ネプギアとの本気の手合せで私が心に抱えていた靄は綺麗に晴れ、新しい目標に向かっての一歩を踏み出すことができた。聖剣の刃に使用する銀の女神のシェアクリスタルもイストワール達の助けを借りて無事に完成。八日目の朝を迎える。
「朝か…」
目を開けて部屋の壁にかかっている時計を見ると時刻は午前七時を回ったところだった。窓を覆うカーテンの隙間からは太陽の光が漏れている。少し寒いけど布団から出てカーテンを一気に開ける。窓から差し込む太陽の光が私の体を照らした。
「アリア、起きてる?」
私の体の中から銀色の光の玉が現れる。それは形を変えて小さいアリアの姿になった。背中の銀色の羽を振るわせて大きな欠伸をするアリアの姿は本当に可愛いと思う。昨日はシェアクリスタルを作ってユニゾンした状態で眠ってしまったけど、アリアは眠れたのかな? 現にとても眠そうにしているので気になっていた。
「おはよう。昨日は舞の中で眠らせてもらった。舞の中は暖かいから居心地がいいね。ずっと舞の中にいてもいいかなって本気で思ったもの」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。今日は最後の準備で忙しい一日になりそうだね。とりあえず、準備をして大広間に降りようか」
部屋を出て、洗面所に向かう。歯を磨いて、顔を洗い、寝癖で酷いことになっている黒髪を櫛を使って整える。部屋に戻ったら寝間着からいつものモノクロパーカーワンピに着替え、銀の太陽の髪飾りをつけて準備は完了。もうみんな来てるのかな? 遅刻して迷惑をかけるわけにもいかない。昨日作ったシェアクリスタルをパーカーワンピのポケットに入れたら大広間に向かう。
「おはようございます。舞さん」
「おはよう。イストワール。みんなは?」
「舞さんが一番ですね。もう少しで各国の教祖のみなさんとお部屋でお休みになられている女神のみなさんがお集まりになると思います。昨日作成したシェアクリスタルはお持ちですか?」
「持ってるよ。イストワールが作ったクリスタルを見せてもらってもいい?」
「はい。こちらがプラネテューヌのシェアクリスタルになります。ネプテューヌさん達の頑張りのおかげで最高の物を生み出すことが出来ました」
イストワールが机の上に置いたのは紫色の結晶。目を奪われるほどの美しい紫色の輝きを放っている。触れると仄かな温かみが伝わってきた。
「綺麗…。見つめているだけで引き込まれそうになるよ」
「七つのシェアクリスタルを刃とした剣に断ち切れない物などないでしょう。今日は剣が完成したら最後の打ち合わせを行う流れになっています。夜にはみなさんの疲れを癒すためにとある場所を用意させていただいていますのでそちらも楽しみにしておいてください」
「それは気になるね。夜になるまでは内緒かな?」
「はい。きっと気に入っていただけると思いますので。お話をしている内に教祖のみなさんが来られたようですね」
イストワールが言うと広間の扉が開き、ケイとミナとチカが入ってきた。
「みなさん、お疲れ様です。クリスタルの方は用意できていますか?」
「勿論だ。これがラステイションのシェアクリスタルだよ。僕もシェアクリスタルを作ったことは何度かあるけど、これほどの純度と輝きを持つ物を作れたのは初めてだと思う。国民の心も一つに纏まりつつあると言ったところかな?」
「当時は小さいクリスタルを作るだけで精一杯でしたが、こうして無事に最高の物を作ることができました。これも舞さん達のおかげですね」
「舞達の活躍は四国に届いているわ。このシェアクリスタルにはあなた達を応援したいという国民の思いが詰まっている。アタクシの思いもこれに詰めましたわ」
教祖が合流したことで三国のシェアクリスタルがここに集まった。広間の扉が再び開き、セレナとシエルが到着した。
「みんな集まってるね。私達の方も用意はできてるよ。純度と輝きは四国の物と少し劣っているけど、これも使ってあげてほしい」
「私達とゲイムギョウ界を旅する中で出会って助けた人。共に戦ってきた人達の思いがこのクリスタルに詰まっているよ」
二人が取り出したのは金色と蒼色のシェアクリスタル。これでゲイムギョウ界を構成する四国のシェアクリスタルと国を持たぬ三女神のシェアクリスタル。紫・黒・白・緑・蒼・金・銀の七つのシェアクリスタルが揃った。後はこれを使って聖剣を開発する。
「剣の開発は舞さんと四人の女神候補生のみなさんにお願いします。私も開発室の方に共に入りますので、女神と教祖のみなさんには剣の開発を行っている間は一時待機をお願いします。万が一、何かが起きた際には即座に動けるようにしておいてください」
それからネプギア達が来たのでイストワールと共に開発室に入る。開発を行う机の上には刃のない長剣の柄が置かれていた。
「いーすんさん、これって…!」
「はい。魔剣ゲハバーンの柄の部分です。セレナさんとシエルさんが山の頂の調査に入った時にあの場に残っていたとの報告を受けまして、秘密裏に教会に持ち帰っていただいたのです」
「刃はあの時にアタシ達が壊したけど、使って大丈夫なのかしら? 扱う時の危険はないの?」
「いかに女神を喰らう魔剣と言えども、刃を砕かれた今の状態ならば危険はありません。シェアクリスタルを刃にするにあたっては刃を構成するシェアエナジーに耐えることのできる強固な土台、柄の部分が必要になるのですが、魔剣ゲハバーンの柄の部分ならば活用できるのではないかという結論に至りました」
「あの時みたいに悪い力は感じない…。みんなの力を合わせて誰にも負けない最強の剣を作る…!」
「あんまり時間も残されてないんだし、早速始めましょうよ! それで、最初は何をすればいいの?」
「開発の手順については私の方から説明をさせていただきます。それでは取り掛かりましょうか」
私達は力を合わせて聖剣の開発に取り掛かる。五人で一つの物を作成すると言うのは何気にこれが初めてだ。イストワールの説明に従い、失敗しないように慎重かつ確実に進める。途中の休憩を含めて、作業開始から六時間が経過していた。
「ふう…。これで完成かな?」
「はい。長時間の作業、お疲れ様でした」
机の上には綺麗な透明の刃を持つ長剣が置かれていた。刃の表面は自分の顔が鮮明に映るほど。元が禍々しい刃を持った魔剣とは思えない程の神々しさを放っていた。さらに柄の部分にも少しだけ開発を加えて色だけを変えている。何色にするのか意見を出したところ、何故か五人一致で銀色になったので柄の色は銀色。私達は完成した剣を持ってみんなが待機している大広間に戻る。
「お待たせ。無事に完成したよ」
「お疲れ様…。とても綺麗な剣ができたわね…。一切の穢れの無い透明な刃はまさに聖剣と言ったところかしら…」
「素晴らしい輝きですわ。この剣の名前は決まっていますの?」
「プリズムハート。見る角度を変えると刃に使用したシェアクリスタルの色が見える特徴からつけてみた。もう少しかっこいい名前も時間をかけて考えたら出るかもしれないけど、他に意見が無いならこれで行かせてもらおうと思う」
特に他の意見が出なかったので、この剣の名前はプリズムハートになった。続いて明日の打ち合わせに入る。
各国のダンジョンで待機している犯罪組織マジェコンヌの四天王を攻略する順番だが、プラネテューヌのジュンクボックスにいるジャッジから対処することになった。戦闘狂でもあるジャッジは最も先に行動に出る危険があるというのが共通の認識だった。それからブレイブ、トリックと続いて最後にリーンボックスのガペイン草原にいるマジックを倒すという流れだ。かつてないほどに厳しい連戦になるけど、みんなの力を合わせれば攻略は十分可能だと思う。
私とネプギア達の五人は全戦に参加。そこに各国に割り振った人員を加えて戦いに臨む。最初に臨むジャッジとの戦いではネプテューヌ、アイエフ、コンパ、ファルコムが加わることになった。残った人は防衛に当たるという形だ。最後に細かい調整を行い、打ち合わせは終了となった。
「最後の打ち合わせはこれで終了ですね。みなさん、今日はお疲れ様でした。今夜はゆっくりと休んで、英気を養っていただければと思います。そのためにとっておきの場所を用意しましたのでこれからご案内させていただきますね」
私達はとある場所に向かう。
「とりゃー! 一番はわたしがもらったよー!」
「あーっ! アタシとマイで一番を取ろうと思ったのにー!」
「はしゃぎたい気持ちは分かるけど、飛び込んだら危ないわよ!」
「まさかここまで広い温泉に案内してもらえるとは思わなかったなぁ…」
イストワールに案内された場所は温泉だった。何と今日は私達の貸切。随分と大所帯だけど、本当に広い温泉なので狭いと感じることは無い。
「うわっ…! やったな…? コンパ、反撃だよ」
「はいです! ねぷねぷ、わたしと舞さんの攻撃を受けるですっ!」
ネプテューヌが私とコンパにお湯を飛ばしてきたので、私とコンパは温泉の湯を注射器を模した水鉄砲で汲み、二人がかりでネプテューヌに反撃を行う。水鉄砲の内部で高圧縮したお湯を放つので、中々の威力があったりもする。
「いったー! それは卑怯じゃないの!?」
私とコンパの反撃を前にネプテューヌは離れた場所に逃げて行った。
「プラネテューヌにこんな大きな温泉があるなんて知らなかったわ。ネプギア、アンタは来たことあるの?」
「うん。今まで色々あったから来るのは随分と久しぶりだけどね。街の人にも大人気で本当だったら前日から予約を取らないと入れないんだよ? いーすんさんに後でお礼を言いに行かなくちゃ」
「大人気と言うだけあっていい温泉ね。平和になったら時々足を運んでみようかしら?」
「ラステイションにも作ってみたらどうかな? 他の国のいいところを吸収するのも重要だと思うよ? 作る時は私も協力させてもらう」
ノワールとセレナなら簡単に実現させてしまいそうだ。
「ネプテューヌ! マイ! 向こうまで競争しようよ!」
「してあげたいところだけど、流石にこれを取るのはあれだからネプテューヌに私の代わりをお願いするよ。ネプテューヌ、REDに勝ったら後でプリン奢ってあげる」
「おお! これは絶対に負けられないね! わたしに勝負を挑んだこと、後悔させちゃうよー!」
ネプテューヌとREDは泳ぎでの勝負を始める。海かプールなら勝負してもいいかな。
泳ぎが得意と言うわけでもないけど。
「舞! 背中流してあげるー!」
「わたしも舞お姉ちゃんの背中流してあげる…」
「ありがとう。お言葉に甘えてお願いさせてもらおうかな。ブラン、その本は大丈夫なの?」
「それは問題無いわ。本の表面を見てみなさい…」
ブランが持っている本を見ると表面に薄らと膜が展開されている。どうやら魔法で本が濡れるのを防いでいるみたい。
「魔法まで使って温泉で本を読むって流石ね…」
「入浴中の読書は基本よ。現に毎日している…」
「天然の温泉は疲れが一気に取れるね。あたしも冒険から帰った後には必ず入ってたよ」
「それ私も同じだ。温泉で有名な地方にいた時はクエストに出る前にも入ってたよ。意外な共通点があるものだね」
シエルとファルコムは趣味についても合うところが多いみたいで情勢が落ち着いたら一緒に冒険に出るという話までしているらしい。
「ベール様、ボクもお背中、お流しします」
「私も一緒にさせてもらうよ。改めて見ると本当に大きいね。何をどうしたらそこまでの大きさになるのかな?」
「私達には一生をかけても到達できない領域だよね。ネプテューヌと違って私達は女神化しても変わらないし。元の大きさに戻れたとしても無理な話だよ」
「見ると、自然に嫉妬してしまいます…」
「うふふ…。分けられる物でしたら少しだけ分けて差し上げたいとも思いますが、残念ながらそうもいかない代物ですからね…これは」
余談だけど私の母さんはベールと同じくらいの身長でそれなりの大きさの物を持っていたりする。中学生の時にどうすれば母さんみたいに大きくなれるか聞いたことがあったけど、返ってきたのは適当に頑張ればなるかもしれないという曖昧な答えのみ。今さら嫉妬したところで意味のないことなので思考を切り替えて、みんなが集まっている場所から少し離れた場所に移動する。
「ふう…。今度は迷惑をかけないようにしないとね…。最後まで戦い抜いてみせる」
温泉に浸かりながら、星が輝いている空を見て気持ちを落ち着かせる。
「私も最後まで一緒に戦う。今もこれからも舞の傍にずっといる。それが私にできる最初の償いだと思うから。舞は私のことをどう思ってる?」
「結果として人間から女神になってしまったけど、アリアが私をこの世界に呼んでくれたから私はこんなにも素晴らしい仲間達と出会うことができた。そしてこれからもずっと一緒にいたいって思ってる。だから、私という存在がいつか消えるその時までずっと一緒にいてほしい」
「その願い、確かに受け取ったよ。それと今さら言うのも何だけど舞と私って髪の長さ以外は似ている点が多いよね。私達って何か関係があったりするのかな?」
「どうかな? 住む世界は違っても何か繋がりがある可能性は否定できないからね」
アリアと私の大きな違いは髪の長さ。身長と体重は僅かに違いがある。もし髪が私と同じくらいの長さだったら、自分を見ているかのような変な感覚に襲われるかもしれない。今まではお互いに気にしないようにしていたけど、改めて考えてみると何かありそうな気がしなくもない。
あまり長風呂をすると、のぼせたりして逆効果になるのである程度浸かったら出る。風呂上りにはみんなでコーヒー牛乳を腰に手を当ててグイッと飲み干してから教会に帰った。寝る時間まで久しぶりにゲームでもしようかと思ったけど今日は大人しく寝ることにした。平和を取り戻しさえすればまたいつでもできることだし。楽しむのはそれからでも遅くはないと思う。
九日目となる明日は絶対に負けられない戦いが控えている。今度こそ、誰一人として欠けることなく生きて帰ってきてみせる。その思いを抱きながら私は眠りに就いた。