バーチャフォレストの秘密の場所。毎朝の鍛練を行う場所で剣がぶつかり合う音が響き渡る。木々の間から夕日の光が差し込んでいるこの場所で行われているのは銀の女神と紫の女神候補生の決闘。一緒に高みを目指してきた二人の攻防はお互いに一歩も譲らない激しい物となっていた。
「蒼破追蓮!」
「魔神剣・双牙ですっ!」
私とネプギアが同時に剣を振ったことで発生した衝撃波が激突した。二つの衝撃波は互いに相殺し合う形で消滅する。次に私達が駆け出したのもほぼ同時だった。
「「はあああっ!」」
私の銀の長剣とネプギアの金の長剣がぶつかり合い鍔迫り合い状態になる。凄まじい力が長剣を握る両手にかかる。一瞬でも気を抜けば押し切られてしまうほどの力。何とか押し切りたいところだけど埒があかない。お互いに距離を取る。
「いつか舞さんとこうして戦える日が来ることを夢見ていました。それが現実になってわたしは嬉しいです」
「私も同じ気持ちを抱いていたよ。いつかネプギアと戦ってみたいってね。随分と長い時間がかかったけど実現できた。この勝負、負けるわけには行かない」
「それはわたしも同じです。舞さんの思いを全部受け止めて、勝ってみせます!」
「思いは全てこの剣に乗せるよ! 斬り裂けっ! 絶風刃!」
「私も全力で勝ちに行きます! ソニックキャリバー!」
剣を振った軌道に合わせて生成された銀色と紫色の刃がぶつかり合う。
「ミラージュ・ダンス!」
舞い踊るような動きから繰り出されるネプギアの剣舞が私に襲い掛かる。何とか軌道を見切って防いだけど、一撃一撃がとても重い。鈍い痛みが走るがこの程度で屈するわけにはいかない。次の攻撃に繋げられる前に反撃の一手をお見舞いする。
「クロスコンビネーション!」
足に力を込めて踏み込み、一気にネプギアとの距離を詰めると斬撃を叩き込む。
「…っ!」
私の斬撃は全て防がれてしまったが、反動で後退させることができた。
「流石に強いね。お互い無駄な時間を重ねてきたわけじゃない…か」
「お姉ちゃんを助けて、ゲイムギョウ界の平和を取り戻したいって気持ちを持ってここまで一緒に頑張ってきましたから。こうして舞さんと剣を合わせることができて、本当に嬉しいです」
「私も嬉しい。この世界に来て一緒に頑張ってきたから自信を持ってネプギアに全力でぶつかっていける…! たまにはこういうのもいいかもしれないね」
前からネプギアとは本気で戦いたいと思っていた。こうして本気でぶつかり合うのはこれが初めてだ。やるからには勝ちに行きたいけど、ネプギアが相手だと簡単にはいかない。でもそれを楽しいと思っている自分がいるのも事実。勝つためにはどうすればいいかを頭の中で思考しながら私は次の攻撃に移る。
「絶衝剣!」
剣を掲げて力を込めると銀色の刀身に薄らと赤いオーラがかかる。あるモンスターの特殊な怒り状態をイメージすることで発現させる自己強化技の一つ。自分の攻撃力を飛躍的に増大させることができるが、効果が切れると疲労が一気に襲い掛かるという弱点がある。
「ライジングフォース! さらに鋭招来ですっ!」
攻撃力を上昇させるネプギアの補助技。続けて腰に手を引いて気合いを入れる。ネプギアの体に赤いオーラが纏わりついた。互いに自分を強化した私達は再び剣を交える。
「ラジカルセイバー!」
跳躍からの勢いに乗せた強烈な斬撃。攻撃力が上昇している状態だと防御ごと簡単に突き破られる危険があるので確実に回避して反撃に移る。
「ターンスラッシュ!」
剣に力を込めて回転斬りを繰り出して周囲を薙ぎ払う初級剣技。この世界に来て最初に使ったゲームの技でもある。技を繰り出したまではよかったが、ネプギアの剣の構えがさっきと少しだけ違っていることに気付けなかった。
「しまったっ…!」
「ティンクルスター!」
私の攻撃を受け流してからのカウンター。シェアの力を纏わせた剣の三連撃が私に襲い掛かる。直撃を受けてしまったことで鈍い痛みが走るがそれでも私は怯まない。
「お返しだよ! シャイニングスター!」
「きゃあっ!」
シェアの力を纏わせた銀の剣で六連撃を与えた後に突きをお見舞いする。最後の突きが防がれてしまったが、それまでの斬撃は直撃。これでお相子だ。私が怯まなかったのは絶衝剣のもう一つの効果による物。それが攻撃を受けた際の怯みを無効化するという効果だ。攻撃を受けたとしても痛みに耐えることができればこのように強引に反撃できる。乱暴な戦い方だからあまり褒められた物ではないけどね。
「危なかった…。最後の突きを防げてなかったらやられるところでした…」
「絶衝剣を使った以上は効果が切れる前に決着を着けないと私の敗北が決まってしまうからね。やるからには勝ちに行かせてもらう」
絶衝剣の効果消滅後に現れる疲労からの回復には最低でも三分以上はかかる。回復までの間は攻撃行動は勿論、回避行動も碌に取ることができない状態になってしまう。
「気持ちが昂ってきた…。休ませるつもりはないから覚悟してもらうよ! 受け切れるかな? 爪竜連牙斬!」
「わたしだって負けませんっ! シルヴァーテイル! そして大回転切りですっ!」
シルヴァーランドという地方の伝承に残された剣術を我流で習得した手数重視の八連撃に続けて繰り出したのは体を回転させて広範囲を切り払う剣術の奥義の一つ。薄紫の衝撃波に私は吹き飛ばされる。生命力が満ちた状態で使うことで威力と範囲はさらに強化されるが、今の状態でも十分に強力な技だ。
「オーバーリミッツですっ…!」
「遂に使って来たか…」
ネプギアの体から薄紫色の光が溢れ出した。私が初めてスライヌになった時に見せたオーバーリミッツと輝きがまるで違う。剣を握る手に力を込めて警戒を強める。
「フォーミュラーエッジ! 続けてリンドバーグですっ!」
「…っ!」
私は防御に徹する。私が初めてスライヌ化した時に使ったのがレベル1のオーバーリミッツ。そして今のネプギアが使っているのは最高位のレベル4のオーバーリミッツ。効果時間中は技の連携の制限が解除される効果に加えてあらゆる攻撃を無力化するという効果も付加されているので反撃しても無意味なのだ。怒涛の連撃に私は次第に押され始める。
「まだまだ終わりませんよ? ファンタジックスター!」
続けて七連撃からの止めにスラッシュウェーブ。ネプギアの猛攻に私の防御が遂に崩されてしまう。オーバーリミッツ中ならばこのように連続で技を繋げることができる。私の脳裏に最悪の展開が過った。この流れで最後に来る技はあれしかない。
「この勝負、わたしの勝ちでお終いにします! リミッター解除! これがわたしの全力全開っ! プラネティックディーバ!」
「受けて立つ…!」
「はあああっ!」
手始めに金色の長剣による七連撃が私に襲い掛かる。
「がはっ!」
最後を飾るのはシェアの力を刀身に纏わせた一閃。怯みが無効にできたとしてもこれまでの技とは違う強烈な威力の前に反撃する余裕が無い。剣を振り抜いたネプギアが振り返ると同時に私の体は薄紫色の光に飲み込まれる。
「うあああああっ!」
「どうですか…?」
「意識が飛びそうになったけど、堪えることができた…。ネプギア、勝ったと思っているところ悪いけど、私はまだ参ったなんて言ってないよっ!」
「…っ!」
舞の気迫にネプギアは体を震わせてしまった。本気で怒った時の舞と似たような感じなのだがあの時とは何かが違っていた。言葉で上手いこと言い表すことができない。ネプギアはこの次に来るであろう舞の攻撃に警戒を強める。対する舞は力を抜いて目を閉じていた。数秒後に再び開いた舞の瞳には変化が表れていた。右目を覆うように銀色の炎が燃え盛っている。それは山の頂で戦った時と同じ物だった。
「これが、私の
刀身にシェアの力と銀の炎を纏わせてリーチと威力を極限まで強化。ネプギアとの距離を一気に詰めて斬り上げをお見舞いすることで、ネプギアの体を空中に打ち上げる。
「きゃあっ!」
打ち上げられたネプギアの体を銀の炎が包み込む。跳躍から高速かつ連続で斬撃を繋げてダメージを与える。剣舞と銀炎の二重奏が逃げることを許さない。
「ああああああっ!」
十連撃目に到達したところで擦れ違い様に一閃を加える。指を鳴らすと銀の炎が弾け飛ぶ。銀の炎に包まれていたネプギアの体は地面に落ちた。これが銀の太陽の力の具現。煌めきの銀の炎と
「銀陽煌炎舞…! これにて終幕だよ…!」
決めたのはよかったが、絶衝剣による自己強化の効果が切れたことで凄まじい疲労感が襲ってきた。力が一気に抜けてしまったことで私は背中から地面に倒れる。少し時間を置かないと起き上がれそうにない。隣で倒れているネプギアも同じのようだ。
「私の勝ちでいいかな…?」
「そうですね…。負けて悔しいですけど、何だか清々しい気分です」
「私も同じ。心の中にあった靄が晴れた感じかな…」
「舞さんの力になることができて嬉しいです。今回は負けてしまいましたけど、次は勝ってみせますよ。諦めの悪さは舞さんに負けていませんから」
「何度でも受けて立つよ。今日は本当にありがとう。おかげで前を向いて歩き出せそうな気がしてきた。ネプギア、全てが解決したら手伝ってほしいことがあるんだけど、この場でお願いさせてもらってもいいかな?」
「わたしにできることなら何でも手伝いますよ?」
「実は前から頭の片隅で考えていたことがあってね。私は元の世界とこのゲイムギョウ界を繋げる道を作りたいと思っているの。それを実現するのがどれだけ難しいことなのかわかってる。そのために何をすればいいのかもまだ見えていないけど、このまま何もしないで元の世界とお別れするのは嫌なんだ」
「舞さん…」
「全てが解決してそれを実現するために成さなければならないことができた時には手伝ってほしい。私一人の力だけでは絶対に無理だと思うから。私の夢、悪い言い方をすれば私の我儘と言うことになるけど、お願いしてもいい?」
「わかりました…! 舞さんの夢のお手伝い、最後まで付き合います。わたしだけじゃない、ユニちゃんも、ロムちゃんも、ラムちゃんも、お姉ちゃん達もみんな一緒ですから。みんなで夢の実現を目指して頑張りましょう!」
「ありがとう…! ネプギアと、みんなと出会えて本当によかったなぁ…!」
「それはわたしもです…! これからもよろしくお願いしますね! 舞さん!」
「ふふっ…! こちらこそ。ネプギア…!」
私とネプギアは手を繋いだ。決着から時間が経過したことで体も動かせるようになったので手を繋いたままプラネテューヌの教会に帰る。教会に到着した頃には既に夕日は沈み、空には星たちが輝き始めていた。先に夕食とお風呂を済ませて自分の部屋に戻った私はイストワールとセレナとシエルが来るのをアリアと一緒に待つことに。
明日の聖剣の開発に用いる銀の女神のシェアクリスタルを作成しなければならないのだ。アリアは方法を知っているみたいだけど、シェアクリスタルを自分で作成したことは無いと言うので、経験者の立会いで作成を進めるという結論に至った。
イストワールはプラネテューヌの、セレナとシエルは自分のシェアを使ってクリスタルを作成しているので、それが終わったら私の分のクリスタルの作成に入る。そして明日はそれを刃とした聖剣の準備に朝から取り掛かると言う流れだ。
「舞さん、お待たせしました。それでは早速、作成に入りましょうか」
「アリア、舞とユニゾンしてあげて。その方が進めやすいと思うから」
「わかったよ。この際だから舞と一緒に実践して覚えておこう」
アリアが銀色の光の玉になって私の体の中に入る。同時に暖かいシェアの力が湧いてきた。これを結晶にすることでシェアクリスタルとなる。
「最初はシェアの力を少しずつ外に出してみようか」
「わかった。やってみるね?」
私はシエルの言葉に従ってシェアの力を体から放出する。暖かい銀色の光の粒子が私の体の中から出てきた。
「ある程度まで放出できたら次は収束に入ろうか。舞とアリアのシェアの力は空間に散らばっている状態だから、それを自分で操作して一つに集める」
次にセレナからの指示が飛ぶ。私は目を閉じて集中力を高める。思った以上に神経を使う作業だ。最後まで持ちこたえることができるのかな…?
「いい調子ですね。後は集めたシェアを入れ物に閉じ込めるようなイメージを頭の中に抱いて数分間待つと完成です。シェアクリスタルが完成するまでは集中力を切らしてはいけませんよ? 後少し、頑張ってください」
「…っ!」
イストワールの言葉にさらに集中力を上げる。ゲームをしている時とはまた違う形の集中力が要求されるので地味にきつい。私の前に集まったシェアの力が音を立て、固まり始める。音が止まるとそれは眩い光を放った。
「これが…」
「お見事です。舞さんと同じように綺麗な銀色の輝きを放っていますね」
私の手の中にあるのは銀色の水晶。内部には女神の印が浮かんでいる。仄かな温かみを感じるそれは紛れもない私の…銀の女神シルバーハートのシェアクリスタルだった。自分で言うのも何だけど武器の素材に使うのはもったいない気がする。
「これで私達三女神のシェアクリスタルが出揃ったね」
「四国の物と比較すると大きさは劣るけど、これが私達三人の思いの結晶だよ」
「自分だけ作れなかったらどうしようって思ってたから上手いことできてよかった」
「先程、三国の教祖のみなさんからも作成が完了したと言う連絡が入りましたので、全てのシェアクリスタルが揃います。明日は予定通りに剣の開発を行いますので、今日はもうお休みになってください。明日は朝から大忙しですよ」
「なら、お言葉に甘えて休ませてもらおうかな。今日はありがとう」
シェアクリスタルの作成も無事に済み、これにて七日目は終了となった。明日は聖剣の開発と最後の打ち合わせを行って本番の九日目を迎えることになる。失敗が許されないと言うこともあって緊張も走るけど、みんなの力を合わせればどんなに大きな壁でも越えて行ける気がする。私は全てが無事に解決することを願って眠りに就いた。