マジック・ザ・ハードを倒したことで復活を果たした犯罪神マジェコンヌ四天王の討伐作戦は無事に成功という形で幕を閉じた。再び私の前に姿を現した女神の亡霊ファントムハートは決戦の舞台に私達を誘い再び闇の中に姿を消した。
「緋色の大地ですか…」
「あいつの後を追って空に上がった私とアリアの目には確かに映ったよ。四国に囲まれた内海に現れた都市の跡地が」
「遂にあいつとの決着を着ける時だね。突入する前に休息を取った方がいい。攻略作戦についてもみんなで集まって詰めた方がいいと思う」
向かう前に四天王との連戦で疲れた体を休めなければならない。可能であれば明日の朝に作戦会議を行って突入したい。
「マイちゃん。忘れない内にこれを返すっちゅ」
「確かに受け取ったよ。今まで本当にありがとう」
ワレチューから自分のNギアを受け取るとワレチューの頭を撫でる。
「マイちゃんに撫でてもらえたっちゅー!」
「様子がおかしいと思ったら、暴力女神と手を結んでやがったのか…!」
「そういうこと。マジェコン製造工場の場所と陽動作戦の情報。それ以外の細かい情報を私のNギアを通じて教えてもらっていたの。おかげで大きな被害を出さずにここまで来ることができた。犯罪組織マジェコンヌはこれで終わりだね」
「テメェはマジック様を殺した…! 絶対に許さねぇ! あの人はな、アタイの全てだったんだ…! これまで頑張ってきたのも全部あの人の為だった…! それなのに…!」
「恨むのは全然構わない。私が殺したのは紛れの無い事実だから。敵討ちならいつでも受けてあげる。それをするなら一つだけ覚えておいてほしい。私の大切な友達に危害を加えるなら容赦はしない。やるなら私だけにすることだね」
「…っ! 覚えてやがれ!」
私の言葉を聞いたリンダは逃げて行った。残ったワレチューと別れた私達はプラネテューヌの教会に帰還して、イストワールに報告を行う。
「復活した四天王の討伐も無事に終わりましたね。みなさん、本当にお疲れ様でした。次の問題は内海に出現した都市の跡地ですね。諜報部からの報告では遠方から偵察を行った結果、汚染モンスターの姿を多数確認したとのことです」
「流石に簡単には攻略できないみたいだね。それと私から奪った記憶から作り出した遊び相手というのが気になるかな。何が待ち構えているのかはわからないけど、今回の戦いでシエルとのハード・リンクが発現したから、ネプテューヌ達で対応できないということは無いとは思うけど…」
ファントムハートが用意した遊び相手と言うのは私が過去にプレイしたゲームの記憶から再現された凶悪なモンスターだとは思う。だが、私に予想できるのはここまで。流石にどのモンスターが出るのかは実際に行ってみないことにはわからないというのが現状だ。
「どれだけ強い相手が出てきたとしても、わたし達は負けません。みんなで生きてここに帰ってきてみせます!」
「ラスボス戦を目の前に力尽きるわけにはいかないから頑張るよー! 全部終わったらみんなで思いっきり遊びたいな! ところでラスボスの犯罪神ってどうなってるの?」
「確かギョウカイ墓場を新しい器にしようとしているのよね? 時間的に余裕があればいいけど…。イストワール、状況はどうなってるのかしら?」
「現在もギョウカイ墓場と融合を続けている状態ですね。既にギョウカイ墓場の大半が犯罪神の肉体と化していると言っても過言ではないでしょう。ギョウカイ墓場という土地その物を取り込んだ犯罪神がゲイムギョウ界に顕現する時は刻一刻と迫っています。緋色の大地の攻略戦の結果次第では、ゲイムギョウ界で犯罪神を直接迎え撃つという形になることもあり得ますね」
「私達の手で倒さなければ世界が壊される。それだけは絶対に阻止しないといけない。明日の朝に万全な状態なら突入しようと思う。流石に四連戦は疲れたから今から休もうとは思うけど、明日までに回復できるかどうか…」
五人でのハード・ユニゾンはプラネテューヌに帰還した時点で解除しているが長時間に渡るユニゾンと連戦で予想以上に体力とシェアエナジーの消耗が激しい。回復していない状態であの場所に突入するのは自殺行為だ。残された時間は少ないので、あまり休みを長引かせるわけにも行かない。可能であれば明日。無理なら次の日。引き延ばしてもこれが限界だと思う。ここで話を一旦切り上げて、お風呂に入って寝ることにした。お風呂から上がって部屋に戻り、布団に潜り込むと私は即座に意識を手放す。
「何度見ても綺麗な景色だなあ…」
舞達が寝静まった頃、プラネタワーの屋上からプラネテューヌの夜景を見ている人物がいた。それは小さい銀の女神アリア。既に眠りに就いた舞を起こさないように部屋を出てプラネタワーの屋上に来ていた。
「女神救出作戦の前夜に舞はこの場所からこの景色を見たって聞いたよ。緊張して眠れない時とかはここに来て心を落ち着かせるといいかもしれないね」
「どの街の夜景も綺麗だけど、私はプラネテューヌが一番好きかな」
『我の世界ではこのような景色を見ることは叶わなかった故に不思議な気分だ』
アリアの隣にいるのは金の女神セレナ。結晶の女神シエル。女神龍シオン。長き時を生き抜いてきた歴戦の女神達だった。
「この世界が平和になるまであと少し…。舞と…みんなと一緒に過去の因縁を断ち切ってみせる。本気のあいつと戦ってタダで済むとは思ってないけど、次の戦いで絶対に倒さないといけないから結果としてかなりの無茶をすることになるとは思う」
「大戦争の時にも痛感させられたけど本気を出したスカーレットハートの力は凄まじい…。あいつの相手をする舞とアリアに無茶をしないでと言えないのが辛い。二人の事は信じてるけど、戦いというのはいつ何が起きるのかわからないから…」
国を賭けた大戦争でアリアはセレナを含めた当時の守護女神の力を借りてスカーレットハートに勝利したのだが、彼女の最後の抵抗によって瀕死に陥るほどの重傷を負わされたことがある。守護女神と言えども不死身では無い。戦いの中で散って行った守護女神達はこれまでの歴史の中に大勢いる。ファントムハートとの決戦では生き残るために自らの全てを賭けなければならない。
「スカーレットハートの姿で悪さをしているのって
『その可能性はあり得るな。当時の彼奴に何があったのかは知らぬが…。彼奴の体を乗っ取っていると言う女神喰いを討滅すれば本物の彼奴を救済できるかもしれぬ。初めから邪悪な欲望を秘めていたというのも否定はできぬが…。金の女神よ、お前は彼奴の過去について何か知らぬのか?』
「残念ながら…。当時は今と違って女神同士の交流が殆ど無かったから。候補生同士の交流についても同じ。大戦争の時にお互いに手を取り合えたことが奇跡のような物だったから。道を違えていればどうなっていたか…」
金の大地を取り込み拡大する緋色の大地と女神の進撃を前に手を取り合った四人の女神達。それは銀の女神アリアと金の女神セレナの二人と当時のゲイムギョウ界を守護していた蒼と桜の女神の二人だ。大戦争が終結してからはアリアとセレナは世界を巡る旅に出て、蒼と桜の大地の時代が続いたが、人々が新たなる女神を求める時の中で蒼と桜の女神は永久の眠りに就いた。それから新たに誕生した守護女神達が四つの国を建国して現在の時代まで続いて来たと言う。
「みんなで守ってきたこの世界を終わらせるわけにはいかない。だから私達も己の全てを賭けて戦おう。みんなで力を合わせればきっと大丈夫。私は信じてるから。夜も更けてきたから帰ろうか。全てが解決したらまたこの景色を見に来よう」
四人の女神達はプラネタワーの屋上を後にして部屋に戻って眠りに就いた。夜が明ける。守護女神達は教会内の大会議室に集まる。
「みなさん、おはようございます。体調の方はいかがでしょうか? 厳しいようなら引き続き体を休めて頂きます。先日の討伐作戦の成功を受けて各国のシェアの方は高まっていますが、不調の状態で突入作戦を実行する訳にはいかないので、万全ではない方がいるならばこの場で申し出て頂ければと思います」
「私は大丈夫だよ。ネプテューヌの言葉を借りるなら一晩寝たらバッチリ回復かな。他のみんなはどうかな?」
「いつでも行けます! 全部終わらせてみせます!」
「こっちは大丈夫! この調子でラスボス戦まで一気に行っちゃうよー!」
「問題無いよ。みんなの足を引っ張るわけにはいかないからね」
候補生を代表してネプギア。四女神を代表してネプテューヌ。国を持たぬ女神を代表してセレナが答える。ゲイムギョウ界の平和が戻るまであと少し。この場にいる守護女神の気持ちは同じなのだ。全員の気持ちが纏まったところで内海に現れた緋色の大地攻略戦の会議に入る。
「緋色の大地の内部はギョウカイ墓場に匹敵するほどの負のエネルギーが満ちているようです。個人で保有しているシェアエナジーが尽きないように細心の注意を払うこと。加えて汚染種モンスターの反応が多数確認されていますので、無駄な交戦は可能な限り避けること。注意点としてはこの二つです。後は起こり得る事態を想定しながら作戦を進めるしかないようですね…」
「私とアリアがファントムハートと戦う中で他のみんなは汚染種モンスターに加えて私の記憶から再現されたモンスターと戦わなければならないと思う。どれだけ強大な相手だったとしても諦めなければ勝機はあるから」
実際のゲームと違ってやり直すことができない戦いだがネプギア達を始め、ネプテューヌとセレナ。さらに昨日のマジックとの戦いでシエルとのハード・リンクが発現している。まだノワール達とは発現していないのが気になるところではあるが、これから共に高みを目指して行けばきっと発現すると信じている。共有している知識と培ってきた力を出せば勝利は掴めるはずだ。全員で明日を迎えるためにもここで負けるわけには行かない。攻略会議を終了した私達はプラネタワーの屋上から緋色の大地に向けて飛び立つ。
内海の領域に入ると滅び去った都市の跡地が私達の目に映る。私とセレナが先頭に立って大戦争の時の記憶を辿って侵入ポイントに着陸。空を見上げるといつの間にか黒い雲が太陽の光を完全に遮っていた。まるで暗闇の中にいるかのようなの錯覚を感じるほど。建物は原型を保っている物もあれば、完全に瓦礫と化している物もある。大戦争の爪痕がそのまま残されているかのようだ。
「ハード・リンクで覚えた特技を使わせてもらうよ」
特殊女神化状態になったシエルの体から蒼い光が放たれると全員の中に入る。
「なるほど。同じ名前繋がりってことかな」
シエルが発動したのは舞がプレイしていたゲームに登場する自分と同じ名前を持つ少女が目覚めた特殊能力。それは直覚と呼称される物で敵の居場所、視覚、状態を全員で常に共有することができるという能力だ。これで無駄な戦闘を避けながら前に進むという方法を取る。進路を塞いでいるモンスターは視覚外からの遠距離攻撃で確実に葬る。音を感知するモンスターも中にはいるので死角からの強襲に注意を払いながら、中央広場を目指して歩を進める。イストワールの報告通り現れるモンスターは全て汚染種だった。
「ようこそ。私の夢の最終章に。君達を歓迎させてもらうよ」
中央広場に侵入した私達の前に現れる女神の亡霊ファントムハート。
「歓迎すると言うなら、自分で来たらどうかな? 分身なんて趣味が悪いよ」
「きゃはははっ! 触れていないのに見破るとは恐れ入るよ。舞、君は本当に素晴らしい器だ。君を味わえる時が後少しで来ると思うと気持ちが自然と昂って来るよ。さて、舞踏会を開始する前に邪魔なギャラリーにはお引き取りを願おうかな」
ファントムハートの分身が手を広げると四つの黒い扉が現れる。
「舞とアリア以外の君達はこの扉を通ってもらおうか。一応言わせてもらうけど逆らうなんて考えは起こさないでよ? まあ、自分の命と国が消えてもいいって言うなら話は別だけど。この扉の向こうにいる奴に君達が勝利できなかった場合も同じ。その時は現実世界に召喚して手始めに邪魔な四国を破壊させてもらうから守りたいって言うなら覚悟を持って挑むことだね。妙な真似をされても困るから誰がどの扉を通るのかも私が指定させてもらう」
ファントムハートが指定したのは四人の女神候補生・四国を守護する四人の守護女神・金の女神セレナ・結晶の女神シエルと女神龍シオン。ここで逆らって彼女の怒りを買ってしまえば大切な物を奪われることは避けられない。互いに目を合わせて無事を祈ると扉を通る。ネプギア達が通り抜けると同時に扉が閉まり、残ったのは私とアリアの二人だけになった。
「さて、邪魔なギャラリーが消えたところで本物の私がいる場所に案内させてもらうよ。着いて来るといい」
ファントムハートの分身は中央広場から伸びる一本の道に私達を誘う。道の先には一際大きな建物が見えていた。緋色の大地の教会だ。
「私達の舞踏会の会場に到着するまでは少し時間がある。黙ってるだけなのも退屈だから昔話をしてあげるよ。興味が無ければ別に聞き流してもらって構わない。ギョウカイ墓場で結晶の女神の過去を語った時と同じで私がしたいと思ってしているだけに過ぎないのだから」
ファントムハートの分身は私の前を歩きながら、語り始める。私はプリズムハートを構えながら彼女の後を追う。
「それはこの大地を守護していた緋色の女神のお話…」
女神の亡霊は語る。当時の彼女に何があったのか…。これまで謎に包まれていた彼女自身の過去が明かされる。私は歩を進めながら彼女の言葉に耳を傾けるのだった。