四国に囲まれた内海に現れた緋色の大地に突入した私達の前に現れたファントムハートの分身。私とアリア以外のみんなを用意した戦場に続いている黒き扉に向かわせた彼女は緋色の大地の教会まで私を誘う。中央広場から教会跡地に向かって伸びている道は距離的にはさほどの長さではないのだが、私の前を歩き独り言のように自らの過去を語る彼女の言葉に耳を傾けていると妙に長いと感じてしまう。
「先代の緋色の女神、スカーレットハートは完全無欠の存在と言われていた。あらゆる偉業を成し遂げて大国を築いた彼女の元に一人の女神候補生が誕生した。だが、残念なこと新たに誕生した女神候補生は彼女の足元にすら及ばない出来損ないだった」
完全無欠の緋色の女神の妹だ。彼女に匹敵するほどの才覚を表すことは間違いない。国民は新たに誕生した彼女に期待を抱いていたが彼女は国民の大きすぎる期待に応えることができなかった。たった一度の大きな失敗を犯してしまっただけで手のひらを返したように彼女を批判し始める。さらに唯一の肉親である姉にお前のせいでシェアが落ちていると攻められる始末。
「好き勝手な暴言を吐かれ続けて黙っているわけにはいかない。自分の姉と国民を見返してやると決意した私は寝る間を惜しみ努力を続けた。書庫にあった全ての本を読み、あらゆる知識を身に着けた。クエストを受け、様々な敵と戦って自分自身を鍛えた。世界を旅して色々な物を見てきた。指で数えるほどしかいない私の信仰者の願いは絶対に叶えてきた。だが、悲しいかな。私の努力が報われることは無かった。姉が完璧過ぎるから駄目だった」
努力を積み重ねた彼女は誕生したばかりとは見違えるほどに成長した。しかし、彼女がそこに辿り着いた時には姉は既に上の領域に到達していた。隣に立つなど夢のまた夢。止まることのない国民からの非難の嵐。この現実を変えるほどの絶対的な力が欲しい。それが彼女の崩壊寸前の心に生まれた願いだった。
「それから数年後に古の女神達が封印した犯罪神が復活を果たした。いかに器を砕いたところで思念体である本体を何とかできない以上、女神達の勝利は無い。器を砕いて新たな器を得てまた器を砕いてを繰り返すばかり。私の姉は焦り始めていた。何とかできる方法は無いのかと頭を抱えて必死に模索していた」
これまで保たれてきたシェアが落ちている現実の中で焦りを見せる姉に妹から提示された手段。それが魔剣ゲハバーンだった。いつか見た書物に記されていた魔剣の在処を姉に伝える。姉はそれを取りに行った。教えたのは魔剣の在処だけだ。それの代償と使用した者が最後に到達する結末については意図的に省いた説明をしたのだ。
「それから惨劇が始まる。共に戦ってきた女神達の命を魔剣で奪い糧とする。女神候補生を除いた三人の女神の命を奪った私の姉はゲイムギョウ界に顕現した犯罪神との決戦に挑む。凶刃を前に大きなダメージを負った犯罪神は自ら眠ることを選び消滅したかのように見せかけるような形でゲイムギョウ界からギョウカイ墓場に逃げ去った。私、女神喰いが犯罪神の肉体から分離したのはその時だったのさ」
犯罪神に勝利したと思った彼女は偽りの勝利の余韻に酔いしれる。何故なら自分以外の守護女神は全員この手で葬った。自分の妹を含めて残った女神候補生如きに何かできるわけがない。ゲイムギョウ界の支配者となれると思った時、手に握る魔剣から不気味な脈動が伝わる。気が付いた時には彼女は自分で自分の体を刺し貫いていた。緋色の女神の体は光となって魔剣に取り込まれる。彼女が緋色の大地に帰還することは無かった。
「ゲハバーンを使用した者が最後に到達するのは自らの命を他ならぬ自らの手で魔剣に捧げると言う物さ。あの時に君がゲハバーンで女神候補生と守護女神を全滅させていた場合は最終的に破壊するつもりだった。長い時の中で出会った最高の器を壊してしまうわけにはいかなかったからね。魔剣に喰われた私の姉が戻って来るはずはない。妹である私が新たなる緋色の女神となった。当然国民はそれを認めなかった。挙句の果てには私が先代スカーレットハートを殺したのだと言い出す始末。いつまでも現実を受け入れようとしない愚民共を何とかする方法を探していた中で女神喰いと緋色の女神はあの場所で巡りあった。緋色の女神は現実を破壊して新たな世界を構築すると言う願いと共に自らの肉体と存在を女神喰いに捧げたのさ」
緋色の女神の肉体と存在を喰らった女神喰いは再び自分の守護する大地に帰還する。手始めに女神喰いと融合したことで得た力で自分に逆らう者達を洗脳。彼女を心から信仰していた者達を含めて緋色の大地の国民は全て彼女の傘下に入った。その時の彼女の目には国民は勿論のこと、自身の守護する大地さえも自らの欲望を満たすための玩具にしか映らなかった。表向きは至って平和な状態に見せかける中で、裏では女神の力の転写実験を初めとする非人道的な実験を行い続ける。転写実験の失敗作は他国のダンジョンに放逐して他国の情勢をかき乱す駒として利用する。
犯罪神の肉体から分離した女神喰いという存在。それは自分を代々に渡って封じ続けてきた守護女神達に対する憎悪の思念体。犯罪神と言う存在を構成する邪悪な意志の中で非常に濃い邪悪な意志の集合体でもある。自分の邪魔をしてきた女神の肉体と存在を喰らい、喰らった者の姿で世界を我が物にしようとする意志なのだ。緋色の女神を喰らった女神喰いは彼女の記憶から全てを知る。手始めに彼女を苦しめた愚かで身勝手な国民を玩具にして、世界を掻き乱すための足掛かりを作ることから始めようと。
「あの時は本当に楽しかったよ。愚民共を玩具にして遊んでいると姉と愚民共から受け続けてきた苦しみがまるで嘘のように消えていったから。それだけで十分かなとは思ったけど不思議と心は満たされなかった。気が付いた時には他の国の奴らを私の玩具にしたいと思っていた。それで私が手始めに狙ったのが金の大地。偶然にも攻め入る口実があったからね」
それが金の大地から緋色の大地に入り込んで来た魔法犯罪者の存在。緋色の大地の国民は自分の玩具だ。自国内で犯罪行為を繰り返す魔法犯罪者の存在に彼女は怒りを覚える。発見次第、洗脳魔法で手駒にするが数だけは無駄に多い。被害は毎日のように報告される。ならば流出元を断ってしまえばいい。彼女がたどり着いた結論は金の大地に攻め込み、自らの領土にすると言う物だった。変身魔法で姿を変えて金の大地に赴き、金の女神の素性を探ると当日に上がった依頼を全てその日の内に片づけているということがわかった。まるで自分の姉を見ているみたいだ。言いようの無い不快感が自然と湧き上がる。早いところ策を講じて攻め込もうと思い行動に出る。
手始めに彼女宛てのダミークエストをギルドに出しておいた。討伐対象は遠方に放逐した女神の力の転写実験の失敗作。完全に存在を抹消しない限りは何度でも復活する失敗作は彼女を国から引き離して国の守りを手薄にするには十分だった。既に女神の転写実験の成功体となっていた後の六魔将リリムとラグナとフェリアの三人を筆頭に大軍隊を構成して金の大地に侵攻する。金の女神がいない国を陥落させるのは簡単だった。首都に攻め込み、教会を攻め落としたら洗脳魔法を金の大地の全域に放ち国民を全て手駒にする。セレナが戻ってきた時には既に緋色の大地の一部となっていたのだった。
彼女の欲望は加速する。残る二国を続けて落としてしまえばゲイムギョウ界の全てが自分の玩具となる。金の大地から連れてきたアリスに女神の力を転写。後に加わったエリカとヒナを入れて六人の最強の精鋭部隊である六魔将を作る。数年の時間をかけて全ての準備が完了したら残る二国に公の場で宣戦布告を行う。それが大戦争の始まりだった。圧倒的な力を誇る六魔将は二国の精鋭部隊をいとも簡単に崩壊させる。この調子で進めて行けば全てが自分の玩具になる。だが、彼女の予想を裏切る事態が起きた。
国を奪われた金の女神が大戦争に参戦して来たのだ。さらに隣には知らない女神までいる。彼女と対になるような銀色の輝きを放つ女神。彼女の力が凄まじかったのだ。戦闘の要を担っていた六魔将の内エリカとヒナとリリムの三人が彼女の前に敗れた。その勢いに乗る形でアリスはセレナ、フェリアは桜の女神の前に敗れ、最後に残ったラグナは蒼と桜の女神の息の合った連係による力の前に敗れた。六魔将は全員倒されたことで残るは自分だけとなった。緋色の大地の教会で四人の女神を迎え撃つ。
「当時は女神同士の交流なんてなかったのに…。奴らはお互いを信頼し合っていた。その中で一際大きな輝きを放っていたのが銀の女神アリア。君だったよ。君が女神の心を繋いでいたのさ。今の舞と女神候補生達のようにね」
「セレナと出会ってから始まった旅の中では蒼と桜の大地を訪問したからね。二人ともいい人だったよ。あの二人は時の流れの中で永久の眠りに就いてしまったけど、二人の思いは私とセレナの心の中に息づいている。この素晴らしい世界を壊そうとする犯罪神とあなたはここで絶対に倒して見せる」
「ふふっ…。長き時を経ても衰えを見せない輝きには恐れ入るよ。舞踏会の会場に到着したようだ。私の役割はここまで。中に入るといい。本物の私が君達の訪れを待っている。今日は存分に楽しませてもらうよ?」
私達をここまで案内する役割を終えたファントムハートの分身は消滅する。私達の目の前にあるのは緋色の大地の教会だ。入口でもある大きな扉の奥からは強烈な邪気が漏れ出している。この扉を通れば後戻りはできない。
「感じる…。この先にファントムハートがいる。舞、今から始まる戦いはかつてないほどに厳しい戦いになるよ。あれの行使を含めて私達の全てを賭けなければ生き残ることはできない」
「私はアリアと一緒ならどれほど大きな壁でも越えることができるって信じてるから。だから、絶対に二人で生き残ってみせる。私達は二人で一人の銀の女神。どちらかが欠けたら意味が無い。ネプギア達だって頑張ってるんだ…! 私達がここで負けるわけにはいかないよ。扉、開けるね?」
私は扉に手を触れる。軋むような音を立て、大きな扉が開いた。中に入ると扉は閉まる。内部を見渡すと大きなステンドグラスが目に映った。描かれているのは緋色の髪を持った女性。そして奥にある玉座に座っているのは女神の亡霊ファントムハート。今度は分身などでは無い。実体を伴った本物だ。
「待っていたよ。舞、アリア。私の最高の玩具になり得る資格を持つ君達を喰らう時が遂に来た。君を人間から守護女神にしたのはこの時の為でもある。中途半端な存在では君を喰らうことはできないからね。私と踊るにはいかに継承者と言えども普通の人間では役不足だ。簡単に壊れてしまう。だが今の君なら話は別だ。人間から守護女神に昇華した君ならば金剛不壊の玩具になる」
「私は二度とあなたの玩具にはならない。あなたの欲望は今日ここで終わらせるよ…! 最後に待つ犯罪神を倒してゲイムギョウ界を照らしてみせる!」
「きゃははっ! ゲイムギョウ界を照らす銀の太陽にでもなるつもりかい? だが、ここで私と犯罪神を葬ったところで意味は無い。世界と言うのは都合のいいようにできている。私と犯罪神を葬って平和を取り戻したとしてもそれは仮初に過ぎない。絶対にそれを破壊しようとする存在が現れる。邪魔をされるのは困るから君達を手に入れたら他の次元に逃げさせてもらうとしよう。世界が一つ消滅したところで私の遊び場が消えるわけじゃない。異なる次元に存在するゲイムギョウ界・人間・大地。それら全てを玩具にすることが私の夢なのさ」
「させない…! あの場所から始まった私達の狂ったゲーム。この場で決着を着けてやるっ…! 闇を打ち払う銀陽の輝き、我が元に!」
私の言葉を合図にアリアが銀色の光の玉に変化。体に入ると私は光に包まれる。光の中で私のパーカーワンピが光の粒子となって散る。私の体に装着されるのは銀の太陽の輝きを体現した銀色のプロセッサユニット。胴を守護する鎧。両腕を守護するグローブ。腰を守護するミニスカート。足を守護するブーツ。頭を守護する王冠。最後に背に顕現するはゲイムギョウ界の空を舞うための銀の大翼。
「素晴らしいよ。初めて会ったあの時とは比較にならない程の輝き。ああ…。君を喰らえばどんな味がするのだろうか。私も君に応えるために真の姿を見せなければならないね。我が手に来たれ、全てを蹂躙する緋色の輝きよ」
ファントムハートの体が濁った緋色の光に包まれると黒色のコートは弾け飛び、緋色のプロセッサユニットが装着される。空の牢獄で初めて戦った時に見た彼女のプロセッサユニットとは形状が異なっていた。濁った緋色の光が不気味に明滅を繰り返している。それと同時に感じられる力はあの時の比ではない。ギョウカイ墓場で一度対峙した犯罪神に似た邪気だが、それを凌駕している。右手には黒い剣を握られていた。
「さあ、始めようか。私達の舞踏会を。私達のゲームの終幕だ…!」
「望むところだよ。銀の女神シルバーハート! 推して参るっ!」
銀の女神と緋色の女神は同時に駆け出した。終末に至るカウントダウンが始まる。この先の世界の未来はこの戦いに委ねられた。彼女達が最後に迎える結末はまだ誰も知らない。
後10話以内に終わらせられるかな…? 忙しい毎日ですが頑張って走り切ってみせますよ。