ゲイムギョウ界を構成する四国を再度ネプギア達と巡る中でファントムハートに奪われたこの世界での記憶と元の世界の記憶を取り戻すことができた私は出発点でもあるプラネテューヌに帰還を果たした。
「みなさん、おかえりなさい」
教会の扉を開けて中に入るとイストワールが私達を出迎えてくれた。
「ただいま。イストワール。みんなのおかげで全部思い出せたよ」
「そうですか…! 本当によかったです。これでこれからのお話を舞さんと共に進めることができますね。アリアさんも姿を現せるようになったようで何よりです。私より小さいお姿になられるとは思っていなかったので、驚かされましたが…」
「もう本来の姿に戻ることはできないけど、舞と、みんなと一緒にいられるからこれ以上のことを望むつもりはないよ」
アリアが現実世界で本来の姿になれないのはファントムハートに守護女神の力を強引に搾取されたことが原因。シェアを集めれば私と連動する形でアリアの力は上がるけど姿はこれから先も小さいままだと言う。
聞いた話だとアリアは私の体を使って行動することができるみたいなので、ゲームをやる時など小さい姿のままではできないことをやる時はアリアに自分の体を貸してあげたいと思っている。ついさっき思いついたことだから、まだアリアには伝えていないけどね。
「イストワール、これから私達がやらないといけないことを教えてもらってもいいかな? 今の状況についてはネプギア達から話を聞いて大体理解してるけど、具体的にどう反撃に出るのかはまだ聞いていないから」
「はい。女神と女神候補生のみなさんにはこれから最後の合同討伐クエストに出向いていただきます。内容としてはパナンジャングルと忘却の遺跡でのモンスター退治になりますね。パーティを二つに分けて頂いて対応に当たっていただければと思います。そして、八日目となる明日にはシェアクリスタルを刃とする聖剣の開発を行い、九日目に反撃を開始するという流れになっています」
「なるほどね。シェアクリスタルを刃とした聖剣が犯罪神を滅ぼすための武器ってことか…。もし私もシェアクリスタルを作ることができるなら作った方がいいよね? 作り方がわからないからできるか怪しいところだけど…」
「なら、今日の夜に私と一緒に挑戦してみようか。実際に自分で作ったことはないけど、作り方ならセレナとシエルから教えてもらってるから」
「私もプラネテューヌのシェアクリスタルが用意できたらお手伝いさせていただきますので作る際に声をかけていただければ」
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えてお願いさせてもらうよ」
イストワールによると日没を迎える午後六時の時点のシェアを元に各国の教祖がシェアクリスタルを作成するとのこと。明日の朝には四国のシェアクリスタル、国を持たぬ三女神のシェアクリスタルが出揃うので、それを刃とした聖剣を開発するのだ。最後の戦いの準備は着々と進められている。それは失敗が許されない戦いの始まりが迫っていることも示していた。
私達はパーティを分けて最後の合同討伐クエストに臨むことに。私はネプギア達と一緒にパナンジャングルに向かうことになった。今回はモンスターの異常発生やダンジョンの変遷も無いので実際は通常のクエストと変わらない。私は短剣にシェアと銀炎を纏わせて戦闘準備を整えるとモンスターに向かって駆け出した。
「烈風刃っ!」
人参に手足が生えているモンスター、ニンジンダーに斬撃を叩き込む。斬撃と同時に地面を這う衝撃波を発生させる短剣の技の一つ。横斬りの時は四方向に別れる衝撃波、縦斬りの時は一直線に走る衝撃波が発生する。ステップから続けて繰り出す斬撃でないと発動しないので使う上では意識しておかなければならない。
「っ…!」
ニンジンダーを倒したのはよかったけど、何だか変な気分だ。私はまだ後悔を引き摺っているみたい…。何とかしないと明後日に控える本番に支障が出る恐れもある。もう失敗は許されないのだから。武器を太刀に持ち替えて次のモンスターに攻撃を加える。
「舞さん…」
少し離れたところで戦うネプギアは舞のことを気にかけていた。表情に特に変化は見られなかったのだが、ネプギアの瞳には何か暗い影が差しこめているように映ってしまったのだ。ネプギアには何もできなかったことを理由に落ち込んでいた過去の自分と今の舞の姿が重なって見えていた。声をかけたいとは思っていたが、下手な言葉で舞の心を傷つけたくないという思いが絡まり合い、声をかけることができずにいた。
「このクエストが終わったら声をかけてみよう」
思考を切り替えて集中力を高めると鬼神化を発動してドット絵のような姿をしたモンスターに乱舞を加えて確実に仕留める。攻撃を加えてある程度まで火力と速度を上昇させたら鬼神化を解除。上昇させた火力と速度を維持し続ける練習も併せて行う。
「秋沙雨ですっ!」
金と銀の長剣による高速の突きを馬に翼がついたモンスター、馬鳥にお見舞いする。余談ではあるがこのパナンジャングルに生息しているのはトリック馬鳥と呼ばれていて、通常の馬鳥と区別されている。
「スペクターライト!」
スナイパーモードになったユニの銃から放たれたのは白色のレーザー。放たれたレーザーは貝殻のような形状のモンスターの体の隙間を正確に貫き一撃で消滅させた。元から貫通力に特化しているので多少狙いを外しても通るが、一撃で仕留めるには弱点を正確に狙い撃つ必要があるのだ。
「サンダーネイル…!」
ロムが放った雷属性の初級魔法が黒い体を持った馬鳥に直撃。威力は低いが相手を感電させて動きを封じる効果がある。空中に飛んでいる敵を痺れさせて強引に地面に落とすこともできるので相手によっては非常に有効だったりもする。
「ロックボルトよ!」
ラムが放ったのは地属性の魔力をモンスターの体に収束させて炸裂させる初級魔法。周囲のモンスターよりも体力が多いのか二人の魔法を受けてもまだ倒れない。私は黒い馬鳥の背中に飛び乗って首に太刀で一閃を加える。黒い馬鳥の首元から大量の蒼い光が漏れ出してそのまま光となって消滅した。
「終わりかな…?」
黒い馬鳥、ブレイジング馬鳥を討伐したことでクエストのクリア条件は達成された。このパナンジャングルには危険種のモリガニと呼ばれるモンスターも生息しているが今回は討伐対象ではないので手は出さない。勝てないことはないとは思うけどね。クエストを達成した私達はギルドに報告を行い教会に帰還する。
「はぁ…」
「舞…」
ネプギア達と一旦別れて自分の部屋に戻った私は盛大なため息を漏らした。
「アリアのせいじゃないから気にしないで。誰が悪いってわけでもない。今さら後悔しても無駄なことはわかっているけど、それを振り払うことができていない私がいるのも現実…。さっきは何もなかったからよかったけど…」
アリアにゲイムギョウ界に来る前の記憶を補完してもらった途端に込み上げてきた後悔の気持ち。みんなの前では普段通りに振る舞っていたけど、別れて部屋に戻った結果が今の私の状態だ。昨日と違って泣いてはいないけど、込み上げてきた後悔はまだ私の心を支配している。出会ったばかりのネプギアもこんな気持ちを抱いていたのかな…。ベッドに寝転がって、この気持ちを振り払ういい方法が無いか考えていると部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「誰かな?」
「舞さん、今いいですか?」
「ネプギア、どうしたの? 話があるなら入ってきたら?」
「二人きりで話したいことがあるんです。今からバーチャフォレストの秘密の場所に来ていただけませんか?」
扉越しに聞こえてきたネプギアの声はいつもと雰囲気が違っている気がした。
「本当に大事な話みたいだね? 今から行けばいいかな?」
「ありがとうございます! 私は先に行って舞さんを待っていますから!」
走り去る足音が聞こえてきた。一緒に行こうと思ったけど、私がそれを言い出す前にネプギアは出て行ったみたい。あまり待たせるわけにもいかないからのんびりはしていられない。
「ということで今からバーチャフォレストに行ってくるよ。誰かに聞かれたら適当に誤魔化しておいて」
「わかった。たまには二人で本気でぶつかり合ってみるのもいいんじゃない? 言葉だけで上手いこと伝えられない時とかさ」
「考えてみるよ」
私は部屋を出てネプギアが待つバーチャフォレストの秘密の場所に向かう。
「あっ、舞さん!」
「ごめん。待たせてしまったね。私と二人きりで話したいことって何かな?」
「今日の舞さんを見ていたら何か悩み事を抱えているのかなって思ったんです。わたしの気のせいだったら本当にごめんなさい。何かあるのなら話してほしいって思ってこの場所に呼びました。ここにいるのはわたしと舞さんの二人だけです」
「見抜かれてたか。いつもと変わらないように振る舞ったつもりだけど、考えが甘かったかな。私の話を聞いてもらってもいい?」
「はい」
私はネプギアに全てを話した。望まぬ形とは言え人間から女神になったことで元の世界の両親や友達と同じ時間を生きることができなくなってしまったという現実をまだ受け入れることができていないことを。あの時に私が捕まらなければ運命が変わっていたかもしれないと言う、したところで意味の無い後悔を抱えていることを。
「これからまた世界を賭けた戦いが始まろうとしているのに、それを振り切れていない私がいる。頭ではわかっているつもり。もう後戻りができないところまで来てしまったことも。この気持ちを抱えたままだと本番に差し支える危険もあるから何とかできないかと思って部屋で考えていたの」
「実はクエスト中にも気になっていたんですけど、かける言葉が中々見つからなかったこと、下手な言葉をかけて舞さんを傷つけたくないと思ったこともあって声をかけることができませんでした。言い訳に過ぎないのはわかってます。部屋でわたしなりに考えて思いついたのが二人きりになった時に勇気を出して聞いてみようって方法だったんです。二人きりで初めて行ったクエストの時に舞さんが私の話を聞いて力になってくれたように。今度は私が舞さんの話を聞いて力になりたいって思ったんです」
「そっか…。私も話をしようか迷っていたところだったから、ネプギアの方から聞いてもらえてよかったよ。少しは気が楽になったかな。本当にありがとう」
「過去に悩みを抱え続けていたわたしが言うのも何ですけど、悩み事がある時は遠慮せずに言ってほしいです。舞さんの力になりたいと思っているのはわたしだけじゃない。ユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃんも同じ気持ちです」
「私って本当に恵まれていることを実感させられるよ。それなのに、この大事な時にいつまでも暗い気持ちになって…。私もまだまだ弱いってことだね」
「それはわたしにも同じことが言えますよ。舞さん、ここで一つお手合わせをお願いしてもいいですか? あの時からわたし達は一緒に頑張って鍛えてきました。確かめてみたいんです。あの時からわたしがどこまで強くなれたのかを」
ネプギアは金と銀の長剣を具現化させる。さらに目を閉じて体内でシェアの力を爆発させて特殊女神化状態になった。女神の印が浮かぶネプギアの瞳には力強い輝きが宿っている。ネプギアが銀の長剣を私に手渡してきたのでそれを受け取る。
部屋を出る前にアリアが言っていたことが脳裏に甦る。もしかしてこうなることを予測していたのかな? だとしたら本当に頭が上がらない。私はネプギアの思いに応えるために目を閉じるとシェアの力を体内で爆発させて特殊女神化状態に移行する。ネプギアと違って私は女神の印が元から出ているので黒髪が銀髪に変わるのみ。私達は二つの剣を重ね合わせてお互いの目を見る。
「あれから私達はお互いに頑張り続けてきた。今では色々な武器とか魔法も使えるようになったけど、この戦いはこれ一本での勝負だね。簡単に負けるつもりはないから」
「舞さんを相手に簡単に勝てるなんて思っていません。この際ですから、わたしに全部ぶつけてきてください。舞さんの思い、全部受け止めて見せます!」
「なら最初から全力だね? 私の思い、この剣に乗せるからっ…!」
「望むところですっ!」
私達が決闘を開始した時にはゲイムギョウ界の空は夕日色に染まっていた。言葉では伝えきれない思いも全て剣に乗せてネプギアに全力で立ち向かう。私の銀の剣とネプギアの金の剣がぶつかり合う度に火花が散る。木々の隙間から差し込む夕日の光が私達を照らしていた。