ラステイションの無限回廊にてブレイブ・ザ・ハードを撃破した私達はルウィーの教会に到着した。次なる戦いの舞台はルウィー北部の豪雪地帯にあるアイシクルホール。
「無事に第2フェイズを終えたようね。連戦続きだけど、体調の方は大丈夫かしら?」
「問題ないよ。討伐作戦も折り返し地点だから、最後まで乗り切ってみせる」
「頼もしいわね。さて、アイシクルホールに向かう前にこれを渡しておくわ」
ブランから受け取ったのは赤い液体が入った小瓶。
「これは?」
「暖房ドリンクと呼ばれるアイテムよ。これを飲めば極寒の環境の中でも寒さを気にせずに活動することができるわ。ルウィー国際展示場よりもさらに気温が低い場所だから、これを使ったほうがいい。効果時間は一本につき二時間よ」
アイシクルホールの内部は非常に気温が低い。対策を持たずにいると知らぬうちに自らの体力を奪われてしまうと言う。事前にできる対策としては一時的に寒さを緩和する暖房ドリンクを購入して飲むか、防寒具を購入して装備するか。
「ありがとう。早速で悪いけど、案内をお願いしてもいいかな?」
暖房ドリンクをパーカーワンピのポケットにしまい、ブランの案内でアイシクルホールに向かう。第3フェイズの同行者はブラン・ブロッコリー・マーベラスAQLの三人。マーベラスAQLはサイバーコネクトツーと同じ有志で犯罪組織の撲滅に協力してくれている仲間の一人。瞳に浮かぶ音符の模様と着ている服がはちきれんばかりの胸が特徴的な少女だ。好物は太巻きである。
このゲイムギョウ界のどこかにあるという忍育成機関からプラネテューヌに派遣された彼女はイストワールからの依頼でルウィーを拠点に活動している。得物である小太刀を用いて敵の隙を確実に突き、忍術で相手を翻弄する戦い方を得意としているようだ。彼女に弟子入りすれば私も忍者になれるかもしれない。平和になったら忍術の一つでも教えてもらいたいと考えている。
「見えてきたわ。あれがアイシクルホールよ」
ブランが示した先には大きなドーム状の建物があった。雪は小降りではあるが常に降り続けている。酷い時は視界が遮られる程にもなるらしい。ブランから貰った暖房ドリンクを飲み、内部に突入する。一人二本ずつ渡されているので活動できるのは四時間が限度。さっさと終わらせて最終フェイズに進みたいところだ。
「寒いっ…! だが、愛しの幼女達に再会するためには乗り越えなければならぬっ…!」
少し奥に進むとトリックの姿が確認できた。誰もいないことをいいことに独り言を言っている。幼女好きは復活しても変わらないみたいだ。
「こうして再び肉体を与えられたのだ。あの時は我が同志の邪魔があってできなかったが、幼女女神達を我輩の舌で存分に味わいたいっ…! ああっ! 一体どんな味がするのだろうか! いかん、想像していたら涎が…!」
(大声でなんてこと言ってるのよ! あの変態っ! 舞、わたし達の力でもう一度こらしめるわよ!)
(あの人の視線は嫌…。前に戦った時も変な目でわたし達のこと見てた…)
「私のことは覚えているみたいだね…。あまり危ない言葉を吐かれると二人の教育にも悪いからこの辺りで止めさせてもらおうか」
「同感だな。わたしの妹達に手を出したらどうなるか思い知らせてやるぜ」
ブランは既に女神化を完了していた。髪が白銀に変化して身に纏うプロセッサユニットは極低温の氷を纏っている。私達は危険な妄想を膨らませるトリックを止めるために前に出た。
「幼女が一人にババアが三人…だと! 一体これはどういうことだ!? 吾輩はこの寒い中幼女女神達を待ち続けていたというのに!」
「この姿だと私もババア扱いなんだね。既に予想はしていたけど」
「むっ。その声は我が同志マイ! 何故成長した姿になっているのかはわからぬが、その姿ではいかに同志と言えどもババア認定せざるを得ないぞ!」
「何とでも言うといいよ。あなたの妄想が現実になることは絶対にあり得ないから。ロムとラムは勿論、ゲイムギョウ界の子ども達には手出しはさせない。あの時は私はいなかったけど、今日は私があなたを地獄に送ってあげる。覚悟はいいかな? 変態という名の紳士さん?」
「ほお…。わかっているではないか。我が同志マイよ。初めてお前と会った時に言ったが吾輩は変態という名の紳士なのだ。それにお前の体の中からあの幼女女神の気配を感じるぞ…。どうやらお前を倒せば幼女女神達を存分に味わうことができそうだな…!」
トリックは私と融合しているロムとラムの存在を見抜いているようだ。怪しげな黄緑色の鋭い眼光が私に向けられる。トリックの視線に私達の心の中は不快感で満たされていた。ここは早いところ勝負を決めるのが得策と言える。
私は銀のハンマーを具現化して柄についている赤いボタンを押した。先端が光に包まれると戦斧形態に変わる。それを両手で持ったら戦闘準備は完了だ。数秒の間を置いて戦いが始まる。最初に動いたのはトリック。自慢の舌で早速私を狙ってきた。複雑な軌道を描き私を捕らえようとする舌の動きを見切って何とか間合いを詰める。
「双旋連斧っ!」
斧を横に二回転分振り回して攻撃する。浅い傷は強力な自己再生能力で即座に回復されてしまうので攻撃の手を休めてはならない。
「こいつでどうだ! ゲフェーアリヒシュテルン!」
絶氷の魔力で生成した氷結晶を戦斧で弾いてトリックに次々と飛ばす。
「ババアの分際で吾輩の邪魔をするなっ!」
トリックは口からウイルスを含んだ赤いブレスをブランに吹きかけるが、ブランを守るように生成された絶氷の障壁がブレスを完全に遮断する。防御に特化した氷の女王の障壁は並大抵の攻撃では破れない。武器を戦斧から星の杖に持ち替えて魔法の詠唱を行う。
「コールド・ミスト!」
トリックの体を白色の霧が包み込む。対象の防御力を大幅に低下させる補助魔法。ブランは補助魔法を中心に魔法の練習を積み重ねている。最終的な目標は補助魔法で自身と味方の強化と敵の弱体化を狙い、槌と戦斧の強烈な一撃で敵を確実に葬るという堅実な戦い方を確立させること。トリックの防御力が弱まったタイミングで私はいったん後退、私と入れ替わる形で前に出たマーベラスが攻撃を繋げる。
「これは痺れると思うよ? 連閃・雷遁! そして風遁の術!」
雷属性を纏わせた小太刀による八連撃。手数重視の技なので一撃の威力は小さいが、ブランの魔法でトリックの防御力は下がっているので効果は十分にある。さらに巻物による風遁の術に繋げて、トリックの体を強烈な旋風が巻き上げた。
「マイが一緒にいるなら絶対に成功するにゅ。目からビームにゅ!」
続いてブロッコリーの目が光ると極太のビームが発射され、トリックの体を貫いた。普段は緑色のゲル状の物質が出るだけなのだが、稀に建物の壁を簡単に破壊する程の強力なビームが発射されるのだ。ブロッコリーが言うには舞と一緒に戦う時は成功率が100%になるらしい。
「ぬうっ…。吾輩もやられてばかりではないぞ!」
トリックは私に狙いを定めると長い舌を猛烈な速度で飛ばしてきた。回避に成功したと思ったけど、私の頬に生暖かい感触が走る。手を触れてみると痛みが走り、私の手のひらには赤い液体がついていた。それは紛れの無い私の血。
「っ…! これほどの速度とは…。恐れ入るね…!」
「我が同志よ! お前の中にいる幼女女神達を解放するのだ!」
「それは聞けない。あの二人が出るのはあなたにとどめを刺す時だからね」
走る痛みに耐えて私はパーカーワンピのポケットからある物を取り出す。それはここに来る前にマーベラスに貰った手裏剣である。さらに太陽の杖と月の杖を具現化させて両手に握ると魔法を発動させて反撃の一手に繋げる。
「フロート・ウェポン! 続けてエクスプローダー!」
浮遊魔法で浮いた手裏剣にオレンジ色の光が入る。それを浮遊魔法で操ってトリックの舌の速度を上回る勢いで飛ばした。手裏剣がトリックの体に次々と突き刺さるとそれなりに大きい爆発が起き、体に傷を付けた。
「ぐはぁ! 何だ、この技は…!」
エクスプローダーは私が指定した物質を爆発物に作り替えるという効果を持つ。私が過去にプレイしていたあるゲームでボスが使う魔法なのだが、味方を爆弾に変えられて酷い目に合わされたのは苦労した思い出の一つだ。自己再生能力で修復される前に魔法の詠唱が完了したブランの攻撃が続いた。
「わたしの妹と親友に手を出したこと、後悔させてやるよ…! シュトゥルムヴィント!」
ブランが元から習得している氷属性の攻撃魔法。本来は小規模な氷の竜巻を発生させる魔法だが、絶氷の力で普段の倍の大きさの竜巻が同時に三個発生する強力な技に変化している。氷の女王の怒りを宿した竜巻はトリックの体を飲み込む。
「ウィザードフォルム発動! そしてハード・ユニゾン限定解除! 来て! ロム・ラム!」
私の服装がパーカーワンピから魔法特化のプロセッサユニットに変化、さらに女神化したロムとラム。白の大地を守護するホワイトシスターズが降臨。ウィザードフォルムはあるゲームに登場する聖母と呼称されるモンスターの姿を元に組み上げた物で、纏っているローブ状のプロセッサユニットの内側に見える青空と後頭部に浮かぶ銀色の太陽の形を模した光球が特徴だ。
「おお! 遂に来たか! 幼女女神達よ!」
ロムとラムの姿を見た瞬間にトリックのテンションが一気に上昇。
「わたし達の手で地獄に落としてやるんだから! 覚悟しなさい! この変態っ!」
「わたし達のことをそんな目で見る人は嫌い…。もう一度懲らしめる…!」
私の手から太陽の杖と月の杖が離れる。太陽の杖はラムの左手、月の杖はロムの右手に握られた。変態という名の紳士との因縁を断ち切る時。私と二人を結ぶハード・リンクの光の輝きが強まり、体から白色の光が溢れだす。
「誇りを抱いて永久に眠れ…!」
ロムが月の杖を振ると強烈な冷気がトリックの体を凍てつかせる。
「塵となり、無へと散れ!」
続けてラムが太陽の杖を振ると発生した巨大な竜巻がトリックを巻き上げる。
「これで終わりだよ。エターナル・セレナーデっ!」
最後に私が放った銀色の炎がトリックを飲み込む。
「幼女…! ばんざぁぁぁい…!」
私達の魔法の連撃を受けたトリックの体は傷だらけになっていた。傷口からは蒼い光が漏れ出していて再生する気配は無い。
「ああ…! またしても、幼女と我が同志に敗れて散るか…。だが、これでいい! 我が意志は、我が思いは幼女と同士の心の中で永遠に生き続けるのだからなっ…!」
トリックは光となって消滅した。
「冗談じゃないわよ。あんたみたいな変態のことなんか忘れてやるんだから!」
「ラムちゃんの言う通りだけど、変な意味で印象が強かったから簡単には忘れられない気がする…」
「ロムちゃん、負けちゃダメ! わたし達が思い出したらあの変態の思うツボよ!」
「それはわかってるけど、舞お姉ちゃんは忘れることできる…?」
「意識すると逆に思い出してしまうから、時間に委ねるしかないかな。平和を取り戻してみんなで楽しい毎日を過ごしていれば知らない内に忘れてると思うよ。だから、それまでもう少し一緒に頑張っていこうか?」
「わかった…! みんなと一緒に頑張る…!」
「舞と一緒に頑張れば大丈夫よね!」
私は二人の頭を撫でる。ロムとラムは白い光の玉となって私と再ユニゾンした。
「頬に付けられた傷を治してあげるわ。その状態で次に進むのは駄目よ」
女神化を解除したブランは星の杖を取り出して回復魔法の詠唱を行う。暖かい白の光が私の体を包み込む。光が晴れると傷は完全に治っていた。痛みは感じない。
「ありがとう。戦いの最中にも思ったけど、かなり手馴れてるね?」
「セレナの指導の賜物ね…。流石にあなた達には敵わないけど、わたしはわたしにできる魔法であなた達を支えてみせるわ」
「平和になったら一緒に練習させてもらおうかな」
「その時は一緒に頑張りましょう。次の戦いが討伐作戦の最終フェイズね。さらに輝きを増したあなた達の力、あいつに見せつけてあげるといいわ」
私達はアイシクルホールを後にしてルウィーの教会に帰還する。最終フェイズの相手は犯罪組織マジェコンヌ四天王最強の実力を持つマジック・ザ・ハード。だが、彼女を打ち破ってそれで終わりではない。まだファントムハートと犯罪神マジェコンヌが残っているのだから。全ての戦いに勝利してゲイムギョウ界の平和を取り戻して見せる。その意志を持ち、私達は最終フェイズの戦いの舞台があるリーンボックスに向けて飛び立った。