ルウィーのアイシクルホールでトリック・ザ・ハードを撃破して第3フェイズを突破。犯罪組織マジェコンヌ四天王の討伐作戦は最終フェイズに突入する。後はリーンボックスのガペイン草原で待つ四天王最強の赤き死神マジック・ザ・ハードを倒すのみ。ブラン達と別れてルウィーを飛び立った私達はリーンボックスの教会に到着した。
「次の戦いが最後ですわね。これを乗り切ればわたくし達の勝利ですわ。早速ガペイン草原に向かおうと思うのですが、体調の方は大丈夫ですか? 厳しいようでしたら向かう前に少し休むと言う手もありましてよ」
「予想を上回る程に速い進み具合だから時間にはまだ多少の余裕があるよ。その証拠に時間はまだ1時を回ったところだからね。どうする? 決めるのは舞ちゃんとアリアとネプギアちゃん達だよ。この戦いの主導権は君達にある」
「このまま行かせてもらうよ。私達が休んでいる内に行動を起こされても困る。自分以外の四天王が敗れたこともマジックは知ってると思うから。この戦いが無事に終わったら流石に休ませてはもらうけどね」
マジェコンヌ四天王が出した刻限は翌日だが、既に三人を倒された現状で何も行動を起こさないとは限らない。不安の中で休息を取るよりかは、このまま突入して作戦を成功させてから休息を取りたいと言うのが私達の意見。
「舞さん達が行けると言うのでしたらガペイン草原に向かいましょうか。戦いに勝ってみんなでこの場所に帰ってきましょう。舞さん達の背中はわたくし達が支えますわ」
最終フェイズの同行者はリーンボックスを守護する緑の女神ベールを筆頭に結晶の女神シエルとシオン。さらに5pb.とケイブ。そして鉄拳が加わる形だ。鉄拳はリーンボックスを拠点に犯罪組織撲滅に有志で協力してくれている頼もしい仲間の一人。
三島流喧嘩空手と言う武術を使う美少女で、一見すると格闘家に見えないが、その拳と足から繰り出される一撃は鉄を凹ませる程の凄まじい威力を誇る。格闘術を学びたい時は彼女と修行に出るといいかもしれない。平和を取り戻した暁にはネプギア達だけではない、旅の中で出会った色々な人達と楽しい日々を過ごしたいと私は考えている。
リーンボックスの教会を出発した私達はマジックが待つガペイン草原に向かう。討伐作戦の最終フェイズ。失敗は許されない。入口に着いたところで気合いを入れ直して突入する。ガペイン草原は不気味なほどに静まり返っている上に生息しているはずのモンスターが1匹たりともいない。奥から感じる邪悪な力の元に向かって歩を進める。
「ね、ねえ。マジック様。やめましょうよ。皆殺しなんて。今時流行んネェですって…。おい、お前からも何か言えよ…!」
「オイラから言うことは何もないっちゅよ。今さらどうしたっちゅ? 今までマジック様からの命令には絶対に従い続けてきたのにここで逆らうっちゅか? まあ、オイラは止めないっちゅよ? 言いたいことがあるならはっきりと言ったほうがいいに決まってるっちゅ」
平然とした態度を取るワレチューにリンダは奇妙な違和感を感じていた。何だかんだでここまで行動を共にしてきたが、今までと雰囲気がまるで違っている。何があったのか気になる所ではあるがこの場で聞いたところで無駄であるとリンダは判断した。
「そ、それにほら…。犯罪神様の復活っていう目的も果たしたんですし、マジック様がわざわざ手を下す必要はないと思いますよ…?」
「復活を果たされた犯罪神様の意志はこの世界の全てを破壊することだ。お前もその意志に賛同した上でこれまで尽くしてきたのだろう? 今になって何故その意志に逆らおうとするのだ?」
「うっ…。いやぁ、そいつぁちょっと過激すぎやしネェかなって思っただけですよ…。我々の邪魔をする守護女神共さえブッ潰せばそれでいいんじゃネェかなって…」
「犯罪神様が復活を果たされた今、滅びの未来は変わらない。滅びの未来を迎えるのは我々とて同じこと。違いがあるとすれば早いか遅いか…。それだけだな」
「そんなっ!? マジック様がいなくなっちまったらアタイが今まで何のために頑張って来たのか…!」
「お前の気持ちなど知ったことか。犯罪神様の意志に従えぬと言うのであれば今この場で滅びるがいい…!」
「マジック様っ…!」
目を見開いたマジックはリンダに向けて鎌を振り下ろした。恐怖を前にリンダは身動きが取ることができない。鎌の刃がリンダに直撃する直前に一筋の銀色の光が割り込む。思わず閉じてしまった目を開けると、自分に迫っていた鎌の刃を銀と金の双剣で受け止めている一人の少女の姿が目に映る。それはこれまで自分と何度もぶつかり合ってきた因縁の相手。神奈 舞の姿だった。
「遂に来たか…。銀の女神よ…!」
「暴力女神…!」
「マイちゃん!」
「自分のために今まで精一杯頑張ってきた部下に刃を振るうなんて正気の沙汰じゃないね。犯罪神に逆らおうとする意志を持つ部下はいらないってこと?」
「当然だ。滅びを拒絶する者など不要。犯罪神様の意志に逆らう者は我が刃の前に散るのみだ。犯罪神様の最大の障害となり得るお前はここで始末させてもらうぞ」
「倒されるのはあなたのほうだよ。この素晴らしい世界を壊そうとする犯罪神は私達が必ず倒して見せるから…!」
「お前達がどれだけ足掻いたところで滅びの未来は変わらぬ…!」
私とマジックは鍔迫り合い状態からお互いに距離を取る。
「マジック様…。本気で…!」
「ワレチュー。リンダを離れた場所に連れて行って」
「了解っちゅ! ほら、いつまでもぼーっとするなっちゅ! ここにいるとマイちゃんの邪魔になるから離れるっちゅよ!」
「…っ!」
ワレチューの言葉にリンダは離れた場所に移動する。その瞳からは一筋の涙が流れていた。これまで信じていた者に見捨てられた今の自分にできることはこの戦いを最後まで見ることだけ。いつもと違ってリンダは逃げない。逃げ出そうとする気力すら起きないと言うのが現状であった。
「どうやら残ったのは私だけのようだな…。だが、もう遅い。犯罪神様がギョウカイ墓場からこのゲイムギョウ界に顕現する時までは後僅かなのだからな。仮にここで私を倒したとしても無駄だ。お前達に破滅の未来を変えることなどできぬ」
「無駄かどうかはやってみないとわからないよ? セイバーフォルム発動!」
内に秘めたシェアの力を解放。パーカーワンピに代わって私の体を守護するのはアニメ好きの友人が私に勧めてきたとあるアニメに登場する騎士の姿を元に組み上げたプロセッサユニット。攻撃力と防御力に特化した近接戦闘型。新たに組み上げたプロセッサユニットはネプギア達の戦い方を元に三つに分かれる形だ。
「さあ、始めようか。マジック・ザ・ハード…!」
金と銀の双剣を構えて鬼神化を発動。私の体に銀色の炎のオーラがかかる。さらに後方に控えている5pb.の歌が戦場に響き渡った。上昇した身体能力で一気にマジックとの距離を詰めて銀炎を纏わせた双剣で乱舞を叩き込む。
「はああああっ!」
「無駄だ」
得物である鎌を巧みに使って前回戦った時と変わらない涼しい表情で私の乱舞を捌き切る。ベールとシエルの攻撃が側面から入るが、身を守護する闇の障壁に阻まれる。マジックの体から感じ取れるのは前とは比較にならないほどの邪悪な力。犯罪神の手によって再び復活したことで力が増していると思われる。
「この体は犯罪神様から力を授かっている。無駄な抵抗は止めたほうが身のためだぞ」
言葉の直後に再び襲いかかるのは強烈な冷気を纏った鎌の凶刃。これは回避に徹する。下手に受け止めると武器ごと体を凍結させられる危険がある。
「あなたがどれほど強い力を持っていたとしても絶対に諦めないよ」
「面白い。どこまで持ちこたえられるか見せてもらおうか」
マジックは鎌の刃に黒い光を纏わせて振る。黒い魔力の刃が大量に生成され、私達に襲い掛かる。シエルと共に迎撃。剣を振ることでシェアの刃を飛ばして魔力刃を相殺。反撃の一手を繰り出すのはベールとケイブ。
「貫きなさい! シレットスピアー!」
「この弾幕はどうかしら…?」
現れた緑色の魔法陣から強力な風の魔力で作り出された三本の槍が飛び出し、さらに火属性と風属性の魔力弾による凄まじい弾幕の嵐が続いたがマジックの体には目立った傷はついていなかった。
ケイブが放った弾幕のみでも合計四十連撃になるのだが、二人の攻撃の殆どが身を守護する闇の障壁によって無効化されてしまっていた。前回と変わらない強度の凄まじさを物語っている。
ダメージが入っていないというわけではないので決して無駄ではないのだが、勝つためには前回と同じように障壁を破る必要がある。五人でマジックと戦ったあの時のことを思い出す。
「シエル、お願いしてもいいかな?」
「わかった。ドラグーン・フォルム発動!」
シエルの体が蒼い光に包まれ女神龍が降臨する。六魔将ラグナとの戦いを経て人の姿でプロセッサユニットを纏うことができるようになったが、これまでの女神龍としての姿は健在である。光の中から現れたのは手に当たる部分が大きな翼になっている飛竜。蒼き光を放つ結晶のような翼爪と足爪が特徴的だ。
『負けてはおれぬな。シエルに続かせてもらおう』
シエルに続いてシオンの体が蒼い光に包まれる。光の中からシエルと同じ姿・大きさの飛竜が現れた。二体の女神龍が戦場に降り立つ。違っている点は瞳の色。シエルが蒼色でシオンが紅色の瞳。女神の印がしっかりと発現している。
『舞ちゃん! 乗って!』
『緑の女神よ。我が背に乗るがいい』
女神龍になったシエルの口調はこれまでと違い、いつもの口調と同じになっていた。私とベールは二体の女神龍の背中に飛び乗る。同時に私の双剣とベールの槍に赤黒い雷が纏わりついた。これはアリアから教わったことなのだが、シエルかシオンの背に乗ることで龍属性を使用することができるようになるようだ。
「まだ抗うか。ならばこれはどうだ」
マジックは体から溢れる闇の魔力を収束させた。
「アポカリプス・ノヴァ!」
収束した闇の魔力が弾け飛び、巨大な魔力爆発を引き起こした。
『その技を私は既に受けている。二度目はないよ』
二体の女神龍が作り出した蒼い障壁が魔力爆発を完全に防ぎ切る。
「バカな…!」
「その障壁、破らせてもらうよ! 銀龍煌炎斬!」
シエルの背に乗った私はマジックとの間合いを一気に詰めると擦れ違い様に銀炎と龍属性の雷を纏わせた双剣で一閃を加える。力が増しているせいなのか私の一撃だけでは障壁が壊れないが、続けてシオンの背に乗ったベールの槍撃が障壁に直撃。ガラスが割れるような音が響き渡った瞬間を私は見逃さない。
「鉄拳、お願い!」
「待ってたよ、舞ちゃん! 必殺! 10連コンボー!」
私の指示を受けた鉄拳の10連コンボがマジックの体に突き刺さった。障壁が破壊された今の状態ならば拳の一撃も通るようになるのだ。鈍い音が連続で響き渡る。
「がはっ!」
「これで終わらせる! 銀陽煌炎舞っ!」
シエルの背から飛び降りて、エクセドライブを発動。マジックの体を撃ち上げて銀の炎の檻に閉じ込めると双剣による乱舞をお見舞いして地面に叩きつける。
「バカな…! この私がまたも敗れる…だと…!」
「この勝負、私達の勝ちだね」
「見事だ…銀の女神よ…! だが、私をこの場で倒したところで滅びの未来は変わらない…! 全ては犯罪神様によって滅ぼされるのだからな…!」
「この世界は破壊させない。犯罪神マジェコンヌは私達の手で必ず倒して見せる!」
「ならば、最後の時まで抗ってみせるがいい…! 先に滅びの世界で待っているぞ…!」
マジックは光となって消滅した。復活した四天王の討伐はこれで終了。残るはファントムハートと犯罪神マジェコンヌのみ。力を抜いて落ち着きたいところではあるが警戒はまだ解かない。ハード・ユニゾンで研ぎ澄まされた感覚で周囲を探る。
「いるんでしょ? 出て来てよ。ファントムハート」
私の言葉に応える形で女神の亡霊ファントムハートが姿を現した。
「ふふふっ…! 四天王の討伐、お疲れ様と言わせてもらうよ。人間から守護女神に昇華した今の君の前には取るに足らない相手だったとは思うけどね。お楽しみはここからだ。君達が四天王と戦っている間に私と君が踊る最高の舞台を用意させてもらったよ。空に上がって見てみるといい」
ファントムハートはプロセッサユニットを纏い、空に上がる。追いかける形で空に上がった私の目に映ったのはゲイムギョウ界を構成する四国に囲まれた内海に浮かぶ都市の跡地だった。
「あれは…!」
(緋色の大地…! 私とセレナが大戦争で当時のあいつを倒した場所だよ…!)
「どうだい? 君と踊る為だけに用意した最高の遊び場は。私が踊りたいのは君とアリアだけなんだけど、君以外の守護女神達が来るのは目に見えているからあの時に奪った君の記憶から新たな遊び相手を用意させてもらったよ。とびきりの衣装を着て、最高の得物を持って来ることだ」
ファントムハートは再び空間に溶け込むように消えて行った。アリアが捕らわれていた場所で初めてぶつかり合った時から始まっていた狂ったゲームを終わらせる時が遂に来たのだ。
マジェコンヌ四天王の戦いで消耗した力を回復したら乗り込まなければならない。討伐作戦は無事に終わったが何だかあまり時間が残されていないような奇妙な感覚を覚える。今はプラネテューヌに帰って体を休めることだけを考えることにした。