそれも意識して試してみようか」
「わかった。過去の私はどこまで使うことができていたのかな?」
「武器に纏わせることはできていたよ。実際に私と一緒に戦った時に使っていたからね。ただ、舞の技の主力は銀炎じゃない。この世界に来るまでに舞がプレイしてきたゲームに登場する技さ。ハード・リンクで当時の舞との記憶を共有したネプギアちゃん達は舞の記憶から技を習得していたの。今は自分が元から持っている技に舞の記憶から習得した技も積極的に使うから前と比べてかなりの強さになってる」
「でも、私は自分が過去にプレイしたゲームのことは覚えてないよ? ハード・リンクでは思い出せない部分があるのかな?」
「繋がりが記憶を失う前の舞と同じくらいに強くなれば思い出せるだろうけど、あの輝きはこの世界でネプギアちゃん達と一緒に過ごしてきた中で生まれたもの。残された時間で完全に元の形に戻すのは難しいかな」
「そうなんだ…」
「あっ、悲観することはないよ? この世界に来る前の記憶は私が持ってるから。私が決めたところまで舞がネプギアちゃん達との思い出を取り戻した時に私がそれを補完する。時が来たら私から声をかけるよ」
昨日、眠りに就いた私の意識は再びあの世界に飛んでいた。ハード・リンクが復活したことで今度はロムとラムが来れるようになったみたい。四人の女神候補生との再接続を果たしたのはいいことなんだけど、輝きが消えてしまいそうなほど弱いという問題が残されていた。
そのせいなのか、このゲイムギョウ界で過ごした記憶は思い出せても、ゲイムギョウ界に来る前の記憶が全くと言っていいほど思い出せない。ちなみに私はアリアに呼ばれて元の世界からゲイムギョウ界に来たというのは知っている。
「今のところはこの世界での思い出を取り戻すことに集中してほしい。実際かなり速いペースで進んでいるから決戦の日までには十分間に合うと思うよ。この調子で頑張って行こう」
「わかった。次は何をしようかな?」
朝の鍛練は約一時間程度。まだ後三十分くらいは残っている。
「誰かに模擬戦を申し込んでみたらどうかな? みんな優しいから誰にお願いしても受けてくれると思うよ?」
「ん…。じゃあネプギアにお願いしてみようかな」
真っ先に頭の中に思い浮かんだのがネプギアの姿だった。私はユニと一緒に練習していたネプギアに声をかけて模擬戦を申し込む。
「舞さんから声をかけてもらえて嬉しいです。少しでも舞さんの力になれるように頑張りますね?」
「ネプギアちゃん、鬼神化は無しで舞の動きにできるだけ合わせてあげて」
「わかりました!」
ネプギアは金と銀の長剣を構える。私が思い出した記憶ではネプギアの武器は銀の長剣だけだったけど、どこかで型が変わったのかな? アリアが言っていた鬼神化というのも気になる。きっとそれを使われると今の私だと簡単に敗北してしまうということだと思う。全力のネプギアと打ち合えるように私も頑張らないと。銀の太刀を具現化させた私はネプギアと残りの時間を全力で戦った。
模擬戦の結果を言わせてもらうと負けたけど楽しめたと言ったところかな。また戦ってみたいと思った私の考えを見抜いたのか、ネプギアはいつでも受けてたつと笑顔で言ってくれた。今日の朝の鍛練はこれで終了。教会に戻って準備を整えたら当初の予定通り、リーンボックスに向かうことになった。
リーンボックスは大陸から離れた自然が豊かな島国。行き方としてはラステイションから出る定期船に乗るか、空を飛ぶかのどちらか。基本的には前者だけど、私達は女神化を行使すれば空を飛べるのでこちらを選択する。特に私が女神化時に顕現させる翼は飛行能力が非常に優れているみたいで、他国に行く時は近所に遊びに行くような感覚で行ける。実際に過去の私はそんな感じで飛び回っていたみたい。
私の中に入っているアリアの案内に従って高度を落とし、教会の前に着地すると女神化を解除。私の服装は元のパーカーワンピに戻る。ネプギア達も続いて降り立つ。
「舞ちゃん」
私の名前を呼ぶ声に振り返ると蒼い瞳に白い髪を持ち、どこかの学校の制服を着た女の子が立っていた。
「シエルさん、お久しぶりです」
「みんな元気そうで何よりだよ。舞ちゃんも頑張ってるみたいだね? 私の名はシエル。女神としての名はクリスタルハートだよ。そして私の肩に乗っているのが」
シエルの肩の上には小さいドラゴンが乗っていた。大きさは今のアリアと同じくらい。ドラゴンの紅い瞳と目を合わせると頭の中に声が聞こえてくる。
『お初にお目にかかる。今代の銀の女神よ。我が名はシオン。こことは違う次元のゲイムギョウ界にて守護女神を務めていた者だ』
「神奈 舞だよ。初めまして。あなたはルウィーで私達を助けてくれたドラゴン?」
シエルの肩に乗っているドラゴンは昨日のクエストで取り戻した記憶の中に出てきた白いドラゴンと似ていた。話し方も私があの時に聞いた声と似ていたので聞いてみる。
『それは女神化したシエルだな。我がこのゲイムギョウ界に来たのはつい最近のこと。世界の崩壊と共に消滅を迎えた我が何故再び顕現するに至ったのかはわからぬが、我も微力ながらお前達の手助けをさせてもらおうと思う。シエル共々これからよろしく頼むぞ』
互いに自己紹介を終えたところで私達は教会の中に入る。
「チカはまだ出張中みたいだね。とりあえずベールの部屋に行ってみようか」
シエルの案内でベールの部屋に向かう。部屋の前に着いたらシエルは部扉を三回ノックする。
「はーい。どちら様でしょうか?」
「シエルだよ。舞達も一緒。入ってもいいかな?」
「舞さん達も来られたのですね。どうぞ入ってくださいな」
部屋の扉を開けて中に入ると色々な意味で凄い光景が私の目に映る。大量のフィギュアが収納されているガラスケース。壁に貼られたポスター。大画面のテレビに大きなテーブル。ふかふかのソファ。フィギュアとポスターを除けばお金持ちの貴族が住んでいるような部屋にも見える。
「またゲームと仕事を同時にやってるみたいだねー。ある意味羨ましいスキルだよ」
「ふふっ。一流のゲーマーならばできて当然ですわ。今は徹夜は無しにしているのでこれでも押さえている方なのですよ? 今は仕事の方を優先するようにしています。と言うのも近々開催が予定されていた第六回目の四女神オンラインのファン感謝祭コスプレイベントを初めとする行事が今回の騒動で開催が見送りになってしまいまして…。あなた方も同じような状況ではなくて?」
「それは確かに言えてるわね。ラステイションでも総合技術博覧会が見送りになったから。職人達には申し訳ないけど情勢が落ち着いてから改めて開催するということで理解を得ているわ。ブランとネプテューヌの方はどうなの?」
「プラネテューヌは最新の電化製品の発表会が延期になったかなー。ネプギアが主導になって開発を進めてたデバイスも出る予定だったから楽しみにしてたんだけど…。本当に復活怪人って迷惑極まりないよね! おかげで仕事も増える一方だし!」
「こっちはスノーフェスティバルの開催が見送り…。情勢が落ち着けばいつでも開催ができるようにはしてある…。特に子ども達が楽しみに待ってるから、全てが無事に解決したら即開催に踏み込みたいと考えているわ」
ゲイムギョウ界を構成する四国では一年を通して様々なイベントが開催されている。ベール達が挙げたのは一部に過ぎない。それらのイベントを通して国民と触れあい、シェアを高めるのも重要なことだけど、マジェコンヌ四天王が各国にかけた圧力の影響で開催に踏み切れないというのが現状みたい。四天王から要求が出された日から今日で六日目。私達は明日にはプラネテューヌに全員で帰る予定になっている。
「まあ、情勢が落ち着いたら開催をいたしますので是非舞さんも参加してみてくださいな。きっと楽しい思い出が作れると思いますよ?」
「イベントの参加については前向きに考えておくよ。えっと…」
「申し遅れましたわ。改めて自己紹介を。わたくしの名はベールと言います。女神としての名はグリーンハートですわ。わたくしのことは気軽に呼び捨てにしていただいて構いません。実際に記憶を失う前の舞さんもそう呼んでいましたので」
ネプギア達との出会いは思い出したけど、ネプテューヌ達との出会いは未だに思い出せない。記憶の映像の中では名前が出てきてはいたけど。確かネプテューヌとセレナは私とハード・リンクで繋がっていたみたいだから、今日の合同討伐クエストで再接続ができたらネプテューヌ達との出会いのことも思い出せるかもしれない。
「舞達も来たことだから、早速今日の合同討伐クエストに行ってみようか。今回のクエストはアンダーインヴァースでのモンスター退治だよ。さらに今日はダンジョンの変遷が起きてるから危険度はネプギアちゃん達が旅の中で訪れた時よりも高い。みんなは確かに強いけど油断して足元を掬われたりしないようにしてね」
力を過信して舞い上がった気持ちで戦場に臨むと思わぬことが起きる可能性がある。私もみんながついているからと言って気を緩めてはならないと思った。準備を整えたら目的地のアンダーインヴァースに向かう。ガペイン草原を通過すると近道になるみたいだけど、四天王のマジック・ザ・ハードが待機していることもあって現在はギルドと教会が全ての入口を封鎖しているため侵入できない。時間はかかってしまったけど回り道をして南端にあるアンダーインヴァースに到着した。
「…っ!」
入口から一歩足を踏み入れると強烈な熱気が襲い掛かって来た。内部に侵入したところでパーティを二つに分けてモンスター退治を開始することに。私の方はネプギア達を加えたいつもの五人にネプテューヌとセレナがついている。シエル達は先行で奥のエリアに向かった。シエルの情報によるとアンダーインヴァースの変遷が起きると奥のエリアには危険種・上位危険種・接触禁止種が同時に現れるらしい。私達が担当するのは入口から奥のエリアにかけてのモンスター退治。
「舞、ここに来る前に渡したあれを使ってみて」
「わかった」
私がアリアから受け取っていたのは小さな白い結晶。氷のクリスタルと呼ばれる物でこれを使うと武器に冷気を纏わせることができると言う。今回のクエストで私が使う武器は槍。氷のクリスタルを槍に当てると冷気が纏わりついた。
「はあっ!」
私は冷気を纏わせた槍で紅い結晶の体を持つ人形型のモンスターの胸にある球体の部分を貫いた。球体が砕け散るとモンスターの体も光となって消滅した。アリアが言うには槍を使う際は相手の弱点に相当する部位を攻撃する正確さと速度が重要みたい。
「凍らせちゃうよー! アイシクルエッジ!」
「氷の彫刻にしてあげる。コンゲラート・ケージ!」
私が倒したモンスターとは別の個体ににネプテューヌの斬撃とセレナの魔法が炸裂した。ネプテューヌの冷気を纏わせた二つの長剣によって作られた傷口は瞬時に凍り付き、セレナの魔法で透明な正四面体の檻に閉じ込められたモンスターは檻の内部に充満した強烈な冷気によって一瞬で氷の彫刻となった。
「アークティック・ランス…!」
ロムの前に収束した氷属性の魔力が鋭い氷の槍を作り出した。月の杖を振ると凄まじい速度で敵に向かって飛んでいき、山のような形のヤドを背負った赤いヤドカリ型のモンスターの体を串刺しにする。
「こういうのはどう? コチコチハンマー!」
ラムが太陽の杖を掲げると氷で作られた小さなハンマーが次々と降り注いだ。一つ一つが強力な氷の魔力で作られているので威力は馬鹿にできない。
「ネプギア、アタシ達も行くわよ!」
「いつでも行けるよ!」
ネプギアとユニは場に残った氷属性の魔力を体に取り込む。最初に動いたのはユニ。体に取り込んだ氷の魔力で矢を生成して構える。
「フロストライン!」
ユニが放った氷の矢が赤みのある羽毛を持った鳥型のモンスターに直撃。それに続いてネプギアが動いた。
「凍牙衝裂破ですっ!」
ネプギアが氷の魔力を纏わせた双剣を地面に叩きつけると鋭い槍の形をした氷塊が連なるように生成されてモンスターの体を貫いた。最初に現れたモンスター達を全滅させると今度はまた別のモンスターが姿を現した。黄土色の体色を持った大きな蜘蛛にスライヌの体から触手が生えてクラゲのようにも見えるモンスターである。
「わっ…!」
スライヌの姿が視界に入ると私の体は突然紫色の煙に包まれる。自分でも何が起こっているのか理解できない。煙が晴れると明らかにおかしな点に気が付いた。手と足が無い。まるで自分が人の姿をしていないような気がする。
「ぬら…?」
「あらら…。これはある意味大変なことになってしまったね」
ぬら。としか喋れない。
「これが舞スライヌ…! ネプギアから話は聞いていたけど本物を見るのは初めてだよ! なんか普通に可愛いよね。お持ち帰りしたら駄目かな?」
「ぬらっ!?」
ネプテューヌの言葉が示す事実は一つしかなかった。どうやら私はスライヌになってしまったみたい。手足が無いのはそれが原因だったのだ。あまりにも不測の事態にどうすればいいのかわからない。頭がどうにかなってしまいそうだった。